【区分所有法22条(分離処分禁止)の「処分」の解釈】
1 区分所有法22条(分離処分禁止)の「処分」の解釈
区分所有建物(分譲マンション)に専有部分(1戸)と、敷地を使う権利を別人が持つことになると、専有部分は敷地(土地)を不法に占有していることになってしまいます。
そこで、専有部分と敷地利用権の片方だけを売ることは禁止されています。このルールを「分離処分の禁止」といいます。
詳しくはこちら|区分所有建物の専有部分と敷地利用権の分離処分禁止
本記事では、専有部分と敷地利用権の分離処分禁止というルールの「(分離)処分」にはどのようなものがあたるのか、つまり、どんな行為が禁止されるのか、ということを説明します。
2 分離処分禁止の条文規定
分離処分の禁止に関する解釈の説明に入る前に、条文を確認しておきます。
基本ルールは1条です。条文はシンプルで、敷地利用権を「数人で有する」つまり「区分所有者で(準)共有する」場合に、専有部分と敷地利用権の分離処分が禁止されます。
分離処分禁止の条文規定
※区分所有法22条1項
3 「処分」という用語に着目した解釈
「処分」という用語の一般的な意味から、分離処分の具体例として、(専有部分と敷地利用権のうち一方だけを)売却するというのはすぐに思いつきます。さらに、それだけでなく、贈与や交換といった権利を移転させる行為、抵当権や質権を設定する、といった制限物権を設定する行為も、禁止される「処分」にあたります。つまり、当事者の意思表示(主に契約)によって権利変動を起こす行為が「処分」にあたるのです。
それ以外、例えば物理的に損壊する行為や、時効による権利の取得、不動産先取特権の成立は、意思表示による権利変動ではないため、「処分」にはあたりません。
「処分」という用語に着目した解釈
あ 「処分」の解釈
本条(注・区分所有法22条)での「処分」は、法律行為としての処分、すなわち、当事者の意思表示に基づいて一定の権利変動が生じるものに限定される。
時効取得(民法162条)や不動産の先取特権の成立(民法325条)のように一定の事実に基づき法律の規定によって生じる権利変動は、「処分」には該当しない(濱崎・解説172)。
※稲本洋一郎ほか著『コンメンタール区分所有法 第3版』日本評論社2015年p132
※水本浩ほか編『基本法コンメンタール マンション法 第3版』日本評論社2006年p43、44(同趣旨)
い 「処分」に該当するものの例
譲渡・抵当権の設定・質権の設定
信託・出資・遺贈・遺産分割・仮処分
う 「処分」に該当しないものの例
ア 公権力の行使
公権力の行使に基づく権利変動
例=土地収用
イ 事実に基づく権利変動
一定の事実に基づいて法律の規定によって生じる権利変動
例=時効取得、先取特権の成立(前記)
※水本浩ほか編『基本法コンメンタール マンション法 第3版』日本評論社2006年p43、44
4 分離処分禁止の趣旨による「処分」の解釈
意思表示による権利変動であれば、一般的な「処分」の用語の意味にあてはまります。しかし、一般用語の「処分」にあてはまっても区分所有法22条の「処分」にはあてはまらない(分離処分が禁止されない)ものもあります。それは、専有部分と敷地利用権とを一体的に処分することが性質上不可能(な処分)である場合です。
例えば、抵当権は不動産に対して設定するものであるため、債権である賃借権に対しては設定することはできません。そのため、敷地利用権が賃借権である場合、専有部分と敷地利用権とに一体的に抵当権を設定することはできないので、専有部分のみに抵当権を設定する(専有部分のみを処分する)ことができます。ただし、この場合でも抵当権の効力は敷地利用権である賃借権にも及ぶことになります(後述)。
その他にも、区分地上権や地役権の設定は、建物を対象とすることはできないので、敷地利用権のみに設定することができます。
つまり、禁止される分離処分は、専有部分と敷地利用権とを一緒に処分することができるのに、あえて専有部分と敷地利用権を別々処分にすること、といえます。
なお、敷地利用権の共有物分割請求については、「性質上不可能」をどのように考えるのかによって結論が異なります。
分離処分禁止の趣旨による「処分」の解釈
あ 学説
(2)一体的にすることができる処分
本条(注・区分所有法22条)での「処分」は、専有部分と敷地利用権の処分を一体的にすることができるものに限られる。
法律上または性質上、専有部分と敷地利用権を一体としてすることができない処分は、本条の適用を受けず、両者を分離して処分することができる。
敷地利用権が賃借権または使用借権である場合の債務不履行による解除は、一体的にすることができる処分ではないから、本条の適用を受けない。
敷地利用権が賃借権である場合には、賃借権を目的とする抵当権の設定は現行法上認められないから、専有部分のみを目的として抵当権を設定することができる
(その抵当権が実行され競売された場合については後述〔5〕(4))。
また、専有部分についての賃借権の設定、敷地についての地上権の設定(たとえば、敷地の地下に地下鉄敷設のために区分地上権[民法269条の2]を設定する場合)、敷地についての賃借権の設定(たとえば、敷地の一部または規約敷地を駐車場として賃貸する場合)
などは、性質上両者を一体的に処分することができないものであるから、それぞれ一方のみを目的として設定することが可能である(濱崎・解説172)。
※稲本洋一郎ほか著『コンメンタール区分所有法 第3版』日本評論社2015年p133
※水本浩ほか編『基本法コンメンタール マンション法 第3版』日本評論社2006年p44(同趣旨)
い 裁判例
・・・区分所有法22条1項本文によれば、敷地利用権が数人で有する権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができないとされるところ、これにより禁止される分離処分とは、専有部分と敷地利用権とについて一体的にすることができる法律行為としての処分を一方についてのみ行うこと又はそれぞれについて異なる内容で行うことを指し、・・・
