【共有私道の舗装工事・樹木伐採などの「変更・管理・保存」の分類(私道ガイドライン)】
1 共有私道の舗装工事・樹木伐採などの「変更・管理・保存」の分類(私道ガイドライン)
「私道ガイドライン」では、私道に関する工事をするために必要な同意の範囲や、誰が実行できるのか、ということが整理されています。別の記事で全体をまとめています。
詳しくはこちら|共有私道に関する工事などの「変更・管理・保存」の分類のまとめ(私道ガイドライン)
本記事では、私道ガイドラインの中の、共有私道の舗装に関する工事と樹木に関する工事の部分について引用しつつ紹介します。
2 アスファルトの損傷が生じた場合の工事
すでに私道にアスファルトの舗装がなされていて、その一部が損傷した場合の補修工事です。
原則として、現状維持といえるので保存行為です。
一方、損傷していない箇所も含めて全面再塗装をする場合は管理行為に分類されます。
損傷してはいないけれど、近い時期に損傷することが確実である場合には、すでに損傷したのと同じ扱い、つまり、保存行為に分類されます。
アスファルトの損傷が生じた場合の工事
あ アスファルトの損傷箇所の補修→保存
○上記のように地方公共団体の助成制度の対象となる材質・施工方法により、舗装されたアスファルト道に生じた陥没部分の穴を塞ぎ、アスファルトで再舗装して現状を維持する補修工事は、一般的には、共有物の保存行為に当たる。
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p62
い アスファルトの損傷箇所を超えた全面再舗装
ア 予防目的の工事→管理
○舗装されたアスファルト道の一部に段差が生じ、・・・
○他方、段差部分だけでなく、現時点で通行に支障がなく、道路としての機能に問題がない部分を、近い将来に生じ得る支障を予防するために全面的に再舗装工事を行うことは、全体として、共有物を改良する行為であると考えられるから、一般的には、共有物の管理に関する事項に当たる(改正前民法第252条本文、改正民法第252条第1項)。
イ 損壊間近→保存
○なお、段差部分以外のアスファルトの老朽化が進み、早晩陥没が生じることが予想されるような具体的徴候がある場合には、全面的に再舗装工事を行うことも、保存行為に当たると考えられる。
そのような場合に、地方公共団体の助成制度の対象となる材質・施工方法により再舗装工事を行うときには、一般的には、保存行為に当たるものとして取り扱うことができるものと考えられる。
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p66
3 アスファルト新設工事(砂利道への舗装)
現在砂利道である私道に、アスファルト面を施工する工事は、性質としては変更行為ですが、令和3年改正で新たなに条文として作られた軽微変更にあたると思われます。つまり管理行為と同じ扱いとなります。
アスファルト新設工事(砂利道への舗装)
あ アスファルト新設→軽微変更
・・・砂利道のアスファルト舗装は、一般に、形状に関しては、砂利を除去して下層路盤・上層路盤を整備してアスファルト面を施工するなど、ある程度の変更を伴うものの、著しく変更するものではなく、また、効用に関しても通路としての機能を向上させるに留まるものであることを勘案すると、軽微変更に当たると考えられる。
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p71
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p18(同内容)
なお、未舗装の私道にアスファルト舗装をすることが軽微変更にあたる、ということは、令和3年の民法改正の議論の中でも出ていましたし、法務省が公表している改正のポイントという資料にも記載されています。
詳しくはこちら|共有物の「軽微変更」の意味や具体例(令和3年改正による新設)
つまり、このような舗装工事のために共有者全員の同意が必要という状況を回避、解消するために軽微変更の規定が作られた、ともいえるのです。
4 L字溝の損傷が生じた場合の工事
私道にすでに設置してあるL字溝が損傷した時の補修工事です。
原則として、現状維持なので保存行為に分類されます。
一方、損傷していない箇所も含めた路面全体の再舗装は管理行為に分類されます。
L字溝の損傷が生じた場合の工事
あ L字溝の損傷箇所の補修→保存
○L形側溝が老朽化して陥没し、段差が生じており、通行に危険が生じるなど、私道の機能に支障が生じている場合に、地方公共団体の助成制度の対象となる材質・施工方法によりL形側溝の取替え及び取替えに必要な限度でL形側溝付近の部分のアスファルトをいったん剥がして再舗装し、その現状を維持する行為は、一般に、共有物の保存行為に該当するものと考えられる。
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p76
い L字溝の補修箇所を超えたアスファルト再舗装→管理
○老朽化したL形側溝を取り替えて現状を維持するためにはL形側溝付近の部分のアスファルトのみを剥がした上で再舗装すれば足りる場合に、あえて特に通行等に支障がないアスファルトの路面全体を再舗装する工事は、共有物の現状を維持するにとどまらず、共有物を改良する行為であると考えられるから、一般には、共有物の管理に関する事項に当たる。
