【区分所有建物の敷地の賃借権・賃料債務の性質・解除の範囲の解釈論】
1 区分所有建物の敷地の賃借権・賃料債務の性質・解除の範囲の解釈論
区分所有建物の敷地利用権が賃借権や地上権(借地権)であるケースもよくあります。敷地について賃貸借契約や地上権設定契約がなされている、というケースのことです。
この場合には、この賃借権や地上権そのものの性質や、賃料(地代)債務の性質について、解釈論(複数の見解)があります。どの見解を採用するかによって、具体的な結論が大きく違ってきます。
本記事では、これについていろいろな解釈を紹介、説明します。
2 区分所有建物の敷地の賃貸借に関する解釈のまとめ
(1)論点と見解の整理
最初に、本記事で説明する解釈論の中身を整理しておきます。賃借権(地上権)の性質の解釈に関しては主に3つ、賃料(地代)債務の性質についても主に3つに分けられます。そして、解除について、どの範囲で解除ができるのか、ということも見解が分かれます。
<論点と見解の整理>
あ 「賃借権・地上権(借地権)」の性質
(ア)合有説(イ)準共有説(ウ)単独説
い 「賃料債務」の性質
(ア)合有債務説(イ)不可分債務説(ウ)分割債務説
う 解除の範囲
個別的解除ができるか、解除の不可分性の適用の有無なども関連して問題となる(後述)
え 一般的な賃貸借における扱い(参考)
区分所有建物ではない建物(戸建てなど)の敷地の賃貸借において賃借人が複数人であるケース
賃借権は準共有(あ(イ))となり、賃料債務は不可分債務(い(イ))となる
詳しくはこちら|複数の賃借人(共同賃借人)の金銭債権・債務の可分性(賃料債務・損害金債務)
(2)実務において優勢な見解の要点
以上のように主に3つの事項について複数の見解があり、学説や裁判例として、この両方の解釈を示すものや、一方だけを示すものなどがあります。個々の見解の内容は複雑なので、結論として実務で採用される傾向のあるものだけを最初にまとめておきます。
<実務において優勢な見解の要点>
あ 優勢な見解
賃料債務は分割債務である
個別的解除ができる
い 個別的解除の具体例
区分所有者Aが地代を支払わない
区分所有者B、C・・・は地代支払義務を負わない
地主が賃貸借契約を解除できるのはAとの間の賃貸借だけである
(B、C・・・の賃貸借は存続する)
(地上権の場合は「解除」ではなく「地上権消滅請求」となる)
地主はAの専有部分(区分所有権)について売渡請求をすることができる
詳しくはこちら|区分所有権の売渡請求(区分所有法10条)の基本(趣旨・典型例・行使・効果)
3 髙部眞規子氏見解
(1)髙部眞規子氏による複数の見解の整理
髙部眞規子氏の論文の中では、前述の2つの論点についてそれぞれ3つの見解がある、ということを説明しています。そして、どの見解をとるかによって、解除の時に違う結果が導かれる、という説明もしています。
髙部眞規子氏による複数の見解の整理
あ 賃借権の性質→3説の紹介
そこで、各区分所有者の有する敷地の賃借権の性質について検討する。
大別すると次の三説に分かれる。
(1)合有説
借地権は全区分所有者に合有的に帰属するとする説
(2)準共有説
借地権は全区分所有者の準共有であるとする説
(3)単独説
借地権は原則として各区分所有者に単独に帰属するとする説
※髙部眞規子稿『地代不払いと借地契約の解除』/塩崎勤編『裁判実務大系 第11巻 不動産訴訟法』青林書院1987年p208
い 賃料債務の性質
ア 3説の紹介
横割の区分所有の場合、区分所有者の敷地所有者に対する賃料債務の性質についても、次のように見解が分かれる。
(1)合有債務説
区分所有者の賃料債務は全員に合有的に帰属するとする説
(2)不可分債務説
賃料債務は全区分所有者の不可分債務になるとする説
・・・
(3)分割債務説
賃料債務は各区分所有者の別個独立の債務であるとの説
イ 3説それぞれの内容
右(1)及び(2)説によれば、区分所有者の一人が賃料を支払わないとき、全員に対して履行を催告し、全員が賃料支払いを履行しないときに初めて賃貸借契約を解除できる。
