【弁護士会照会による服役場所(収監場所)の調査】
1 弁護士会照会による服役場所(収監場所)の調査
弁護士会照会(弁護士法23条照会)によっていろいろな情報を取得することができます。
詳しくはこちら|弁護士会照会の基本(公的性格・調査対象・手続の流れ)
事案によっては、相手方の服役場所(収監場所)を調査することもあります。本記事では、弁護士会照会による服役場所の調査について説明します。
2 刑事施設の長への送達(服役場所を知る必要性)(前提)
ところで、相手方の服役場所を知る状況の典型例は、訴訟などの申立をする場面です。裁判所から相手方(被告)への送達は、刑事施設の長に対して行うことになっているのです。
詳しくはこちら|刑事施設に収容されている者に対する送達(民事訴訟法102条3項)
3 照会先→法務省矯正局成人矯正課
服役場所を知りたい場合の弁護士会照会の宛先(紹介先)は法務省矯正局成人矯正課です。
4 必要な情報
(1)利害関係→予定する法的手続を示す
相手方の服役場所を調査するためには、当然ですが、利害関係があることが必要です。要するに、法的手続(裁判所の手続)を用いる状況にある、ということを示すということになります。
利害関係→予定する法的手続を示す
(例えば、交通事故に基づく損害賠償請求であれば交通事故証明書、離婚事件であれば戸籍謄本です)。
※愛知県弁護士会編『事件類型別弁護士会照会 第2版』日本評論社2020年p85
(2)調査対象者の特定→氏名・生年月日など
調査のためには、相手方の氏名、生年月日に加え、本籍も必要になるのが一般的です。
調査対象者の特定→氏名・生年月日・本籍など
あ 「民事証拠収集」
事件の相手方や関係者が刑務所に収監されている可能性がある場合、その刑務所名と収監年月日を紹介(注・原文のまま)することが可能であるが、服役者の特定のためには氏名・生年月日・本籍が必要である。
本籍不明の場合は収監前の住所により特定が可能な場合もあるので、具体的照会に応じて、服役者を特定できるよう配慮が必要である(刑事事件の事件番号がわかればそれでも対応可能である)。
※民事証拠収集実務研究会編『民事証拠収集』勁草書房2019年p22
い 「事件類型別弁護士会照会」
調査対象者の氏名、生年月日は必須です。
また、法務省矯正局成人矯正課は、人物を特定するため、原則として氏名、生年月日に加え、本籍の記載を求めており、本籍が判明しない事案においては、判決日、刑の内容等、他にも判明している事情を記載して回答を求めることが有益です。
氏名、生年月日しか判明していない場合、回答が得られない場合がありますので、ご注意ください。
※愛知県弁護士会編『事件類型別弁護士会照会 第2版』日本評論社2020年p85
(3)必要書類→委任状の要請あり
もともと弁護士会照会は、弁護士が依頼を受けた業務の遂行に必要である場合にだけ利用できます。
詳しくはこちら|弁護士会照会の対象事項(受任事件の範囲・調査目的の受任は違法)
そこで、法務省矯正局成人矯正課はその確認のために依頼者から弁護士への委任状の提出を求めています。
必要書類→委任状の要請あり
※民事証拠収集実務研究会編『民事証拠収集』勁草書房2019年p22
5 書式サンプル
弁護士会照会の書式のサンプルを紹介します。
書式サンプル
法務省矯正局成人矯正課
照会理由:
依頼者は、相手方に対し、交通事故を原因とした不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の提起を準備していますが、現在、相手方が刑務所に収容されているとの情報を得ました。
しかし、どこの刑務所に収容されているのかは不明です。
そこで、本照会に及びました。
照会事項:
A(○○年○月○日生、本籍○○○○)に関し、以下の事項についてご回答ください。
1 Aは現在服役中ですか。
2 服役中であるとすれば、収容施設はどこですか。
※愛知県弁護士会編『事件類型別弁護士会照会 第2版』日本評論社2020年p85
6 非開示となる情報→罪名・刑期・帰住先
以上のように、弁護士会照会によって服役場所が開示されます。これで送達先が決まるので、いろいろな法的手続が進むことになります。ここでさらに別の情報も取得して、法的手続の中で使いたいという発想もありますが、たとえば罪名や刑期などは必要性がないものとして開示されません。
非開示となる情報→罪名・刑期・帰住先
※愛知県弁護士会編『事件類型別弁護士会照会 第2版』日本評論社2020年p85
本記事では、弁護士会照会による服役場所の調査について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際にいろいろな法的手続のための調査に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。