【共有持分の過半数の決定による共有物の長期賃貸借の効力】

1 共有持分の過半数の決定による共有物の長期賃貸借の効力

令和3年の民法改正で、共有物の賃貸借契約の締結が管理行為に分類される(過半数の持分で決定できる)期間の上限が明記されました。従前の実務の基準が明文化されたといえます。この上限を超える期間の賃貸借(長期賃貸借)は原則として、変更行為に分類され、共有者全員の賛成が必要です。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類
では、この共有持分の過半数の決定(多数決)だけで、長期賃貸借の契約を締結してしまった場合はどのようなことになるのでしょうか。本記事では、このことを説明します。

2 上限期間を超過した賃貸借契約の効力→「無効」

法改正の議論の中では、多数決で上限期間を超えた期間の契約があった場合に、上限期間の範囲内(多数決で決めることができる範囲内)では有効という案もありました。これは、民法602条(処分権限のない者による賃貸借)で採用されているルールと同じものです。
しかし、最終的に、共有の規定(民法252条4項)では、このルールは採用されませんでした。つまり、上限を超えた期間の契約があった場合は、契約全体として「有効ではない」、つまり、「無効」である、ということになります(という趣旨の説明がなされていました)。

上限期間を超過した賃貸借契約の効力→「無効」

なお、部会資料27の本文2(1)④は、後段で、「契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は当該各号に定める期間とする。」としていたが、これでは、持分の価格の過半数を有する土地の共有者が、存続期間を30年と定めて建物の所有を目的とする土地の賃貸借をした場合であっても、5年間を限度に建物所有目的の土地賃貸借が有効に成立するかのように読めてしまい、混乱が生ずることになる。
そこで、本資料では、後段を削除している。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料40』p4

3 占有権原の適法性と債権契約の有効性の区別(部会資料)

前述の説明は、実は少し不正確です。確かに、占有権原は(上限期間の範囲内だけでも)生じません。ただし、上限期間を超えた契約も、(債権)契約としては有効です。具体的には、履行できないことにより債務不履行責任が生じます。令和3年改正の議論の中でこのような指摘がありました。

占有権原の適法性と債権契約の有効性の区別(部会資料)

あ 具体例(前提)

そこで、例を挙げて検討すると、A、B及びCが各3分の1の持分で土地を共有している場合に、建物を所有する目的でYに対し当該土地を賃貸することについて、A及びBは賛成したのに対し、Cが異議を述べた場合には、借地権の設定をすることができないことになる。

い 「契約」の有効性

他方で、A及びBとYとの間では賃貸借契約が有効に成立しているが、Cが引渡しを拒絶すれば、当該契約は履行不能(債務不履行)となり、Yは基本的に賃貸借契約を解除することができるものとも考えられる。
また、借地権を設定することができないことによってYに損害が生じた場合には、YはA及びBに対して損害賠償を求めることができることになると考えられる(民法第415条(注・債務不履行責任・契約責任))。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料40』p5

4 占有権原の適法性と債権契約の有効性の区別(荒井氏指摘)

荒井氏も以上と同様のことを指摘しています。物権法上の効果(債権)契約の有効性は別である、契約の方は他人物賃貸借と同じである、という指摘です。
いずれにしても、結論としては、賃借人は明渡請求を受けた(占有・入居できない)場合、賃借人は賃貸人に対して損害賠償請求ができる、ということになります。

占有権原の適法性と債権契約の有効性の区別(荒井氏指摘)

本文の説明は、引用した部会資料40・4頁による説明ですが、契約が無効になるというのは正確ではなく、借家権の設定という物権法上の効果が認められず契約自体は他人物賃貸の場合と同様に有効と解すべきです(中田・契約391頁は、目的物が賃貸人に属しないことは、原則として賃借人の錯誤取消し(民法95条)を生じさせず、この場合、賃貸人は賃借人に他人の物の賃貸借に対し、目的物を引き渡し、使用収益させる義務を負うとします。部会資料40・5頁でも借地権に関して、これに近い説明がなされています。)。
※荒井達也著『Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響』日本加除出版2021年p70

