【持分取得・持分譲渡権限付与の申立書サンプルと説明文書(裁判所公表)】

1 持分取得・持分譲渡権限付与の申立書サンプルと説明文書(裁判所公表)

令和3年の民法改正で、共有者の所在が不明である場合に、その共有持分を取得する(強制的に買い取る)、あるいは第三者に売却する制度ができました。
詳しくはこちら|所在等不明共有者の不動産の共有持分取得手続(令和3年改正)
詳しくはこちら|所在等不明共有者の不動産の共有持分譲渡権限付与手続(令和3年改正)
これらの制度を利用する時は、裁判所に申立書を提出します。この申立書の書式について、裁判所が作成して公表するとともに、申立書の説明も示されています。本記事では、これらを紹介、説明します。

2 共有持分取得の申立書(本体)

まずは、共有持分取得の裁判の申立書を紹介します。最初に、申立書のうち本体部分です。
重要なのは、所在不明共有者(持分を取得される共有者)が所在不明である、という立証です。要するに、その共有者の所在が不明であり、かつ、一定の調査(努力)をしたけど判明しなかったという事情が必要なのです(これだけで済むともいえます)。これは重要なので、申立書の別紙(所有者・共有者の探索等に関する報告書)として作成します。この報告書は、他の手続でも共通して使える書式が用意されています。そのためタイトルに「所有者」も入っているのです。
詳しくはこちら|特定不能・所在不明の内容と証明(調査)方法・調査報告書サンプル
ところで、過去に相続があった(それで共有となった)ケースはとても多いですが、この場合は注意を要します。というのは、持分取得の裁判は、原則として遺産共有の場合には利用できないのです。ただし、相続から10年が経過した場合には利用できます。
そこで、相続から10年以内の場合には、遺産共有ではないことが分かる資料を添付書類として提出します。具体的には、遺産分割協議書遺産分割調停調書や審判書(決定書)です。この点、単独相続であれば遺産共有とならないので、それを示す戸籍の資料や、他の相続人がいたけど相続放棄をした、という資料を提出します(後記※1)。

共有持分取得の申立書(本体)

あ タイトル・日付・作成者

所在等不明共有者持分取得決定申立書
(収入印紙)
令和〇年○月○日
東京地方裁判所 御中
申立人代理人弁護士 ○○○○ ㊞
貼用印紙 円
予納郵券 円

い 当事者

第1 当事者の表示
別紙当事者目録記載のとおり

う 申立の趣旨

第2 申立ての趣旨
申立人は、別紙物件目録記載の不動産の共有持分を取得する
との裁判を求める。

え 不動産

第3 申立てに係る不動産の表示
別紙物件目録記載のとおり(なお、申立人の持分は〇分の〇)

お 共有者

第4 共有物の共有者(申立人を除く)
別紙共有者目録記載のとおり

か 申立の原因

第5 申立ての原因(申立てを理由づける事実の記載※理由ごとに資料番号を付す。)
1 所在等不明共有者の所在等が不明となった経緯及びその探索状況等
(1)所在等不明共有者の所在等が不明となった経緯
・・・
(2)所在等不明共有者の探索状況
別添「所有者・共有者の探索等に関する報告書」のとおり
2 所在等不明共有者の持分が相続財産である場合
□相続開始時は、 年 月 日であり、既に10年が経過している
□年月日、遺産分割協議済みである。
□所在等不明共有者の単独相続である。
□(その他、持分取得を可能とする事情)
3 取得を希望する持分の時価相当額
申立人が取得を希望する持分の時価相当額は○○○万円である。
4 よって、申立ての趣旨記載の裁判を求める。

き 添付書類

添付書類
□委任状(弁護士が代理人となるとき)
□資格証明書(法人の場合)
□登記事項証明書(土地又は建物)
戸籍謄本及び附票(相続財産の場合)
固定資産税評価証明書
□土地(建物)の現況調査報告書又は評価書
不動産鑑定書 簡易鑑定書
□所有者・共有者の探索等に関する報告書
※裁判所ウェブサイト『所在等不明共有者持分取得決定申立書』

