【共有物に関する差押に対する不服申立(第三者異議・取消訴訟)の原告適格】
1 共有物に関する差押に対する不服申立(第三者異議・取消訴訟)の原告適格
共有不動産(共有物)への強制執行(差押)が違法である場合、第三者異議訴訟(や取消訴訟)を提起してその解消を求めることになります。
これについて、どの共有者が第三者異議訴訟を提起できるのか(原告適格)という問題があります。本記事ではこのことを説明します。
2 「共有物」の差押への第三者異議訴訟→他の共有者の原告適格肯定
(1)中野貞一郎・民事執行法→肯定
不動産がAB共有のケースで、Aを債務者とする債務名義によって、不動産(全体)の差押がなされたことを想定します。Bの共有持分に着目すると、Bとしては自己の共有持分が違法に差し押さえられたことになります。そこでBは単独で第三者異議訴訟を提起してこの訴訟でこのような主張をすることになります。つまり他の共有者であるBに原告適格がある、といえます。
中野貞一郎・民事執行法→肯定
※中野貞一郎ほか著『民事執行法 改訂版』青林書院2021年p294
(2)昭和52年大阪高判→肯定
昭和52年大阪高判も前述の見解を示しています。前提部分で共有の性質について複数説をとったように読めます。また、Aを債務者とする債務名義がある場合にはAの持分だけを差し押さえるのが正しい、という当然のことも指摘しています。
昭和52年大阪高判→肯定
あ 理由
ア 共有の性質論→複数説採用
・・・元来、共有は、二人以上の者が何ら人的なつながりなくして同一物を共同で所有する形態であり、各共有者がそれぞれ一個の所有権を有し、それらの各所有権が一定の割合において相抑制し合い、その内容の総和が一個の所有権の内容と等しい状態にあるものであって、共有物の処分は、その共有者全員の同意がなければなし得ず、各共有者の有する持分権は、同一物上に存立する他の共有者の有する持分権によって抑制をうけつつも、共有物全体を目的とする一個の所有権なのであるから、
イ 持分権に基づく妨害排除請求→肯定
各共有者は、他の共有者又は第三者が共有物に対して侵害を加えるときは、その持分権に基づき、単独で共有物全部に対する妨害の除去を請求し得るものというべきである。
い 結論→原告適格肯定
そうすると、共有者の一人に対する債務名義に基づき、当該共有者に対する強制執行として、その共有物に対し差押がなされたときは、他の共有者は、その共有物に対する侵害として、自己の持分権に基づき、単独で共有物全部につき、執行の目的物の譲渡若しくは引渡を妨げる権利を有する第三者としての異議を述べ、当該強制執行の排除を求め得ること明らかである
う 本来の執行内容→持分権の差押
(なお、附言するに、共有者の一人に対する債務名義に基づき、当該共有者が共有物について有する持分権につき強制執行をしようとする者は、民事訴訟法第六二五条所定の強制執行の方法を採るべきであり、先ず、当該持分権の差押をして、その強制執行を開始すべきであるといわなければならない)。
※大阪高判昭和52年10月11日
(3)昭和63年東京高判・動産の差押→肯定
昭和63年東京高判は、AB共有の動産について、Aの債務名義によって差押がなされたケースです。Bによる第三者異議が認められました。「付言」の中で、保存行為という位置づけが示されています。
昭和63年東京高判・動産の差押→肯定
※東京高判昭和63年11月7日
3 「持分」の差押への第三者異議訴訟→他の共有者の原告適格否定
以上のようにAへの債務名義によって共有物全体の差押がなされた場合、他の共有者Bは自己の持分の侵害が生じているので、第三者異議訴訟を提起することができます。この点、Aへの債務名義によってAの共有持分(だけ)の差押がなされた場合はどうでしょうか。
Bは自己の持分は侵害を受けていません。差押手続に問題があったとしても、Bが第三者異議訴訟を提起することはできません。
このことは前述の学説、裁判例の中でも当然の前提とされています。
4 「持分」の滞納処分の差押への取消訴訟→他の共有者の原告適格肯定
(1)平成25年最判・他の共有者も権利の制限あり→原告適格肯定
ところで、以上の説明で出てきた「差押」は民事執行法による手続を前提としていました。この点、民事執行法ではなく滞納処分としての「差押」という手続もあります。裁判所が関与しない、行政レベルの「差押」です。似ていますが、性質レベルでは違いがあります。この違いが、不服申立の原告適格にも現れます。
AB共有の不動産のAの持分(だけ)について、滞納処分の差押がなされたケースで、Bが取消訴訟を提起することを認めた最高裁判例があります。
平成25年最判・他の共有者も権利の制限あり→原告適格肯定
あ 原告適格の規範→「権利の制限を受ける」
(1) 行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきである(最高裁昭和49年(行ツ)第99号同53年3月14日第三小法廷判決・民集32巻2号211頁、最高裁平成元年(行ツ)第131号同4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号1090頁等参照)。そして、処分の名宛人以外の者が処分の法的効果による権利の制限を受ける場合には、その者は、処分の名宛人として権利の制限を受ける者と同様に、当該処分により自己の権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たり、その取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
い 「権利の制限」の有無の判断
ア 滞納者→「権利の制限」あり(前提)
