【強制管理の管理人の「管理」権限の解釈(基本的意味と含まれる行為)】

1 強制管理の管理人の「管理」権限の解釈(基本的意味と含まれる行為)

民事執行法による強制的な金銭回収の手段の1つとして強制管理があります。たとえば賃貸マンションを差し押さえて、不動産の売却ではなく、賃料収入から回収するという仕組みです。強制管理の手続では、管理人が選任され、管理人が不動産の賃貸に関するいろいろな具体的アクションを行います。
この管理人の権限は、条文上「管理」や収益の収取などと規定されていますが、この「管理」の意味、つまり取れるアクションの範囲が問題となります。
本記事ではこのことを説明します。

2 民事執行法95条の条文

強制管理の管理人の権限の範囲を定める民事執行法95条の条文を最初に確認しておきます。1項で「管理」の権限を持っていること、2項で賃貸借については原則として民法602条の範囲内に限定する、と定められています。

民事執行法95条の条文

(管理人の権限)
第九十五条 管理人は、強制管理の開始決定がされた不動産について、管理並びに収益の収取及び換価をすることができる。
2 管理人は、民法第六百二条に定める期間を超えて不動産を賃貸するには、債務者の同意を得なければならない。
3 管理人が数人あるときは、共同してその職務を行う。ただし、執行裁判所の許可を受けて、職務を分掌することができる。
4 管理人が数人あるときは、第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足りる。
※民事執行法95条

3 「管理」の意味→保存行為+性質変更のない利用・改良行為

(1)条解民事執行法

前述のように、強制管理の管理人の基本的な権限は、条文上「管理」とだけしか記述されていません。いろいろな条文でこのように、シンプルな「管理」の言葉が登場しますが、その意味については共通認識があります。それは民法103条の条文の内容、具体的には、保存行為性質の変更がない範囲内の利用・改良行為です。
詳しくはこちら|民法103条1号の「保存行為」の意味
詳しくはこちら|民法103条2号の利用行為・改良行為の意味
まず、条解民事執行法は、このような解釈を説明しています。

条解民事執行法

不動産の「管理」とは、一般的な管理の概念に従えば、
不動産の現状を維持すること(保存行為)
のほか、
不動産の性質を変えない範囲内で利益を図ること(利用行為)
または
価値を増加させること(改良行為)
を含むものとして理解することができる(民103参照)。
もっとも、管理という語は多義的であって、本法はもとより他の法令においても明確な定義はないため、本条において認められる「管理」権限に含まれる行為の外延を画することは容易でない(次の(2)を参照)。
※今津綾子稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p977

(2)今雅浩氏見解(新民事執行実務15号)

一般論として、「管理」は、「処分」や「変更(物や権利の性質を変更すること)」とは別の概念(これらに至らない行為)です。たとえば建物の修繕でも形状や属性を大きく変更する工事は「管理」を超えることになります。

今雅浩氏見解(新民事執行実務15号)


・・・具体的な管理行為といえば、一般的な保存行為、管理行為、いわゆる単なる保存行為や目的物または権利の性質を変更しない範囲での利用・改良を目的とする行為と考えますので、修繕行為もこの範囲内に限定されるのではないかと思います。
また、収益執行は、所有権のうちの使用、収益権のみを対象としており、処分権を含んでいませんので、処分権と同視し得るような形状変更を伴う修繕はできないものではないかと考えます。
※日本執行官連盟編『新民事執行実務15号』民事法研究会2017年3月p54

4 「管理」の意味→共有物の(狭義の)管理と同じ

ところで、「管理」の用語が登場する局面の1つとして、共有物の管理(民法252条1項)があります。
詳しくはこちら|共有物の(狭義の)管理行為の基本的な内容
強制管理の管理人の権限である「管理」(民事執行法95条)と、共有物の「管理」は同じ意味であると思われます。

「管理」の意味→共有物の(狭義の)管理と同じ

あ 条解民事執行法

(e)債務者と第三者が共有する場合
共有者は「共有物の全部についてその持分に応じた使用をすることができる」ものの(民249)、強制管理における管理人の管理は「共有物の管理に関する事項」として「各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決すべき事柄である(民252本文)(注・現在の民法252条1項)。
したがって、債務者が過半数の持分を有するのでない限り、強制管理の実施に際しては債務者以外の共有者の同意が必要となる。
※今津綾子稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p952

