【共有物分割訴訟の訴状の請求の趣旨・判決主文の実例】

1 共有物分割訴訟の訴状の請求の趣旨・判決主文の実例

共有物分割訴訟では、最終的に裁判所が分割方法を決めて、判決として言い渡します。判決の中の主文に、分割方法はもちろん、それ以外のことも記載されます。一方、原告が裁判所に提出する訴状には通常、希望する分割方法を、請求の趣旨として記載します。
本記事では、訴状の請求の趣旨や判決の主文の実例を紹介します。共有物分割訴訟の申立をする時にはどのようなことが記載すべきか、ということのヒントになります。

2 形式的形成訴訟という特徴(前提)

ところで、共有物分割訴訟は、通常の訴訟とは違う、特殊な性質があります。その性質とは、形式的形成訴訟というものです。簡単にいえば、当事者の主張よりも裁判所の判断の幅(裁量)が大きい、という扱いです。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の性質(形式的形成訴訟・処分権主義・弁論主義)
このことが訴状の記載(特に請求の趣旨)に影響を及ぼします(後述)。

3 請求の趣旨の最小限の記載例

共有物分割訴訟が持つ、前述の形式的形成訴訟という性質は、訴状の記載にも現れます。それは、共有物の分割を求めるとだけ記載(請求)すれば足りる、という解釈です。
このように、理論的には請求の趣旨はひとことで足りるのですが、実際には、当事者の希望は裁判所の判断でとても重要です。そこで、実際の訴状では、ひとことだけの請求の趣旨となっている訴状はレアで、通常は、求める(希望する)分割方法を請求の趣旨として記載することになります。

請求の趣旨の最小限の記載例

あ 当事者の処分権の範囲(昭和57年最判)(前提)

当事者は、抽象的に分割を請求しうるのみで、具体的な分割の方法・割付についての申立ては裁判所を拘束しない
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の性質(形式的形成訴訟・処分権主義・弁論主義)

い 単純な請求の趣旨の記載例

請求の趣旨
別紙物件目録記載の土地を分割する。
※弁護士法人佐野総合編『主文例からみた請求の趣旨記載例集』日本加除出版2017年p94

う 実務の傾向

(通常は原告が希望する分割方法を記載することを前提として)
稀ではあるが「別紙物件目録1記載の不動産の分割を求める」とだけ記載されている場合もある。
※秦公正稿『共有物分割の訴えに関する近時の裁判例の動向』/『法学新報123巻3・4号』中央大学法学会2016年8月p110

4 現物分割の判決主文

(1)現物分割の判決主文の実例

前述のように、実務上、共有物分割訴訟の訴状の請求の趣旨には、希望する分割方法を記載します。ではどのように記載すればよいか、ということになりますが、それは、判決の主文が参考になります。裁判所が作る判決主文には、分割方法やそれに付随すること(結論)が記載されるからです。
以下、共有物分割訴訟の判決主文の具体例を整理しながら紹介します。
判決が採用する分割方法(分割類型)は大きく3つに分けられます。
詳しくはこちら|共有物分割の分割類型の基本(全面的価格賠償・現物分割・換価分割)
最初に、現物分割を採用した判決の主文を紹介します。なお、訴訟費用の分担など、共有物分割とは関係ない記載(条項)は省略します。
土地をどの線(分割線)で分けるか、ということは別紙の図面で示し、持分移転登記を命じることになります。なお、土地の分筆登記は共同申請の方式ではないので、判決によって登記する方法はとられていません。そこで、判決主文に分筆登記は出てきません。
当事者(共有者)は、持分移転登記を命じる判決があれば分筆登記の代位申請ができます。
詳しくはこちら|表示の登記の職権/申請の分類(分筆・合筆登記の例外扱い)

現物分割の判決主文の実例

あ 形成のみ(基本型)

1 別紙物件目録記載の土地を、別紙分割目録記載1、2及び別紙分割図面記載1、2のとおり分割する。
2 別紙分割目録記載1及び別紙分割図面記載1の土地を甲の所有とする。
3 別紙分割目録記載2及び別紙分割図面記載2の土地を乙の所有とする。
※瀬木比呂志・近藤裕之稿/塚原朋一編著『事例と解説 民事裁判の主文』新日本法規出版2006年p202