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p81
5 共有私道にある樹木の伐採と剪定
次に、共有私道内にある(植樹されている)樹木の伐採や剪定です。
樹木自体は土地(私道)と一体となって、(私道共有者が)共有している状態になっています。伐採して撤去することは、原則として軽微変更(管理行為扱い)となります。
ただし、美観向上の目的で植樹されている場合には、伐採、撤去は(軽微ではない)変更に分類されます。
樹木によって通行の機能に支障が生じている場合に、機能を回復するために最小限の範囲で枝を剪定するのであれば現状維持といえるので、保存行為に分類されます。
共有私道にある樹木の伐採と剪定
あ 樹木の伐採(令和3年改正前)→変更(参考)
○共有私道上に生育した樹木は、特段の合意がない限り、共有私道に付合する物(民法第242条本文)であり、これを伐採する行為は、現行法においては、一般に、共有物に変更を加える行為であり、共有者全員の同意が必要であると考えられる(改正前民法第251条)。
い 樹木の伐採・撤去(令和3年改正後)
ア 原則→軽微変更
改正民法の下では、樹木の伐採が私道の通路としての形状又は効用に著しい変更を伴うものではないと考えられる場合には、軽微変更(改正民法第252条第1項)に該当し、共有者の持分の過半数で決することができると考えられる。
イ 美観向上目的→変更
例えば、美観を向上させるため特に植えられているなどの特段の事情がない樹木を伐採することは、当該私道の通路としての形状や効用を著しく変更するものではないため、軽微変更に該当すると考えられる。
う 樹木の剪定→保存方向
なお、樹木が通行の妨げになっている場合には、樹木の剪定は、私道として本来あるべき機能を回復するための保存行為(改正前民法252条ただし書、改正民法252条5項)として、各共有者が行うことができる場合もあり得ると考えられる。
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p165
6 隣接地の樹木の伐採(催告や実行)
私道ではなく、その隣接地にある樹木の枝が私道内に張り出しているケースもあります。対処方法については、令和3年の民法改正で、ルールが変わりました。
以前は樹木の所有者に「枝を切除してくれ」を請求することができるけれど、越境された側(の土地の所有者)が自ら切除することはできないルールでした(判決を取らない限り)。
改正後は、「切除してくれ」と催告をしたのに樹木所有者が応じない場合には自ら切除できるように変わりました。判決を取る必要はなくなったのです。また、樹木所有者の所在が不明という場合も同様です。正確には、この場合には、「切除しますよ」という通知だけすれば足りることになっています。
このように、越境された側(の土地の所有者)として催告や通知、切除を実行することは私道(共有土地)の保存行為に分類されます。つまり、私道共有者の1人がこれらを行うことができます。
隣接地の樹木の伐採(催告や実行)
あ 令和3年改正前→判決必要(参考)
○改正前民法第233条第1項については、越境された土地の所有者は、竹木の所有者に対して枝の切除を請求することができるにとどまり、自ら枝を切除することはできないと解されている。
そのため、隣地の所有者の所在が不明である場合には、隣地の所有者に対し、枝の切除を求める訴訟を提起し、請求認容判決を得た上で、民事執行手続(竹木所有者の費用負担で第三者に切除させる方法による。民事執行法第171条第1項第1号)をとる必要があった。
い 竹木所有者の所在等不明への対応(令和3年改正後)
ア 自ら切除可能
○これに対し、改正民法においては、・・・越境された土地の所有者は、竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、越境した枝を自ら切り取ることができるとされた(改正民法第233条第3項)。
イ 隣接地の竹木切除→保存
④の所有者が所在等不明である場合には、この要件を満たすと考えられるため、改正民法においては、①~③の共有者は、自ら枝の伐採をすることが可能である。
なお、枝の切取りは、共同所有型共有私道の保存行為に当たるから、①~③の共有者がそれぞれ単独で行うことができる(改正民法第252条第5項。)。
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p170
7 民法233条(令和3年改正)の条文規定(参考)
前述の説明の中で出てきた、令和3年改正後の民法233条の条文を紹介しておきます。
民法233条(令和3年改正)の条文規定(参考)
第二百三十三条 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
・・・
3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。
・・・
本記事では、共有私道の舗装や樹木に関する工事(行為)が「変更・管理・保存」のどれに分類されるか、誰が実行できるか、ということを説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有の私道に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。