【区分所有法の「団地」の制度と共有私道での活用(適用)】
1 区分所有法の「団地」の制度と共有私道での活用(適用)
共有となっている私道では、いろいろな工事をするために必要な同意の範囲や、誰が実行できるのか、ということが問題となりやすいです。これについて、私道ガイドラインが整理しています。
詳しくはこちら|共有私道に関する工事などの「変更・管理・保存」の分類のまとめ(私道ガイドライン)
ところで、共有の私道について、区分所有法の「団地」としての「集会」による決議という制度が解決する手段として使えることがあります。マンションではなく戸建て住宅の私道に区分所有法は関係ないと思ってしまいがちですがそうではないのです。本記事では、区分所有法の「団地」の制度と、これを共有私道で活用する方法を説明します。
2 団地建物所有者の団体の規定(条文)
区分所有法では、「団地」という概念があり、「団地」については、複数の建物の所有者が「団体」となるというルールになっています。この団体は集会を開くこと(一定の事項を決議すること)ができます。まずはこのルールを定めている条文を押さえておきます。
要件は、一団地、つまりひとかたまりの土地に、複数の建物が存在し、かつ、団地に含まれる土地(の一部)が複数の建物所有者の共有となっていること(だけ)です。
ここで登場する建物は、区分所有建物である必要はありません。
この要件を満たした場合、複数の建物の所有者は団体(組合)として扱われます。具体的には、共有の土地の変更行為について、集会を開いて、建物所有者の頭数と土地共有持分(議決権)の4分の3以上の賛成で決議できる、ということになります。
団地建物所有者の団体の規定(条文)
あ 区分所有法65条(団地管理組合の構成)
一団地内に数棟の建物があつて、その団地内の土地又は附属施設(これらに関する権利を含む。)がそれらの建物の所有者(専有部分のある建物にあつては、区分所有者)の共有に属する場合には、それらの所有者(以下「団地建物所有者」という。)は、全員で、その団地内の土地、附属施設及び専有部分のある建物の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。
※区分所有法65条
い 区分所有法66条(準用)
・・・第十七条から第十九条まで・・・の規定は、前条の場合について準用する。この場合において、これらの規定・・・中「区分所有者」とあるのは「第六十五条に規定する団地建物所有者」と、・・・第三十八条、第五十三条第一項及び第五十六条中「第十四条に定める」とあるのは「土地等(これらに関する権利を含む。)の持分の」と、・・・読み替えるものとする。
※区分所有法66条
う 区分所有法17条(共用部分の変更)
共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。
※区分所有法17条
3 共有私道への区分所有法の「団地」規定の適用
前述のように、区分所有法の「団地」は、普通の民家(区分所有建物ではない戸建て)にも適用されます。要するに、私道と複数の建物敷地がひとかたまりになっている場合には、一団地といえるので、「団地」にあてはまるのです。その場合は、集まって規約を定めるなどの行為がないとしても、自動的に団体(組合)があることになります。
共有私道への区分所有法の「団地」規定の適用
あ 「一団地」の解釈(前提)
ここでいう「一団地」とは、客観的に一区画をなしていると見られる土地の区域であるとされているところ、共同所有型私道とこれに接する各宅地とは、客観的に一区画をなしていると認められる場合がある。
い 共有私道への「団地」規定の適用
また、その区画内にある建物は、区分所有建物であっても、それ以外の戸建て建物であってもよく、区分所有建物とそれ以外の建物が混在して構成される場合もあるとされており、団地内の私道がそれらの建物の所有者(専有部分のある建物にあっては、区分所有者)の共有に属する共同所有型私道の場合には、区分所有法が適用されることになる。
・・・
区分所有法上の団地に該当する場合には、団地内建物の所有者(区分所有者を含む。以下「団地建物所有者」という。)は、法律上当然に、全員で、その団地内の共有土地等の管理を行うための団体(いわゆる団地管理組合)を構成する。
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p29、30
4 民法の要件を「団地」規定により緩和する手法
私道の共有者(複数の建物所有者)が区分所有法の団地管理組合になっている場合、集会の決議を使えば、共有私道の工事が(軽微ではない)変更行為に分類される場合であっても、頭数と持分割合の4分の3の賛成があれば決議(決定)できることになります。民法上では共有者全員の同意が必要なのに、ハードルが下がるのです。一部の共有者が反対しても可決できるのです。
民法の要件を「団地」規定により緩和する手法
あ 「団地」規定(集会)の活用(基本)
そして、共同所有型私道とこれに接する宅地が一団地をなす場合には、私道の工事につき、集会を開いて決議をする制度を活用することで、円滑な工事の実施につなげることができる。
い 民法の「変更」の意思決定の要件
すなわち、民法によれば、共有物の形状又は効用の著しい変更を伴う変更行為は、共有者の全員の同意によることが必要となる(改正民法第251条第1項)。
う 「団地」の「集会」による意思決定の要件
これに対し、団地管理組合関係のもとでは、土地の形状又は効用の著しい変更を伴う変更行為であっても、団地建物所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決することができる(区分所有法第66条において準用する同法第17条、第18条)。
え 要件緩和の活用
したがって、共同所有型私道とこれに接する宅地が客観的に見て一団地を構成する場合には、私道の工事が民法上は上記の共有物の変更に当たるときであっても、所定の手続を経れば、一定の多数決で施工することが可能となり、私道共有者の一部が所在等不明であるケースや工事に賛成しないケースにも対応することができると考えられる。