3 供託金額を算定するための資料

持分取得の決定が出たら申立人は持分を取得することになりますが、その前提として、取得する持分の価値に相当する金銭を供託することになります。供託金額(持分の評価)は裁判所が判断しますが、その判断材料として、申立人が固定資産税評価証明や簡易鑑定の結果を提出することが要請されています。そこで、前記のサンプルの中に、添付書類として不動産の評価額に関する資料が入っているのです。

供託金額を算定するための資料

なお、第21回会議では、(2)④の供託金の額の算定方法についての指摘があった。
これまでにも議論があったとおり、裁判所は、基本的には、所在不明共有者の持分の時価に相当する額を供託すべき額として定めることになると考えられる。
裁判所においては、事案に応じて、不動産鑑定士の評価書や、固定資産税評価証明書、不動産業者の査定書などの証拠をもとに判断されるものと考えられる・・・
※法制審議会民法・不動産登記法部会第24回会議(令和3年1月12日)『部会資料56』p13

4 共有持分取得の申立書(別紙)

裁判所が公表している持分取得決定の申立書の別紙の部分です。
当事者は、申立人だけです。もともと対立構造ではないのです。たとえば、所在等不明共有者が相手方となる、という構造ではないのです。
ただし、申立書には、(当事者ではなくても)「共有者」全員を明記しておくことが要請されています。具体的には、共有者目録として所在等不明共有者と(いれば)それ以外の共有者を記載します。

共有持分取得の申立書(別紙)

あ 当事者目録

(別紙)
当事者目録
ア 申立人 〒○○○‐○○○○
東京都○○区○○町○丁目○○番○○号
申立人 ○○○○
イ 代理人 〒○○○‐○○○○
東京都○○区○○町○丁目○○番○○号(送達場所)
上記(両名)代理人弁護士 ○○○○
電話番号
FAX番号

い 物件目録

(別紙)
物件目録
ア 土地 (土地の場合)
所在
地番
地目
地積
所在等不明共有者の持分○分の○
イ 建物 (建物の場合)
所在
家屋番号
種類
構造
床面積
所在等不明共有者の持分○分の○

う 共有者目録

(別紙)
共有者目録
ア 所在等不明共有者 住居所不明
(最後の住所)東京都○○区○○町○丁目○○番○○号
所在等不明共有者 ○○○○
イ 他の共有者 〒○○○‐○○○○
東京都○○区○○町○丁目○○番○○号
共有者 ○○○○
〒○○○‐○○○○
○○県○○市○○町○○番○○号
共有者 ○○○○
※裁判所ウェブサイト『所在等不明共有者持分取得決定申立書』

5 共有持分取得の申立の説明文書

所在等不明共有者の持分取得の申立書について、これを作成した裁判所が、補足説明も公表しています。
申立書の提出先(管轄)や印紙や添付書類など、事務的なことも含めて説明がなされています。

共有持分取得の申立の説明文書(※1)

所在等不明共有者持分取得申立てについて
この手続は、共有状態にある土地や建物といった不動産について、共有者が、他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合に、裁判所に対し、当該所在等不明共有者の持分を申立人に取得させる旨の裁判を求める手続です。
また、申立人は、同手続の中で裁判所が所在等不明共有者の持分の時価相当額を考慮して定める金額を供託することになり、所在等不明共有者は、その供託された金額の還付を請求することができるため、申立人においては、持分価格に関する資料の提出と供託書原本の保管が必要となります。
なお、所在等不明共有者の持分が共同相続人間で遺産分割をすべき相続財産に属する場合には、相続開始から10年以上経過していることが必要です(民法262条の2第3項)。
1 申立人
対象となる共有不動産について持分を有する共有者(民法262条の2第1項)
2 申立先
対象となる不動産の所在地を管轄する地方裁判所(非訟法87条1項)
3 費用
申立手数料として 印紙1000円(×申立ての対象となる持分の数×申立人の数)
予納金 7134円~(官報公告費用。共有物の数等申立ての内容により変わりますので、詳しくは申立て後に、担当より連絡します。)
郵便切手 6000円分
内訳 500円×8枚、100円×10枚、84円×5枚、50円×4枚、20円×10枚、10円×10枚、5円×10枚、2円×10枚、1円×10枚※ただし、共有者等が1名増えるごとに+2178円(500円×4枚、84円×2枚、5円×2枚)追加する。
4 添付書類
□弁護士が代理人となるときはその委任状
□申立人又は共有者が法人(会社など)の場合は全部事項証明書又は資格証明書
□不動産の登記事項証明書(共有・管理非訟規則6条)
□所在等不明共有者の持分が相続財産である場合は、戸籍謄本又は附票や家事調停・遺産分割協議等の資料の写し
□対象不動産の不動産鑑定書や簡易鑑定書、固定資産税評価証明書
所有者・共有者の探索等に関する報告書
□共有者の所在等が不明であることを裏付ける関係資料の写し(住民票、戸籍謄本、返却された郵便物、捜索願、他の共有者から聴取した書面等)
□申立てを理由づける事実についての証拠書類の写し(非訟規則37条3項)
※裁判所ウェブサイト『所在等不明共有者持分取得申立てについて』

