【少額訴訟の審理(一体型審理・1期日審理の原則など)】

1 少額訴訟の審理(一体型審理・1期日審理の原則など)

少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払の請求に限定して、一般の訴訟よりも大幅に簡略化、迅速化した訴訟手続です。
本記事では、少額訴訟の審理について説明します。

2 期日の審理の工夫→一般市民向けの運用

少額訴訟の期日の審理では、一般市民に利用しやすく分かりやすい裁判運営が行われます。
たとえば、ラウンドテーブル法廷の採用が挙げられます。一般の法廷では、原告・被告・裁判官の席が離れていますが、ラウンドテーブルでは、3者が1つのテーブルに着きます。同じ目線になるのです。それ以外にも一般市民向けの運用がなされています。

期日の審理の工夫→一般市民向けの運用

あ 法廷→ラウンドテーブル法廷

少額訴訟では「ラウンドテーブル法廷」(RT)が採用され、裁判官と当事者が同じ目線で進行する

い 裁判官→日常的で和やか

ア 緊張緩和の工夫→法服不使用・日常用語の使用 裁判官や書記官は法服を使用せず、日常用語で話すことで、当事者の緊張を和らげる
イ 和やかな雰囲気作り→氏名での呼びかけ 裁判官は、当事者を「原告」「被告」ではなく氏名で呼びかけることで、和やかな雰囲気を作り出して進行する

3 一体型審理

(1)特徴→手続の制限と発言の扱い

少額訴訟では一体型審理が行われます。理論的には主張証拠(調べ)は別ですが、運用上一体として進める、というものです。

特徴→手続の制限と発言の扱い

あ 証拠と不服申立→制限される

ア 証拠調べ→即時取調べ可能な証拠に限定 証拠調べは即時に取調べが可能な証拠に限定される
イ 終局判決への対応→異議申立のみ可能 少額訴訟における終局判決に対しては、異議申し立てのみ可能で控訴することはできない

い 当事者の発言→証拠として扱われる

尋問以外での当事者の発言が、証拠として扱われる可能性がある

(2)主張の整理と争点の把握→積極的な釈明権の行使

通常の訴訟では、当事者がどのように主張を組み立てるかを考えて、裁判所は中立の立場なので、ヒントを出す(釈明権の行使)は控えめです。この点、少額訴訟では裁判所が積極的に主張・争点の整理を行います。

主張の整理と争点の把握→積極的な釈明権の行使

裁判所は、提出された書類について、それをそのまま「訴状陳述」等として処理するのではなく、当事者に質問や釈明を求めながら主張を整理し、争点を把握する

(3)証拠の取調べ→弁論と一体

書証の取調べでは、ラウンドテーブルに原本を広げ、当事者の言い分に沿って事実関係を確認します。証人尋問は裁判官の指揮で進行し、必要に応じて裁判官が不慣れな当事者に代わって質問を行います。また、少額訴訟では宣誓なしの尋問が行われ、一体型審理の方法に柔軟性を持たせています。これらの工夫により、効率的かつ公平な事実確認が可能となります。

証拠の取調べ→弁論と一体

あ 書証→事実関係を確認しながら取調べる

書証は、ラウンドテーブルに原本を広げ、当事者の言い分に沿って事実関係を確認しながら取調べを行う

い 尋問→裁判所が主導

ア 不慣れな当事者→裁判官が補助する 証人尋問では、反対尋問や補充質問が認められ、訴訟に不慣れな当事者の場合、裁判官が当事者に代わって質問を行うことが多い
イ 簡略化された手続き→宣誓不要 証人尋問は、少額訴訟では宣誓なしで行うことができる(民事訴訟法372条)
ウ 一体型審理の採否→裁判官の訴訟指揮 一体型審理においては、弁論と当事者本人尋問および書証の取調べ後に、必要に応じて証人尋問を行う方法と、証人尋問を含めて一体型審理を行う方法があり、具体的な事案に応じた個々の裁判官の訴訟指揮による

4 少額訴訟の和解

(1)少額訴訟の解決→和解が推奨される

少額訴訟における和解の推奨理由は、主に費用と労力の削減柔軟な解決にあります。和解は当事者間での任意の履行が期待できることから、費用と労力のかかる強制執行よりも和解が効率的です。また、和解であれば、60万円以下の金銭請求にこだわらず、柔軟な解決を図ることが可能です。これらの理由から、少額訴訟においては和解が積極的に推奨されています。

