【共有不動産への用益物権設定の変更・管理分類(賃貸借以外・改正民法252条4項)】
1 共有不動産への用益物権設定の変更・管理分類(賃貸借以外・改正民法252条4項)
令和3年改正の民法252条4項では、過半数持分をもつ共有者(過半数持分権者)が一定の期間内の使用・収益を目的とする権利の設定を(決定)することができるようになりました。賃貸借については実質的に従前の規律を明文化したものにとどまるといえます。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類
民法252条4項ではさらに、賃貸借以外、つまり用益物権の設定も、一定期間内であれば過半数持分をもつ共有者が決定できるようになっています。これは従前にはなかった規律を改正で創設したといえると思います。
本記事ではこのことを説明します。
2 使用・収益を目的とする権利の設定に関する改正条文
(1)民法252条4項(+1項)の条文
最初に、令和3年改正で作られた民法252条4項の条文を確認しておきます。1項と合わせて読むと、過半数持分をもつ共有者が、一定の期間の範囲内であれば、賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利の設定をすることができる、という規定です。賃借権は典型例を挙げただけで、それ以外の種類の権利も含む、ことになっているのです。
民法252条4項(+1項)の条文
あ 民法252条1項
共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。
・・・
※民法252条1項
い 民法252条4項
共有者は、前三項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 十年
二 前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 五年
三 建物の賃借権等 三年
四 動産の賃借権等 六箇月
※民法252条4項
(2)民法602条の条文(比較)
ところで、令和3年の改正前は、過半数持分をもつ共有者が行える(決定できる)賃貸借の範囲の解釈において、民法602条が使われていました。
民法602条は処分権限を有しない者(管理権限だけをもつ者)が行うことができる賃貸借の範囲を定めるものです。
詳しくはこちら|処分権限のない者による短期賃貸借(長期賃貸借との判別・民法602条)
過半数共有持分をもつ共有者も、処分権限はないけれど(狭義の)管理権限だけをもつ者にあたります。そこで、原則的には民法602条と同じルールを使っていたのです。この民法602条は、条文上賃貸借をする、と明記してあります。つまり賃貸借限定のルールです。前記の改正後の民法252条4項と比べると、上限期間はまったく同じですが、この設定する権利の種類が違うのです。
民法602条の条文(比較)
第六百二条 処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間とする。
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 十年
二 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 五年
三 建物の賃貸借 三年
四 動産の賃貸借 六箇月
※民法602条
3 令和3年改正前→用益物権設定は一律処分分類
最初に、令和3年の民法改正前の解釈を説明します。
(1)昭和29年最判・地上権設定→処分
まず、地上権設定について、平成29年最判は、共有者全員の負担となるという理由で、共有者全員の同意が必要であると判断しています。ある意味当たり前のことを言っているにすぎませんが、処分分類という結論になっています。
昭和29年最判・地上権設定→処分
・・・元来共有者は、各自、共有物について所有権と性質を同じくする独立の持分を有しているのであり、しかも共有地全体に対する地上権は共有者全員の負担となるのであるから、共有地全体に対する地上権の設定には共有者全員の同意を必要とすること原判決の判示前段のとおりである。
※最判昭和29年12月23日
(2)昭和61年名古屋地判ほか・地役権設定→処分
次に地役権設定については、下級審裁判例が処分分類である結論をとっています。
昭和48年東京地判は通行地役権について、共有者全員の負担となることを指摘した上で、共有者が設定することはできないと判断しています。前記の昭和29年最判と同じ理由といえます。
昭和61年名古屋地判は、同じ結論をとっています。理由は明示していませんが、昭和29年最判と同じことが理由となっていると思われます。
昭和61年名古屋地判ほか・地役権設定→処分
あ 昭和48年東京地判
土地の共有者は他の共有者全員の同意を得ない限り、共有物について、通行地役権その他の共有者全員の負担となるような用益権を設定することはできず、若しこれに反してかかる用益権を設定する契約を締結したときは該契約は全面的に(該契約を締結した共有者についても)無効であると解するのが相当であり、・・・
※東京地判昭和48年8月16日
い 昭和61年名古屋地判
ア 裁判例
・・・三分の一の持分しか有していない訴外Sが、右各土地全体につき単独で地役権を設定する権限を有しないことは明らかである・・・
※名古屋地判昭和61年7月18日
イ 理由の検討
本判決は、第一の問題について、土地共有者の一人が共有地全体について単独で地役権を設定する権限を有しないことは明らかであるとして、特にその理由について述べていない。