6 共有持分譲渡権限付与の申立書(本体)

以上で説明した制度とは別に、所在等不明共有者の持分を第三者に売却する、という方法をとることができる制度があります。具体的には、共有者全員で所有権全体として第三者に売却するために、裁判所が、所在等不明共有者の持分を譲渡(売却)する権限を付与するというものです。
申立書は、前記の制度のものと似ています。
違うのは、申立の趣旨、つまり裁判所に出してもらう決定の内容が、特定の者に対して持分を譲渡する権限を付与する、というところです。ここで売却(譲渡)する相手は申立書の中で特定(記載)する必要はありません。「特定の者」という記述をしますが、その中身は記載しないでよいのです。
相続によって共有となった場合には、遺産共有ではないことを示すことが必要です。これは前記の持分取得の申立(書)と同じです。
また、決定が出たら申立人は持分を譲渡する権限を取得することになりますが、その前提として、当該不動産の価値のうち被告の持分割合相当額を供託することになります。供託金額(持分の評価)は裁判所が判断しますが、その判断材料として、申立人が固定資産税評価証明や簡易鑑定の結果を提出することが要請されています。

共有持分譲渡権限付与の申立書(本体)

あ タイトル・日付・作成者

所在等不明共有者持分譲渡権限付与決定申立書
(収入印紙)
令和〇年○月○日
東京地方裁判所 御中
申立人代理人弁護士 ○○○○ ㊞
貼用印紙 円
予納郵券 円

い 当事者

第1 当事者の表示
別紙当事者目録記載のとおり

う 申立の趣旨

第2 申立ての趣旨
申立人に、本裁判確定後2か月以内に、所在等不明共有者以外の共有者全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として、別紙物件目録記載の不動産の共有持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する
との裁判を求める。

え 不動産

第3 申立てに係る不動産の表示
別紙物件目録記載のとおり(なお、申立人の持分は〇分の〇)

お 共有者

第4 共有物の共有者(申立人を除く。)
別紙共有者目録記載のとおり

か 申立の原因

第5 申立ての原因(申立てを理由づける事実の記載※理由ごとに資料番号を付す。)
1 所在等不明共有者の所在等が不明となった経緯及びその探索状況等
(1)所在等不明共有者の所在等が不明となった経緯
・・・
(2)所在等不明共有者の探索状況等
別添「所有者・共有者の探索等に関する報告書」のとおり
2 所在等不明共有者の持分が相続財産である場合
□相続開始時は、 年 月 日であり、既に10年を経過している。
□年月日、遺産分割協議済みである。
□所在等不明共有者の単独相続である。
□(その他、持分取得を可能とする事情)
3 譲渡を予定する不動産全体の時価相当額
別紙物件目録記載の不動産全体の時価相当額は○○円であるところ、所在等不明共有者の共有持分の割合に応じて案分した金額は○○万円である。
4 よって、申立ての趣旨記載の裁判を求める。

き 添付書類

添付書類
□委任状(弁護士が代理人となるとき)
□資格証明書(法人の場合)
□登記事項証明書(土地又は建物)
□戸籍謄本及び附票(相続財産の場合)
□固定資産税評価証明書
□土地(建物)の現況調査報告書又は評価書
不動産鑑定書 簡易鑑定書
所有者・共有者の探索等に関する報告書
※裁判所ウェブサイト『所在等不明共有者持分譲渡権限付与決定申立書』

7 共有持分譲渡権限付与の申立書(別紙)

