【借地上の建物の大規模修繕は再築(滅失・築造)にあたるかどうか】
1 借地上の建物の大規模修繕は再築(滅失・築造)にあたるかどうか
借地人が借地上の建物について大規模な修繕をした場合に、これが再築と同じ扱いとするかどうか、という問題があります。この違いが出てくるのは、地主が承諾した場合に期間が延長するかどうかです。
というのは、建物の再築(滅失と築造)について、地主が承諾した(異議を述べなかった)場合に期間が延長する(法定更新)ルールがあるのです。
詳しくはこちら|旧借地法における異議のない建物再築による期間延長(基本)
詳しくはこちら|借地借家法における承諾のある建物再築による期間延長
本記事では、大規模修繕が再築と同じ扱いとなるかどうかについて説明します。
2 大規模修繕を再築と同じ扱いとする見解
(1)新版注釈民法(旧借地法)→再築該当肯定
大規模修繕は、建物の寿命が大幅に伸びるという点では、再築と同じです。そこで、再築と同じ扱いとする見解があります。
まず、新版注釈民法は旧借地法に関して、この見解をとっています。
新版注釈民法(旧借地法)→再築該当肯定
(ウ)既存建物の取りこわし―新築にまで至らないでも、借地人が借地上の既存建物に大改修を加え、その結果、建物の命数が著しく延長された場合にも、(イ)と同様に考えて、本条の適用あり、と解すべきである(札幌高決昭39・6・19高民集17・5・287。同旨:我妻493。ただし、薄根正男「借地法上の更新・買取請求権」総判民(11)〔昭33〕234は、新旧両建物に同一性ある限り、本条を適用すべからず、とし、星野・借地借家98は、大改築につき建物をいったん取りこわしないし解体しないときは本条を適用しないとし、大修繕についても適用を否定する)。
※鈴木禄弥・生熊長幸稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2010年p447
(2)基本法コンメンタール借地借家法→再築該当肯定
新基本法コンメンタールは、旧借地法、借地借家法の両方について、大規模修繕を再築として扱い見解をとっています。
基本法コンメンタール借地借家法→再築該当肯定
借地借家法の解釈としても、大修繕(大改修)は滅失にも含まれるはずである(要約)
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版補訂版』2009年p28、188
(3)昭和39年札幌高決(旧借地法)→再築該当肯定
昭和39年札幌高決は、旧借地法について、改築同然の大修繕について、借地法7条の類推を認めています。ただ、地主の異議がない場合に「期間が延長される」という判断をしたわけではありません。「朽廃すべき時期に借地権が消滅する」ルールが適用されないという結論を出す前提部分としての判断です。
昭和39年札幌高決(旧借地法)→再築該当肯定
3 大規模修繕を再築と同じ扱いとはしない見解
(1)コンメンタール借地借家法→再築該当否定
建物の大規模修繕は、あくまでも「修繕」です。つまり、いったん建物全体を解体する(滅失させる)というプロセスがありません。そこで、再築(滅失+再築)と同じとはいえない、という考えもります。コンメンタール借地借家法は、借地借家法7条についてこの見解をとっています。
コンメンタール借地借家法→再築該当否定
しかし、既存建物を取り壊さずに大改修を加え、その結果建物の命数が著しく延長した場合には、本条の適用はないと解すべきであろう(同旨、星野・借地借家98。反対、鈴木=生熊・新版注民(15)447、札幌高決昭39.6.19高民17-5-287)。
※澤野順彦稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p48
4 まとめ→統一的見解はない
以上のように、建物の大規模修繕が再築にあたるかあたらないか、ということについて統一的な見解はりません。
たとえば過去に借地人が建物の大規模修繕をした時に地主が黙認していたケースはとても多いですが、この場合に、期間が延長されたかどうかをはっきり判定できないことになります。実際には、細かい具体的な事情によって結論(判断)が決まる、ということになります。
5 関連テーマ
(1)大規模修繕が増改築にあたるかどうか→肯定
本記事では、大規模修繕が再築にあたるかどうかを説明しました。これとは別に、大規模修繕が増改築にあたるかどうか(増改築禁止特約の違反になるかどうか)という問題もあります。
詳しくはこちら|借地上建物の「通常の修繕」「大規模修繕」の意味と修繕禁止特約の有効性
本記事では、借地上の建物の大規模修繕が再築と同じ扱いとなるかどうかについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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