【共有私道へのライフライン設置のための供給事業者の利用権設定の変更・管理分類】
1 共有私道へのライフライン設置のための供給事業者の利用権設定の変更・管理分類
共有の私道には、下水やガスの配管を設置する工事や電柱(電線)といったライフラインを設置することがよくありますが、そのためには、供給事業者に対して利用権を設定する契約が必要です。この契約は共有物の変更(処分)、管理(狭義)のどちらなのか、という問題があります。結論としては通常、管理に分類され、共有持分の過半数の賛成で足りるのですが、解釈は少し複雑です。本記事ではこれについて説明します。
2 令和3年改正による利用権設定の分類の明文化(概要)
令和3年の民法改正で、共有物に、賃貸借を含む利用権を設定する契約が変更(処分)、管理(狭義)のいずれに分類されるか、ということが条文(民法252条4項)に明記されました。契約期間によって、長期と短期に区別し、それぞれ変更、管理行為に分類する、というものです。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類
そこで、私道へのライフライン設置のための利用権設定も、この条文のルールで判別できるように思えますが、そうなりませんので注意を要します。以下、順に説明します。
3 電柱設置のための賃貸借→一律管理分類
以下で説明する解釈は私道ガイドラインとして示されているものです。私道ガイドラインは、法務省と国土交通省が中心となってとりまとめたものですので、公的な性格の強いものです。実際に個別的な事案で裁判所がこの解釈を採用する可能性は高いと思います。
最初に紹介するのは、共有の私道に電柱を設置するという状況です。法的には、共有者が電力会社に対して土地を利用する権利を設定する(与える)契約を締結します。この契約は賃貸借(賃借権の設定)にあたるけれど、民法252条4項は適用されない、という見解が示されています。
ここで民法252条4項の文言は、「共有物に、・・・賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利・・・を設定する」となっています。私道ガイドラインは「条文上は(文言としては)限定がついていないけれど、解釈として共有者による使用を排除する権利に限定する」と解釈していると読み取れます。
このように、民法252条4項が適用されないことを前提として、電柱設置は私道(共有物)の機能への変更(影響)が生じないことを理由として、管理に分類されるという説明になっています。
電柱設置のための賃貸借→一律管理分類
あ 利用権の種類→賃借権(賃貸借)
一般送配電事業者が私道上に新たに電柱を新設する場合、一般に、私道の所有者との間で電柱を設置するために土地を利用する権利を設定する契約を締結している。
設定される利用権の法的性質は、一般的には賃借権であるが、その期間は、一般に、数十年にわたる長期間の利用も可能とされている。
い 民法252条4項→適用なし
なお、このような通路の一部のみについて利用権を設定する契約は、共有者による土地の使用を排除するものではないため、改正民法第252条第4項の賃借権等の設定には当たらないと解される。
う 結論→管理分類
本事例において、私道の共有者が、一般送配電事業者との間で利用権設定契約を締結し、同事業者に電柱の新設工事を行わせることは、私道の状態を物理的に変更するものの、一般的に、私道の機能についての変更は生じないことからすると、利用権設定契約を締結して私道に電柱を設置する行為は、共有物の管理に関する事項に当たり、共有者の持分の過半数で決する(改正前民法第252条本文、改正民法第252条第1項)。
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p145
4 下水管設置のための地下の利用権設定→一律管理分類
次は、共有の私道の地下に下水管を設置する状況です。法的には、共有者が自治体などに対して地下を利用する権利を設定する(与える)契約を締結します。この利用権は土地を排他的に利用するものではないので、賃貸借にはあたりません。
ここで、民法252条4項の条文上、賃貸借の例示はありますが、「共有物の使用及び収益を目的とする権利の設定」を対象としています。ただし前述のように、「共有者による使用を排除する権利に限定する」という解釈を採用すると、地下への下水管設置のための利用権はこれに該当しない結論となります。
私道ガイドラインでは、下水管設置のための地下の利用権設定について、民法252条4項が適用されないことを前提として、私道(共有物)の機能への変更(影響)が生じないことと、共有者が下水管を使用することを理由として、管理に分類されると説明されています。
下水管設置のための地下の利用権設定→一律管理分類
あ 利用権→非定型
市町村等が私道の地下に公共下水管を設置する際には、一般に、私道の所有者との間で、公共下水管を設置するために地下を利用する権利を設定する契約を締結している。
設定される利用権の法的性質は一様ではないようであるが、一般にこのような利用権を設定する際には、契約期間は定まっていないものの、数十年にわたる長期間の利用が予定されている。
い 民法252条4項→適用なし
なお、このような地下の一部のみについて利用権を設定する契約は、共有者による土地の使用を排除するものではないため、改正民法第252条第4項の賃借権等の設定には当たらないと解される。
う 結論→管理分類
もっとも、公共下水管を私道の地下に設置した場合には、私道の地下の状態は物理的に変更されるものの、一般的に、私道の機能についての変更は生じないことや、私道共有者自身も公共下水管を使用することからすると、利用権を設定する契約を締結して私道の地下に公共下水管を設置する行為は、共有物の管理に関する事項に当たり、共有者の持分の過半数で決する(改正前民法第252条本文、改正民法第252条第1項)。
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p134、135
5 ガス管設置のための地下の利用権設定→一律管理分類
最後に、共有の私道の地下にガス管を設定する状況です。法的には、共有者がガス会社に対して地下を利用する権利を設定する(与える)契約を締結します。私道ガイドラインの説明は、前述の下水管設置のための利用権設定と同じです。つまり、利用権は賃借権ではなく、民法252条4項は適用されず、利用権設定は管理分類になる、という説明がなされています。
ガス管設置のための地下の利用権設定→一律管理分類
あ 利用権の種類→非定型
一般ガス導管事業者が私道の地下に同事業者の所有するガス管を設置する際には、私道の所有者との間で、ガス管を設置するために地下を利用する権利を設定する契約を締結している。
その設定される利用権の法的性質は一様ではないようであるが、一般にこのような利用権を設定する場合、数十年にもわたる長期間の利用も可能とされている。
い 民法252条4項→適用なし
なお、このような地下の一部のみについて利用権を設定する契約は、共有者による土地の使用を排除するものではないため、改正民法第252条第4項の賃借権等の設定には当たらないと解される。
う 結論→管理分類
ガス管を私道の地下に設置した場合には、私道の地下の状態は物理的に変更されるものの、一般的に、私道の機能についての変更は生じないことや、私道共有者自身もガス管を使用することからすると、利用権を設定する契約を締結して私道の地下にガス管を設置する行為は、共有物の管理に関する事項に当たり、共有者の持分の過半数で決する(改正前民法第252条本文、改正民法第252条第1項)。
※『複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~第2版』共有私道の保存・管理等に関する事例研究会2022年p140
本記事では、共有物(共有の私道)へのライフライン設置のための利用権設定の扱いを説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的扱いや最適な対応が違ってきます。
実際に共有不動産の賃貸借に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。