【地主から地代増額請求を受けた借地人の具体的対応策(法的理論と実務的アクション)】

1 地主から地代増額請求を受けた借地人の具体的対応策

地主が地代増額を請求してきた場合、借地人は適切な対応が求められます。本記事では、地代増額請求の法的根拠や判断基準、借地人の具体的な対応方法、交渉や裁判の流れ、借地契約更新との関係などを解説します。また、地主との交渉のポイントや弁護士への相談タイミング、費用の目安についても触れています。
実際に地代請求を受けた方は参考にしてください。

2 地代増額請求の妥当性(認められるかどうか・認められる金額)

(1)地代増額請求の根拠→借地借家法11条

地代増額請求を受けたからといって、法的に地代が増額される(認められる)かどうかは別です。地代増額が認められるのは地代の額が不相当となった場合です。地代の額が不相当といえるかどうかは、主に経済事情の変動により判断されます(借地借家法11条)。
詳しくはこちら|改定賃料算定手法の種類全体(主要4手法+簡易的手法)

(2)固定資産税と連動する発想→あくまで参考

よく、固定資産税が10%上がったから地代も10%上がるという単純な発想があります。この考え方も、簡易的な計算方法としてはよく使われます。
詳しくはこちら|公租公課倍率法の基本(裁判例・倍率の実情データ)
しかしあくまでも参考であり、固定資産税が上がっても地代は上がらない、ということもあります。

(3)固定資産税以外に考慮される事情→地価・消費者物価指数・周辺地代など

しかし、正確に地代の計算をする場合には、固定資産税以外に周辺の地代相場や地価の上昇、消費者物価指数の変動なども考慮されます。増額が認められるかどうかは、これらの要素を総合的に判断し、現在の地代が不相当に低額となっているかどうかで決まるのです。
詳しくはこちら|改定賃料算定の総合方式(一般的な比重配分の傾向や目安)

(4)実情→増額なし・10〜20%増額

以上の説明は、正式な判断(算定)方法を大幅に簡略化したものです。いずれにしても、いろいろな事情によって地代増額の判断がなされます。交渉や裁判の実例としては、増額が認められないこともありますし、認められる場合には10〜20%程度アップする、ということが多いです。もちろん、この幅を外れる実例もあります。

3 増額請求に対する具体的な対応方法

(1)拒否する→地主はあきらめるか調停申立をする

地主から地代増額請求の通知が来た場合の具体的対応としては、まず、拒否するという選択肢があります。そうすると、今後は地主の選択肢としては、そもそも地代増額をあきらめる、最初の地代よりも少し低い(増額幅が小さい)金額を提案する、または、最初の提案金額を維持して調停申立をする、というのが選択肢になります。
ちなみに、最終的に裁判所が地代の金額を決める手続は訴訟ですが、地代増額請求に関しては、訴訟の前に調停の申立をするルールになっています。
詳しくはこちら|賃料改定事件の裁判手続(調停前置の適用範囲と例外)

(2)応じる

借地人側の選択肢としては、地主の主張どおりの地代の金額を受け入れる、というものももちろんあります。いわゆる満額回答のことです。

(3)増額幅を抑える交渉をする

拒否と満額回答の中間として、小さい増額幅であれば地代増額に応じる、という回答もあります。要するに、地主と増額幅の交渉をする、という選択肢です。

(4)地代減額請求をする

借地人としては、逆に地代を減額する請求をする、という選択肢もあります。つまり、現状の地代はむしろ高すぎるという主張をする、ということです。

(5)選択肢を選ぶ判断

以上のように、地代増額請求を受けた借地人の立場で対応する選択肢は幅広いです。実際には、地主に地代増額請求の根拠や資料を確認した上で、法的に増額が認められる可能性が高いかどうか(逆に減額が認められる可能性があるかどうか)という予測をした上で、さらに地主側の対応も予測して、どの選択肢が最適なのかを判断することになります。この判断を精度高く行うためには、法律(借地借家法)や不動産鑑定評価やの専門知識が必要になります。

4 交渉や裁判の手続の流れ

地代増額請求がなされたケースで、解決までの流れを簡単にまとめると、交渉、調停、訴訟という3段階ということになります。

<交渉や裁判の手続の流れ>

あ 地主からの増額請求

地代増額請求の通知書(書面が送付されてくる)

