【不動産競売手続における法定地上権の成否の調査】
1 不動産競売手続における法定地上権の成否の調査
不動産競売では、法定地上権が成立するかしないかによって大きな違いが出てきます。もちろん、競売手続(執行手続)の中で、裁判所は法定地上権の調査、判断を行います。本記事ではこのことを詳しく説明します。
2 現況調査・審尋における調査→法定地上権の成否を含む
不動産競売における権利関係の調査とは、具体的には現況調査や関係者の審尋です。これらの手続では、法定地上権の成立要件も重要な項目となります。
現況調査・審尋における調査→法定地上権の成否を含む
※東孝行稿『法定用益権をめぐる実務上・手続上の問題点』/加藤一郎ほか編『担保法大系 第1巻』金融財政事情研究会1984年p527
3 現況調査事項の規定と法定地上権のミスマッチ→解釈で解消
競売手続の中で、法定地上権の成否を調査、判断するのは当たり前なのですが、規定とうまく整合しないところがあります。
法定地上権の成否の判断材料(要件)のうち重要なものは所有者要件であり、これは抵当権設定時点の事情です。この点、民事執行法上、競売手続の調査事項として抵当権設定時点の事情は入っていません。基本方針として調査事項を拡大する解釈は否定されます。ただし、それだと結局、法定地上権の成否の判断ができません。そこで、これについては例外的に拡大的な解釈が許されています。つまり、抵当権設定時点の事情も調査対象に含める、という結論です。
現況調査事項の規定と法定地上権のミスマッチ→解釈で解消
あ 実体上の成立要件の要点→所有者要件(概要・前提)
法定地上権の成立要件として重要な点は抵当権設定時点において土地の上に建物が存在し、それらが同一所有者に属していたという点である
詳しくはこちら|法定地上権の成立要件には物理的要件や所有者要件がある
い 法令上の現況調査事項→抵当権設定時点
民事執行法188条が57条を、民事執行規則173条1項が29条を抵当権実行手続を含む不動産競売に準用している
民事執行規則29条が定める現況調査事項には抵当権設定時点の事実に関する事項はない
う 解釈の基本方針→限定方向
現況調査は、令状主義の精神からいって、自己抑制的な運用が期待される
令状主義の精神に従い現況調査事項(民事執行規則29条)は限定的に解釈すべきである
え 現況調査事項の規定の解釈→緩和許容
一方、多分民事執行規則29条は強制競売を念頭において定められたから、抵当権設定時点の事実の定めを不要としたものであろう
したがって、抵当権実行手続への準用に当たっては、この点が補充されるべきである
民事執行規則29条が法定用益権の成立要件の調査を調査報告書記載事項とすべきであるという趣旨で定められているのであるから、準用に当たって抵当権実行手続に特有の問題について拡張して解することは許されるであろう
※東孝行稿『法定用益権をめぐる実務上・手続上の問題点』/加藤一郎ほか編『担保法大系 第1巻』金融財政事情研究会1984年p527
4 法定地上権に関する調査→高度な判定では審尋まで実施
ところで、競売手続における調査は、執行官による現況調査と裁判所による審尋があります。基本的には現況調査で足りることが多いですが、前述のように法定地上権の成否の判断は重要なので、判断が難しい場合には現況調査で済ますことはせず、裁判所による関係者の審尋を実施することになります。
法定地上権に関する調査→高度な判定では審尋まで実施
あ 執行裁判所による現況調査命令
実務の運用としては執行裁判所が現況調査命令書にその旨を明示的に記載しておくことが望ましいといえよう
い 執行官による現況調査
現況調査を命ぜられた執行官は、現況調査命令書にその記載があるかないかにかかわりなく、調査時のみでなく、抵当権設定時における建物の存在、土地、建物の所有者の同一性などを調査すべきである
う 執行裁判所による審尋
法定地上権の成否の判断のためにきわめて微妙な事実認定を必要とするときは執行官の現況調査に委ねず、執行裁判所が当事者または参考人を審尋することが望ましいといえよう
※民事執行法5条、196条、197条参照
※東孝行稿『法定用益権をめぐる実務上・手続上の問題点』/加藤一郎ほか編『担保法大系 第1巻』金融財政事情研究会1984年p527、528
5 法定地上権の成否の判定不能の時の認定→売却金額減少方向
実際には、一定の調査をしても、法定地上権の成否をはっきりと判断できない、という案件もあります。裁判所として不明という結論は出せません。この点、訴訟の中での判断であれば、真偽不明の場合は立証責任(挙証責任)の分配によって結論が出せます。しかし、競売手続は訴訟ではないので立証責任を使った判定はできません。これについては、売却金額が少なくなる方向で判断することが合理的であるという考えがあります。買受人の立場に着目すると、入札前の想定(物件明細書の記載)よりも、後から有利になることはあっても不利になることはないからです。ただし、債権者や債務者(所有者)の立場としては、回収額や剰余金が少なくなることにつながります。
法定地上権の成否の判定不能の時の認定→売却金額減少方向
あ 前提
執行裁判所が最終的に売却基準価額を決定するに際しては、法定地上権の成否をいずれかに決しなければならない
い 民事執行手続の性格による基本方針
民事執行手続は債権者の申立、売却、配当という段階を経て債権の満足という目的を追求する合目的的な制度であり、判決手続における権利確定のための手続ではない
判決手続における挙証責任の分配の問題として把握すべきではない
いかにしたら民事執行手続が円滑に進められ、完了後も支障なく落着をみるかという観点から解決さるべきである
う 判定不能の際の判断の方針(一般論)
どちらかといえば債権者、債務者(所有者)側の負担において買受人の不満を残さないように結着をつけるのが妥当であろう
え 法定地上権の成否判定不能の場合の選択
競売目的物件が建物であるときは法定地上権が付着しない価額として、それが土地であるときはその負担が存する価額として、最低売却価額を決定すべきである
※井上秀夫『民事執行の実務』p184参照
こうすることによって、買受人は法定用益権成否不明の場合に予想以上の利益を得ることはあっても不測の損害を被ることはない。
※東孝行稿『法定用益権をめぐる実務上・手続上の問題点』/加藤一郎ほか編『担保法大系 第1巻』金融財政事情研究会1984年p529、530
6 法定地上権の判断に関する不服申立の種類
以上のように、執行裁判所が法定地上権の成否について調査をした上で判断をします。判断の結果は物件明細書に記載されます。競売手続の関係者としては、その判断(物件明細書の記載)が誤っていると考えた場合、不服申立をして、判断し直してもらう対応をとることができます。段階によって、不服申立手続の種類が違います。
法定地上権の判断に関する不服申立の種類
※根拠条文は強制競売(債務名義による差押)に関するもの
※担保不動産競売については民事執行法188条が以上の規定を準用している
※東孝行稿『法定用益権をめぐる実務上・手続上の問題点』/加藤一郎ほか編『担保法大系 第1巻』金融財政事情研究会1984年p531
7 物件明細書の記載の効力→公信力なし(概要)
前述のように、執行裁判所の判断は物件明細書に記載されます。不服申立があってもなくても、最終的に物件明細書に記載された内容を入札希望者がみて、入札することになります。この点、物件明細書に記載された内容(権利の有無)は、後から否定されることがあります。入札におけるリスクの1つです。
詳しくはこちら|不動産競売における物件明細書の記載の効力(誤りの是正・公信力なし)
本記事では、不動産競売手続における法定地上権成否の調査について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産競売や土地の利用権原(明渡請求など)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。