【病院経営への組合認定・解散後の共有物分割を認めた裁判例(横浜地判昭和59年6月20日)】

1 病院経営への組合認定・解散後の共有物分割を認めた裁判例(横浜地判昭和59年6月20日)

2人の医師による病院の共同経営について民法上の組合であると認定した上で、解散後の清算として、共有物分割を認めた裁判例があります。いろいろな場面で参考になる判断を多く含む裁判例です。
本記事ではこの裁判例を紹介、説明します。

2 組合契約の認定

いろいろな場面で、民法上の組合が成立するかしないか、ということが問題になります。
詳しくはこちら|民法上の組合の共同事業と共有物の共同使用の判別(基準と判例の集約)
この裁判例は、医師2人が病院を共同経営するという仕組みが組合(契約)にあたる、と判断しました。

組合契約の認定

あ 契約内容

原告と被告は共に医師であるところ、昭和四六年八月ころ、次の条件の下に共同で病院を経営する旨の契約(以下「本件契約」という)を締結した。
(一)原告と被告が病院において医療行為に従事する。
(二)病院の財産は原告と被告の共有とし、持分割合は各二分の一とする。
(三)病院の開業資金は被告名義で銀行から借受ける関係上、病院経営に必要な不動産及び有体動産の所有名義、債権債務等対外的な行為の名義は一切被告とする。
(四)利益・損失の分担は、原・被告とも各二分の一とし、病院の収支は被告が管理し、毎年一月一日から一二月三一日までの収支を計算のうえ、収益が生じた場合は原告と被告が期間中に受領した金員を含めて同額の金員を取得するよう利益分配をする。
(五)契約の期間の定めはない。
そして原告と被告は、右契約に基づき、昭和四六年八月二〇日から横浜市旭区南本宿町一四七番地でD病院の名称をもつて開業し、医療行為に従事した。

い 事業の共同性

以上の事実を認めることができ、これによれば、原・被告は共に医療行為に従事し、D病院を共同で経営し、その財産は持分各二分の一の共有とするが、対外的には被告の単独名義とし、利益の収受及び損失の負担は共に平等とするという黙約の下に開業準備行為に着手し、同病院を開業するに至つたものと認めることができる。

う 結論→組合契約肯定

以上のとおり、原告と被告はD病院開業にあたり、本件契約を締結したのであるが、これは、出資、事業の共同、損益分配の割合についての黙約等の内容に照らし、民法上の組合契約と解するのが相当である。
※横浜地判昭和59年6月20日

3 組合員2名のうち1名の脱退の意思表示→解散

一般論として、組合の財産は共有となりますが、共有物分割は否定されます。
詳しくはこちら|民法上の組合の財産の扱い(所有形態・管理・意思決定・共有の規定との優劣)
しかし、この裁判例では、解散した後の清算の場面であるという理由で、共有物分割を認めます(後述)。その前提として、組合員2人のうち1人が脱退の意思表示をしたことにより解散に至ったと判断しています。

組合員2名のうち1名の脱退の意思表示→解散

あ 判断部分(判決文)

そして、本件契約のように組合員が二名の組合において、うち一名が脱退の意思表示をした場合には、組合は当然解散すると解するのが相当であるところ、前記のとおり、原告は昭和四八年四月二〇日ころ被告に対し、同月末日限り本件契約を解消する旨の意思表示をし、これは組合脱退の意思表示と解せられ、かつそのころ被告に到達したものと認められるから、本件組合契約はこれをもつて解散したものというべきである。
※横浜地判昭和59年6月20日

い 解釈

一般に、組合員が二人しかいない組合では、そのうちの一人が脱退すると、組合は当然解散する(我妻・債権各論中巻(二)八二八頁、国歳「組合員の交替」契約法大系V一七九頁)。
※『判例タイムズ539号』p357〜