※東京地判平成23年3月22日
5 建物の抵当権と敷地の賃借権の関係→従たる権利(参考)
前述のように、敷地利用権が賃借権であるケースで、専有部分に抵当権を設定することを想定します。民法上、債権である賃借権に抵当権は設定できませんので、敷地利用権(賃借権)には抵当権を設定できません。一体処分ができないので、専有部分だけへの抵当権設定は、分離処分として禁止されることはありません。
なお、この場合、敷地の賃借権は、専有部分の従たる権利ですから、抵当権の効果は及びます。
建物の抵当権と敷地の賃借権の関係→従たる権利(参考)
※最判昭和40年5月4日
6 敷地の共有物分割と分離処分禁止→両説あり(概要)
区分所有建物の敷地だけを対象とした共有物分割は、敷地と専有部分を一体として行うことができません。そこで、前述のように分離処分として禁止されることはないと考えられますし、実際に共有物分割を認めた裁判例もあります。一方で、分離処分禁止を適用して、または別の理由で共有物分割を認めなかった裁判例もあります。
詳しくはこちら|区分所有建物の敷地の共有物分割の可否(複数見解)
なお、専有部分と敷地を一体とした共有物分割は分離処分ではないので禁止されません。
詳しくはこちら|共有の専有部分(区分所有権)の共有物分割の実例
7 使用借権の敷地利用権と分離処分禁止→適用なし
敷地利用権が使用貸借上の権利(使用借権)であった場合、分離処分禁止の効果が及ぶのか、という問題があります。
単純に考えると、使用借権には原則として譲渡性がないので、建物と一体的に処分することが性質上不可能です。そこで、前述のように、分離処分が禁止されないことになるはずです。区分所有法の立法担当者は、分離処分禁止の効果が及ばないという解釈を説明しています。
分離処分禁止の効果が及ばないため建物のみが譲渡されたときは、譲受人は敷地利用権のない区分所有者ということになり、建物について売渡請求(区分所有法10条)を受けることにもなりかねません。そのような事態に陥らないよう、使用借権を敷地利用権とするときは、あらかじめ特約によって使用借権の譲渡を可能にしておくことが望ましいです。むしろ、将来の使用借権の譲渡を承諾したと推定できることも多いでしょう。
使用借権の敷地利用権と分離処分禁止→適用なし
あ 原則・分離処分可能
この点で使用貸借上の権利を敷地利用権とすることについては、注意が必要である。
一般に使用借権は譲渡を予定しないで設定されることが多いことから、そのような場合に専有部分だけの処分がなされたときこれを無効としてよいかという問題がある。
これについて、法務省立法担当者は、使用貸借上の権利(使用借権)が、敷地利用権である場合には、22条の適用はないものと解すべきだとしている(濱解説172)。
これに従えば、使用借権はそれ自体敷地利用権であり得るが、分離処分が可能であり、したがって10条の売渡請求権の行使による解決に至る場合があることになる。
※稲本洋之助ほか著『コンメンタール マンション区分所有法 第3版』日本評論社2018年p24、25
い 例外・分離処分禁止
このような問題を事前に解決するには、使用借権の設定に当たってその譲渡を許容する特約がなされればよい。
解釈としては、専有部分の所有について使用貸借による土地利用を認める場合に分離処分を許容する趣旨であることが明らかでない限り、設定者は譲渡許容の意思をもって使用借権を設定したものと推定すべきであろう。
※稲本洋之助ほか著『コンメンタール マンション区分所有法 第3版』日本評論社2018年p25
8 競売と分離処分禁止→原則適用あり
分離処分禁止の効力は、競売手続にも及びます。競売手続は専有部分と敷地利用権とを一体的にすることのできる処分であるため当然といえます。
しかし、例外があります。それは、分離処分が禁止される前に設定された抵当権に基づいて、競売が実行されるときです。
例えば、更地に抵当権を設定し、その後に建物が建築されると、敷地利用権のみに抵当権が設定された状態になります。もちろん、その場合でも、抵当権実行による競売によって専有部分と敷地利用権が別人に帰属することとなります。分離処分としてで禁止する、という考え方も可能ですが、抵当権者の有する換価権(土地を競売する権利)を優先し、この場合には競売をすることができると解されています。
競売と分離処分禁止→原則適用あり
あ 原則・分離処分禁止
(4)競売における分離執行の禁止
執行裁判所が債権者または担保権者のために強制執行または担保権の実行としてする競売に当たっても、専有部分と敷地利用権を分離して処分することはできない。
差押えや仮差押えも同様である。
い 例外・分離処分可能(換価権優先を維持する考え方)
ただし、専有部分と敷地利用権を分離処分できない関係が生ずる前にその一方のみを目的として担保権の設定がされていたときは、その実行としての差押えおよび競売は、担保権の目的となっている一方のみについて行うことができる
(たとえば、区分所有建物の敷地になる前に土地上に抵当権が設定されていたときは、敷地たる土地のみについての抵当権の実行・競売が可能である)。
※稲本洋一郎ほか著『コンメンタール区分所有法 第3版』日本評論社2015年p135
9 分離処分禁止の効果(概要)
以上では、分離処分とはどのようなものか(分離処分禁止の要件)を説明しました。この点、分離処分に該当した場合の効果、つまり、違反した場合の法的扱いは、基本的に無効ということになります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|区分所有建物の専有部分と敷地利用権の分離処分禁止
本記事では、区分所有建物の専有部分と敷地利用権の分離処分禁止のルールの「処分」の解釈を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に区分所有建物(分譲マンション)の分離処分に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。