い 形成+登記(双方向)

ア 平成14年鹿児島地判 1 別紙物件目録記載の土地を別紙分割目録記載のとおり分割する。
2 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地のうち別紙分割目録1記載の部分について、共有物分割を原因とする被告持分全部移転登記手続をせよ。
3 原告は、被告に対し、別紙物件目録記載の土地のうち別紙分割目録2記載の部分について、共有物分割を原因とする原告持分全部移転登記手続をせよ。
※鹿児島地判平成14年11月19日
イ 平成27年東京地判 1 (別紙)物件目録記載1の土地を、(別紙)図面及び(別紙)分割目録のとおり分割する。
2 (別紙)分割目録記載1の土地を被告の所有とする。
3 (別紙)分割目録記載2の土地を原告の所有とする。
4 被告は、原告に対し、(別紙)分割目録記載2の土地について、共有物分割を原因とする被告持分全部移転登記手続をせよ。
5 原告は、被告に対し、(別紙)分割目録記載1の土地について、共有物分割を原因とする原告持分全部移転登記手続をせよ。
※東京地判平成27年11月30日

う 形成+登記(原告への給付のみ)

1 別紙物件目録記載の土地を、別紙分割目録記載のとおり、A地とB地に分割し原告が分割後のA地を、被告が分割後のB地それぞれ取得する。
2 被告は、原告に対し、この判決の主文第1項が確定したときは、分割後のA地について共有物分割を原因とする被告持分全部移転登記手続をせよ。
※東京地判平成18年7月19日

(2)一部分割(現物分割+共有形成)の判決主文の例

現物分割の一種として、物理的に分けた1エリア(分筆後の土地)を、単独所有ではなく、特定の複数人の共有とする、という方法もあります。

一部分割(現物分割+共有形成)の判決主文の例

別紙物件目録記載の土地を次のとおり分割する。
(1)別紙分割目録記載1及び別紙分割図面記載1の土地を甲の所有とする。
(2)別紙分割目録記載2及び別紙分割図面記載2の土地を乙丙の各持分2分の1の共有とする。
※瀬木比呂志・近藤裕之稿/塚原朋一編著『事例と解説 民事裁判の主文』新日本法規出版2006年p205

(3)現物分割(一括分割)の判決主文の例

もともと、共有物分割の対象となっている不動産が複数個である場合、現物分割の一種として、個々の不動産をそれぞれ特定の者の単独所有にする、という方法もあります。共有物分割では例外的な位置づけといえますが、遺産分割であればむしろ原則的な方法(個別分割)です。

現物分割(一括分割)の判決主文の例

別紙物件目録記載1及び2の各土地を次のとおり分割する。
(1)別紙物件目録記載1の土地の所有とする。
(2)同目録記載2の土地の所有とする。
※瀬木比呂志・近藤裕之稿/塚原朋一編著『事例と解説 民事裁判の主文』新日本法規出版2006年p204

(4)区分所有にすることを伴う現物分割の判決主文の実例

現物分割の一種として、建物を区分所有建物とすることも含めて判決の中で行う、という特殊なタイプがあります。
詳しくはこちら|区分所有とすることを伴う現物分割
判決主文の中で、建物の各戸を専有部分としていずれかの共有者の所有として、土地は区分所有建物の敷地利用権とする、ということを記載します。