裁判所が公表している持分譲渡権限付与の申立書の別紙の部分です。前記の制度と同じように、対立構造ではありません。つまり、当事者共有者だけであって、他の共有者は(当事者ではなく)「共有者」として(共有者目録に)記載します。

共有持分譲渡権限付与の申立書(別紙)

あ 当事者目録

(別紙)
当事者目録
ア 申立人 〒○○○‐○○○○
東京都○○区○○町○丁目○○番○○号
申立人 ○○○○
イ 代理人 〒○○○‐○○○○
東京都○○区○○町○丁目○○番○○号(送達場所)
上記代理人弁護士 ○○○○
電話番号
FAX番号

い 物件目録

(別紙)
物件目録
ア 土地 (土地の場合)
所在
地番
地目
地積
所在等不明共有者の持分 ○分の○
イ 建物 (建物の場合)
所在
家屋番号
種類
構造
床面積
所在等不明共有者の持分 ○分の○

う 共有者目録

(別紙)
共有者目録
ア 所在等不明共有者 住居所不明
(最後の住所)東京都○○区○○町○丁目○○番○○号
所在等不明共有者 ○○○○
イ 他の共有者 〒○○○‐○○○○
東京都○○区○○町○丁目○○番○○号
共有者 ○○○○
〒○○○‐○○○○
○○県○○市○○町○○番○○号
共有者 ○○○○
※裁判所ウェブサイト『所在等不明共有者持分譲渡権限付与決定申立書』

8 共有持分譲渡権限付与の申立の説明文書

持分譲渡権限付与の申立書について、これを作成した裁判所が、補足説明も公表しています。
申立書の提出先(管轄)や印紙や添付書類など、事務的なことも含めて説明がなされています。

共有持分譲渡権限付与の申立の説明文書

所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申立てについて
この手続は、共有状態にある土地や建物といった不動産について、共有者が、他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合に、裁判所に対し、所在等不明共有者以外の共有者全員が第三者に対して持分全部を譲渡することを条件に、所在等不明共有者の持分を当該第三者に譲渡する権限を申立人に与える旨の裁判を求める手続です。
また、申立人は、同手続の中で、裁判所が不動産全体の時価相当額及び所在等不明共有者の持分の割合等を考慮して定める金額を供託することになり、所在等不明共有者は、その供託された金額の支払を請求することができるため、申立人においては、不動産価格に関する資料の提出と供託書原本の保管が必要となります。
なお、所在等不明共有者の持分が共同相続人間で遺産分割をすべき相続財産に属する場合には、相続開始から10年以上経過していることが必要です(民法262条の3第2項)。
1 申立人
対象となる共有不動産について持分を有する共有者(民法262条の3第1項)
2 申立先
対象となる不動産の所在地を管轄する地方裁判所(非訟法88条1項)
3 費用
申立手数料として 印紙1000円(×申立ての対象となる持分の数)
予納金 7134円~(官報公告費用。共有物の数等申立ての内容により変わりますので、詳しくは申立て後に、担当より連絡します。)
郵便切手 6000円分
内訳 500円×8枚、100円×10枚、84円×5枚、50円×4枚、20円×10枚、10円×10枚、5円×10枚、2円×10枚、1円×10枚※ただし、共有者等が1名増えるごとに+2178円(500円×4枚、84円×2枚、5円×2枚)追加する。
4 添付書類
□弁護士が代理人となるときはその委任状
□申立人又は共有者が法人(会社など)の場合は全部事項証明書又は資格証明書
□不動産の登記事項証明書(共有・管理非訟規則6条)
所在等不明共有者の持分が相続財産である場合は、戸籍謄本又は附票や家事調停・遺産分割協議等の資料の写し
□対象不動産の不動産鑑定書や簡易鑑定書、固定資産税評価証明書
所有者・共有者の探索等に関する報告書
共有者の所在等が不明であることを裏付ける関係資料の写し(住民票、戸籍謄本、返却された郵便物、捜索願、他の共有者から聴取した書面等)
□申立てを理由づける事実についての証拠書類の写し(非訟規則37条3項)
※裁判所ウェブサイト『所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申立てについて』

本記事では、共有不動産の持分取得・持分譲渡権限付与の申立書として裁判所が公表しているサンプルを説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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【共有物を使用する共有者の善管注意義務(民法249条3項)】

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