そして、不払いの区分所有者に代わって賃料を支払った者は、求償権を取得し、不払いの区分所有者の区分所有権に先取特権(区分所有法七条)を取得することになる。
しかしながら、右(1)及び(2)説によれば、一人の区分所有者が賃料を支払わないとき、他の区分所有者に対してその履行を請求でき、特定の区分所有者を狙い打ちにでき、請求された一人の区分所有者が極端な場合全員の賃料額を支払わなければならないとすると余りに苛酷であるし、また、一人の区分所有者の賃料不払いで全員から履行されなかった場合、賃貸借契約の全部が解除されることになる、という点で不合理があることを否定することはできない。
これに対し、右(3)説によれば、区分所有者の一人が賃料を支払わないとき、賃貸人は不払いの区分所有者のみに個別的に履行の請求、催告をすることができ、したがって賃貸借契約の解除も個別的にできる。
さらに、解除の結果敷地利用権を有しない区分所有者に対しては区分所有権売渡請求権(区分所有法一〇条)も行使できる。
※髙部眞規子稿『地代不払いと借地契約の解除』/塩崎勤編『裁判実務大系 第11巻 不動産訴訟法』青林書院1987年p209、210
(2)髙部眞規子氏見解→原則=単独+分割債務・例外=準共有+不可分債務
髙部眞規子氏自身の見解としては、賃借権は原則として単独説をとっています。この場合理論的に、賃料債務は分割債務(説)ということになります。区分所有者Aが地代を滞納した場合はAに対してだけ解除することができる(Aの賃貸借契約だけ終了する=個別的解除ができる)ということになります。
ただし、特約や団体性が認められるケースでは例外的に賃借権は準共有となり、賃料債務は不可分債務となる、という見解をとっています。
髙部眞規子氏見解→原則=単独+分割債務・例外=準共有+不可分債務
あ 賃料債務の性質
ア 原則→分割債務
前記のとおり、横割の区分所有においては、各区分所有権の目的物は他の区分所有権の目的物を媒介として敷地の地盤に支えられ、その関係では各区分所有者はその建物全体の敷地に対する利用を共同して行っているのではあるが、各区分所有者の所有は個別的な所有であって、敷地に対する共同利用も直接的ではなく間接的であり、したがって、各区分所有者が常に賃貸人に対し共同の債務を負担するとするのは妥当でない。
以上のように考えると、賃料債務は原則として分割債務であって、
イ 例外→不可分債務
ただ、特にその旨の特約があるか、又は区分所有者間に共同の目的をもった団体性が認められる場合(管理組合が作られているときなどが考えられる)に限り、賃料債務は不可分債務であると考えるのが妥当である。
い 賃借権の性質
ア 原則→単独
そして、前記(一)の(1)ないし(3)、すなわち借地権の性質と、右(二)の(1)ないし(3)、すなわち賃料債務の性質とは、必ずしもリンクする訳ではないが、賃料債務を右のように解するのが妥当であるとすれば、賃借権の性質についても、原則として各区分所有者に単独に帰属するが、
イ 例外→準共有
その旨の特約があるとき又は区分所有者間に共同の目的をもった団体性が認められるときには借地権を準共有すると解するのが妥当であろう。
※髙部眞規子稿『地代不払いと借地契約の解除』/塩崎勤編『裁判実務大系 第11巻 不動産訴訟法』青林書院1987年p210
う 解除の範囲→個別的解除可能
前記のように、賃料債務が原則として各区分所有者の分割債務で、賃貸人が賃料不払いの借地人に対してのみ個別的に請求、催告、解除することができると解するときは、賃貸人が借地人の一人の賃料不払いを理由として賃貸借契約の全部を解除することはできず、当該借地人に対して一部解除をなすことができるにすぎないものと解すべきである。
この結論は借地権の性質を各区分所有者の単独に帰属するものと解すれば、当然に導かれるものである。
※髙部眞規子稿『地代不払いと借地契約の解除』/塩崎勤編『裁判実務大系第11巻不動産訴訟法』青林書院1987年p210、211
4 浜田稔氏見解→原則=単独+分割債務・例外=準共有+不可分債務