区分所有にすることを伴う現物分割の判決主文の実例

1 別紙物件目録記載1ないし3の各土地を、原告Xの持分割合を各56383分の3969、被告Y2の持分割合を各56383分の4776、被告Y1及び被告Y3それぞれの持分割合を各56383分の23819とする共有とする
2 別紙物件目録記載4の建物を、同目録記載1ないし3の各土地を敷地とし敷地権の種類を所有権とする、同建物1階105号室(別紙図面1記載の斜線部分。専有床面積39.69平方メートル。別紙物件目録記載1ないし3の各土地に対する敷地権の割合はそれぞれ56383分の3969)と同102号室(別紙図面2記載の斜線部分。専有床面積47.76平方メートル。別紙物件目録記載1ないし3の各土地に対する敷地権の割合はそれぞれ56383分の4776)とその余の専有部分とに区分された区分所有建物に分割する
3(1)第2項の105号室の区分所有建物を原告Xの所有とする。
(2)第2項の102号室の区分所有建物を被告Y2の所有とする。
(3)第2項のその余の専有部分に係る区分所有建物を被告Y1、被告Y3の各持分2分の1の共有とする。
4(1)被告Y2は、原告Xに対し、別紙物件目録記載1ないし3の各土地につき、共有物分割を原因とする持分一部(789362分の817)移転登記手続をせよ。
(2)被告Y2は、被告Y1に対し、別紙物件目録記載1ないし3の各土地につき、共有物分割を原因とする持分一部(789362分の4832)移転登記手続をせよ。
(3)被告Y2は、被告Y3に対し、別紙物件目録記載1ないし3の各土地につき、共有物分割を原因とする持分一部(789362分の4832)移転登記手続をせよ。
5(1)被告Y1は、原告Xに対し、第2項の105号室の区分所有建物について、共有物分割を原因とする持分全部移転登記手続をせよ。
(2)被告Y2は、原告Xに対し、第2項の105号室の区分所有建物について、共有物分割を原因とする持分全部移転登記手続をせよ。
(3)被告Y3は、原告Xに対し、第2項の105号室の区分所有建物について、共有物分割を原因とする持分全部移転登記手続をせよ。
6(1)原告Xは、被告Y2に対し、第2項の102号室の区分所有建物について、共有物分割を原因とする持分全部移転登記手続をせよ。
(2)被告Y1は、被告Y2に対し、第2項の102号室の区分所有建物について、共有物分割を原因とする持分全部移転登記手続をせよ。
(3)被告Y3は、被告Y2に対し、第2項の102号室の区分所有建物について、共有物分割を原因とする持分全部移転登記手続をせよ。
7(1)原告Xは、被告Y1及び被告Y3に対し、第2項の残余専有部分に係る区分所有建物について、共有物分割を原因とする持分全部移転登記手続をせよ。
(2)被告Y2は、被告Y1及び被告Y3に対し、第2項の残余専有部分に係る区分所有建物について、共有物分割を原因とする持分全部移転登記手続をせよ。
8(1)原告Xは、被告Y1に対し、15万5000円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)原告Xは、被告Y3に対し、15万5000円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
9(1)被告Y2は、原告Xに対し、11万6000円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告Y2は、被告Y1に対し、84万7000円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被告Y2は、被告Y3に対し、84万7000円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
※東京地判平成19年2月27日

(5)部分的価格賠償の判決主文の実例

現物分割の一種として、各共有者が取得する部分(土地)と共有持分割合に差が生じる場合、金銭(調整金・賠償金)の支払でバランスをとる、というものがあります。部分的価格賠償といいます。
部分的価格賠償を採用した判決の主文の実例です。

部分的価格賠償の判決主文の実例

あ 形成+登記+金銭給付

1 別紙物件目録記載1の土地を次のとおり分割する。
(1)別紙添付図面のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、イの各点を順次直線で結んだ範囲の土地(甲地)と、イ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ヌ、イの各点を順次直線で結んだ範囲の土地(乙地)に分割し、原告が甲地を、被告が乙地をそれぞれ取得する
(2)被告は、原告に対し、上記甲地の持分○分の○につき、この判決確定の日の共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。
(3)被告は、原告に対し、○○万円及びこれに対するこの判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え
※東京地判平成23年3月22日

い 形成+登記+金銭給付+同時履行

1 別紙物件目録1ないし9記載の各不動産を次のとおり分割する。
(1)別紙物件目録1ないし3記載の各不動産を原告X1の所有とする。
(2)同目録4ないし6記載の各不動産を原告X2の所有とする。
(3)同目録7ないし9記載の各不動産を被告の所有とする。
2(1)被告は、原告X1に対し、同原告から○○円の支払を受けるのと引き換えに、別紙物件目録1ないし3記載の不動産の共有持分○分の○について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。
(2)原告X1は、被告に対し、被告から別紙物件目録1ないし3記載の不動産の共有持分○分の○について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続を受けるのと引換えに、○○円を支払え
3 被告は、原告X2に対し、別紙物件目録4ないし6記載の不動産の共有持分○分の○について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。
※東京地判平成19年11月13日

