【労働基準法(労働契約法)の労働者性の判断基準と判断の方法(判例・学説)】

1 労働基準法(労働契約法)の労働者性の判断基準と判断の方法(判例・学説)

労働基準法の「労働者」にあたるかどうかが問題となるケースは多いです。「労働者」にあたるかどうかの判断基準は形成されていますが、はっきりしないところもあります。具体的事案について明確に判別できないことも多いです。
本記事では、労働基準法の「労働者」の判断基準や判断の方法について、判例や学説を紹介します。
なお、判断の要点については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|労働基準法の「労働者」の定義や判断基準(要点)

2 労働基準法9条の条文

労働基準法上の「労働者」は、条文に定義自体はあります。最初に確認しておきます。条文はシンプルなのでいろいろな解釈が拡がっているのです。

労働基準法9条の条文

第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
※労働基準法9条

3 古い判例→「指揮監督下の労働」「賃金支払い」の2要素のみ

「労働者」の解釈(判断基準)を示す多くの判例がありますが、時代によって少しずつ変化しています。以下、順に説明します。
初期の最高裁判例では、「指揮監督下の労働」と「賃金支払い」という2つの要素のみで労働者性を判断していました。この時期は労働者性の判断が比較的単純であり、現代の複雑な雇用形態に対応していない面がありました。

古い判例→「指揮監督下の労働」「賃金支払い」の2要素のみ

裁判例を見ると、以前の最高裁判例に、外務員につき委任ないし委任類似であって雇用契約の関係ではないから労基法の適用はないとしたもの(山崎証券事件=最1小判昭36.5.25民集15巻5号1322頁)、
技術指導等をしていた嘱託員につき労働契約関係にあるとして解雇権濫用法理の適用を肯定したもの(大平製紙事件=最2小判昭37.5.18民集16巻5号1108頁)があった。
これらのものと古い時期の下級審裁判例では、判断はほぼ「指揮監督下の労働」とそれに対する「賃金支払い」の面からのみなされていた。
※下井隆史著『労働基準法 第5版』有斐閣2019年p29

4 その後の裁判例の傾向→総合判断

その後、裁判例は「専属性の度合」、「収入額」、「報酬と生計の関係」など、さまざまな要素を加えた「総合判断」を採用するようになりました。これは、多様化する雇用形態に対応するための変化であり、より柔軟な労働者性の判断を可能にしました。

その後の裁判例の傾向→総合判断

しかし、その後の裁判例では、「専属性の度合」、「収入額」、「報酬と生計の関係」など、さまざまな要素を加えた「総合判断」から結論を導くという方法が用いられている。
横浜南労基署長(旭紙業)事件=最1小判平8.11.28労判714号14頁は、傭車運転手について、自己の危険と計算の下で運送業務に従事していたもので特段の指揮監督が行われていたといえず、時間的・場所的拘束の程度も一般従業員と比較して著しく緩やかであったとして、その労働者性を否定した原審の判断を是認している。
関西医科大学研修医事件=最2小判平17.6.3民集59巻5号938頁は、大学病院の臨床研修医について、指導医の指導の下に医療行為に従事することを予定し、それに対し奨学金等として金員が支払われているとして、労基法9条・最賃法2条の労働者に該当するとしている。
※下井隆史著『労働基準法 第5版』有斐閣2019年p30

5 近年の裁判例の傾向

近年の裁判例では、「使用従属関係」の存否を「指揮監督下の労働」と「報酬の労務対償性」から判断しつつ、さらに詳細な要素を考慮する傾向にあります。また、労働組合法と労働基準法での「労働者」の解釈の違いにも言及されており、労働法の複雑性が増していることがわかります。

近年の裁判例の傾向

近年は、労組法における「労働者」の問題が、従来の裁判例と異なる判断枠組みを示した最高裁判例が出されたこともあって、盛んな論議の対象になっているが、労基法・労契法等における「労働者」性の有無を判断した裁判例も多数みられている。
そこでは概ね、基本的メルクマールである「使用従属関係」の存否は「指揮監督下の労働」と「報酬の労務対償性」から判断されるが、
具体的には、時間的・場所的拘束性、労務給付への規制、業務諾否の自由、報酬の性格・額、その他の諸事情を総合勘案して決するべきものとされている(ソクハイ[契約更新拒絶]事件=東京地判平25.9.26労判1123号91頁〔労働者性を否定〕、東陽ガス事件=東京地判平25.10.24労判1084号5頁〔労働者性を肯定〕、前掲注5)NHK神戸放送局[地域スタッフ]事件=大阪高判平27.9.11〔労働者性を否定〕等)。
そして、労組法上の労働者に当たるか否かは団体交渉による問題解決が適切な関係にあるかの判断であるのに対し、労基法・労契法上の労働者への該当性は労働者保護の規定を適用すべきかの判断であるから、同一の者が前者の労働者には当たらないが後者では労働者に当たることはあり得るという説示もされている(前掲ソクハイ[契約更新拒絶]事件=東京地判平25.9.2614))。
※下井隆史著『労働基準法 第5版』有斐閣2019年p30、31

6 下井隆史氏見解(労働者性判断の方法)

労働者性の判断の方法について、下井隆史氏は、制度・ルール等の趣旨・目的を考慮して適用の可否を決定することを提唱しています。また、労働形態の多様化に伴い、当事者の意思や慣行を考慮する必要性も指摘しています。

下井隆史氏見解(労働者性判断の方法)

結局、次のように考えるほかないであろうか。
労基法等の労働者保護法に関しては、「使用従属関係」(「指揮監督下の労働」・「賃金の支払い」)と「労働者性を補強する要素」の有無・程度等からの総合判断によって適用の可否を決する。
労契法や判例・裁判例によって形成された法的ルール、就業規則条項や労使慣行についても一般には同様の方法によるべきであるが、場合によっては適用の可否が問題となっている制度・ルール等の趣旨・目的を考慮して適用の可否を決定する。
とはいえ、業務遂行に当たって幅広い裁量を認められる労働者が増加しつつある現状からすれば、労働関係法の規定やルールの適用の可否を当事者の意思あるいは慣行に委ねる場合もあるというような、労基法や労契法等の適用対象
画定方法に関する新しい考え方の是非も検討すべきであろう。
※下井隆史著『労働基準法 第5版』有斐閣2019年p34、35

7 まとめ

以上のように、労働基準法上の「労働者」の判定は、その結果によって大きな違いが生じるにもかかわらず、具体的事案について明確な判別ができないことが多いです。そこで実務では、具体的事案の内容(事実)をしっかりと主張・立証することが重要なのはもちろん、判断基準に関する解釈も、適切な判例、学説を指摘することが、有利な結果につながります。

本記事では、労働基準法上の「労働者」の解釈について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に労働基準法や労働契約法の適用の有無に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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