【売買契約における果実の帰属と代金の利息発生(引渡時・民法575条)】

1 売買契約における果実の帰属と代金の利息発生(引渡時・民法575条)

民法575条では、売買契約について、果実の帰属が売主から買主に移転する時期と、代金の利息が発生する時点を、両方とも引渡の時点と定めています。本記事ではこのルールについて説明します。

2 民法575条の条文

最初に、民法575条の条文を確認にしておきます。1項では、果実の帰属の移転、2項では代金の利息の発生について、いずれも引渡時点が基準となることが書いてあります。

民法575条の条文

(果実の帰属及び代金の利息の支払)
第五百七十五条 まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは、その果実は、売主に帰属する。
2 買主は、引渡しの日から代金の利息を支払う義務を負う。ただし、代金の支払について期限があるときは、その期限が到来するまでは、利息を支払うことを要しない。
※民法575条

3 民法575条の趣旨→当事者間の複雑な関係の回避

民法575条は、売買契約における売主と買主の間に生じる複雑な関係を回避することを目的としています。具体的には、売買目的物の保管の負担、果実の帰属(収取権)の移転や、代金の利息発生の基準時を引渡に揃えることでいろいろな清算が不要となる、という仕組みです。

民法575条の趣旨→当事者間の複雑な関係の回避

民法575条は、売主と買主の間に生じる複雑な関係(保管費用の償還請求権、代金の利息請求権、買主の果実償還請求権など)を避けることを目的としている。
※大連判大正13年9月24日

4 「まだ引き渡されていない」→責任の所在を問わず適用

民法575条は、果実の帰属の移転と利息発生時点を引渡時点に統一するものです(前述)。ここで、引渡すべきなのに売主や買主の行為により実現していない、という場合はどうでしょうか。結論は単純で、どのような理由で引渡がされていないかは関係しません。とにかく単純にする、というルールになっているのです。
ただし、買主が代金を支払済の場合には民法575条は適用されません。もともと引渡代金支払のタイミングを揃えるルールなので、一方が完了している場合には適用の前提が崩れているのです。

「まだ引き渡されていない」→責任の所在を問わず適用

あ 引渡未了の原因→問わない

「まだ引き渡されていない」には、売主または買主の責めに帰すべき事由による引渡の遅滞も含む

い 具体的事例

ア 買主が受領を拒んだ事例 宅地売買で買主が受領を拒んだ場合、売主は遅延利息と地租の償還を請求できない
※大判大正4年12月21日
イ 売主が引き渡しを拒んだ事例 農地売買で売主が履行を拒んだ場合、買主は小作料の返還を求め、代金債務と相殺することはできない
※大連判大正13年9月24日

う 代金支払済→民法575条の適用除外

買主が代金を支払済で売主が引渡を怠っている場合は民法575条は適用されない
※大判昭和7年3月3日

5 果実の収取権の移転時期→引渡時(1項)

ところで、原則論だと、果実収取権は元物の所有者に属します。売買では原則として契約時に所有権が移転するので所有者である買主に果実も帰属するはずです。民法575条は、前述の趣旨で、その例外を定めた、ということができます。なお、一般的に果実には天然果実と法定果実を含みます(総称です)。民法575条の「果実」でも同じです。

果実の収取権の移転時期→引渡時(1項)

あ 果実収取権の原則と例外

ア 原則 果実収取権は元物の所有者に属する
※民法206条
イ 例外=民法575条 所有権が移転しても、引渡がない限り売主に収取権を認める

い 果実の範囲

果実には天然果実と法定果実の両方が含まれる

6 代金支払時期と利息→引渡時点が基準(2項)

民法575条により、代金支払時期に期限の定めがある場合でも、引渡時点を基準として利息が発生することになります。引渡よりも代金支払時期が先というケースでは、代金支払が遅滞しても、引渡完了までの間は利息が発生しない、という結論になります。引渡日以降に(不払いであれば)利息が発生しますが、利率は法定利率によります。

代金支払時期と利息→引渡時点が基準(2項)

あ 利息支払義務の区別

(ア)引渡前→買主に利息支払義務なし(イ)引渡日以後→買主は代金の利息支払義務を負う

い 趣旨

売主が遅滞の場合でも果実を収取する権利を有することとの権衡を保つため

う 利息の性質

この場合の利息は遅延利息ではなく、法定利息である。
※大判昭和6年5月13日

え 利率

利率は法定利率による

7 代金支払時期が引渡後の合意→利息発生なし(2項ただし書)

売買契約の中で、引渡よりも後に代金を支払うという合意(特約)があった場合には、引渡完了時点ではまだ代金支払が遅滞しているわけではりません。「引渡時に利息が発生する」ことにはなりません。一方、引渡後は買主が果実を獲得します。買主は有利な状況です。もちろん、これについて特約があればそのとおりになります。

代金支払時期が引渡後の合意→利息発生なし(2項ただし書)

あ 利息発生なし

代金支払時期が引渡後である合意(特約)がある場合
引渡後は、買主が果実を取得し、かつ、買主は利息を支払う必要がない

い 強行性→なし

特約がある場合は例外となる

参考情報

※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p1243、1244

本記事では、売買契約における果実の帰属の移転と代金の利息発生時点をいずれも引渡時とする規定(民法575条)について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に売買契約における引渡や代金支払に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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