【弁論主義と職権探知主義の基本】
1 弁論主義と職権探知主義の基本
民事訴訟やその他の裁判手続の基礎的なルールとして「弁論主義」や「職権探知主義」があります。いろいろな理論的な主張の中で、これらの基礎理論を活用する場面もあります。
本記事ではこの2つの基礎的ルールを説明します。
2 弁論主義の定義
弁論主義から重要な具体的ルールが派生しますが、その基本部分は、裁判資料、要するに主張と立証(証拠)は当事者が出せる、かつ、出さないといけない、という内容です。
弁論主義の定義
※瀬木比呂志著『民事訴訟法 第2版』日本評論社2022年p276
3 弁論主義と処分権主義や私的自治との関係
ところで、弁論主義は、処分権主義と似ています。この2つは私的自治の原則を民事訴訟に反映したものである点で共通しています。しかし、どのレベルで私的自治が反映されているか、ということが異なります。処分権主義は訴訟物のレベル、弁論主義は”裁判資料(主張・立証)の収集・提出のレベル(において反映したもの)です。
なお、ここでいう「私的自治」とは実体法(民法)で使う場合の意味とは異なり国家権力が介入できない領域を民事訴訟に設けるという意味です。
弁論主義と処分権主義や私的自治との関係
つまり、私的自治の原則の
訴訟物のレヴェルにおける反映が処分権主義であり、
裁判資料(訴訟資料と証拠資料)の収集・提出のレヴェルにおける反映が弁論主義である、
ということができる。
もっとも、ここでいう「私的自治」は、実体法にいう契約自由の原則等の場合とは異なり、前記第1末尾でふれたとおり、民事訴訟という場に国家権力が介入できない領域を設定するという意味合いが強い(自白に関する原則はともかく、主張・証拠に関する原則は、当事者間の意思の一致を要求しているわけではない。当事者の一方からの主張・申出で足りる)。
イニシアティヴが当事者に留保されているという意味での「私的自治」なのである(高橋上411~412頁)。
以上を換言すれば、処分権主義は当事者に訴訟物の処分(設定と終了に関する)をゆだねるものであり、弁論主義は当事者に事実と証拠の処分(それらを提出するか否か、また事実を自白するか否かについての)をゆだねるものであるともいえよう。
※瀬木比呂志著『民事訴訟法 第2版』日本評論社2022年p277、278
4 職権探知主義の定義
弁論主義と対になる概念として職権探知主義があります。職権探知主義とは裁判資料の収集・提出を当事者だけでなく裁判所の権限かつ責任でもあるとする原則です。
職権探知主義の定義
この原則の下では、裁判所は、当事者の主張しない事実も認定でき、自白の拘束力はなく、職権証拠調べも許される。また、当事者の主張の撤回は認められない。
※瀬木比呂志著『民事訴訟法 第2版』日本評論社2022年p296
5 実際の職権探知主義の運用→弁論主義に近い
前述のように、職権探知主義が用いられる手続では、理論的には弁論主義のルールは適用されません。では、例えば人事訴訟の実際の手続ではそのとおりに運用されているかというと、そうではありません。実際の審理では、自白が認められないこと以外は通常の民事訴訟とほとんど変わりません。
実際の職権探知主義の運用→弁論主義に近い
人事訴訟が地裁の職分管轄で通常の民事訴訟事件に交じって配てんされていた時代には、経験の浅い裁判官も、これをやることがあった。
それくらい、実際の審理の違いは目立たない)、
理念としての相違程度の違いにすぎないともいえる。
裁判所は、職権探知主義の下では、真実発見のためにより踏み込んだ審理ができ、またすべきであるということである。
※瀬木比呂志著『民事訴訟法 第2版』日本評論社2022年p296、297
本記事では、弁論主義と職権探知主義の基本的な内容を説明しました。
これらは、単独で訴訟その他の裁判手続の中で使うわけではなく、いろいろな解釈論の基礎部分として使うことがあります。
実際に裁判手続に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。