【賛否不明共有者がいる場合の管理の裁判手続(令和3年改正)】
1 賛否不明共有者がいる場合の管理の裁判手続(令和3年改正)
共有物の管理行為は過半数の持分割合の賛成(多数決)で決めることになっています。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類
実際には、共有者の1人が、賛成か反対かを答えてくれないため、過半数が実現せず困っている、という状況がよくあります。
令和3年の民法改正で、このような状況で、裁判所が決定を出すことにより、管理の決定をすることができる制度が作られました。本記事では、この制度について説明します。
2 条文規定(民法・非訟事件手続法)
最初に、条文の規定を押さえておきます。賛否不明共有者に関する管理に関する裁判の制度は、基本部分は民法252条2項2号に規定されましたが、細かい手続の内容は非訟事件手続法85条に規定されました。
条文規定(民法・非訟事件手続法)
あ 民法
2 裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。
・・・
二 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。
※民法252条2項2号
い 非訟事件手続法
(共有物の管理に係る決定)
第八十五条 次に掲げる裁判に係る事件は、当該裁判に係る共有物又は民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百六十四条に規定する数人で所有権以外の財産権を有する場合における当該財産権(以下この条において単に「共有物」という。)の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
・・・
二 民法第二百五十二条第二項第二号(同法第二百六十四条において準用する場合を含む。第三項において同じ。)の規定による裁判
・・・
3 第一項第二号の裁判については、裁判所が次に掲げる事項を当該他の共有者(民法第二百五十二条第二項第二号に規定する当該他の共有者をいう。以下この項及び次項において同じ。)に通知し、かつ、第二号の期間が経過した後でなければ、することができない。この場合において、同号の期間は、一箇月を下ってはならない。
一 当該共有物について第一項第二号の裁判の申立てがあったこと。
二 当該他の共有者は裁判所に対し一定の期間内に共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべきこと。
三 前号の期間内に当該他の共有者が裁判所に対し共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにしないときは、第一項第二号の裁判がされること。
4 前項第二号の期間内に裁判所に対し共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにした当該他の共有者があるときは、裁判所は、その者に係る第一項第二号の裁判をすることができない。
5 第一項各号の裁判は、確定しなければその効力を生じない。
・・・
※非訟事件手続法85条
3 対象の限定(不動産)→なし
賛否不明共有者がいる場合の共有物の管理の裁判の制度が使えるのは、共有物全般です。不動産に限定されていません。
対象の限定(不動産)→なし
※民法252条2項参照
4 裁判手続
この手続は、裁判所に申立をすることから始まります。申立人は共有者(の1人)です。
なお、共有物の管理人(令和3年改正で作られた制度)はもともと、裁判所の決定を得なくても管理行為をすることができます。そこで、共有物の管理人は、管理の裁判の申立人(申立権者)には入っていません。
裁判手続
あ 申立人
共有者
※民法251条2項
い 管轄裁判所
共有物の所在地を管轄する地方裁判所
※非訟事件手続法85条1項2号
5 遺産共有の除外→なし
共有物が遺産共有の場合も含めて、変更と管理の裁判の手続は利用できます。令和3年改正で作られた別の制度のうち、権利の帰属を変更するもの(持分取得、持分譲渡権限付与の裁判)は、遺産共有の場合は制限されますので注意が必要です。
遺産共有の除外→なし
※民法252条2項1号参照
6 申立前の共有者による催告
この手続は、賛否不明共有者がいる場合に利用できます。具体的には、裁判の申立よりも前に、共有者の1人Bが、共有者Aに特定の行為について賛否を質問して、催告した(回答を求めた)のに、回答がない、という状況が必要です。AB以外の共有者Cがいる場合は、Cに対しても賛否の質問と催告が必要、という指摘も法改正の議論の中ではありました。ただし、条文上、そのような規定となっているわけではありません。
また、催告の中で「相当の期間」の回答期限を定めることになっています。これについては2週間程度が妥当とされています。
申立前の共有者による催告
あ 条文上の要件
「共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した」ことが要件となっている
※民法252条2項2号
い 催告の相手方
・・・この仕組みを用いる際には、共有者全員に対して催告をすることになるのかが問題となる。
絶対過半数を得ている場合は別途の議論があり得るとしても、相対過半数しか得ていない場合に、少数者のみでこれを決する際には、全員に意見表明の機会を保障すべく、基本的に全員に対して催告をすることになるとも思われる。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料41』p3
う 回答期限
また、共有者が他の共有者に対して催告をする際に定める期間については、後に裁判所が改めて催告をすることを踏まえて、解除などと同様に明確な下限は設けないものとしているが、基本的には返答に応じるのを検討する期間であり、解除の際と同様に2週間程度を要することになると考えられる。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第24回会議(令和3年1月12日)『部会資料56』p8
