【共有物の変更・管理決定の裁判で審査する範囲(変更・管理の分類・特別の影響の判断)】
1 共有物の変更・管理決定の裁判で審査する範囲(変更・管理の分類・特別の影響の判断)
令和3年の民法改正で、共有に関する新たな裁判制度が作られました。所在不明などの共有者がいる場合や、賛否を明らかにしない共有者がいる場合に、これらの共有者を除外(排除)して意思決定ができるようにする裁判です。
詳しくはこちら|所在等不明共有者がいる場合の変更・管理の裁判手続(令和3年改正)
詳しくはこちら|賛否不明共有者がいる場合の管理の裁判手続(令和3年改正)
これらの裁判手続では、予定している行為を申立書に記載します。たとえば「共有の土地を砂利道(通路)として使っているのでアスファルト舗装をする」、「現在共有の建物に共有者Aが居住しているが、第三者に◯◯という条件で賃貸する」などです。
ここで、裁判所は、この予定する行為をどこまで審査するのか、という問題が出てきます。本記事では、この問題について説明します。
2 「変更・管理・保存」分類→一応は審査する方向
(1)「非訟手続の前提問題」の扱い
では、申立書の目録(変更・管理行為目録)に記載された予定する行為が、変更・管理(軽微変更を含む)・保存のどれに該当するのか、ということは審査しないのでしょうか。
具体的に想定しましょう。
保存に分類される行為、または変更に分類される行為ついて、管理決定の裁判の申立がなされました。他の共有者が「その行為は変更分類なのだから管理決定を出さないでくれ」という意見書を提出しました(そもそもこの裁判は対立構造ではないので、他の共有者は当事者ではないし、このような意見を出す機会が与えられているわけではないですが、自主的に意見を出したと想定します)。
さて、裁判所としては、「これは管理行為ではないのでこの手続は不適切である、だから却下にする」となるのでしょうか。
つまり、申立書(行為目録)に記載された内容が管理分類であることは申立の適法要件なのでしょうか。
いわゆる非訟手続における前提問題と呼ばれるテーマの議論をあてはめるとすれば、原則として判断しない(却下にしない)、が判断することもある、仮に判断した(却下決定をした)としても既判力はないので、後日再び変更・管理の裁判の申立をすることができる、ということになるはずです。
(2)誤った分類による決定の効果
では次に、変更に分類される行為について、裁判所が、管理決定をしてしまったらどうなるでしょう。新制度は、既判力はないことは当然として、形成力はあり、この形成力は(裁判所の決定の取消がない限り)後日覆されることはないことになっています。
詳しくはこちら|所在等不明共有者がいる場合の変更・管理の裁判手続(令和3年改正)
ただ、この形成力は、当該行為が管理分類にあたることを前提として、所在不明(または賛否不明)共有者の議決権を排除する、というものだと思います。
そうするとやはり、管理決定の効力は及ばないことになり、共有者の一部の賛成がないまま変更行為を実行してしまった状態(分類の判断ミス)になるはずです。
(3)分類の判断ミスの責任への影響
実際は変更なのに管理分類だと判断ミスをした場合には、法的責任(物権的請求権、不法行為など)が発生するのが原則となります。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存の分類ミスにより発生する責任
ただし、「管理決定を得たこと」は、不法行為の故意・過失(違法性)を否定する方向に働くでしょうし、物権的請求権の行使における権利の濫用を肯定する方向に働く、ということはできると思います。
(4)変更・管理の裁判における「対象行為の分類」の審査
以上のような影響を考えると、管理決定の申立があった時点で、裁判所としては予定する行為(行為目録の内容)をある程度は検討、判断せざるを得ないと思われます。
この問題について、変更・管理の分類が違っていることが明らかである場合には裁判所は却下決定をする、という指摘があります。あくまでも明らかである場合に限定しているところがポイントです。厳密な判定はしない(できない)ということを前提としているはずです。
変更・管理の裁判における「対象行為の分類」の審査
※村松秀樹ほか編著『Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』金融財政事情研究会2022年p75
