【共有物の変更・管理・保存の分類ミスにより発生する責任】

1 共有物の変更・管理・保存の分類ミスにより発生する責任

共有物を使う・活用することは、具体的な内容ごとに、変更(処分)・管理(狭義)(軽微変更を含む)・保存行為の3つに分類され、一応、判断基準があります。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類
しかし、例外が多い、つまり、個別的事情によって判断基準が変わってくる、という傾向が強いです。そこで、実際の事案で明確に判断できない、判断ミスが生じる、ということもあり得ます。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存の分類(判定)の個別性・困難性(リスク)と対策
では、分類の判断を間違えた場合、どうなるのでしょうか。本記事では、分類の判断ミスによって発生する法的な責任を説明します。

2 分類の判断ミスによる責任(法的効果)の整理

分類の判断ミスによってどのような法的責任が発生するのは、決定要件を満たさないのに実行してしまった、という場合です。具体的には、変更なのに、持分の過半数で決定(または共有者単独で決定)した、または、管理なのに共有者単独で決定した、その上で実行した、というものです。
いろいろなケースがありますが、物理的な変更第三者への利用権設定の2つに分けて、以下順に説明します。
まず、物理的な変更を生じさせた、というパターンです。軽微変更だと思って持分過半数で決定したら、後から軽微ではない変更である、と裁判所が判断したような状況です。
この場合には、判例で、(原則として)原状回復請求も含めた物権的請求権が認められることになります。
また、理論的には建造物損壊罪や器物損壊罪が成立することもあり得ます。

違法な物理的な変更の責任→原状回復・損害賠償

あ 事案(前提となる状況)

共有者全員ABCの同意がないのに、共有者(の一部)Aが変更に分類される行為(工事)をしてしまった
持分の過半数の同意がないのに、軽微変更に分類される行為(工事)をしてしまった)

い 法的責任(民事)→原状回復・損害賠償

他の共有者BCは共有持分権に基づく物権的請求権(原状回復・損害賠償)を行使することができる
※最判平成10年3月24日(原状回復請求を認めた)
詳しくはこちら|共有物を使用する共有者に対する明渡・原状回復請求(特殊事情のあるケース)

う 法的責任(刑事)→損壊罪

建造物損壊罪または器物損壊罪が成立する可能性がある
民法260条の「他人の」に該当しないとしても、刑法262条の「物権を負担」にはあたると思われる
詳しくはこちら|建造物損壊罪・器物損壊罪における「他人」性
法的判断(評価)の誤解については故意阻却にならない

3 第三者への利用権設定が無効となった場合の「利用権」の扱い

もうひとつのパターンは、第三者(D)に利用権(賃借権や地役権など)を設定したケースで、当初、管理だと思って共有者ABCのうちABだけで決定、実行したら、後から裁判所が変更であると判断したというような状況です。
たとえば賃借権としては発生していないことになります。では、Dは占有権原がない(退去しなくてはならない)かというとそうではありません。共有者の一部から使用承諾を受けた状況ではあるので、この使用承諾という占有権原は認められます。結果的に退去しなくてよい状況になるはずです。
では、賃借権が存在するのと同じかというと、そうではありません。違いは3点あります。まず、反対共有者C(が先に占有している場合に)(当然には)DはCに対して引渡(明渡)を請求できません(共有者間の明渡請求と同じ扱いです)。
次に、共有者自身の使用とみなされている状態なので、共有持分の過半数で否定されることになります(賃借権であれば賃貸人サイドの気が変わっただけで消滅させられません)。
最後に、対抗力がないところです。建物の賃借権であれば入居だけで(もちろん登記をした場合も)第三者対抗力を獲得しますが、共有者による使用承諾では第三者対抗力を持ちようがありません。

第三者への利用権設定が無効となった場合の「利用権」の扱い

あ 事案

建物の共有者はABC(持分各3分の1)である
ABがDとの間で賃貸借契約を締結した
この賃貸借契約締結は変更分類であった(と判断された)