7 裁判所による通知(条文規定)
最終的に裁判所の決定が出ると、賛否不明共有者Aを除外して多数決(過半数)で決定することができるようになります。除外する前に、Aに賛否を表明する最後の機会を与えておく流れになっています。具体的には、申立の後に、裁判所が賛否不明共有者Aに対して、1か月以内に(特定の議題について)賛否を明らかにしてくださいという趣旨の通知を出します。期間内にAが賛否を表明したら、もう裁判所は決定を出す意味がなくなるので、決定を出せなくなります。
逆に、期間内に賛否の表明がなければ決定を出します。
裁判所による通知(条文規定)
あ 催告の履行
3 第一項第二号の裁判については、裁判所が次に掲げる事項を当該他の共有者(民法第二百五十二条第二項第二号に規定する当該他の共有者をいう。以下この項及び次項において同じ。)に通知し、かつ、第二号の期間が経過した後でなければ、することができない。この場合において、同号の期間は、一箇月を下ってはならない。
一 当該共有物について第一項第二号の裁判の申立てがあったこと。
二 当該他の共有者は裁判所に対し一定の期間内に共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべきこと。
三 前号の期間内に当該他の共有者が裁判所に対し共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにしないときは、第一項第二号の裁判がされること。
※非訟事件手続法85条3項
い 催告への応答
4 前項第二号の期間内に裁判所に対し共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにした当該他の共有者があるときは、裁判所は、その者に係る第一項第二号の裁判をすることができない。
※非訟事件手続法85条4項
8 決定の内容
前述のように、賛否不明共有者が裁判所からの最後の催告に対しても賛否を表明しなかった場合、裁判所は決定を出します。決定の内容は、簡単にいうと、Aは共有者ではないとみなして、残りの共有者で意思決定をすることができる、ということになります。具体的には、A以外の共有者の持分の過半数の賛成で当該議題(管理)の決定ができる、ということです。
裁判所の決定で、共有者が意思決定をすることができるようになる、ということから「許可」(の決定)と呼ぶこともあります。
決定の内容
※民法252条2項
9 手続の流れ
共有物の管理の裁判手続の流れを整理しておきます。
申立以前に、共有者の1人(賛否不明共有者A)が、特定の議題(管理行為)について、質問されたのに回答しない(賛否を明らかにしない)ということが必要です。というより、賛否を明らかにしてくれないから困って、裁判所に申し立てる必要が生じるのです。
申立を受けた裁判所はまず、Aに対して最後の催告をします(前述)。催告は1か月以上の期限をつけて行います。期限までに回答がない場合には、裁判所は決定を出します。
手続全体の流れ
あ 事前の催告
共有者Xが共有者Yに対して、「決定しようとする管理事項」を示した上で賛否を求める(催告する)
い 回答なし
Yが期限までに回答しない(賛否を明らかにしない)
う 申立
Xは、裁判所に申立書を提出する
え 裁判所による通知(催告)
裁判所がYに、「決定しようとする管理事項」の賛否の明示を求める通知をする
賛否明示期間は1か月以上
お 回答なし
Yが期限(1か月以上)までに回答しない(賛否を明らかにしない)
か 決定
裁判所が管理決定をする
き 共有者による意思決定
賛否を明らかにしない共有者以外の共有者で意思決定をする
※「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」法務省民事局2021年p32
10 申立書のサンプル(概要)
変更の裁判は裁判所への申立書の提出から始まります。申立書の記載方法(書式・サンプル)や添付書類については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有不動産の変更・管理の申立書サンプルと説明文書(裁判所公表)
11 管理の裁判に基づく行為の登記手続(概要)
裁判所が管理の決定を出して、確定したら、ようやく、予定していた行為を行うことができるようになります。たとえば、賃貸借(短期賃貸借)の契約を(賃借人との間で)締結できるのです。ここで、これらの賃貸借(賃借権)を登記する場合の手続は、賛否不明共有者A以外の共有者の持分の過半数(を有する共有者)が登記の申請人となります。ただし、登記義務者は(Aも含めた)共有者全員です。登記上、所有権(持分権)が制限されるという形式だけで「登記上、直接に不利益を受ける」(不動産登記法2条13号)ことになるからです。登記手続については、所在不明等共有者がいる場合の変更・管理の裁判手続の場合と同じです。
詳しくはこちら|所在等不明共有者がいる場合の変更・管理の裁判手続(令和3年改正)
12 管理の裁判による解決の具体例
賛否不明共有者がいる場合に、管理の裁判の手続を活用して解決する具体例を紹介します。
A〜Eの5人がそれぞれ5分の1の共有持分を持っているケースでDとEが賛否を明らかにしない場合は、裁判所の決定を得れば、「残るABCのうちABだけで過半数」となります。そこでABの賛成だけで管理行為をすることができることになります。
管理の裁判による解決の具体例
※「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」法務省民事局2021年p32
なお、この中で出てくる、「砂利道へのアスファルト舗装が軽微変更にあたる」ということは、私道ガイドラインに出ています。
詳しくはこちら|共有私道の舗装工事・樹木伐採などの「変更・管理・保存」の分類(私道ガイドライン)
本記事では、賛否不明共有者がいる場合の変更・管理の許可の制度について説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産(共有物)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。