【一時使用目的の借地の基本(30年未満可能・法定更新なし)】
1 一時使用目的の借地の基本(30年未満可能・法定更新なし)
建物所有目的の土地の賃貸借といえば、最低30年となり、その期間が満了しても法定更新となる、つまりとても長い年月終了しない、というのは業界の常識といえます。
詳しくはこちら|借地借家法の借地期間の基本(法定期間は30年→20年→10年)
詳しくはこちら|借地契約の更新の基本(法定更新・更新拒絶(異議)・更新請求)
しかし、例外的に数か月や数年間の期間で、しかも更新がない、という借地契約もあります。一時使用目的の借地です。本記事ではこのことを説明します。
2 一時使用目的の借地の特徴(まとめ)
一時使用目的の借地は借地の基本ルールが適用されない、という特殊なものです。最初に、特徴を整理しておきます。
<一時使用目的の借地の特徴(まとめ)>
あ 最低期間(法定存続期間)の適用なし
通常の借地契約は最低でも30年となるが、一時使用目的の借地はこの適用はない
数か月や数年間という期間も可能
期間の定めなし、不確定期限を定める、ということも可能
い 法定更新の適用なし
通常の借地契約は明渡料を支払うことを含めた正当事由がない限り、法定更新となる
つまり、期間の満了で契約が終了することは実際にはとても少ない
一時使用目的の借地では期間が満了したら確実に終了する
う 建物所有目的である(前提)
建物所有目的の契約であっても、一時使用目的であれば最低期間や法定更新の適用を受けない
逆に主要な目的が建物所有でない場合にはそもそも借地借家法の適用自体がない(もちろん最低期間や法定更新の適用は受けない)
え 定期借地で代替できない
定期借地という制度があるが、事業用でも最低10年、居住用であれば最低でも30年である
ごく短期間の借地を実現するには一時使用目的の借地を使うしかない
お 後から「一時使用目的」が否定されるリスクがある
一時使用目的の借地として認められるためには、実態として短期間限定の貸し借りが合理的である必要がある
実際には、一時使用目的の借地の契約をした後から対立が生じ、結果的に一時使用目的が否定されるケースも多い
詳しい内容は以下説明します。
3 一時使用目的の借地の条文の内容
(1)借地法9条・借地借家法25条の条文
最初に、一時使用目的の借地を規定する条文を確認しておきます。条文上は、一時使用のためであることが明らかな場合、と書いてあり、例として臨時設備の設置が挙げられています。旧借地法も実質的に同じ内容です。
借地法9条・借地借家法25条の条文
あ 旧借地法
(一時使用のため借地権を設定した場合の例外)
第九条
第二条乃至前条ノ規定ハ臨時設備其ノ他一時使用ノ為借地権ヲ設定シタルコト明ナル場合ニハ之ヲ適用セス
※借地法9条
い 借地借家法
(一時使用目的の借地権)
第二十五条 第三条から第八条まで、第十三条、第十七条、第十八条及び第二十二条から前条までの規定は、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には、適用しない。
※借地借家法25条
(2)一時使用目的の借地に適用されない規定
一時使用目的の借地の条文には適用されない規定(条文の番号)が列挙されています。その規定の内容を整理しておきます。この適用されない規定リストのうち重要なのは、前述の存続期間(3条)と法定更新(5、6条)です。
一時使用目的の借地に適用されない規定
4 法定存続期間の適用除外
一時使用目的の借地であれば、法定存続期間の規定が適用されません。つまり、期間の最低限は30年というルールが適用されないのです。
そこで、数か月や数年間という期間を決めることができます。期間を定めないということも可能ですし、◯◯が実現するまでというように確定的な数字ではない決め方もできます。
法定存続期間の適用除外
あ 30年未満の期間・期間の定めなし→可能
(1)3条の30年という借地権の存続期間は適用されない。
したがって、30年未満の期間を定めた一時使用目的の借地契約はもちろんのこと、期間の定めのない一時使用目的の借地契約もありうる
(東海林講座1-283、望月=篠塚・新版注民(15)520、東京高判昭57.12.22判時1068-63)。
※五島京子稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p200
い 不確定期間→可能
右借地権は、期間を区画整理実施の時までとする一時使用のためのものと認めるのが相当である。
※最判昭和32年2月7日(要約)
※青山義武稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和32年度』法曹会1958年p33、34
5 法定更新の適用排除+民法の更新・解約の規定の適用
