【分割払いの1回の遅滞における残額の消滅時効の起算点(最判昭和42年6月23日)】

1 分割払いの1回の遅滞における残額の消滅時効の起算点(最判昭和42年6月23日)

消滅時効の(客観的)起算点は「請求できる時」です。
詳しくはこちら|債権の消滅時効の基本(援用・起算点・中断)
割賦金(分割払い)のケースで1回分の弁済が遅れた場合には、残額部分の消滅時効の起算点がどうなるか、が問題となった判例を紹介します。

2 事案内容(時系列)

この事案では、割賦金の支払いを遅滞したときは、債権者に請求により、残債務全額を支払う旨の過怠約款のある割賦金弁済契約をした債務者が1度の弁済を遅滞しました。

事案内容(時系列)

あ 割賦金弁済契約の成立

債務者と債権者の間で割賦金弁済契約が成立した
契約には、割賦払の約定に違反した場合、債務者が債権者の請求により残債務全額を直ちに弁済すべき旨の特約が含まれていた

い 1回の不履行発生

債務者が約定に違反し、1回の不履行が発生した。

3 問題の所在(解釈のバリエーション)

債権の消滅時効はその債権を「請求することができる」ときから進行すると規定されています。1回の弁済の不履行の時点で、特約によれば、債権者が「請求」すれば、残額全体を「請求することができる」ということになります。この状態を全体として「請求することができる」と評価するか、そうではなく、あくまでも債権者が残額の「請求をした」時点で、残額を「請求することができる」と評価するのか、2とおりの解釈が生じます(後述)。

問題の所在(解釈のバリエーション)

あ 請求時進行説(本判例が採用)

債権者が特約の利益を主張せず、当初の約定どおりの弁済を受けようとする場合、債権の時効消滅の不利益を受けることは不合理である
債権者が残額の請求をした時から、残額部分の消滅時効が進行する

い 不履行時進行説

債権者がいつでも残債務全額の弁済を請求できる
1回の弁済金の不履行の時から(債権者が残額の請求をしなくても)残額部分の消滅時効が進行する

4 裁判所の判断の要点

裁判所は、債権者の請求があったときに債務者は残債務全額を直ちに支払う義務を負う、つまり(残額の)「請求することができる」(消滅時効が進行する)、という解釈を採用しました。

裁判所の判断の要点

あ 割賦金の消滅時効

割賦金弁済契約においては、一回の不履行があった場合でも、各割賦金債務に対して約定弁済期の到来ごとに順次消滅時効が進行することを認めた。

い 残債務全額の消滅時効→請求時進行説(メイン)

債権者が残債務全額の弁済を求める旨の請求をしたときに限り、その時から全額について消滅時効が進行する

5 判例の評価

不履行時進行説も合理性があるところ、本判例は請求時進行説を採用しました(前述)。それ以前の判例を踏襲したものですが、本判例は「最高裁」としては初めての判断です。
この判断(解釈)の結果、債権者としては、「従前どおりの分割払いを認める」場合には、残額部分についての時効更新(時効中断)措置をとる必要はない、ということになります。

判例の評価

昭和15年の大審院連合部判決の見解(請求時進行説)を継承し、最高裁として判断を示した

6 判決文引用

判決文引用

しかし、本件のように、割賦金弁済契約において、割賦払の約定に違反したときは債務者は債権者の請求により償還期限にかかわらず直ちに残債務全額を弁済すべき旨の約定が存する場合には一回の不履行があつても、各割賦金額につき約定弁済期の到来毎に順次消滅時効が進行し、債権者が特に残債務全額の弁済を求める旨の意思表示をした場合にかぎり、その時から右全額について消滅時効が進行するものと解すべきである(昭和一四年(オ)第六二五号同一五年三月一三日大審院民事連合部判決・民集一九巻五四四頁参照)。
※最判昭和42年6月23日

7 参考情報

参考情報

※『判例タイムズ209号』p141〜

本記事では、割賦金の弁済遅滞における消滅時効の起算点の判断を示した判例について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に消滅時効に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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