【調停に代わる審判(家事事件手続法284条)の理論と解釈】

1 調停に代わる審判(家事事件手続法284条)の理論と解釈

家庭裁判所の手続の中に調停に代わる審判があります。家事事件手続法284条が定めているので、284条審判と呼ばれることもあります。本記事では、この制度の理論や解釈について説明します。

2 家事事件手続法284条の条文

最初に条文を確認しておきます。どのような場合にこの手続が使えるのか、また、この手続(審判)の内容に入れられる事項などが定められています。それぞれの詳しい内容は、以下、順に説明します。

家事事件手続法284条の条文

(調停に代わる審判の対象及び要件)
第二百八十四条 家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で、事件の解決のため必要な審判(以下「調停に代わる審判」という。)をすることができる。ただし、第二百七十七条第一項に規定する事項についての家事調停の手続においては、この限りでない。
2 家事調停の手続が調停委員会で行われている場合において、調停に代わる審判をするときは、家庭裁判所は、その調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴かなければならない。
3 家庭裁判所は、調停に代わる審判において、当事者に対し、子の引渡し又は金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。
※家事事件手続法284条

3 調停に代わる審判の性質と3つの判断基準の見解

調停に代わる審判の制度は、調停手続なのに審判をする、という点に特殊性(特徴)があります。そして、合意がないのに、合意があったのと同じ扱いをする審判という構造になっています。そこでネーミングとしては合意に代わる審判、という方が構造と整合します。ただし実務では調停に代わる審判と呼ばれています。
なお、理論面について3つの見解がありますが、実際の案件処理の中で、そのような理論の主張の攻防がある(それによって結論に違いが生じる)というものではありません。

調停に代わる審判の性質と3つの判断基準の見解

あ 性質

ア 調停手続における審判 調停手続を利用した特殊の審判である
イ 「合意」に代替する 正確には合意に代わる審判というべきであるが、法文上の用語では調停に代わる審判とされる

い 判断基準に関する複数の見解

ア 調停・審判の規範同一 調停規範が即284条審判規範であると解すべきとする見解
イ 調停合意説 調停解決案の最終的な提示という側面を重視する見解
ウ 調停判断説 条理裁判という判断面に重きを置く見解

4 調停に代わる審判の対象(対象事件・調停実施主体)

(1)対象事件による制限→特殊調停事件だけ除外

条文上、合意に相当する審判の対象となる事件は対象外となっています。合意に相当する審判の対象である特殊調停事件の典型例は婚姻、協議離婚や養子縁組の無効です。仮に当事者両方が合意しても戸籍を無効とする(公益に関わる)ので調停は成立せず、裁判所が裏付けを確認した上で(調停ではなく)裁判所の判断として審判を成立させます。これが合意に相当する審判です。
詳しくはこちら|家事調停における合意に相当する審判(対象案件・要件・事実の調査)
このように特殊調停事件は調停成立があり得ないので、(調停成立と同じ扱いにする)調停に代わる審判は使えないことになっているのです。

対象事件による制限→特殊調停事件だけ除外

特殊調停事件(家事事件手続法277条)の対象事件を除くすべての家事調停事件が対象となる
一般調停事件(訴訟事項)と別表第2事件が対象となる

(2)調停実施主体による制限→なし

要件というわけではないですが、調停に代わる審判を使えない状況についても説明します。
まず、以前は調停実施主体が調停委員会の時だけ使える(単独調停では使えない)ことになっていましたが、現在はこの制限はありません。

調停実施主体による制限→なし

調停委員会が行う調停(通常調停・委員会調停)だけでなく、裁判官または家事調停官のみで行う単独調停においても調停に代わる審判を行うことができる

5 調停に代わる審判の要件

(1)条文上の5要件

調停に代わる審判を使う状況、つまり要件は5項目があります。形式的なものが多く、実質的なものは裁判所が相当と認めるという要件です。どのような状況であれば相当だといえるのか、という問題です。この中身については後述します。

条文上の5要件

あ 調停が成立しない

(ア)当事者間に合意が成立しない場合(イ)形式的には合意が成立しても調停委員会がそれを相当と認めず、正当な合意が成立しないと判断される場合

い 裁判所が相当と認める

裁判所が調停に代わる審判をすることを相当と認める(後記※1

う 当該家事調停委員の意見を聴く

調停の最初から関与して経過を熟知している調停委員に民間人の立場から意見を述べてもらい、審判の要否や審判内容等についての判断の参考とする

え 衡平考慮・一切の事情の考慮

当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して判断する

お 当事者双方の申立ての趣旨に反しない

(ア)当事者双方が求めてもいない内容のものであってはならない(イ)当事者一方の申立ての趣旨に沿う以上、他方の申立ての趣旨に反する審判をしても差し支えない

(2)相当性の要件の内容

要件の中で重要なものは裁判所が相当と認めるというものです。ここでは講学上の類型を整理しておきます。さらに具体的にどのような状況で活用できるのか、活用するのが有用か、ということは別の記事で説明しています(後述)。

相当性の要件の内容(※1)

あ 紛争の態様からみた相当性の例

(ア)当事者が審判を望んでいる場合(イ)黙示的にせよ審判が出れば尊重することが見込まれる場合(ウ)大筋の合意があるが細部が詰めきれない場合

い 調停の経過からみた相当性の例

ア 証拠収集や調査が活発→成果を残す相当性 当事者の証拠収集活動や調停機関の調査活動が活発に行われ、それによる成果を審判という形で残しておいた方がよい場合
イ 実質的な紛争性がない→解決する相当性 当事者の一方が欠席のため調停は進展しないが、実質的な紛争性はなく審判すれば解決する可能性が高い場合

