【土地建物一括売却における法定地上権の処理(売却代金の割り付け)】

1 土地建物一括売却における法定地上権の処理(売却代金の割り付け)

不動産競売では、土地と建物の一括売却、つまりセットで売却する、ということがとても多いです。この場合、民法上は法定地上権は成立しませんが、競売手続の中(だけ)では、法定地上権の成否を判断します。法定地上権が成立するものとして扱うこともあります。
本記事ではこのことを説明します。

2 一括売却の制度と要件(概要)

不動産の競売では、複数の不動産をまとめて売却する方法があります。一括売却の制度の基本的事項や要件については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不動産競売における一括売却の基本(複数不動産をまとめて売却)
詳しくはこちら|不動産競売における一括売却(民事執行法61条)の要件

3 土地建物の一括売却と法定地上権の関係

実際に一括売却がなされる典型例は、土地と(その土地上の)建物の組み合わせです。競売でも、一般的な売却でも共通しますが、土地と建物をまとめて売却した方が都合がよいです。土地と建物の所有者が同一人となり、土地の利用権原を設定する必要がないからです。
競売の場合は、土地と建物の所有者が異なる場合に、一定の条件を満たせば、土地利用権が自動的に発生します。これを法定地上権といいます。
詳しくはこちら|法定地上権の成立要件には物理的要件や所有者要件がある
法定地上権は土地と建物の所有者が異なる(に至った)場合にだけ発生するので、土地と建物の一括売却では成立要件を満たしません(発生しません)。しかし、競売手続では法定地上権が成立したことにする局面があります。それは、売却代金の配当、具体的には土地と建物への割り付けを決める局面です。
一括売却における売却代金の割り付けについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|一括売却における売却代金・執行費用の割付

土地建物の一括売却と法定地上権の関係

あ 実体法レベル

土地と建物が一括売却されれば、土地所有者と建物所有者が分離することはない
実体法上の法定地上権の成否の議論は不要となる

い 執行法レベル(配当)

一括売却の場合でも、各不動産について先順位あるいは後順位の抵当権者が存在し、抵当権者の順位が不動産によって異なるような場合には、配当のため各不動産の売却代金の額を定める必要がある
すなわち、実体法上の法定地上権の成否が問題とならない場合であっても、売却代金の割付との関係では、なお法定地上権の成否が問題となりうるということである
※上原敏夫ほか『民事執行・保全法5版』2017年p131
※『不動産の強制競売および担保権実行のための不動産競売(3)』/『ジュリスト増刊 民事執行セミナー』有斐閣1981年5月p126、127
※森田修編『新注釈民法(7)』有斐閣2019年p205

4 一括売却の配当における法定地上権の反映

土地と建物の一括売却では、当然ですが、入札金額(売却金額)は土地と建物の合計額です。たとえば土地と建物について別の債権者が抵当権をもっている場合には、割り付けによって、それぞれの債権者(抵当権者)の配当額が違ってきます。
この点、一括売却の場合には、売却代金(合計額)を、各不動産の売却基準価額(評価額)に按分して割り付けることになっています。土地と建物の場合には法定地上権が成立するかしないか、で各不動産の評価額が大きく異なります。もともと抵当権者は、抵当権設定の段階で、法定地上権が成立する、または成立しないことを前提として不動産の担保価値を評価して融資しているのです。法定地上権が成立する状態であれば、一括売却の売却代金の割り付けでもこれを反映する必要があるのです。

一括売却の配当における法定地上権の反映

あ 各不動産の売却基準価額を特定する必要性

各不動産の売却代金の額は、(一括)売却代金の総額各不動産の売却基準価額に応じて案分して得た額とする
※民事執行法188条、86条2項

い 法定地上権の成否の判定の必要性

売却基準価額は法定地上権の成否によって異なる

う 一括売却における配当の割付

(個別に売却された場合に法定地上権が成立するケースの場合は)
一括売却された場合でもあっても、法定地上権が成立するものとして配当が割り付けられるべきである

え 3つの価額の算出

民事執行法の立法担当者は、土地、建物の一括売却(民事執行法86条2項が適用された場合)について、次の3本の評価額を出しておくことを予定している
ア 法定地上権付の建物の評価額イ 法定地上権負担付の土地の評価額ウ 一括売却を前提とした評価額 『ウ』は『ア+イ』より大きいことが想定される
これは一括売却の制度趣旨でもある
※『不動産の強制競売および担保権実行のための不動産競売(3)』/『ジュリスト増刊 民事執行セミナー』有斐閣1981年5月p126、127
※森田修編『新注釈民法(7)』有斐閣2019年p206

5 一括売却における法定地上権の反映の具体例

法定地上権が成立する状態のケースの割り付けの具体的内容は、法定地上権の存在を、土地と建物の評価(売却基準価額)に反映させる、ということになります。土地については法定地上権の負担があるものとして、建物については法定地上権がついているものとして評価する、ということになります。

一括売却における法定地上権の反映の具体例

あ 単純な一括売却の事例

土地と建物に別々に設定された抵当権が同時に実行されたケース
→法定地上権を売却基準価額(最低売却価額)に反映させる
※東京高決昭53年5月18日

い 複数の抵当権者が存在する事例

土地建物の一方に抵当権が設定された後に別の債権者のために双方に共同抵当権が設定されたケース
→法定地上権を売却基準価額に反映させる
※森田修編『新注釈民法(7)』有斐閣2019年p205

6 法定地上権が成立しないケースの配当への反映(参考)

当然ですが、法定地上権が成立しない状態(たとえば所有者要件を満たさない)であるケースでは、法定地上権を評価に反映させることはしません。この点、割り付け(配当表作成)の前提となった法定地上権の成否の判断について、後から誤っていると判断されることもあります。その代表的なものとして、平成10年最判があります。

法定地上権が成立しないケースの配当への反映(参考)

あ 基本

個別の売却された場合に法定地上権が成立しないケースの場合は
一括売却された場合であっても、法定地上権が成立しないものとして配当を割り付ける

い 判例(具体例)

土地と旧建物に共同抵当権を設定した所有者が、旧建物を取り壊し、新築した新建物について、土地の抵当権の順位と異なった順位の共同抵当権を設定した
→法定地上権が成立しない状態である
詳しくはこちら|土地・建物への共同抵当権設定後の建物再築と法定地上権の成否(平成9年判例・全体価値考慮説)
→法定地上権の成立を前提とした配当表の作成は誤りである
※最判平成10年7月3日(全体価値考慮説)

本記事では、土地と建物の一括売却における法定地上権の処理について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産の競売に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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