い Dの立場→別の種類の利用権はある

ア 「共有者全体」に及ぶ利用権→否定 変更分類なので、共有者全員の同意がなければ、利用権設定の効果は「共有者全体」には及ばない
仮に、短期賃貸借であったため、形式的に管理分類として賃借権設定登記がなされた場合にも、無効となる(抹消登記手続請求が認められる)
イ 共有者の一部による使用承諾(利用権)→肯定 共有者の一部ABから利用を承諾された状態になる
ABとDの間の賃貸借契約(債権契約)は存在する(この賃貸借(賃借権)は「共有者全体」には及ばない)
結論として、第三者Dに、利用する権利(占有権原)はある
詳しくはこちら|共有者から使用承諾を受けて占有する第三者に対する明渡請求

う Dの立場→本来の利用権より劣る

次の3点で本来の利用権よりも劣る
・反対共有者に対する引渡請求ができない(後記※1
共有持分の過半数の決定で否定される(特別の影響、による保護もない)
・第三者(所有権全体の譲受人・共有物分割による新所有者)への対抗力を持ち得ない

4 違法な第三者への利用権設定の責任→損害賠償・償還義務

前述のように、Dは本来の利用権は獲得しないけど、別の(弱めの)利用権は獲得した状態になっています。つまり、Dが得る権利は本来の権利よりも弱いので、損害が生じているものとして、DはAB(賃貸人となった共有者)に対して債務不履行または不法行為による損害賠償請求をすることができる可能性があります。
ただし、分類の判断ミスはABとDの両方の判断だといえるので、過失相殺がなされるはずです。
一方、C(賃貸借に反対していた共有者)は、ABに対して償還請求ができることになります(それだけにとどまります)。

違法な第三者への利用権設定の責任→損害賠償・償還義務

あ ABとDの関係→損害賠償

Dとしては、本来の状態よりも弱い権利しか取得できていない
DはABに対して損害賠償請求をすることができる(後記※1
ただし、Dが法的判断を誤ったことにも起因するので過失相殺はありえる

い Cの立場→ABに対する償還請求

建物をABが使用しているとみなされる
→CはABに対して持分を超える使用について償還を請求することができる
詳しくはこちら|単独で使用する共有者に対する償還請求(民法249条2項)

5 令和3年改正の議論における持分過半数による借地権設定の効果

以上で説明した内容は、令和3年改正の議論の中にも登場しています。共有者全員の同意が必要な借地権設定を、持分の過半数で決定して実行(契約締結)をしてしまった、という設例です。
反対共有者が(先に占有していて)引渡を拒絶できて、そうなると「賃貸人」(賛成共有者)は債務不履行責任を負う、という説明がなされています。

令和3年改正の議論における持分過半数による借地権設定の効果(※1)

あ 借地権設定→効果発生否定

そこで、例を挙げて検討すると、A、B及びCが各3分の1の持分で土地を共有している場合に、建物を所有する目的でYに対し当該土地を賃貸することについて、A及びBは賛成したのに対し、Cが異議を述べた場合には、借地権の設定をすることができないことになる。

い 反対共有者による引渡拒絶OK

他方で、A及びBとYとの間では賃貸借契約が有効に成立しているが、Cが引渡しを拒絶すれば、当該契約は履行不能(債務不履行)となり、Yは基本的に賃貸借契約を解除することができるものとも考えられる。

う 債務不履行責任発生

また、借地権を設定することができないことによってYに損害が生じた場合には、YはA及びBに対して損害賠償を求めることができることになると考えられる(民法第415条)。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料40』p5

持分の過半数で長期賃貸借(共有者全員の同意が必要)をしてしまった場合の扱いについては、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有持分の過半数の決定による共有物の長期賃貸借の効力

6 共有物全体の処分(売却)が不適法である場合(参考)

共有物全体の売却などの「処分」は、所有権(共有者全員の共有持分権)の帰属に変動が生じますので当然、共有者全員が共同して行う必要があります。
この点、共有者Aが共有物全体の売却してしまうと、原則として、売主Aが有する共有持分だけが移転することになります。残りの部分は他人物売買ということになります。
また、Aが買主に共有物の使用を承諾したという扱いになります。
詳しくはこちら|共有不動産への抵当権(担保物権)設定の分類と共有者単独での抵当権設定の効果

本記事では、共有物の「変更・管理・保存」の分類ミスによって発生する法的責任について説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産(共有物)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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