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p30、31
5 団地管理組合の集会の手続
以上のように、団地管理組合が成立している状況で、緩和された決議を活用しようとする場合の手続を説明します。
通常、組合を意識すらしていないので、規約や管理者を定めてある、ということはないでしょう。このような状況を前提とすると、ストレートに区分所有法のルールが適用されることになります。
まず、私道の共有者の頭数と持分のそれぞれ5分の1以上で、集会(総会)の招集をします。集会では、私道(共有の土地)の(軽微ではない)変更行為の決議要件は、頭数と土地の共有持分割合のそれぞれ4分の3以上の賛成です。
逆にいえば、頭数でも持分割合でも4分の1に達しない共有者が反対していても押し切れるのです。ただし、決定内容(変更行為の内容)が特定の共有者に特別の影響を及ぼす場合には、その者の承諾が必要となります。つまり押しきれなくなります。
集会(決議)が終わったら、議長が議事録を作成して、保管しておくことになります(区分所有法42条)。
団地管理組合の集会の手続
あ 実情→規約・管理者なし
共同所有型私道を含む団地関係においては、規約が定められていたり、管理者が置かれたりすることはまれであると考えられる。
そこで、以下では、規約も管理者もない団地において、共同所有型私道の共有者の一部が所在等不明であるために、共有物の形状又は効用の著しい変更を伴う変更工事につき、共有者全員の承諾が得られない場合の集会の手続について概説する(以下で引用した区分所有法の規定は、同法第66条において準用されているものである。)。
い 集会の招集
団地建物所有者の5分の1以上で議決権(=私道の持分割合)の5分の1以上を有するものは、集会を招集することができる(第34条第5項)。
集会の招集通知は、会日より少なくとも1週間前に、会議の目的たる事項を示して、各団地建物所有者に発しなければならず(第35条第1項)、会議の目的たる事項が、共有物の形状又は効用の著しい変更を伴うものであるときは、その議案の要領をも通知しなければならない(同条第5項)。
なお、招集通知は、団地建物所有者の所有する建物が所在する場所に宛ててすれば足り、招集通知は、通常それが到達すべき時に到達したものとみなされる(同条第3項)。
う 集会の決議
ア 基本
(ア)集会においては、集会を招集した団地建物所有者の一人が議長となる(第41条)。
(イ)集会においては、招集通知によりあらかじめ通知した事項についてのみ、決議することができる(第37条第1項)。
イ 軽微変更→管理扱い
(ウ)共同所有型私道の軽微変更は、土地の管理に関する事項(第18条第1項)とされ、これに関する集会の議事は、団地建物所有者及び議決権(=私道の持分割合)の各過半数で決する(第39条第1項)。
すなわち、団地建物所有者の頭数の過半数と共有物である私道の持分割合の過半数の両方を満たす必要があり、例えば、団地建物所有者がA、B、C、Dの4名である場合に、私道の持分割合がA、B、Cが各12分の1、Dが4分の3であるときには、A、B及びCの賛成があるだけでは、団地建物所有者の頭数において過半数であるにとどまり、議決権の過半数が得られていないため、決議は成立しない。
ウ (軽微でない)変更→頭数・議決権の4分の3以上
他方、共同所有型私道の形状又は効用の著しい変更を伴う変更行為については、団地建物所有者及び議決権の各4分の3以上の多数により、集会の決議で決する(第17条第1項)。
エ 特別の影響→特定の所有者の承諾必要
これらの場合において、土地の管理・変更が建物の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その建物の所有者の承諾を得なければならない(同条第2項、第18条第3項)。
オ 建物の共有→議決権行使者の指定
(エ)また、団地内にある建物が複数人の共有となっている場合には、共有者のうち一名を議決権を行使する者として定めなければならない(第40条)。
招集通知は、当該議決権行使者に対してすれば足り、議決権行使者が選定されていない場合には、共有者の一人に対してすれば足りる(第35条第2項)。
カ 議決権の代理行使
なお、議決権の行使は、書面又は代理人によることが可能であり、遠方に居住する団地建物所有者は、書面により議題に対する意思表示をすることができ、また、代理人を選任し、代理人による議決権の行使をすることが可能である(第39条第2項)。
キ 大は小を兼ねる方式
(オ)上記のとおり、区分所有法上、団地内の共有土地の変更が、その形状又は効用の著しい変更を伴うものかどうかで決議の要件が異なるが、実務上、共有私道に加える行為が、著しい変更を加えるものかどうかの判断がつきにくいことも少なくない。
そこで、所在等不明者の持分割合が比較的小さく、他の共有者の賛成で4分の3以上の同意を得られることが確実であれば、上記アで説明したとおり、招集通知に議案の要領(共有私道に著しい変更を加えるその内容)を通知し、上記の多数決による決議を行うことも考えられる。
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p31〜33
6 共有物の管理行為と区分所有法の「団地」の関係
以上で説明したように、共有私道の(軽微ではない)変更行為については、区分所有法の団地としての集会の決議を活用すれば、決定の要件を緩和することができました。
この点、共有私道の管理行為(軽微変更を含む)については、民法上の意思決定の要件は持分の過半数(の賛成)で、区分所有法の集会の決議では頭数と持分割合の過半数となります。つまり、区分所有法の方が緩和されていない(むしろ加重されている)という関係になります。
結局、共有私道の管理行為については区分所有法の制度を活用することはないということになります。
本記事では、区分所有法の「団地」の制度と、共有私道に関する各種工事にこれを活用する方法を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有の私道に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。