一時使用目的の借地の特徴の目玉のもうひとつは、法定更新が適用されないところです。期間が満了すれば確実に契約が終了する、ということになります。ただし、民法のルールで、期間が満了しても地主が明渡を請求しないと、黙示の更新となってしまいます。とはいっても、いつでも解約申入をすることができ、その1年後には契約が終了することになります。
最初から期間の定めなしとしていた場合にも解約告知から1年で終了するルールが適用されます。
法定更新の適用排除+民法の更新・解約の規定の適用
あ 裁判例
ただし、期間満了後賃借人が使用を継続する場合で賃貸人がこれを知って異議を述べなかった場合には、民法619条によって黙示の更新が認められる(名古屋高判昭45.4.27高民23-3-289)。
更新されたときは期間の定めのない一時使用の賃貸借となり、1年の告知期間を置いていつでも解約申入れをすることができる(前掲東京高判昭57.12.22)。
※五島京子稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p200
い 民法の条文
ア 民法619条・更新の推定
賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百十七条の規定により解約の申入れをすることができる。
※民法619条1項
イ 民法617条・解約申入
当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
一 土地の賃貸借 一年
※民法617条1項(1号)
6 借地の「一時使用目的」の判断(認定)
(1)「一時使用目的」の認定基準と判断要素(概要)
以上のように、一時使用目的の借地は(普通借地と比べたら)ありえないくらいの例外扱いを受けるのですが、逆に、認められるハードルは高いです。単に契約書に「一時使用を目的とする」と明記しただけでは認められません。実際の状況から、短期間限定という当事者の認識が読み取れる必要があるのです。その判断の基準や判断材料となる事情については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|一時使用目的の借地の認定基準と判断要素
(2)「一時使用目的」を判断した判例(概要)
借地の「一時使用目的」の認定基準は、実際の事案についてハッキリと判定できるものではなく、いろいろな事情を総合評価する、というものです。
そこで、過去の判断の実例、つまり判例の判断がとても参考になります。
詳しくはこちら|借地の「一時使用目的」を判断した判例(集約)
7 紛争になりやすい構造(特徴)と予防策
(1)紛争になりやすい構造(特徴)
一時使用目的の借地は、前述のように認められるハードルがある程度高いです。しかも、判断基準は単純ではなく、ハッキリと判断できないことの方が多いです。
そこで、契約開始当時は、地主・借地人ともに意向は合致しているのでトラブルにならず、期間満了となった時に、借地人が明渡を拒否するため、「一時使用目的とはいえない」と主張が飛び出す、ということがよくあるのです。
(2)定期借地で代替できない
ところで、法定更新がなく、期間満了で確実に契約が終わる方式として、定期借地があります。定期借地であれば難しい判断基準があるわけではありません。
そこで、期間満了で確実に契約終了にしたい場合には最初から定期借地を使えばいいのではないか、という発想も出てきます。しかし、定期借地で決められる期間は、事業用で最低10年、居住用であれば最低30年(または50年)です。
詳しくはこちら|定期借地の基本(3つの種類と普通借地との違い)
数年間だけ貸す、という状況では使えないのです。
この点、建物の賃貸借であれば、定期借家の最低期間の制限はないので、広く使われており、今では一時使用目的の借家(建物賃貸借)はほぼ使われない状況になっています。
詳しくはこちら|定期借家の基本(更新なし=期間満了で確実に終了する)
(3)紛争予防策=「一時使用目的」の記録化の例
一時使用目的の借地を使う場合に紛争となりやすいのは前述のように一時使用目的といえるかどうか、という点です。そこで、最初から一時使用目的であることが分かるようにしておく、ということが紛争予防になります。
具体的には、実際に土地の貸し借りが短期間に限定することが必要だと分かるような事情を契約書に明記しておき、資料があればそれを契約書に添付しておく、という工夫が有用です。特に地主側の事情については、借地人が知らされていなかった場合には一時使用目的が否定されることにつながります。契約書への明記や資料の添付でこのような認定リスクを予防できます。
紛争予防策=「一時使用目的」の記録化の例
あ 借地人側の事情
設置する予定の建物を、期間限定のイベントで使う
→イベントの内容や期間を明記する、資料を契約書に添付する
い 地主側の事情
地主が土地を使うことになる具体的な予定、計画がある