4 残余財産についての共有物分割→可能

前述のように、解散したことになったので、これにより、組合財産の共有物分割はできないというルールが適用されない状態となりました。結論として共有物分割は可能、ということになります。
理論的には、組合財産の清算として分割する、ということになるので、共有物分割(民法258条)がストレートに適用されるわけではなく準じる(類推適用)ということになります。
詳しくはこちら|民法上の組合の解散後の組合財産の分配(共有物分割など)

残余財産についての共有物分割→可能

従つて、残るは、原・被告各二分の一の割合による残余財産の分配であるところ、これについては、原告は民法第二五八条(共有物分割請求の訴)に準じて、裁判所に対し、個々の財産につき分割の請求をすることができると解するのが相当である。
けだし、組合財産は組合目的達成のための経済的手段であるから、組合員の共有に属し(民法第六六八条)、清算前にその分割を求めることはできない(同法第六七六条)が、既に組合が解散し、組合の債権債務の整理を完了した後残余財産はもはや組合目的に拘束されず分割の対象としての共有財産であるから、その分割については、清算人による分配の手続がなされない以上、共有物分割の規定を類推してこれを行うのが相当であるからである。
※横浜地判昭和59年6月20日

5 被告単独所有登記の不動産→共有認定

この裁判例では、登記では単独所有となっている土地について、実体は共有であると判断した上で、結果的に共有物分割を実施しています。登記と実体の権利関係が一致するとは限らないので理論的には当然ですが、実際には珍しいです。
詳しくはこちら|登記は単独所有・実体は共有である財産の共有物分割

被告単独所有登記の不動産→共有認定

あ 原告主張

ところで、原告と被告は、本件契約に従い、同契約の終了した昭和四八年四月末日までの間に、別紙不動産目録記載の各不動産(以下「本件不動産」という)及び別紙有体動産目録記載の有体動産(以下「本件動産」という)を被告名義で買受け、本件不動産については被告名義で所有権移転登記を経由した。
しかし、本件不動産及び本件動産はいずれも原告と被告の持分各二分の一の割合による共有である。

い 裁判所の判断

・・・以上の事実を認めることができ、これによれば、原・被告は共に医療行為に従事し、D病院を共同で経営し、その財産は持分各二分の一の共有とするが、対外的には被告の単独名義とし、利益の収受及び損失の負担は共に平等とするという黙約の下に開業準備行為に着手し、同病院を開業するに至つたものと認めることができる。
※横浜地判昭和59年6月20日

6 分割方法→現物分割否定・換価分割採用

分割方法に関して、原告は現物分割を希望していました。しかし、現物分割をしたとすると、当該土地上にある建物が2筆の土地(原告所有地と被告所有地)にまたがる結果となります。不都合が大きいため、採用されませんでした。
詳しくはこちら|「土地だけ」の現物分割の可否の判断(類型別)
ところで当時はまだ全面的価格賠償という分割類型は否定されていました。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の基本(平成8年判例で創設・令和3年改正で条文化)
そこで、現物分割が否定された、イコール消去法的に換価分割を採用する、ということになりました。

分割方法→現物分割否定・換価分割採用

あ 現物分割(原告希望)→建物がまたがる結果により否定

そこで、本件各土地の分割について検討するに、〈証拠〉によれば、本件各土地上には本件建物が存在し、右各土地をそれぞれ二分の一宛分割した場合いずれの土地についても一個の建物が分割された部分にまたがつて存在することになる(本件各土地を総体的に一団の土地としてこれを原告主張のように二分したとしても同様である)ことが認められるから、かかる分割方法は本件各土地の価格を著しく低下させるおそれがあるといわなければならない。

い 結論→消去法で換価分割

従つて、本件各土地については、その競売を命じ、売却代金を分割することとするのが相当である。
※横浜地判昭和59年6月20日

本記事では、病院の共同経営の解消後に土地(敷地)の共有物分割を実施した裁判例を紹介しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産や共有物分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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