い 浦野雄幸氏見解(強制執行・競売)

しかし、後に述べるように、管理人は、目的不動産の引渡しをうけてこれを占有する権限があることは、共有持分の強制管理においても同様であり、また、管理人が共有持分権者である債務者にかわって目的不動産を管理することは、まさに、共有物の管理にあたり、これは、各共有者の持分の価格に従ってその過半数をもって決せられるべきもの(民二五二条)であるから、この趣旨からいえば、共有持分の強制管理については、全共有者の持分の過半数の決議を要するものと解すべきである。
したがって、甲、乙二名共有(持分各二分の一)の不動産の甲共有持分につき、強制管理を開始するには、乙の同意を要するものと解される。
※浦野雄幸稿/中川善之助ほか監『実務法律大系7巻 強制執行・競売』青林書院新社1974年p496

5 賃借権以外の用益物権設定→「管理」に含まない

賃貸借ではなく、用益物権を設定して不動産から収益を得ることもできますが、これは、強制管理の管理人の「管理」権限を超えて「処分(行為)」に該当します。
詳しくはこちら|「処分(行為)」の意味や具体例(事実的処分・法的処分)
逆にいえば、強制管理の手続の中で新たに貸す方法は賃貸借に限定されている、ともいえます。

賃借権以外の用益物権設定→「管理」に含まない

賃借権以外の用益物権については、管理人限りでそれを設定することは「管理」の範囲を超えるものとして許されない(香川・注釈(4)434頁〔富越和厚))。
※今津綾子稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p978

この点、共有物の管理には、賃借権(賃貸借)以外の、地上権や地役権の設定も含まれます(民法252条4項)。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類
このように、強制管理の管理人の「管理」と共有物の「管理」の2つの「管理」の内容には違いもあります。

6 賃貸借に関する法律行為の「管理」の範囲

(1)「管理」に含まれる賃貸借の範囲(借地借家法適法の影響)

強制管理の管理人は「管理」権限の1つとして、不動産の賃貸に関する個々のアクションをとることができます。では、どの範囲のアクションが可能なのでしょうか。
まず、賃貸借契約の締結(新規契約)については、民事執行法95条2項が、原則として(債務者の同意がない限り)民法602条の範囲内(短期賃貸借)という制限を定めています。民法602条の内容については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|処分権限のない者による短期賃貸借(長期賃貸借との判別・民法602条)
民法602条の期間を超える賃貸借(長期賃貸借)は「管理」の範囲外とされているのです。
この点、共有物の「管理」については、長期、短期の分類に例外があります。賃貸用不動産の賃貸は(長期であっても)一律に「管理」に含む(短期扱いとする)解釈や、借地借家法が適用される賃貸借は(短期であっても)一律に「管理」に含まない(長期扱いとする)解釈です。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類
しかし、強制管理の「管理」についてはこのような例外扱いとする解釈はとらない傾向があります。
ここまでの解釈では、借地借家法の適用があることを前提としていましたが、そもそも強制管理の管理人が締結する賃貸借では例外的に借地借家法を適用しないという見解もあります。

「管理」に含まれる賃貸借の範囲(借地借家法適法の影響)

あ 「管理」に含まれる賃貸借→短期賃貸借のみ

(i)長期賃貸借の可否
一般に、一定の期間を超えて物を賃貸するには処分権限を有していることを要する(民602柱書参照)。
強制管理の開始により管理人に与えられるのは不動産の「管理」および「収益の収取」に限られており(本条①)、処分権限はなお不動産所有者たる債務者に帰属していることから、管理人限りで民法602条各号所定の期間を超える長期賃貸借を行うことはその権限の範囲を超えるものとして許されない。

い 賃貸用物件は一律短期扱い→否定

実際に長期賃貸借が行われるのは、不動産が賃貸用建物の場合に限られよう。
このような建物については、その用途に鑑み本条2項の例外として債務者の同意を不要と解する余地もあるが、長期賃貸借は強制管理に不可欠のものではないため、文理に反してまでそのような例外を認める必要はない(香川・注釈(4)434頁〔富越〕)。