浜田稔氏の見解の結論も前述の髙部眞規子氏と同じです。
浜田稔氏見解→原則=単独+分割債務・例外=準共有+不可分債務
あ 賃借権の性質→一律の解釈を否定(前提)
区分所有者の有する賃借権をどのようなものと解するかは、まさに、右のような実際上の差異を認めることがはたして妥当であるかどうかという点にかかっているのであり、そうだとすれば、区分所有者の賃借権をあらゆる場合を通じてすべて一律に取り扱うのは適切でない、と考えられる。
い 原則→単独説+分割債務説
前述のように、横割りの区分所有においては、各区分所有権の目的物は他の区分所有権の目的物を媒介として敷地の地盤に支えられ、その関係では、各区分所有者はその建物全体の敷地に対する利用を共同して行なっているのではあるが、各区分所有者の所有は個別的な所有であって、敷地に対する共同利用も直接的ではなく間接的であり、したがって、各区分所有者が常に地主に対し共同の債務を負担するとするのは、妥当であるまい。
すなわち、横割りの区分所有者の有する賃借権も、原則としては個別的なものであり、
う 例外→準共有説+不可分債務説
ただ、特にその旨の特約があるか、または、たとえば、共同ビルの建築希望者が団体を作り、共同して土地を賃借し、区分所有建物を建築するというように、区分所有者間に共同の目的をもった団体性が認められる場合には、賃借権を準共有し、区分所有者は地主に対して不可分債務を負担すると解すべきであろう(篠塚昭次・前掲書一五二頁・一五三頁も、借地権は原則として単独帰属であり、区分所有者が団体を作っている場合には、賃借権は組合に帰属し、各区分所有者は、連帯債務を負担するものとされている)。
※浜田稔稿『建物の区分所有と借地権の関係』/中川善之助ほか監『不動産法大系 第3巻 借地・借家 改訂版』青林書院新社1977年p117、118
5 新田敏氏見解→分割債務・個別的解除可能
新田敏氏は、賃料債務について、分割債務であるという見解をとっています。そこで(自動的に)個別的な解除ができる、ということになります。
新田敏氏見解→分割債務・個別的解除可能
あ 特殊性(前提)
ところで全体として一個の建物が敷地を賃借して建つ場合であっても、区分所有の場合にはその状態が大きく異なっている。
すなわち区分所有建物の場合には、区分所有権の対象外である構造上の共有部分や共用部分・公道に至る通路など、利用・利益の共同性を否定できない部分があるとしても、区分所有権は個々の専有部分について成立するものであるから、通常は利用もその限度に留まるのであって、他の専有部分についてまで利用権能を持っているわけではない。
その意味では民法二四九条が規定する全部利用権能を―極く限られた共用部分以外には―保有していないのである。
い 分割債務
この区分所有権の分有性、つまり専有部分と共用部分である相対的に著しく少さい共有部分からなる建物の所有関係からすれば、その共有部分の共同利用・共同利益性から、その敷地の賃料債務について独立して全債務(不可分債務)を負担するとみるよりは、その単独利用・単独利益性に注目して、単独所有である専有部分に対応する持分割合の債務(共用部分の持分割合も同一比率でそれに含められる)を負担する(可分債務)と解する方が権利の実態に合致しているのではなかろうか。
借地上の区分所有建物の賃料支払が、先に挙げた判例・通説にもかかわらず持分割合で支払われているのは、単なる慣習ではなく、右の権利構造に実質的に支えられた意識に基づくものとみられる。
つまり区分所有建物が存在する限り、その敷地の賃借権の持分は区分所有権をそこに適法に所有するための一つの抽象化された権能に転化しているといえよう。
う 売渡請求権との関係→分割債務説と整合
さらに区分所有法七条(注・現在の区分所有法10条)は、専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利を有しない区分所有者があるときは、その専有部分の収去請求権者は、その区分所有権の売渡しを請求できるものとしている。