5 全面的価格賠償の判決主文と申立内容

(1)全面的価格賠償の判決主文の実例(通常)

共有物を共有者の1人Aの単独所有にして、その代わりにAが他の共有者に対価を支払う、という分割類型があります。全面的価格賠償といいます。
全面的価格賠償の判決主文では、まず、Aの単独所有とすることを示し(形成条項)、これを前提として、履行を確保するための工夫をする(条項をつける)ことになります。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の判決における履行確保措置の内容(全体)と実務における採否
具体的には、登記の移転対価の支払の給付条項をつけるのが通常です。さらに、登記と対価支払の同時履行(引換給付)をつけることもあります。

全面的価格賠償の判決主文の実例(通常)

あ 形成+金銭給付(基本型)

別紙物件目録記載の土地を次のとおり分割する。
(1)同目録記載の土地を甲の所有とする。
(2)甲は、乙に対し、〇〇円を支払え。
※瀬木比呂志・近藤裕之稿/塚原朋一編著『事例と解説 民事裁判の主文』新日本法規出版2006年p206

い 形成+登記+金銭給付

1 別紙物件目録記載1及び2の各区分所有権を、次のとおり分割する。
(1)別紙物件目録記載1及び2の各区分所有権につき、被告らの共有持分をいずれも原告の所有とする。
(2)原告は、被告Y1に対し、○○円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え
(3)原告は、被告Y2に対し、△△円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え
2 被告Y1は、原告に対し、本判決が確定したときは、別紙物件目録記載1の区分所有権の持分○分の○及び別紙物件目録記載2の区分所有権の持分○分の○について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。
3 被告Y2は、原告に対し、本判決が確定したときは、別紙物件目録記載1の区分所有権の持分○分の○について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。
※東京地判平成27年1月15日

う 形成+登記+金銭給付+同時履行

1 別紙物件目録記載1、2の土地、同目録記載3の建物を次のとおり分割する。
(1)別紙物件目録記載1、2の土地、同目録記載3の建物を原告の所有とする。
(2)原告は、被告から次項の登記手続を受けるのと引換えに、被告に対し、○○円を支払え
(3)被告は、原告から前項の金員の支払を受けるのと引き換えに、原告に対し、別紙物件目録記載1、2の土地、同目録記載3の建物の各持分○分の○について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。
※大分地判平成24年9月18日
※瀬木比呂志・近藤裕之稿/塚原朋一編著『事例と解説 民事裁判の主文』新日本法規出版2006年p210(同趣旨)

え 未登記不動産の登記と金銭の同時履行(参考)

・・・未登記不動産が分割の対象とされた場合であっても、判決を代位原因とする保存登記をなし得るから、持分移転登記手続との引換給付判決をすることは可能である。
※瀬木比呂志・近藤裕之稿/塚原朋一編著『事例と解説 民事裁判の主文』新日本法規出版2006年p210

お 金銭給付ではなく支払義務形成にとどめる方法(概要)

判決主文の中で金銭給付をつけず、金銭(賠償金)の支払義務の形成でとどめる例もある
その場合は「支払」という記載になる(後記※1

(2)全面的価格賠償の申立内容(通常)

前述のように、共有物分割訴訟の訴状には、通常、希望する分割方法を記載します。そして、具体的には、判決主文に相当する内容を記載します。
原告自身が共有物を単独所有する(取得する)ことを希望する場合は、原告の所有とするということを記載するとともに、被告から原告に移転登記をすることを記載します。さらに、原告が対価を支払うことも記載するのが通常です。一般的な訴訟では、原告が支払う(原告が義務を負う)ことを請求するというのはないのですが、共有物分割訴訟ではその特殊性からこのようなことがあるのです。
なお、判決主文では、「支払え」という記載になるので、これをそのまま訴状の請求の趣旨でも記載する例もあります。ただ、これだと「自分に対して支払え」と命令してくれ、と言っている感じがするので、「支払」と記載することが多いです。