→地主が建てる予定の建物の図面や施工計画の写しを契約書に添付する
8 一時使用目的の借地の登記
(1)(登記事項の中の)目的→臨時建物所有
一時使用目的の借地は登記できます。というより、単に建物所有を目的とする賃借権(や地上権)設定の登記を申請すると、法務局としては、期間が30年以上でないと借地借家法に違反するものとして却下することになります。そこで、一時使用目的のものであることを明示すれば30年未満の期間でも登記できるのです。
肝心の一時使用目的については、証拠(記録)を提出する必要はありません。申請書の中で「臨時建物所有」と記載しておけば法務局としては一時使用目的の借地として扱います。つまり申請人の自己申告で受理されるのです。
逆にいえば、「臨時建物所有」として登記されていても、あとから訴訟で「一時使用目的ではない」と判断されるリスクは残っているということになります。
(登記事項の中の)目的→臨時建物所有
臨時設備の設置その他一時使用のために設定したことが明らかな借地権については、新法の存続期間等に関する規定の適用はない(新法第二五条)。
この借地権の設定の登記の設定の目的の記載は、「臨時建物所有」とする。
※平成4年7月7日『法務省民三第3930号』通達
(2)一時使用目的の認定→自己申告
登記申請の手続では、一時使用目的をどのように判定するのでしょうか。実は、特に一時使用目的を示す資料などは不要です。申請書(申請情報)に臨時建物所有と書いてあれば法務局としては一時使用目的の借地として扱うのです。これは登記制度特有の扱いです。
一時使用目的の認定→自己申告
あ 民事月報47巻7号
(注・平成4年7月7日『法務省民三第3930号』通達について)
そこで、本通達では、一時使用目的の借地権の設定の登記にあっては、その設定の目的にその旨を登記することとされている。
具体的には、「臨時建物所有」と記載することとされている(本通達第3の3)。
この場合、一時使用目的の借地権については、臨時設備の設置その他一時使用のために設定されたことが明らかであることを要するが、そのような事情を証する書面は登記所には提出されないので、この点については、借地権の設定の目的にその旨の記載がされていれば足り、その余の審査は要しない。
※小野瀬厚ほか稿『借地借家法の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(基本通達)の解説』/『民事月報47巻7号』法曹会1992年9月p35
い コンメンタール借地借家法
この場合には、借地権が一時使用の目的で設定されたことを証する書面を添付する必要はなく、借地権の設定の目的にその旨の記載がされていれば足りる(小野瀬=渡辺・民月47-7-35)。
※五島京子稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p203
(3)期間が長いことによる却下→難しい
実体上は、期間が長い場合、一時使用目的が否定される傾向があります。
詳しくはこちら|一時使用目的の借地の認定基準と判断要素
これについても法務局による登記申請の審査としては踏み込んだ判断は避ける傾向があります。つまり、期間が長いという理由で却下はしない、という傾向があります。
期間が長いことによる却下→難しい
判例上、一時使用と認定された事例では、二、三年以内の短期のものが多数を占めるが、五年や七年のもの、さらには一〇年(最判昭和三六年七月六日民集一五巻七号一七七七頁)や一二年六月(名古屋地判昭和五〇年九月一九日判時八○九号七七頁)とするものがある。
実体的には、一時使用目的であるかどうかは、単に期間のみではなく、その他の諸事情を総合的に考慮して判断されるべきものであり、右のような判例もあることから、一概に長期の期間を定めたことのみをもって、申請を却下することは難しいといえよう。
結局、この点については、今後の判例の蓄積により、一定の期間の限定がされることを待つこととなろう(注)。
・・・
(注)新法では、新たに存続期間を一〇年以上二〇年以下とする事業用借地権の制度が導入されたので、このことから、反射的に、一時使用目的の借地権にあっては、原則として一〇年を超える期間を定めることはできないとするのが合理的な解釈といえよう。
※小野瀬厚ほか稿『借地借家法の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(基本通達)の解説』/『民事月報47巻7号』法曹会1992年9月p35、36
本記事では、一時使用目的の借地の基本的な内容について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に土地の明渡請求など、借地(土地の賃貸借)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。