【借地借家法の適用がある賃貸借は「性質の変更」(民法103条)にあたるか】

1 借地借家法の適用がある賃貸借は「性質の変更」(民法103条)にあたるか

民法103条は、権限の定めのない代理人は、物又は権利の性質を変えない範囲内の利用行為をすることができると定めています。
詳しくはこちら|民法103条2号の利用行為・改良行為の意味
賃貸借契約をすることは本来、まさにこれに該当します。しかし、借地借家法の適用がある場合には、期間が満了しても現実には終了しない方が原則です。結局、契約は長期間続くことになるのが実情なのです。
詳しくはこちら|借地の更新拒絶・終了における『正当事由』・4つの判断要素の整理
詳しくはこちら|建物賃貸借終了の正当事由の内容|基本|必要な場面・各要素の比重
そこで、性質を変えるといえる、つまり権限の定めのない代理人が行うことができないという解釈があります。本記事ではこのことを説明します。

2 民法103条と民法602条の関係と民法602条の解釈(概要)

(1)民法103条と民法602条の関係

本題に入る前に、民法602条との関係について説明しておきます。
権限の定めのない代理人が行うことができる賃貸借の範囲は、民法103条とは別に民法602条も定めています。
正確には、民法602条は、処分の権限を有しない者が行う賃貸借の範囲を定めています。そして、権限の定めのない代理人も、処分の権限を有しない者に含まれます。
そこで、本題である権限の定めのない代理人が行った、借地借家法の適用がある賃貸借の法的扱いは、民法602条に定める賃貸借の範囲に含まれるか含まれないかという枠組みで解釈することが多いです。

(2)民法602条の一般的解釈

民法602条の解釈は議論が進んでいて、結論として、借地借家法の適用がある賃貸借でも、(民法602条の上限期間以内であれば)民法602条の範囲内といえる、という見解が一般的になっています。
詳しくいうと、借地契約は、借地借家法の法定期間(20年の最低期間)の適用がなく、5年の範囲内で可能、借家契約は3年を超えなければ可能、という結論です。
詳しくはこちら|処分権限のない者による短期賃貸借(長期賃貸借との判別・民法602条)

3 昭和36年大阪地判→借地法適用あり・長期賃貸借は性質変更肯定

本題に戻ります。
借地借家法の適用がある賃貸借は民法103条の「物や権利(所有権)の性質の変更」にあたるかどうか、という解釈です。
昭和36年大阪地判は性質の変更があるつまり、民法103条の範囲を超えると判断しました。
この事案では、権限の定めのない代理人が借地契約(法定期間は最低20年)をしてしまったので、代理権の範囲外の契約を締結したことになりました。
では、その効果として、借地契約は全面的に無効なのか、民法602条で可能とされている(土地については)5年の範囲だけで有効なのか、ということについては一応判断が示されています。具体的には、仮に5年の期間が有効であったとしても、その5年は満了したため、契約は終了した、というロジックを採用したのです。ここで、法定更新のことには触れていないので、法的更新の適用はないという判断をしたとも読めます。
「5年の範囲内で借地契約は有効」という部分は、民法602条の現在の一般的解釈と同じです。「法定更新の適用はない」という判断であれば、これは民法602条の一般的解釈とは異なります。
詳しくはこちら|処分権限のない者による短期賃貸借(長期賃貸借との判別・民法602条)

昭和36年大阪地判→借地法適用あり・長期賃貸借は性質変更肯定

あ 借地契約における地主の負担(前提)

(注・任意代理の代理人の権限の範囲について)
・・・借地法によれば同法所定目的のためにする土地賃貸借の期間は任意に当事者において定められず債務不履行による解除がなされない限り最低二〇年の長期に亘り(同第二条、同第一一条)しかも期間満了の場合も所有者たる賃借人において任意に契約の終了を求めえず借地人より更新請求がある限り正当事由がなければこれを拒絶しえず又しえても地上建物の買取りをせねばならない負担を甘受しなければならないこともあり(前同第四条)又借地権が譲渡され又は転貸され地主がその承諾をしない場合にも地上建物の買取を請求される虞があり、これに右更新請求がなされるのが通常でありこれを拒否するに足る正当事由の存在については相当厳重な解釈が行われ容易に認められないのが借地法存在下の公知の社会事情であること及び民法第六〇二条が土地について五年をこえる賃貸借は処分行為と同視して取扱つている法の趣旨を考え併せば