全面的価格賠償の申立内容(通常)(※1)

あ 一般的な申立内容

次に、原告が価格賠償による分割を求める場合の申立ての内容を確認する。
まず最も多いのは、原告(原告ら)が現物取得者となる分割を求めるケースである。
訴状には、例えば「別紙物件目録1記載の不動産を原告の所有とする」と記載される。
また、これに加えて、自らに義務を課すことになるが、被告への賠償金の支払いを原告に命じる判決を求めることも多い。
この場合には「原告は、被告に対し、金○○万円支払え」と追加することになる。
なお、賠償額をはっきりと明示せずに相当額の支払いを命ずる判決を求めるケースもある。
さらに、持分登記を移転することを被告に命じる判決を求めるケースがある。
例えば、「被告は、原告に対し、本判決が確定したときは、本件不動産の持分三分の一について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ」となる。
このような共有物件の単独取得、賠償金の支払い、持分の移転登記の三つがセットとして申し立てられることが多く、その上で原告が賠償金の支払いと引換えに持分登記の移転を命ずる判決を求める形も見られる。
※秦公正稿『共有物分割の訴えに関する近時の裁判例の動向』/『法学新報123巻3・4号』中央大学法学会2016年8月p110

い 「支払う」という表現(工夫)

ア 実例 1 別紙物件目録記載の土地を次のとおり分割する。
(ア)上記土地を原告の所有とする。
(イ)原告は、被告に対し、金三二万九三四六円を支払う
※千葉地判平成15年7月31日
イ 説明 原告の請求1(イ)の記載が「………を支払う」となっているのは、対価支払いの義務を形成するにとどめる意図があったものと思われる。
※秦公正稿『共有物分割の訴えに関する近時の裁判例の動向』/『法学新報123巻3・4号』中央大学法学会2016年8月p115
ウ 判決主文としての採用 (判決主文について)
・・・実務上、給付判決の形式によらず、「甲は、乙に対し、〇〇円を支払う」との表示をする例もみられるが、これは、同主文が、給付を命ずるものではなく、対価支払の義務を形成するにとどまるとの見解に立脚したものと解される。
(注・部分的価格賠償を想定していると思われる)
※瀬木比呂志・近藤裕之稿/塚原朋一編著『事例と解説 民事裁判の主文』新日本法規出版2006年p203

(3)全面的価格賠償の申立内容(押し付け型・買取請求型)

少し変わったパターンとして、原告が共有物は被告が取得して、自身(原告)は対価をもらいたいという事例もあります。なぜ変わっているのかというと、裁判所は、自分が取得したいという希望が出ていない限り、その者に取得させる判決はできないと考えられているからです。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における当事者の希望の位置づけ(希望なしの分割方法の選択の可否)
実際にこのパターンの訴状を作る状況は、訴訟前の交渉段階で、被告が当該不動産を取得することを希望していて、金額(対価)だけで対立していた、つまり、訴訟が始まった後に、被告が取得する希望を改めて示すことが分かっている、という状況です。
この場合、訴状の請求の趣旨には、被告が取得する(被告の所有とする)ということと、被告が原告に対価を支払う(支払え)ということを記載します。

全面的価格賠償の申立内容(押し付け型・買取請求型)

あ 実務の状況

件数は少ないが原告が「共有物件を被告が取得し、原告への賠償金の支払いを被告に命じる」判決を求めて訴えを提起するケースがある。
そのような申立てがされる事情としては、被告が物件を取得することに異存はない(誰が現物を取得するかについては合意ができる)が、賠償金額で折り合いがつかない場合、物件の管理の困難さや資産価値の低さなどからむしろ共有不動産の取得を積極的に望まない、あるいは、適正な価格で現物を引き取ってもらえるならそれでよいと考える場合などがあるものと思われる。
ただ、このような「買い取り要求型」あるいは「押しつけ型」とも言うべき申立てがなされた場合の審理はやや注意を必要とするであろう。
被告側が自ら現物の取得を審理過程で明確に申し立てている場合はよいとしても、例えば、被告欠席などで現物取得の意思が確認できない場合には、現物を被告の所有とし、原告への賠償金の支払いを命じる判決をすべきではないだろう。
希望もしないのに物件を押し付けられた上に、賠償金の支払いの負担も強いられることになるからである。
※秦公正稿『共有物分割の訴えに関する近時の裁判例の動向』/『法学新報123巻3・4号』中央大学法学会2016年8月p111