(2)しかるところ、国税徴収法47条1項に基づく差押処分は、滞納者の所有する特定の財産につき、その名宛人である滞納者に対しその譲渡や用益権設定等の処分を禁止する効力を有するものであるから、滞納者と他の者との共有に係る不動産につき滞納者の持分が同項に基づいて差し押さえられた場合には、滞納者において、当該持分の譲渡や当該不動産に係る用益権設定等の処分が禁止されるため、滞納処分による差押登記後に当該不動産につき賃貸や地上権設定等をしてもこれを公売処分による当該持分の買受人に対抗することができず、
イ 他の共有者→「権利の制限」あり(及ぶ)
その結果、滞納者の持分と使用収益上の不可分一体をなす持分を有する他の共有者についても当該不動産に係る用益権設定等の処分が制約を受け、その処分の権利が制限されることとなる。
加えて、不動産につき同項に基づく差押処分がされた場合の使用又は収益については、当該不動産の価値を著しく減耗させる行為がされると認められるときに、税務署長は滞納者及び当該不動産につき使用又は収益をする権利を有する第三者に対しその使用又は収益を制限することができるものとされており(同法69条1項ただし書、同条2項)、滞納者と他の者との共有に係る不動産における滞納者以外の共有者は上記の第三者に当たるものと解されるので、滞納者の持分が差し押さえられた土地上に建物を新築するなど、当該不動産の価値を著しく減耗させる使用又は収益に関しては、滞納者のみならず、他の共有者についても同法69条所定の上記制限が及ぶこととなる。
う 結論→原告適格肯定
以上に鑑みると、滞納者と他の者との共有に係る不動産につき滞納者の持分が国税徴収法47条1項に基づいて差し押さえられた場合における他の共有者は、その差押処分の法的効果による権利の制限を受けるものであって、当該処分により自己の権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として、その差押処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たり、その取消訴訟における原告適格を有するものと解するのが相当である。
※最判平成25年7月12日
(2)取消訴訟と民事執行の第三者異議の比較→違いあり
前述の、民事執行法の差押の場面での理論では、Bの持分は侵害を受けていないから第三者異議訴訟提起はできない、という結論でした。
この点、本件の取消訴訟では、侵害を受けたかどうかという判断基準ではなく、(Bの権利が)制限を受けたかどうかという判断基準を使います。このわずかな違いが異なる結論につながっています。要するに制限を受けたの判定基準の方がハードルが低い(肯定される傾向が強い)ということです。
取消訴訟と民事執行の第三者異議の比較→違いあり
あ 「持分」の差押への第三者異議→他の共有者の原告適格否定(前提)
このように、本件において本判決と控訴審の間で判断を分けた理由の一つとして、滞納処分と類似する民事執行において、共有者の一部に対する債務名義に基づき共有物に対してなされた強制執行に対しては、他の共有者が単独でも第三者異議の訴え(民執38条)を行えるが、共有持分に対して差押えがなされた場合は、他の共有者は第三者異議の訴えを行えないとされている(中野貞一郎『民事執行法〔増補新訂6版〕』303頁)ことが挙げられるように思われる。
い 取消訴訟と第三者異議の違い
ア 第三者異議→実体的観点による判定=狭め
ただ、
第三者異議の訴えにおける上記判断は、他の共有者の権利行使が強制執行により害されるかという実体的な観点から行われているものであるのに対し、
イ 取消訴訟→訴訟要件としての判定=広め
本件における差押処分の取消訴訟における原告適格の有無は、訴訟要件の問題であり、あくまでも他の共有者が当該差押処分を求めるにつき法律上の利益を有するかという観点から行われるべきものである。
本判決は、差押処分の効果
(譲渡又は用益権設定の制限。
なお、吉国二郎ほか編『国税徴収法精解〔第17版〕』389頁も参照)や差押処分による第三者に対する使用又は収益の制限の可能性(税徴69条1項ただし書・同条2項)
から、他の共有者が「当該処分により自己の権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」に当たると判断したが、差押処分による現実の権利侵害のみならず、国税徴収法の規定から差押処分による権利制限の可能性にも着目して原告適格を肯定した点において、原告適格の判断方法としては適切であったと思われる。
※今本啓介稿/『ジュリスト1466号 平成25年度重要判例解説』有斐閣2014年4月p221
5 関連テーマ
(1)共有者による妨害排除請求
以上で説明した違法な差押(強制執行)に対する不服申立(第三者異議など)は、共有物への侵害に対する妨害排除請求の1つです。共有物の侵害に対する妨害排除請求にはいろいろなパターンがあります。
たとえば、AB共有の不動産について、違法な(実体を欠く)「AからCへの持分移転登記」がなされたケースで、平成15年最判は、Bが抹消登記請求をすることを認めました。平成15年最判の理論を本記事の差押のケースにあてはめると、Bが第三者異議訴訟を提起できる、ということになります。このように、このテーマについては理論が複雑になっています。
詳しくはこちら|共有者から第三者への妨害排除請求(返還請求・抹消登記請求)
本記事では、共有不動産(共有物)に関する差押に対する不服申立の原告適格について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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