い 交渉

借地人が増額請求への回答をする
増額拒否や一定の増額幅を認める、など

う (交渉決裂の場合)調停申立

交渉が決裂した場合、地主はあきらめるか、調停を申し立てる
調停では、調停委員(中立の立場)を介して話し合いが行われる

え (調停不成立の場合)訴訟提起

調停が成立しない場合、地主はあきらめるか、賃料の金額を確認する訴訟を申し立てる
訴訟の申立がなされた場合、当事者が証拠(資料)を提出し、理論的な主張をする

お 和解または判決

訴訟の中で和解が成立するか、裁判所が判決として地代の金額を決める

5 地代増額と借地契約更新の関係

借地期間満了(更新)のタイミングで、地主が地代を見直して、増額請求をする、というケースもよくあります。この点、借地契約の更新と地代増額は、理論的には直接関係ありません。「借地人が増額に応じないと更新できない」ということはありません。
借地借家法により、「正当な事由」がない限り更新拒絶は認められないのです。「正当な事由」が認められるハードルは高く、通常、地主が明渡料(立退料)を支払うことが(正当な事由の中身の1つとして)必要になります。
詳しくはこちら|借地の更新拒絶・終了における『正当事由』・4つの判断要素の整理
地主と借地人の話し合いが決裂して、「更新契約書」の調印ができないままでも借地契約は法定更新となり、存続します。終了しないのです。
詳しくはこちら|借地契約の更新の基本(法定更新・更新拒絶(異議)・更新請求)
もちろん、話し合いの結果、ある程度の金額の地代増額で地主・借地人が合意して、「更新契約書」の調印をして解決に至る実例も多いです。

6 地代増額に関する地主との話し合いのポイント

(1)データを元にする

地代増額の請求を受けた借地人が、話し合いで解決を目指すためのポイントを説明します。
まず、客観的なデータ(情報・資料)を元にする、ということです。前述のように、地代増額の法的な判断材料となるデータとしては、周辺の地代相場や地価、物価などの推移の統計資料があります。すぐに集められないデータについては、専門家を頼ることになります(後述)。
判断材料となるデータがあれば、地主の主張が妥当かどうかを判断できますし、また、地主に対して「妥当・適切な賃料の金額」を説明する時に使えます。地主の理解を得ることにもつながります。

(2)柔軟な対応(提案の工夫)

地主は単純に地代の増額だけを求めてきているケースでも、地代以外の要素も盛り込んだ解決(和解)となる実例も多いです。たとえば、地代の金額については地主の要求に応じるけれど、将来の更新料や建物の増改築の承諾料をなしにする、または低くする、という解決もあります。逆に、地代を増額しないけれど、将来の更新料を支払うことにする、という解決もあります。
いずれにしても、交渉の中では地代の金額以外の要素で提案に盛り込めるものはないか、ということを考える(工夫する)ことで、解決に至ることもあるのです。

7 弁護士に相談すべきタイミングと費用の目安

(1)弁護士に相談するタイミング・状況

地主から地代増額の請求を受けた借地人が弁護士に相談した方がよいタイミングについては「正解」はありません。
弁護士に相談する典型的な状況を整理します。

<弁護士に相談するタイミング・状況>

あ 増額請求の妥当性判断が難しい場合

例=地主が地代増額を要求しているが、その地代の金額が妥当かどうか分からない
弁護士は各種資料から地代増額が認められる可能性を判断する
場合によっては不動産鑑定士を紹介し、鑑定評価の依頼を推奨することもある

い 地主との交渉が難航している場合

例=地代の金額やその他の条件について、地主と借地人で提案を出しているが、いずれも譲歩しない状態となった
弁護士は、地代増額が認められるかどうか、また、弁護士が介入することが妥当かどうかを判断する

う 調停や訴訟を申し立てられた場合

例=地主が調停や訴訟の申立をしてきた
通常、弁護士が代理人となって法的な主張や資料(証拠)提出をした方がよい

早めの段階では、弁護士のアドバイスの精度は高くないですが、次のステップに進んだ時に、再度相談をするなど、スピーディーに動ける態勢を作ることができます。規模にもよりますが、基本的には地代請求を受けた最初の段階から弁護士に相談するメリットは大きいです。

(2)弁護士への相談・依頼の費用の目安

弁護士に相談する(アドバイスを得る)、さらに交渉や裁判手続を依頼する場合に要する費用は、案件内容や弁護士(事務所)によって大きく異なります。地主が主張する地代の増額幅が5万円程度である事案を想定して、目安となる金額をまとめてみました。

<弁護士への相談・依頼の費用の目安>

あ 事案の例(規模)

地主が地代を(月額)5万円増額することを請求(主張)している

い 弁護士費用の目安

(ア)法律相談料 (無料〜)1万円程度(イ)代理人交渉の着手金 30万円程度(ウ)調停の着手金 (追加)20〜40万円程度(エ)訴訟の着手金 (追加)20〜40万円程度(オ)解決の際の成功報酬 30〜40万円程度

う それ以外にかかる費用

適正な地代の金額(継続賃料)の鑑定(不動産鑑定士への依頼) 20〜50万円程度
(賃料の鑑定は必ず必要になるわけではありません。)

当事務所の不動産に関する弁護士費用の基準はこちらをご覧ください。
弁護士費用|不動産

本記事では、借地における地代増額請求への対応方法について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に地代増額に関する問題に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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