い 判断

ア 「性質の変更」→肯定 借地法の適用ある賃借権(借地権)或は民法六〇二条をこえる賃借権が或土地に設定された場合はその所有権者自らの使用権能は前者の場合は地上建物の朽廃迄即ち半永久的に又後者の場合は相当長期間に亘りその制限されることとなりその結果所有権はその性質を変更するもの、従つてかかる借地権の設定行為は民法第一〇三条二号によつても許されないと云わざるをえない、そうだとすれば訴外Gは前記管理委託契約によつて与えられた代理権には被告主張の如き借地権の設定の如きは含まれていなかつたものと断ぜざるを得ない。
・・・
イ 民法602条の範囲内の契約→仮に有効であっても期間満了 尤も被告主張の右いづれの賃貸借契約においても必しも借地法の適用を受ける土地賃貸借に絶対に固執するものでなく民法六〇二条限度内の契約を主張するものと解しても右期間満了済であることはその主張自体明らかである。
※大阪地判昭和36年3月17日

4 新版注釈民法→借地借家法適用あり・長期賃貸借は性質変更肯定

新版注釈民法は、一般論として、借地借家法の適用がある賃貸借と、民法602条の期間を超える賃貸借(長期賃貸借)は性質を変えるものにあたる、という見解を紹介しています。このように一般化してしまうと、民法602条の一般的解釈とは違ってきます。
前述のように民法602条の一般的解釈では、権限の定めのない代理人(処分の権限を有しない者)が締結した借地契約には借地借家法の適用はないので、5年の範囲内の借地契約が可能、借家契約は借地借家法の適用があっても締結可能、ということになっています。

新版注釈民法→借地借家法適用あり・長期賃貸借は性質変更肯定

あ 原則論→「性質の変更」否定

(注・民法103条2号の「性質を変えない」について)
物の賃貸は、それ自体が目的物の性質を変更するものにあたるわけではない

い 滅失・損傷リスクによる「性質の変更」該当可能性

しかしながら、借主の占有利用によって物が滅失・損傷する危険を当然に含むものである。
そのため、その危険の程度によっては所有権の性質(物の支配の内容)を変えるものとして、本条の範囲に属さないとされることがありうる。
また、借主の占有利用を容易に覆すことができない場合も、本人による物支配が実質的に妨げられることになるから、本条の範囲に属さない(注・性質を変える)とされる。

う 借地借家法適用あり・長期賃貸借→「性質の変更」肯定

とくに不動産の賃貸については、借地借家法の適用を受ける賃貸や民法602条を超える賃借権の設定は、処分行為に準ずるものとして、あるいは不動産所有権の性質を変えるものとして、本条の範囲には属さないとされている(大阪地判昭36・3・17下民集12・3・522、幾代339以下。また、於保228、石田(穣)395、川井257)。
※佐久間毅稿/於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(4)』有斐閣2015年p89、90

5 石田穣氏見解→借地借家法適用ありは「性質の変更」肯定

石田穣氏も、一般論として、借地借家法の適用がある賃貸借は民法103条の「利用行為」には含まないという見解をとっています。日本語としての「利用行為」ではあるが「性質の変更」がある、という趣旨であると思われます。

石田穣氏見解→借地借家法適用ありは「性質の変更」肯定

第二は、利用行為である(一〇三条二号)。
利用行為とは、物や権利の性質を変えない範囲での財産の収益行為である。
・・・
もっとも、借地借家法が適用される目的物の賃貸は、その解消が著しく困難であり、ここでいう利用行為には入らないと解すべきである。
※石田穣著『民法総則 民法大系1』信山社2014年p761

本記事では、借地借家法の適用がある賃貸借は民法103条の性質の変更があるといえるかどうかについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産の賃貸借に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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