【共有物の賃貸借契約締結の変更・管理の分類における個別事情の影響】
1 共有物の賃貸借契約締結の変更・管理の分類における個別事情の影響
不動産の経済的な活用は、主に、所有者自身が使用するか、第三者に賃貸して所有者は賃料を得る(収益不動産)のどちらかです。ここで不動産が共有である場合、賃貸借契約を締結することは共有物の変更(処分)、管理(狭義)のどちらに分類されるか、という問題があります。これについてはある程度類型的な判断基準ができていますが、類型だけでは判断できない、つまり、個別的事情によって分類が変わってくることが多いです。
本記事では、判断基準の類型以外で、分類に影響する事情とはどんなものがあるか、ということを説明します。
2 共有物の賃貸借契約締結の類型的(原則的)な分類(概要)
前述のように、共有物を対象とする賃貸借契約については、条文の規定や判例の蓄積により一定の基準があります(類型化が進んでいます)。
「類型」の1つ目は期間による判別です。期間が一定の基準(民法252条4項)よりも短ければ管理、長ければ変更(処分)となります。
「類型」の2つ目は借地借家法の適用の有無です。短い期間(管理分類)であっても、借地借家法の適用ありの場合は変更分類になります。
これ以外に、長い期間(変更分類)であっても、建物が収益用に建築されたような場合は管理分類となる傾向があります。ここまでが類型的(基本的・原則的)な分類です。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類
3 「変更・管理・保存」分類の個別性(概要)
以上のように「賃貸借契約締結」についての主要な「類型」、つまり判断要素は2つ(収益用不動産のケースもカウントすると3つ)だけです。
実際の「賃貸借契約」で、賃貸人への影響(拘束力)が変わる要素は以上の2(3)つ以外にもいろいろなものがあります。2(3)つの要素だけで分類(判定)するのは無理があるのです。
類型化には限界があるということは、賃貸借契約締結に限りません。共有物の利用、活用に関する意思決定の分類全般に関して、個別性が強い(個別的事情が反映されることが多い)傾向があります。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存の分類(判定)の個別性・困難性(リスク)と対策
4 再契約保証型定期借家における再契約要件
前述のように、類型的な分類の要素として、借地借家法の適用の有無(正確には法定更新の適用の有無)があります。法定更新が適用される場合、正当事由が満たされない限り、賃貸人の都合で契約を終了させることはできません。正当事由が認められるハードルはとても高いので、実際にはほぼ確実に更新される、つまり契約が終了しない(明渡が実現しない状態が続く)ことになります。そこで、法定更新が適用される賃貸借は共有者への負担が大きい、ので、管理ではなく変更分類とする、ということになっているのです。
この点、再契約保証型定期借家の方式を用いると、再契約する条件(要件)を自由に設定できます。
詳しくはこちら|定期借家契約における再契約予約方式(再契約保証型)
形式的な期間が短くても、ほぼ確実に再契約になるような設定もできますし、逆に、再契約になる方が難しい、という設定も可能です。
再契約がほぼ確実であれば、共有者への負担は法定更新の適用がある場合と同じような大きさといえます。
別の言い方をすると、再契約保証型定期借家の方式では、共有者の負担について、法定更新の適用のあり、なしの中間のどこにでも自由に設定できる、ということになります。
結局、「期間」が3年以下である場合、契約内容(特に再契約要件)によって変更、管理の分類を決めるしかない、ということになります。
5 土地賃貸借における利用形態分類に影響するという発想
土地の賃貸借についても前述の「類型」以外にも分類に影響する要素はあり得ます。発想として、もともとの土地の利用状況や、賃貸借の中で定める(賃借人による)利用形態も影響する(と読める)指摘もあります。
もともと更地として放置されていた(利用されていなかった)ことは、第三者に賃貸することによる共有者への影響が小さい方向(管理分類の方向)に働くと思えます。
また、賃借人が(建物未満の)工作物を設置することや舗装をすることを許容する場合には(原状回復義務を負わせたとしても)共有者への影響が大きい方向(変更分類の方向)に働くと思えます。
土地賃貸借における利用形態分類に影響するという発想
あ 前提=土地賃貸借契約締結
神谷
・・・
このようなケースでは、共有物管理許可決定を利用して、期間を5年以下とする駐車場、資材置場、公園や広場、市民農園などの目的で借地契約(注・借地借家法が適用されるという意味ではない)を締結することができるのではないでしょうか。
・・・
い 物理的な状況変化が分類に影響するという発想
倉田
更地として放置されている土地を駐車場や資材置場等の目的で利用するという行為は、効用の著しい変更に該当するのでしょうか。
内納
従前の利用形態にもよると思いますが、単に更地として放置されていたということであれば効用の著しい変更には該当しないと考えます。
もしも、これが変更行為に該当するならば、どのような利用形態であってもおしなべて効用の著しい変更に該当してしまいます。
※中里功ほか著『所有者不明土地解消・活用のレシピ』民事法研究会2023年p244、245
本記事では、共有物の賃貸借契約締結の「変更・管理」分類における個別的事情の影響について説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産の賃貸借に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。