しかし、前記最判昭29.12.23が述べるように、共有地全体に対する用益権は共有者全員の負担となるから各共有者の意思の如何を問わずに用益権の成立を認めることは、同意していない共有者の持分権を無視することになって妥当でないとの判断を、本判決は当然の前提としているものと思われる。
※竹内純一稿/『判例タイムズ677号臨時増刊 主要民事判例解説』1988年12月p38〜
(3)「処分行為」の概念による処分分類
以上のように、判例・裁判例は実質的な理由から、地上権設定や地役権設定を処分分類であると判断したように読めます。
一方で、用益物権設定は一般的に「処分行為」に該当します。この点、共有者は共有物全体の処分権限はもっていません(過半数持分を有していた場合に(狭義の)管理権限を有するにとどまります)。そこで共有者は用益物権の設定をすることはできないという結論を導くこともできます。
4 令和3年改正→短期は管理分類に変わった
以上のように、以前は、共有不動産全体への用益物権設定は、一律に処分分類だったのですが、令和3年の民法改正で例外が創設されました。
(1)地上権・地役権の設定→短期は管理分類
令和3年の改正で作られた民法252条4項では、所定の期間を超えない範囲で、過半数持分を有する共有者が「賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利・・・を設定」することができるようになりました。つまり、一定期間以内の地上権、地役権の設定は、例外的に管理分類になった、ということになります。逆に、一定期間を超える用益物権の設定は処分分類から変更はありません。
地上権・地役権の設定→短期は管理分類
※法制審議会民法・不動産登記法部会第13回会議(令和2年6月2日)『部会資料27』p7
(2)地上権・地役権の最低期間との関係
なお、地上権のうち建物所有目的のもの(で法定更新の適用のあるもの)は借地借家法上30年以上となっています。
詳しくはこちら|借地借家法の借地期間の基本(法定期間は30年→20年→10年)
そこで所定の期間である5年を超えるので、自動的に処分分類になります。
逆に、地上権で5年以下の期間とすることができるのは、竹木所有目的や、鉄塔など、建物以外の工作物を所有する目的の契約ということになります。
地役権についてはこのような最低年数の制限はありません。
地上権・地役権の最低期間との関係
※法制審議会民法・不動産登記法部会第13回会議(令和2年6月2日)『部会資料27』p7
(3)永小作権設定→20年以上なので一律処分分類
永小作権も、用益物権に含まれます(前述)。ただ、永小作権はもともと民法上、最短期間が20年なので、自動的に長期、つまり変更扱いとなります。
永小作権設定→20年以上なので一律処分分類
あ 部会資料27
また、永小作権の存続期間は20年以上とされていることから(民法第278条第1項)、本文①の規律に基づいて永小作権を設定することはできないと考えられる。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第13回会議(令和2年6月2日)『部会資料27』p7
い 存続期間の条文
(永小作権の存続期間)
第二百七十八条 永小作権の存続期間は、二十年以上五十年以下とする。設定行為で五十年より長い期間を定めたときであっても、その期間は、五十年とする。
※民法278条1項
(4)使用貸借→民法252条4項の対象外方向(参考)
では、使用貸借についても、民法252条4項が適用されるでしょうか。この点、民法252条4項は、権利の設定という用語が使われています。
一般論として、「◯◯権設定」という用語を使うのは、物権か、債権のうち特殊なもの、具体的には賃借権と配偶者居住権だけです。
詳しくはこちら|「◯◯権設定」の意味・使う場面と「処分行為」との関係
「使用借権を設定する」という言葉は妥当ではないと思います。つまり、使用貸借契約には民法252条4項は(少なくとも直接は)適用されないと思われます。
使用貸借の変更、管理分類については、改正前の解釈論が現在でもあてはまると思います。
詳しくはこちら|共有物の使用貸借の契約締結・解除(解約)の管理・処分の分類
とはいっても、使用貸借契約について、民法252条4項を類推する、という形で参照、流用することはあり得ると思います。
5 「処分権限のない者による処分行為」という例外の創設
以上で説明した、令和3年改正の内容は要するに、賃借権(賃貸借)の分類を、用益物権にも拡げた、ということで、これ自体はとても単純です。
この点、物権の設定行為は処分行為にあたります。
詳しくはこちら|「処分(行為)」の意味や具体例(事実的処分・法的処分)
そこで、共有不動産への物権設定行為は処分行為に分類されるのが原則です。
原則論としては、用益物権設定は、処分権限をもつ者しかできないのです。民法252条4項は、処分権限をもたない者(共有者)に、一定範囲内の処分行為を認めた、といえます。単に、改正前の規律を変更したにとどまらず、民法の基本的な原則の例外を創設した、というものでもあると思われます。
本記事では、過半数持分をもつ共有者による短期の用益物権設定について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産の使用、活用などに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。