う 借地借家法の適用による一律長期扱い

ア 一律長期扱い→否定 なお、賃貸借契約上の存続期間が長期にわたらない場合であっても、借地借家法が適用される限りで長期賃貸借と同視されるとの考え方がある。
これによれば、短期賃貸借であっても債務者の同意を得ない限り許されないことになるが、管理人の権限に対してそこまでの制約を課す必要はないように思われる
イ 更新拒絶(解約申入)の正当事由→肯定方向の考慮あり 管理人限りでの契約を有効と認める場合、処分権限を有する債務者の利益保護が間題となるが、それについては強制管理の手続においてではなく借地借家法の枠内で手当てする(たとえば、強制管理の終了後は債務者の同意なしに契約が締結された点を同法6条および28条にいう「正当の事由」の判断要素として斟酌する)ことで足りる。

え 借地借家法の適用を否定する見解(紹介)

なお、本文とは異なり、同意のない賃貸借にはそもそも借地借家法の適用はない(借地借家25・40)という考え方をとるものとして、香川・注釈(4)435頁〔富越〕。
(注・借地借家法25条、40条は一時使用目的の借地と借家)
※今津綾子稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p985

(2)「管理」に含まれる賃貸借の範囲が登場する他の状況(参考)

ところで、賃貸借の長期、短期の判別で、借地借家法の適用がどう影響するか、という問題は民事執行法95条とは別の規定でも登場します。
処分権限を有しない者に関する民法602条、過半数の共有持分をもつ共有者に関する民法252条4項、以前の短期賃貸借保護制度を定める平成15年改正前の民法395条、被保佐人に関する民法13条などです。
これらでは、別の解釈がとられるものもあります。別の記事で、横断的に比較しつつ説明しています。
詳しくはこちら|「管理」権限者による賃貸借・用益物権設定の範囲(共有者・各種管理人・被保佐人など横断的まとめ)

(3)解除・更新拒絶・賃料増額請求→「管理」に含む

強制管理において管理人は賃貸借に関する各種アクションをとることになります。前述の賃貸借契約の締結以外にもいろいろありますが、たとえば、契約の解除更新拒絶賃料増額請求などが挙げられます。これらのアクションは「管理」に含むという解釈が一般的です。

解除・更新拒絶・賃料増額請求→「管理」に含む

あ 解除・更新拒絶→「管理」に含む

既存の賃貸借契約につき、賃料不払や用法違反を理由としてこれを解除することは管理人の権限に属する。25)
借地借家法上の更新拒絶(借地借家5・26)についても、同様である。
※今津綾子稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p984

い 賃料増額請求→「管理」に含む

管理人には、増額請求して賃料を適正な水準に戻す(その上で不払を待つ)、あるいは権利濫用を理由に明渡しを求めるくらいがせいぜいである
※今津綾子稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p984

これらの解釈は、共有物の管理とほぼ同じといえます。ただし、個別的な事情によって、違う分類となることもあります。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除・終了と明渡請求に関する変更・管理・保存行為の分類
詳しくはこちら|共有不動産の賃貸借の更新拒絶の変更・管理分類
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の賃料増減額に関する管理・変更の分類と当事者

7 「管理」に含まれる建物の工事の範囲

(1)平成21年大阪高決・建物全体の補修→「管理」に含まない

強制管理の管理人が行うアクションの1つとして、建物の修繕などの各種工事があります。たとえば、競売(売却)の前段階でリフォームなどをして収益を改善させておくことにより、次の段階の競売で高く売れることを目指す、というようなコンボが活用されることがあります。
ここで、強制管理の管理人が行うことができる工事の範囲が問題となります。単純な修繕工事が「管理」に含まれることは間違いありません。ただし、修繕工事の規模が大きい場合は「管理」に含まれないことになります。外壁や共用部分を含めた建物全体の補修工事について「管理」を逸脱すると判断した裁判例があります。

平成21年大阪高決・建物全体の補修→「管理」に含まない

仮に、本件建物の各部屋、さらには外壁や共用部分に至るまで建物全体を補修した上、適切な管理がなされれば、設定賃料額にもよるが、本件建物の新規入居者が増加する可能性を相当程度見込むことができようが、こうした補修は、もはや管理人がすることのできる管理行為の範囲を逸脱する(民事執行法95条1項、2項参照)。
※大阪高決平成21年5月14日