5 共有者からの使用承諾として占有できる可能性(概要)

ところで、賃貸借に賛成(関与)していない共有者Cとの関係では、賃貸借契約はない(無効である)ことになったとしたら、占有者(賃借人)Yは退去しなければならないのでしょうか。この場合、「賃貸借」ではなく「共有者A・Bから使用承諾を受けた」ことにより、A・Bによる占有と同視されるので退去しなくてもよい(Cによる明渡請求は認められない)と考えられます。「賃貸借」が「使用承諾」を包含する、という理論のことです。
詳しくはこちら|共有者から使用承諾を受けて占有する第三者に対する明渡請求

6 過半数持分で変更分類の賃貸借をした者の刑事責任(参考)

以上で説明したのは民事上の扱いですが、刑事責任についても考えてみましょう。
まず一般論として、共有者が共有物全体を売却することは「他人の物」の領得行為として横領罪が成立することがあります。これは「所有者(共有者全員)でなければできない処分」なので、領得行為(「横領」)にあたるのです。
ここで、変更分類の賃貸借も「所有者(共有者全員)でなければできない(行為)」にあたります。一般論として、売却だけでなく賃貸借などの貸与も領得行為に含まれると解釈されています。そうすると横領罪が成立するように思えます。
しかし、もともと使用承諾として「貸す」ことは共有者の1人でもできる行為といえます。また、賃貸借をした意図が、賃料を共有者で分配する、というものであれば、共有者全員の利益を図る目的であったといえます。
この2点により、領得行為にはあたらないことになると思います。
ただし、仮に賃借権設定登記をしてしまったケースでは、結果的に変更分類であったのならば、不実の登記をしたことになります。形式的には公正証書原本不実記載等罪にあたる、という問題が出てきます。

過半数持分で変更分類の賃貸借をした者の刑事責任(参考)

あ 設例

建物甲がABCの共有となっている
A・Bの持分割合は合計60%、Cの持分割合は40%である
A・BがYとの間で建物甲を対象とする賃貸借契約を締結した
A・Bは賃料収入(利益)のうち40%をCに支払う予定であった
この賃貸借契約締結は共有物の変更に分類されるものであった

い 横領罪の検討

ア 発想→横領罪成立 A・Bにとって、建物甲は(刑法252条の)「他人の物」といえる
詳しくはこちら|共有者による共有物全体の売却(処分)と横領罪
当該賃貸借契約締結は「所有者でなければできない行為」である
第三者への貸与(賃貸借)もこれに該当する
詳しくはこちら|横領罪の基本(条文と占有・他人性の解釈・判断基準)
A・Bの行為は横領罪にあたる
イ 「所有者でなければできない行為」→否定(横領罪否定)方向 少なくともYの占有は「A・Bの承諾を得た占有」として保護される
「建物甲をYに使用・収益させること」はA・B(共有者の一部)だけでもできる行為である
「所有者でなければできない行為」ではない
ウ 共有者全員の利益の目的→肯定(横領罪否定)方向 Aは賃料を共有者全員(ABC)で分配する予定であった
「本人(C)の利益を図る」目的もあった(賃料収入をA・Bが独占する意図はなかった)
領得行為(横領)にはあたらない

う 公正証書原本不実記載等罪の検討(概要)

A・B(とY)が賃借権設定登記をした(できた)場合
「賃借権」は実体上存在しないので、不実の登記ということになる
公正証書原本不実記載等罪が成立する
詳しくはこちら|共有不動産への賃借権設定登記申請の当事者(令和5年通達)

7 共有物の変更・管理・保存の分類ミスにより発生する責任(概要)

以上で説明したことは、共有物の「変更・管理・保存」の分類の判断ミスの1つです。一般的に分類の判断ミスの場合にどのような法的責任が発生するか、ということは別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存の分類ミスにより発生する責任

本記事では、管理行為に分類される賃貸借の上限期間を超える契約の効力について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産(共有物)の賃貸借に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【共有物を使用する共有者の善管注意義務(民法249条3項)】
【共有物の賃貸借の更新(合意更新)の変更行為・管理行為の分類】

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