【借地の「一時使用目的」を判断した判例(集約)】

1 借地の「一時使用目的」を判断した判例(集約)

借地(建物所有目的の土地の賃貸借)は、最低期間が30年で、期間が満了しても法定更新となるのが原則です。つまり長い年月、契約が終了することはありません。この点、借地であっても一時使用目的の契約であれば、30年よりも短い期間を定めることができ、さらに法定更新がない、つまり期間満了で確実に契約が終了します。
詳しくはこちら|一時使用目的の借地の基本(30年未満可能・法定更新なし)
ただし、一時使用目的の認定基準は単純ではなく、いろいろな事情を総合評価する、というものです。
詳しくはこちら|一時使用目的の借地の認定基準と判断要素
実際には、後から一時使用目的が否定される、というケースも多いです。本記事では、実際に一時使用目的といえるかどうかを裁判所が判断した実例を紹介します。

2 昭和32年最判・正式建物建築黙認・区画整理区域内→肯定

昭和32年最判の事案は、借地の期間が1年と定められていました。期間としては短いのですが、契約開始の後に、借地人が仮設ではなく標準的な寿命の正式な建物を建築してしまいました。地主は新築に反対するどころか、祝品を贈って、さらに地主自身がその新築建物を借りて、店舗として営業に使っていました。見方によっては借地が長期間続く認識に変わったともいえます。
しかし、もともと短期間に限定したのは、その土地が区画整理区域内にあり、一部が道路となる予定が決まっていたからなのです。つまり、仮に地主が長期間貸し続けたいと思っても貸し続けることはできない状態だったのです。このことから、最高裁は結論として、一時使用目的であると判断しました。

昭和32年最判・正式建物建築黙認・区画整理区域内→肯定

土地所有者が、その土地の一部を建物所有の目的で賃貸し、貸借人がこれに店舗を建築した後残りの部分に居宅を建築することを黙認していた場合に、契約の当初、右土地が特別都市計画法による区画整理区域内にありその一部が道路敷地となることに決定していたため、賃貸人は、右区画整理実施の時まで一時賃貸する意思で契約し、残りの部分についても最初の賃貸部分と同時に返還を受ける意思で使用を黙認し、賃借人も賃貸人の右意思を知りかつこれを承諾していたものであつて、契約書にも、期間を一年、賃料を一日五〇銭と記載した外、「臨時借受」の文字を使用した事情にあるときは、たとえ右建物が良好な資材を用いた本建築で、賃貸人がその建築を承認した上、落成に際し祝品を贈り、かつ自ら右店舗を借り受け一年余にわたり使用していたなどの事情があつても、右借地権は、期間を区画整理実施の時までとする一時使用のためのものと認めるのが相当である。
※最判昭和32年2月7日(要約)
※青山義武稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和32年度』法曹会1958年p33、34

3 昭和37年最判・更新や賃料増額あり・地主側の使用予定あり→肯定

昭和37年最判の事案では、借地の期間を3年と定めましたが、その後、期間を更新して、その間に賃料の増額もありました。更新や賃料増額は長期間続くことを前提とするものなので、一時使用目的を否定する方向に働きます。
しかし、もともと短期間に限定して貸した事情は、地主の長男が医学部を卒業したらその場所で医業(医院)を行う予定があったのです。このように、短期間に限定する予定がハッキリしていたことが重視され、結論として、一時使用目的であると判断されました。

昭和37年最判・更新や賃料増額あり・地主側の使用予定あり→肯定

あ 地主の長男による使用予定→肯定方向

而して、原審確定の右事実関係の下においては、被上告人の長男が医学修業中であり、卒業後本件土地にて医家の業務を開始することを予定して居つたので、地主であり、賃貸人である被上告人が、このことを考慮し、賃貸借の期間を右医業開始確定の時までとするため、本件土地上に建築せらるべき建物を戦災復旧用建坪一五坪のバラック住宅と限定し、特に条件を一時使用とする旨を契約書に明記してなされた本件土地の賃貸借契約は、

い 更新・賃料増額→否定方向

たとえ右医家開業の時期が明確に定つて居らなかつたため、一応、賃貸借期間を三年と定め、その後医業開始に至らなかつたので、その期間を更新し或はその間に賃料を増額した事迹があつたとしても、

う 結論→肯定

これを一時使用のためのものとなすに妨げない
※最判昭和37年2月6日

4 昭和45年最判・裁判上の和解・期間20年→否定

昭和45年最判の事案では、過去に、地主と借地人の間で紛争となり、最終的に裁判上の和解として、20年間限定の借地の約束をした、というものです。
一般論として、裁判所が関与した合意(和解)は、当事者の認識をチェックしているはずなので、20年に限定すること、つまり一時使用目的が認められる傾向が強いです。
しかし、この判例では、期間が20年であり、短期間に限定したとはいえないと評価され、結論として一時使用目的が否定されました。

昭和45年最判・裁判上の和解・期間20年→否定

あ 原審判断=一時使用目的肯定(前提)

原判決は、・・・「本件和解による本件賃貸借については、・・・同法第九条のいわゆる一時使用の目的をもつて締結された賃貸借と認めるのが相当である。」と判示している。
・・・

い 期間→相当短いものに限定

そして、その期間が短期というのは、借地上に建物を所有する通常の場合を基準として、特にその期間が短かいことを意味するものにほかならないから、その期間は、少なくとも借地法自体が定める借地権の存続期間より相当短かいものにかぎられるものというべく、これが右存続期間に達するような長期のものは、到底一時使用の賃貸借とはいえないものと解すべきである。
けだし、本来借地法の認めるような長期間の賃貸借を、右にいう一時使用の賃貸借として、同法一一条の規定を排除しうべきものとするならば、その存続期間においては同法の保護に値する借地権において、更新その他個々の強行規定の適用を事前の合意により排除しうる結果となり、同法一一条の適用を不当に免れるおそれなしとしないからである。

う 20年の評価→否定方向

したがつて、本件のように、賃貸借期間が二〇年と定められた場合においては、それが裁判上の和解によつて定められたとか、右契約締結前後の事情いかんなどは、賃貸借期間満了の際、更新拒絶の正当事由があるか否かの判断にあたり、その一資料として考慮するのは格別、それらの事情のみから、右賃貸借を一時使用のためのものと断ずることはできない

え 結論→否定(差戻し)

それゆえ、原判決は、この点において借地法九条の解釈適用を誤つたものというべく、・・・原判決は、・・・破棄を免れない。・・・本件を原審に差し戻すのが相当である。
※最判昭和45年7月21日

本記事では、借地の「一時使用目的」を判断した判例について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に土地の明渡請求など、借地(土地の賃貸借)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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