(2)条解民事執行法・抜本的変容→「管理」に含まない

居室のリフォームによる居住性アップは「管理」に含まれるけれど、現状から抜本的に変化するようなリノベーションは「管理」を超える、と考えられます。

条解民事執行法・抜本的変容→「管理」に含まない

あ 問題の所在

以上に対して、不具合の回復という範囲を超える修繕の許否については議論がある。
たとえば、それ自体として居住が可能な建物につきより高値で賃貸できるよう修繕することは、管理人の権限に含まれるであろうか。
ここでは、1つには不動産所有者の財産管理への介入の度合いが相対的にみて高くなること、もう1つには公共サービスを特定の私人の財産価値を向上させるためにいわば流用する形になることから、不具合を回復する場合に比してその許容性について慎重な判断を必要とするのである。

い 居住性アップ→「管理」に含む

一義的な基準を立てるのは難しいが、空室をリフォームして居住性を高めるという程度であれば「管理」、あるいは「収益の収取」の範囲内にあるのに対して、

う 抜本的変容→「管理」に含まない

建物の現状を抜本的に変容させるような修繕、いわゆるリノベーションを行うことはその範囲を超えるものとして許されないと考えられる。
※今津綾子稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p980

(3)古賀政治氏見解(新民事執行実務15号)

古賀政治氏は、実質が修繕であれば「管理」に含まれるけれど、支出の規模がビジネスのレベルになると「管理」を超えるとコメントしています。

古賀政治氏見解(新民事執行実務15号)

あ 実質的修繕のリフォーム→「管理」に含む

古賀
・・・
したがって、言葉の問題かもしれませんが、リフォーム費用であっても修繕の実質を有するものは費用として認められるという言い方もできますし、リフォームは収益執行には本質的だという言い方もできるのであろうと思います。
その範囲で、管理人の善管注意義務としてはリフォームをも含めて支出が認められると考えられます。

い ビジネス規模・質的向上→「管理」に含まない

しかし、それ以上の支出、リノベーションやビルのリニューアルだとか、支出自体が一つのビジネスであるかのような規模のものについては、これはおそらく収益執行は想定をしていないのではないかと考えます。
この観点からは、修繕の実態をもつのでない限り、新たな多大な規模のリフォーム費用の支出は原則的には、不動産価値の質的向上を求めるという意味で、制度の想定している以上のものと考えるべきではないかと考えます。
※日本執行官連盟編『新民事執行実務15号』民事法研究会2017年3月p54、55

(4)垣内秀介氏見解(新民事執行実務15号)

垣内秀介氏は、劣化防止や損害発生防止の目的の修繕、現在の用法の延長線上にある工事であれば「管理」に含まれるというコメントをしています。また、工事費用が物権価値の15%を超えるかどうか、という目安も紹介しています。

垣内秀介氏見解(新民事執行実務15号)

あ 劣化防止・損害発生防止→「管理」に含む

垣内
・・・
基本的には、物件の劣化を防ぐための措置・修繕とか、欠陥等によって第三者に損害を与える可能性があるという場合について改修をするということについては、これは管理の一環として管理人の権限に含まれるのではないかと思われるところです。

い 用法の延長線上→「管理」に含む方向性

また、積極的修繕も、何をもって積極的と呼ぶかというのは非常に微妙なところではありますけれども、基本的には従来のその物件の用法の延長線上にあるということであれば、権限に含まれる余地はあるのではないかと思われるところです。

う 「管理」に含む工事の具体例

先ほどご紹介のありました、もともと店舗として賃借人が利用している建物に関して看板を増設するとか、もともと飲食店を経営している賃借人がいて、その換気扇の口径を拡大するというような程度のものであれば、あるいは認める余地は確かにあるのではないかという感じはしております。

え ドイツ法の参照→費用15%基準

ちなみに、ドイツ法に関し若干情報提供いたしますと、ドイツ法におきましては、不動産の通常の維持を超えるかどうかということが法文上は基準となっておりまして、これを超える場合については裁判所の許可が法律上要件とされます。
どういう場合に通常の維持を超えるかどうかということについて、物件価値の15%を費用が超えるかどうかということがどうも一つの目安にされているということのようです。
しかし、いずれにしても不動産に関する本質的な変更に至るものについては、これは許されないということで、このあたりは日本と基本的な考え方は共通しているのではないかと思います。
※日本執行官連盟編『新民事執行実務15号』民事法研究会2017年3月p55

本記事では、強制管理の管理人の「管理」権限について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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【短期賃貸借保護制度(平成15年改正前民法395条)と借地借家法との関係】
【「処分(行為)」の意味や具体例(事実的処分・法的処分)】

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