(5)実務への影響
そこまで難しく考えなくても、今後、管理決定や変更決定の実例の公表、公刊が続き、実務では(事実上)参考とされる、という状況となることが想定されます。
(6)裁判所の分類判定のための濫用的申立の懸念
特に、新制度のうち、賛否不明共有者がいる場合の管理決定の裁判だけは、所在不明者がいなくても、単に通知を出したけど返信がない状態だけで利用可能です。裁判所の分類の判断をみたい、というだけで利用する、という「濫用」が発生してしまうかもしれません。
3 過去の意思決定の有無・「特別の影響」の有無→審査しない方向
(1)再決定における「特別の影響」のルール
ところで、令和3年改正により、共有者間の意思決定に基づき共有者の1人Aが共有物を使用している場合に、共有物の使用方法を再決定する(内容を変更する決定をする)場合でも、持分の過半数で決定できることになり、ただし、Aに「特別の影響」がある場合にはAの承諾が必要、という制限がつく、ということになりました。従前の解釈から大きく変化した、令和3年改正の目玉の1つです。
(2)過去の意思決定の有無・「特別の影響」の有無の意見対立
実務では、Aの使用について共有者間の意思決定(多数決)があったといえるかどうか、という点と、(意思決定があった場合に)今回の再決定はAに特別の影響が生じるかどうかという点について、熾烈に対立するというケースが多く生じると思われます。
(3)変更・管理決定の裁判における審査
では、再決定の際に、一部の共有者が所在不明や賛否不明であったため、管理決定の裁判の申立がなされた場合に裁判所は、この2点を審査するのでしょうか。
まず、過去に意思決定(多数決)があったかどうかですが、現実には黙示の合意(意思決定)と評価できるかどうか、ということが問題になることがとても多いです。
これについてはさすがに、対立構造ではないので審査しようがないと思います。そうすると、次の「特別の影響」のルールが適用されるかどうかが分からない状態になるので、裁判所としても、「特別の影響」を判断しない(考えずに済む)という方向性になると思われます。
では、申立書に「過去に意思決定(多数決)をした」と明記してある場合はどうでしょうか。
「特別の影響」が及ぶのであれば、実体法上、共有者Aの承諾がないと意思決定はできないことになります。とはいっても、管理決定の裁判の中で、裁判所がAに承諾するかどうかを尋ねることは制度の枠組みを超えるのでできない(やらない)と思います。
では次に、使用している共有者Aが自主的に「私に特別の影響が及ぶ、私は承諾しないので管理決定を出さないでくれ」という意見書を裁判所に提出していたらどうでしょうか。仮に裁判所が判断するとして、どちらの判断結果を出しても、一方は納得しません。不服申立手段として、対立構造を前提とした手続は用意されていません。やはり、現実的に考えて、この裁判制度の枠組みでは、「特別の影響」の有無を判断することはできない(想定されていない)としかいいようがないと思います。
4 管理決定の裁判で「特別の影響」を審査する発想(参考)
管理決定の裁判の中で「特別の影響」や現に使用している共有者の承諾の有無を審査、判断するという発想もあるようです。ただ、私見としては前述のように、裁判所はこれらの判断は避けることになるのではないか、と思います。
管理決定の裁判で「特別の影響」を審査する発想(参考)
そうすると、事案5で共有物管理許可決定の裁判に基づき共有株式の権利行使者となったDは、252条の2が規定する共有物の管理者に該当するため、その後にFがEと画策して権利行使者をFに再変更することを目的として共有物管理許可決定の申立てをした場合、Dにとっての「特別の影響」の有無を判断し、特別の影響がある場合には、Dの承諾がない限り、Cを分母から除外することを内容とする共有物管理許可決定の裁判が発せられないことになるわけですね。
※中里功ほか著『所有者不明土地解消・活用のレシピ』民事法研究会2023年p238
本記事では、共有物の変更・管理決定の裁判で審査する範囲について説明しました。
実際には、個別的な事情により、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産(共有物)の使用、活用に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。