6 調停に代わる審判の告知→公示送達不可

調停に代わる審判は、当事者に告知されます。公示送達の方法によって告知することができません。これは、異議申立権を実質的に保障するための規定です。

調停に代わる審判の告知→公示送達不可

あ 告知の方法

調停に代わる審判は、裁判所が当事者に告知する
公示送達の方法によって告知することができない
※家事事件手続法285条2項

い 告知不能の場合の措置

審判を告知することができないときは、裁判所は審判を取り消さなければならない
※家事事件手続法285条3項

7 調停に代わる審判に対する不服申立→2週間以内に異議申立

調停に代わる審判に対しては、当事者が審判の告知を受けた日から2週間以内に異議の申立が可能です。適法な異議申立てがあれば審判は当然に効力を失います。この場合、調停不成立と同じ状態になります。
具体的には、訴訟事項であれば、手続が終了した状態です。調停前置の要件がクリアされたことになっているので、当事者は(人事)訴訟の申立をすることができます。
審判事項であれば、自動的に手続は審判に移行します。

調停に代わる審判に対する不服申立→2週間以内に異議申立

あ 異議申立

当事者が審判の告知を受けた日から2週間以内に異議の申立てをすることができる
理由を付する必要はない

い 異議申立の効果

審判に対し適法な異議申立があれば、審判は当然にその効力を失う

う 審判の効力失効後の手続

ア 当事者への通知 家庭裁判所は当事者に対し、審判が効力を失った旨を通知する
イ 訴訟事項→改めて訴え提起が必要 当事者がこの通知を受けた日から2週間以内に訴えを提起したときは、家事調停申立の時にその訴えを提起したものとみなす
ウ 審判事項→当然に審判手続となる 別表第二事項について調停に代わる審判が効力を失った場合には、家事調停申立の時に、当該事項について家事審判の申立があったものとみなされる

え 不適法な異議申立ての却下

家庭裁判所は、異議の申立てが不適法であると認めるときは、これを却下する

お 即時抗告

異議申立人は、異議申立てを却下した審判に対しては即時抗告をすることができる

8 確定した調停に代わる審判の確定と効力

(1)確定した調停に代わる審判の確定→異議なく2週間経過

調停に代わる審判は、2週間以内に異議申立がないか、異議申立を却下する審判が確定した場合に確定します。

確定した調停に代わる審判の確定→異議なく2週間経過

あ 異議申立なし

調停に代わる審判に対して2週間以内に異議の申立がないときは、審判は確定する

い 異議却下確定

異議の申立があっても異議申立を却下する審判が確定したときは、審判は確定する

(2)確定した調停に代わる審判の効力→審判・判決と同一

調停に代わる審判が確定すると、確定判決と同じような効力が生じます。
より正確にいうと、調停に代わる審判の内容が、(本来の)審判事項であれば、(確定した)審判と同じ効力、内容が訴訟事項であれば、(確定した)判決と同じ効力、ということになります。
ところで、確定審判も確定判決も効力はほぼ同じです。違いは、強制執行をする際の執行文の要否です。確定審判では(単純)執行文は不要という特殊なルールがあるのです。

確定した調停に代わる審判の効力→審判・判決と同一

あ 審判の効力の条文

(調停に代わる審判の効力)
第二百八十七条 前条第一項の規定による異議の申立てがないとき、又は異議の申立てを却下する審判が確定したときは、別表第二に掲げる事項についての調停に代わる審判は確定した第三十九条の規定による審判と同一の効力を、その余の調停に代わる審判は確定判決と同一の効力を有する。
※家事事件手続法287条

い 確定審判・確定判決と同一の効力の内容

(ア)形成力を有する(イ)給付文言があるときは執行力を有する(ウ)訴訟事項の場合は既判力も有する

う 執行文の要否(参考)

ア 別表第二事件の審判事項の場合 家事事件手続法75条にいう執行力ある債務名義と同一の効力を有する(執行文不要)
詳しくはこちら|家事審判における給付命令(家事事件手続法75条)
イ 訴訟事項の場合 執行文の付与が必要である(民事執行法25条本文)

9 調停申立取下の制限→調停に代わる審判後は取下不可

調停に代わる審判がされた後は、家事調停の申立の取下げは一切認められません。これは、申立人が内容に不服であれば異議の申立てにより失効させればよいという考えに基づいています。

調停申立取下の制限→調停に代わる審判後は取下不可

あ 取下制限の内容

調停に代わる審判がされた後は、家事調停の申立ての取下げは一切認められない
※家事事件手続法285条1項

い 取下制限の理由

申立人が内容に不服であれば異議の申立てにより失効させればよいため

10 調停に代わる審判を活用する状況の具体例(概要)

以上の説明は、調停に代わる審判の理論的なものでした。この点、実務では、いろいろな状況で工夫して、調停に代わる審判を活用します。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|家事調停で調停に代わる審判を活用する状況の典型例(出席拒否・ほぼ合意だが感情対立ありなど)

参考情報

※梶村太市ほか編著『家事事件手続法 第3版』有斐閣2016年p98〜103

本記事では、調停に代わる審判の理論と解釈について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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