借地権に基づいて建てられた区分所有建物について、本条の適用を受ける場合、すなわちその当該専有部分を所有する敷地の権利者が、事後的に権利を失う場合としては、現実には、賃料不払による解約の場合と、専有部分の譲渡に伴う借地権(の持分)の無断譲渡が、信頼関係を破壊するものとして民法六二一条により解約される場合の二つである。
賃借権に基づく建物の全一体性を理由に賃料債務を不可分債務と解すると、個々の区分所有者に全額請求し、かつ全区分所有者に催告し、解約することになろうから、建物全体の収去のみが問題となり、本条の適用の余地はなくなりそうである。
また賃借権持分の譲渡が、信頼関係を破壊するということも、主として譲受人の賃料支払能力を判断基準とするものとすれば、他の区分所有者へも全額請求しうるという不可分債務説に立てば、この場合も賃貸人の保護を、持分譲渡の段階で考慮すべき必要性は小さく、本条適用の可能性もなくなりはしまいか。
しかしながら、本条の立法趣旨は、区分所有者が敷地の権利を有しないときに、敷地の権利者はその専有部分の収去を請求しうることになるが、その部分のみの収去が事実上不可能であるか、仮りに可能でもそれを許すことは国民経済の観点から損失であるから、収去に代えて、区分所有権の売渡し請求を認めたものである。
とすれば、この規定はもともと敷地権利者と区分所有者との個別的関係を前提としたものであって、右の二つの場合は、いずれも本条によって解決することを予定しているとみるべきであろう。
不可分債務説に立つと、本条の適用はほとんどなくなって、各区分所有者は、全額の賃料を負担する地位に立ち、既に指摘されているように、予想外の苛酷な負担を負わされることになろう。
え 区分所有関係の喪失ケース→不可分債務
右に述べたように、区分所有者の敷地利用の実質的形態および区分所有法七条の規定から、借地権の準共有であっても、賃料債務については可分債務と解すべきものと考えられるが、これは、右に述べたことから明らかなように、区分所有建物が全体として存立している場合であって、数人で敷地を賃借して、建物が築造されるまでの間およびなんらかの理由で建物が滅失・段損して、既存の区分所有権が成立しえなくなったときには、その敷地の利用について、準共有者としての共同利用・共同利益の状況にあるから、賃料債務を不可分債務と解して妨げない。
お 1戸(専有部分)が共有のケース→不可分債務(参考)
また借地権に基づく区分所有建物の所有者の賃料債務は可分債務であるとしても、この一個の区分所有権が共有とされているときには、この共有者の地代債務は、準共有(の準共有)として、かつ共同利用・共同利益性を有するから不可分債務となる。
※新田敏稿『区分所有建物の存立を目的とする土地賃借権』/『慶應義塾創立一二五周年記念論文集』慶應義塾大学法学部1983年p159〜161
6 玉田弘毅氏見解→原則=準共有+分割債務+解除の不可分性肯定
玉田弘毅氏は賃借権は準共有であることを前提とします。一般的な建物(戸建てなど)敷地の賃貸借で賃借人が複数人である場合の解釈と同じ解釈です。この点、一般的な賃借権の準共有の場合の賃料債務は不可分債務となります(前述)。
この点、玉田弘毅氏は、区分所有建物の敷地の賃貸借の場合には、特殊性があるので賃料債務は分割債務になるという見解をとっています。
ただし、あくまでも賃借権は準共有ということが前提です。つまり、賃貸借契約は全体で1個ということになります。そこで、解除の不可分性が適用されるという見解をとっています。つまり、地主(賃貸人)が解除するには区分所有者(賃借人)の全員に対して催告し、かつ解除の意思表示をする”ことが必要、という見解です。
玉田弘毅氏見解→原則=準共有+分割債務+解除の不可分性肯定
あ 賃料債務の性質
ア 原則=分割債務
借地権の準共有における地代・賃料債務の性質であるが・・・
これは、要するに、区分所有者の1人に対し区分所有者全員の支払うべき金額全部の支払いを求めることの当否ということであろう。