い 実例

ア ノーマル 被告による取得を希望する事案
※東京地判平成23年12月27日
※東京地判平成24年1月25日
※東京地判平成24年9月6日
※東京地判平成27年2月26日
※東京地判平成27年5月14日
イ ノーマル(複数不動産の一部) 対象の不動産のうち1個について、被告による取得を希望する事案
※東京地判平成24年5月31日
ウ X+Y1による取得の希望 原告と(複数の)被告のうち1名が取得することを希望する事案
※東京地判平成26年12月26日

(4)全面的価格賠償の判決に期限や条件をつけた実例(概要)

判決主文の実例の紹介に戻ります。
全面的価格賠償では、前記のような、形成条項と対価支払と登記移転の3点セットが基本型です。
しかし、判決にいろいろな工夫をさらに盛り込むこともあります。
典型例は、賠償金(対価)の支払に6か月の猶予を与える、さらに、支払われなかった場合には換価分割(競売)とする、というものです。さらに、複数の共有者に順位をつけて、現物を取得する機会を与える、という高度な工夫もあります。
このように、全面的価格賠償の判決に期限や条件がつけられた実例の判決主文は、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の判決に期限や条件をつけた実例(集約)

6 換価分割の判決主文

(1)換価分割の判決主文の実例(通常)

3つ目の分割類型は、共有物を競売で売却して代金を分けるという方法です。これを換価分割といいます。
仕組みとしても、判決主文の記載としても単純です。

換価分割の判決主文の実例(通常)

あ 通常(不動産)

ア 平成22年京都地判 別紙物件目録の土地について競売を命じ、その売得金から競売手続費用を控除した金額を、原告X1に○分の○、原告X2に○分の○、被告Y1に○分の○、被告Y2に○分の○の割合で分割する。
※京都地判平成22年3月31日
※瀬木比呂志・近藤裕之稿/塚原朋一編著『事例と解説 民事裁判の主文』新日本法規出版2006年p212(同趣旨)
イ 平成27年東京地判 1 別紙物件目録記載1の土地を競売し、その売得金より競売手続費用を控除した金額を、原告らに○分の○ずつ、被告に○分の○の割合で分割する。
2 別紙物件目録記載2の建物を競売し、その売得金より競売手続費用を控除した金額を、原告らに△分の△ずつ、被告に△分の△の割合で分割する。
※東京地判平成27年12月22日

い 建物+借地権

別紙物件目録1記載の借地権及び同目録2記載の建物は、いずれもこれを競売に付し、その売得金より競売手続費用を控除した金額を、原告に○分の○、被告に○分の○の各割合で分割する。
※東京地判平成7年2月24日

(2)換価分割の判決主文(消除主義指定的なもの)(参考)

換価分割の判決の中で「優先配当額の控除」という記述が登場した判決があります。読み方によっては、競売手続で、担保権者への配当を行う、つまり売却条件として消除主義を採用することが前提となっている感じもします。ただ、共有物分割の判決は換価分割を採用するところまでしか決定できず、売却条件は執行裁判所が判断する、という枠組みになっています。
詳しくはこちら|形式的競売における担保権の処理(全体像)
この判決主文は消除主義の採用を指定したものではない、と読むべきだと思います。

換価分割の判決主文(消除主義指定的なもの)(参考)

別紙物件目録記載の土地を競売し、その売却代金から競売に要した費用その他の優先配当額を控除した残金のうち4分の1を原告X1に、8分の1を原告X2に、8分の5を被告に分配する。

本記事では、共有物分割訴訟の訴状の請求の趣旨や判決主文のいろいろな実例を紹介しました。
実際には、具体的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、共有物分割などの共有不動産に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【共有物分割請求を権利の濫用であると判断した裁判例(集約)】
【全面的価格賠償の判決に期限や条件をつけた実例(集約)】

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