少額訴訟の解決→和解が推奨される

あ 費用と労力→不要

少額訴訟は60万円以下の比較的小規模な金銭請求を扱うため、強制執行を行うよりも、当事者間での任意の履行が期待できる和解が効率的である

い 和解の内容→制限されない

少額訴訟においても、支払い額が60万円を超える和解や、建物の賃料請求事件で建物の明け渡しを含む和解が可能である

(2)和解期日→原則1期日

和解期日は原則1回で成立を目指します。ただし、債務の履行方法や支払期限などの細部について、当事者間での調整が必要な場合など、細部の調整だけが残っている場合には例外的に続行することがあります。

和解期日→原則1期日

あ 1期日審理の原則

1期日で終わらせるのは和解であってもあてはまる

い 例外的な続行理由→細目の調整のみ

大筋では合意できていて、債務の履行方法等の細目について当事者間での調整が必要な場合には例外的に続行(2回目の期日開催)することもある

5 1期日審理の原則

(1)少額訴訟の審理→1期日審理

少額訴訟は、迅速な紛争解決の推進を目的としており、原則として最初の口頭弁論期日で審理を完了します。そのため、当事者は、口頭弁論が続行される場合を除き、最初の期日前またはその期日に、証拠の提出を含むすべての攻撃防御方法(主張)を提出する必要があります。

少額訴訟の審理→1期日審理

あ 審理→最初の口頭弁論期日で完了

少額訴訟では、原則として最初の口頭弁論期日において審理を完了しなければならない
※民事訴訟法370条

い 攻撃防御方法の提出→期日内での全提出

口頭弁論が続行される場合を除き、当事者は、最初の口頭弁論期日前またはその期日に、すべての攻撃防御方法を提出しなければならない

(2)特別な事情に基づく例外

特別な事情がある場合には、期日を続行することが認められます。特別事情の例としては、証人が病気で出頭できない場合や、事件の性質上、1期日で審理を完了できない場合が挙げられます。この例外規定により、個々の事案の特性に応じた柔軟な審理進行が可能となっています。

特別な事情に基づく例外

あ 審理が終了しない場合の原則→通常訴訟移行

複雑な事案等により1期日で審理が完了しない場合は、少額訴訟により審理・裁判することが相当でないとして、裁判所は職権で通常訴訟により審理・裁判する旨の決定をすることができる
※民事訴訟法373条3項4号

い 例外

ア 審理に欠かせない証拠の未提出→続行可能 証人が病気で出頭できない場合や、結論に大きく影響するような書証を持参しなかった場合
イ 少額訴訟の相当性がある→続行可能 事件の内容、当事者の訴訟準備等を総合的に考慮して、期日を続行してでも少額訴訟による審理および裁判によることが紛争の解決として相当であると認めるとき

(3)当事者本人の出頭命令→弁護士がいても本人出席必要

裁判所は訴訟代理人が選任されている場合でも、当事者本人の出頭を命じることができます。少額訴訟では、1期日で審理を終わらせるために、当事者本人の出頭命令を出すのが通常です。その結果、代理人弁護士に依頼しても、本人が出席しなくて済むわけではないのです。

当事者本人の出頭命令→弁護士がいても本人出席必要

あ 出頭命令の規定

(当事者本人の出頭命令)
第二百二十四条 裁判所は、訴訟代理人が選任されている場合であっても、当事者本人又はその法定代理人の出頭を命ずることができる。
※民事訴訟規則224条

い 運用状況→ほぼ全件

裁判所は、ほとんどの場合、最初にすべき口頭弁論の期日前に、同期日への出頭を命じるものと考えられるが、それに限定されるわけではなく、次回期日への出頭を命じることも許される。
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅶ』日本評論社2016年p219

う 出頭命令の目的→本人尋問として証拠化

事件の事実関係を最もよく知っている本人への裁判所からの求釈明と、その供述を本人尋問の結果として証拠化するため

え 不出頭の影響→不利益発生の可能性

当事者本人の出頭命令に従わなかった場合、制裁はないが、審理が進行し、本人尋問が行われないことにより不利益を受ける可能性がある

6 司法委員の役割と活動

少額訴訟では、審理のサポーターとして司法委員がつきます。これにより、審理が効率化します。

司法委員の役割と活動

あ 審理前→記録検討と打ち合わせ

司法委員は、裁判所の指定を受けた後、記録を検討し、裁判所と事案を打ち合わせた上で審理に立ち会う

い 審理中→事実関係の明確化

審理中、裁判官の許可を得て、証人や当事者に対して発問を行うことができる

う 審理後→意見の提供

審理終了後、裁判所に事件の証拠調べの結果に関する意見を提供する、司法委員の意見を参考に、裁判所は和解勧告や判決内容を検討する

7 参考情報

参考情報

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅶ』日本評論社平成28年p215〜219
※簡裁民事実務研究会編『改訂簡易裁判所の民事実務』テイハン平成17年p246〜249

本記事では、少額訴訟の審理について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に少額訴訟など、債権回収に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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