区分所有者が2人か3人くらいならともかく、50人、60人といる場合に、請求された人の区分所有者が全員の支払額を支払わなければならないというのでは余りにも苛酷であるのみならず、共同賃貸借契約の全部解除にまで発展するというのは、はなはだ不都合なことであって適当でないから、可分債務と解すべきなのではなかろうか。
それに、賃借権の準共有だからといって必ず地代支払が不可分債務でなければならないという論理的必然性はないのではないか、ということも付言することができよう。
ここでは、不可分債務説でなく、可分債務説に従っておきたい。
イ 個別的解除可能
したがって、土地所有者は、地代を滞納している区分所有者に対してのみ催告のうえ同人の土地賃借権の準共有持分を解除すればよいことになり、この方が、他の区分所有者に対して格別の影響もなく、区分所有の実情に即するであろう。
ウ 例外=合有
なお、借地権の準共有にいう「共有」を合有とみるのが至当な場合は、地代・賃料債務を連帯債務ないし合有債務と解すべきであることはいうまでもなかろう。
※玉田弘毅著『建物区分所有法の現代的課題』商事法務研究会1981年p126、127
い 解除の不可分性→適用あり
第三点は、借地権の準共有すなわち共同借地権設定契約の解除であるが、この契約は一時的契約でなく継続的契約であるから、「解除」といっても、その性質は、解除でなく解約(告知)である。
民法は、五四〇条以下で、一時的契約の解除に関する通則規定は定めたが、継続的契約の解除に関しては何らの通則規定を定めなかった。そこで、結局、継続的契約の解除に関しては、一時的契約の解除に関する規定を性質に反しない限り適用(厳密にいえば、準用)するほかなく、共同借地権設定契約の解除に関しては解除権不可分の原則を定めた五四四条の規定の適用があると解すべきであろう。
したがって、借地権の準共有の地代・賃料支払義務(債務)の不履行を理由に、土地所有者または土地賃貸人が契約を解除するには、借地権の準共有者全員に対して催告の上解除しなければならないことになる。
※玉田弘毅著『建物区分所有法の現代的課題』商事法務研究会1981年p127
7 内田勝一氏見解→分割債務
内田勝一氏は賃料債務について分割債務であるという見解をとっています。そこで自動的に個別的解除ができる、ということになります。
内田勝一氏見解→分割債務
あ 賃借権・地上権の性質と賃料債務の性質の見解→3説の紹介(前提)
区分所有者の有する敷地に関する賃借権・地上権の性質については合有説、準共有説、単独説があるとされ、これは地代支払い義務の性質に関連しており、合有償務説、不可分債務説、分割債務説がありうる。
い 賃料債務の性質→分割債務説
本件(注・東京地判平成7年6月7日)でもそうであったが、特定の区分所有者が狙い打ちされ、全員の賃料額の支払いをしなけれとするのは不合理であり、分割債務として個別的に請求、履行、不履行解除されると解するのが妥当である(高部眞規子「地代不払いと借地契約の解除」塩崎勤編『裁判実務体系一一・不動産訴訟法』二〇八頁以下参照)。
※内田勝一稿『不動産』/『判例タイムズ918号』1996年p49
8 新版注釈民法→個別的解除可能
新版注釈民法は、区分所有法10条(売渡請求権)の説明の箇所で、個別的解除ができるという説明をしています。
新版注釈民法→個別的解除可能
※川島一郎・濱崎恭生・吉田徹稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p644
9 昭和34年東京地判→原則=単独(分割債務)
昭和34年東京地判は、賃借権の性質として、単独説をとっています。この裁判例の中では出てきていませんが、単独説をとる場合は自動的に賃料債務は分割債務となり、個別的解除ができる、ということになります。ただし、この判断には事案の特殊性が影響しているという読み方もできます。
昭和34年東京地判→原則=単独(分割債務)
※東京地判昭和34年10月21日
10 平成7年東京地判→原則=分割債務(地上権)
平成7年東京地判は、敷地利用権が地上権であったケースです。地代について、分割債務であるという見解をとりました。
平成7年東京地判→原則=分割債務(地上権)
あ 一体処分の原則(前提)
