【財産開示手続の要件(申立権者・不奏功要件・申立制限)】

1 財産開示手続の要件(申立権者・不奏功要件・申立制限)

債務名義を取得した債権者や先取特権をもつ債権者は、裁判所の財産開示手続を利用して債務者の財産の調査をすることができます。
詳しくはこちら|裁判所による財産開示手続の全体像(手続全体の要点)
どのような債権者が、どのような状況であればこの手続を利用できるのか、ということを本記事では説明します。

2 財産開示手続の申立要件(基本事項)

財産開示手続の申立には、執行力ある債務名義や一般先取特権の存在が必要です。また、強制執行を実際にやってみても回収できなかった、または、執行しても回収の見込みがないことも必要です。また、過去に財産開示を行った債務者に対しては、一定の制限が設けられています。

財産開示手続の申立要件(基本事項)

あ 債務名義または先取特権あり

ア 要件(申立権者) 執行力ある債務名義(後記※2)を有する債権者、一般先取特権を有する債権者が申立可能である
イ 令和2年改正 改正前は債務名義の種類に制限があったが、改正により制限はなくなった

い 不奏功要件(回収不能の状態)

ア 強制執行を行ったが回収できなかったイ (または)強制執行を行っても回収の見込みがない ※民事執行法197条

う 利用できない事情

債務者が過去に財産開示をしている場合
→一定の範囲で新たな財産開示手続は認められない(後記※1

不奏功要件については、具体的にどのような状況であればクリアできるか、ということが問題になります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|財産開示手続・情報取得手続の不奏功要件を満たすための調査の程度

3 財産開示手続の申立要件(補足)

財産開示手続の申立要件の基本部分は以上のとおりですが、いくつかの補足事項があります。令和2年の法改正で債務名義の範囲が拡大され、金銭支払を命じる仮処分命令も含まれるようになりました。
また、不奏功要件の中の、過去の強制執行(担保権実行)については、6か月以内のものだけがカウントされます。

財産開示手続の申立要件(補足)

あ 債務名義の種類→仮処分命令を含む方向性

金銭の支払を命ずる仮処分命令も含まれると考えられる
保全執行の場合、2週間以内に財産開示手続申立があれば足りると解される

い 不奏功要件の詳細

強制執行または担保権実行における配当等の手続が申立日から6か月以上前に終了したものを除く

4 債務名義→執行開始要件具備が必要

前述のとおり、債務名義がある債権者は申立ができます。この債務名義は、執行開始要件を満たしていることが必要です。具体的にどのような状況か、ということは債務名義の種類によって異なります。

債務名義→執行開始要件具備が必要(※2)

あ 要件

執行力ある債務名義正本に基づく申立ての場合、執行開始要件を備えていることが必要である

い 具体例

(ア)確定判決の場合:判決正本と確定証明書の提出(イ)仮執行宣言付判決の場合:判決正本の提出(ウ)公正証書の場合:執行文付公正証書謄本の提出(エ)支払督促の場合:仮執行宣言付支払督促正本と確定証明書の提出(オ)条件付債務名義の場合:条件成就執行文付債務名義の提出(カ)期限付債務名義の場合:期限到来執行文付債務名義の提出(キ)承継執行文が必要な場合:承継執行文付債務名義の提出(ク)家事審判書の場合:審判書正本の提出(執行文は不要、確定証明書も原則不要) 詳しくはこちら|家事審判における給付命令(家事事件手続法75条)

5 財産開示手続の申立制限→3年以内の再申立不可

財産開示手続には、債務者保護の観点から一定の申立制限が設けられています。過去3年以内に財産開示を行った債務者に対しては、原則として新たな申立ができません。ただし、一定の例外もあります。

財産開示手続の申立制限→3年以内の再申立不可(※1)

あ 基本的制限

債務者が3年以内に財産開示制度において財産開示をした場合
→新たな財産開示手続は原則としてできない
※民事執行法197条3項

い 新たな申立が可能な例外的場合

(ア)債務者が当該財産開示期日において一部の財産を開示しなかったとき(イ)債務者が当該財産開示期日の後に新たに財産を取得したとき(ウ)当該財産開示期日の後に債務者と使用者との雇用関係が終了したとき

6 参考情報

参考情報

※園部厚著『実務解説 民事執行・保全 第2版』民事法研究会2022年p271〜274

本記事では、財産開示手続の要件について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に財産開示手続など、債権回収に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【遺言と抵触する「趣旨」の身分行為による遺言撤回擬制(最判昭和56年11月13日)】
【財産開示手続の管轄と手続の流れ】

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