したがって、区分所有の建物の敷地利用権が地上権であるときには、専有部分の所有者は、専有部分に対応する地上権の割合的持分を有し、建物についての専有部分と敷地についての地上権の割合的持分とを一体的な財産権として管理処分せざるを得ない。
い 分割債務説
そして、敷地利用権としての地上権の割合的持分を取得するためにその対価として地代を支払う定めをする必要が生じるときがあるが、右の場合地代を支払うべき理由が地上権の割合的持分を取得することにある以上、特別の約束がない限り、その地代は、地上権全体の設定の対価ではなく、地上権の持分割合の設定の対価となるというべきであり、このことは、事柄の性質上当然のことといわなければならない。
そして、そのような地上権の割合的持分が区分所有建物の専有部分と共に譲渡されるときも、特段の事情のない限り、その譲渡後の地代は、地上権の持分割合の設定の対価となるというべきである。
※東京地判平成7年6月7日
11 鈴木禄弥氏見解→合有債務+個別的解除否定
以上のように、学説、実務ともに、少なくとも賃料債務については分割債務になるという見解がとても優勢です。そこで、個別的解除が可能になるという見解も優勢です。
この点、古い時代の見解ですが、鈴木禄弥氏は賃料債務の性質は合有であり、個別的解除はできない、という見解をとっています。
この見解を採用した場合、区分所有者Aが地代を滞納した場合、区分所有者Bも(Aが支払うべき)賃料債務を負っているため、Bとしては肩代わりして支払わないと賃貸借の全体を解除されることになります。Bが肩代わりしてA分の地代を支払った場合、Aに求償できるのは当然として、民法253条(持分買取権)によりAの賃借権の準共有持分を取得できることになります。
持分買取権については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有持分買取権の基本(流れ・実務的な通知方法)
鈴木禄弥氏見解→合有債務+個別的解除否定
あ 賃料債務の性質→合有債務
(注・「区分所有建物敷地の借地権の準共有」について)
地代債務はーたとえ実際にはX・Y(注・区分所有者=賃借人)が別々にA(注・地主)に支払っている場合でも―一種の合有債務であるから、
い 解除の不可分性→適用あり
地代延滞がある限度以上に達すれば、Aは、XとYとに対して借地契約解除の意思表示をして、借地権を全面的に消滅させることができる(ただし、原則としてその前提として、X・Y両者に対する催告が必要である、というべきであろう)、と解すべきである。
う 解除後の収去または売渡請求
かくして借地権が消滅すれば、Aは、XおよびYに対して各建物部分の収去請求ないし売渡請求権を選択的に行使しうることになる。
※鈴木禄弥著『物権法の研究 民法論文集1』創文社1976年p477
え 他の区分所有者による解除回避の対応
ア 地代支払
Yが、この結果を避けるため、Xの分の地代をもAに支払った場合には、Yは、Xに対し求償権を有することになる。
イ 求償権と持分買取権
この求償権は、区分所有法六条の先取特権によって担保されるばかりでなく、Yが求償に応じないときは、民法二五三条二項(二六四条による準用)の規定にしたがって、Xの準共有持分を取得することができる。
ウ 区分所有権の売渡請求との関係
後の途がとられた場合には、一応、区分所有権(依然、Xに帰属)と準共有持分のセットが破壊されることになるが、Yは、さらに区分所有法七条によりXの区分所有権の売渡を請求することができ、これによって、破壊されたワンセットの状態が回復されることになる。
※鈴木禄弥著『物権法の研究 民法論文集1』創文社1976年p477、478
本記事では、区分所有建物の敷地の賃貸借(地上権)や賃料債務の解釈論について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に区分所有建物の敷地(土地)の賃貸借や地上権に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。