【後見開始審判において親族が後見人に選任される状況(専門職が選任される基準)】
1 後見開始審判において親族が後見人に選任される状況(専門職が選任される基準)
判断能力が低い方の財産の売却その他の行為をするために、後見人の選任が必要となる状況はよく生じます。
詳しくはこちら|成年後見人の制度の基本(活用の目的や具体例と家裁の選任手続)
後見人の選任(後見開始の審判)の申立では、親族の1人を候補者とする(推薦する)ことができます。裁判所がそのとおりに選任することもあれば、弁護士や司法書士などの第三者である専門職を選任することもあります。
詳しくはこちら|後見開始審判における後見人の人選(判断要素・手続・意向照会)
専門家が選任されてしまうと、毎月の報酬が発生してしまうので、申立の段階で大きな問題となります。
本記事では、親族が後見人に選任される状況、逆にいえば、第三者である専門職が選任されてしまう基準について説明します。
2 最高裁と専門職団体との間で共有した基本的な考え方(前提)
(1)身上保護等の観点も重視した後見人の選任→多面的な検討
裁判所が誰を選任するかの話しの前に、裁判所(最高裁)と専門職団体との間で取り決めた基本方針の中に、誰を後見人にするかに関する事項がありますので紹介します。抽象的な判断基準(方向性)が示されています。
身上保護等の観点も重視した後見人の選任→多面的な検討
(2)中核機関による親族後見人の支援の必要性→支援体制の確保
ところで、成年後見制度の利用促進と権利擁護支援を行うために地域で設置される「中核機関」という組織があります。前述の取り決めの中では、親族を後見人とする場合には、中核機関の活用がセットになる、逆に、中核機関を活用できない場合は専門職を関与させる(後述)という方針が示されています。
中核機関による親族後見人の支援の必要性→支援体制の確保
あ 親族後見人の選任→中核機関の支援が前提
親族等候補者に適格性があると判断されるときは、中核機関等の支援のもとで後見人として選任する
い 中核機関の支援不全→専門職を選任
中核機関等の後見人支援機能が充実していない場合は、専門職後見監督人による親族等後見人の支援を検討する
(3)後見人選任後も後見人の選任形態等を柔軟に見直し→柔軟な対応
実際に、後見人や後見監督人を決めた(選任した)後にも、裁判所はその編成の変更や追加ができます。状況に応じて、柔軟にこのような対応をする、ということも前述の取り決めに含まれています。
後見人選任後も後見人の選任形態等を柔軟に見直し→柔軟な対応
3 実務における親族後見人選任→候補者選任が多数
最初に、令和2年までの統計によれば、後見人が選任された件数に占める親族が後見人に選任される割合は年々低下しています。
ただし、親族を候補者とする申立だけに着目すると、その大半で裁判所は候補者を選任しています。
実務における親族後見人選任→候補者選任が多数
あ 親族後見人の絶対数→低下傾向
最高裁判所が公表している統計数値によると、本人の親族が後見人に選任される割合は、年々低下している
親族を後見人候補者とする申立が年々減少していることが大きく影響していると考えられる
い 親族の候補者ありの場合→選任が多数
実際には、親族が後見人候補者とされているケースで、その候補者が選任されない案件の方が、むしろケースとしては少数である
4 「親族後見人だけ」にはならない状況
(1)親族候補者が選任されない状況の具体例→対立有・不適格
親族を後見人の候補者としても、裁判所がそのとおりに選任しない状況がいくつかあります。”親族間の対立があるケース、財産を運用する目的であるケースや後見事務を適切に遂行できる候補者ではないケースなどです。
親族候補者が選任されない状況の具体例→対立有・不適格
あ 親族間の対立
(ア)親族間に意見の対立がある場合(イ)本人が親族候補者の選任に反対している場合
い 財産運用予定
候補者が本人の財産を投資等により運用する目的で申立をしているようなケース
う 候補者の適性欠如
候補者が健康上の問題や多忙などのため適正な後見事務を行い得ないと判断されるケース
(2)親族後見人に加えて専門職が選任される状況→専門性高・利益相反
候補者である親族を後見人に選任しても、それとは別に専門職を、もうひとりの後見人、または、後見監督人として選任する、ということもあります。
後見監督人として専門職を選任することについては改めて後述します(後記※1)。
親族後見人に加えて専門職が選任される状況→専門性高・利益相反
(ア)専門性の高い課題が見込まれるケース(イ)候補者と本人との間で利益が相反する行為(遺産分割協議など)が予定されているケース(ウ)候補者が後見事務に自信がないケース(エ)専門職による支援を希望したケース
(3)親族後見人のみに戻す運用→特殊事情の消滅
以上のように、状況によっては親族の後見人だけではなく、専門職も選任されるということになります。ただし、その後の専門職が必要な状況がなくなったということも生じます。そのようなケースでは、専門職を外す運用も実際に行われています。
親族後見人のみに戻す運用→特殊事情の消滅
その後、親族後見人のみで以後の後見事務を行う形態へ変更することがある
5 専門職後見監督人(前提)
(1)後見監督人の属性→第三者専門職のみ
前述の説明の中で後見監督人というものが出てきたのでこれについて説明します。
後見監督人とは文字どおり、後見人を監督する立場の者です。後見開始の審判をした場合、裁判所は必ず後見人を選任しますが、後見監督人は選任することもしないこともあります。
後見監督人を選任する場合、監督する役目であるため、東京家裁では、親族や知人ではなく、第三者の専門職を選任する運用がとられています。
後見監督人の属性→第三者専門職のみ
(2)専門職後見監督人に期待される役割→支援と防止
後見監督人には、監督するわけですが、その中身(役割)を大きく分けると、不正防止と後見人支援の2つということになります。
専門職後見監督人に期待される役割→支援と防止
※『後見センターレポートvol.22』東京家庭裁判所後見センター2020年1月
(3)専門職によるサポートの例→一般人には難しい処理や対応
前述の、後見監督人による後見人の「支援」の内容にはいろいろなものがあります。一般の方には少しむずかしい処理や対応について、アドバイスなどのサポートをすることなどです。
専門職によるサポートの例→一般人には難しい処理や対応
(ア)金融機関に対する財産調査の方法について(イ)後見人として必要な届出について(ウ)保険金請求の方法について(エ)本人が利用可能な行政サービスについて(オ)転居先の選択について(カ)後見人の家庭裁判所に対する報告書の作成方法について
6 後見監督人(専門職)の選任の基準
(1)後見監督人選任が必要とされる状況→高額資産など
前述のように、裁判所が後見人として親族を選任するケースで、さらに専門職を後見監督人に選任することもあります。では、どのような状況で後見監督人が選任されるかというと、流動資産が多いケースや専門職のサポートが必要なケースです。
後見監督人選任が必要とされる状況→高額資産など(※1)
あ 流動資産多額
流動資産が多い場合
い 専門職の助力が必要
後見人による後見事務の遂行に関して、専門職の支援を受けることが望ましい場合
(2)後見監督人選任の具体的基準→高額資産で選任
東京家庭裁判所後見センターでの後見監督人を選任するかどうかの判断基準は、まず、資産の規模として1000万円(相当)以上、という基準が挙げられます。
ただし、資産が1000万円以上でも、不正支出を防止する制度を利用して、結果的に後見人の手元の資金を500万円以下に抑える状況が確立できれば、資産基準をクリアしない扱い、つまり後見監督人を選任しない、という判断になる傾向があります。
もちろん、資産の規模とは関係なく、訴訟が必要な状況にあるなど、専門家の関与が必要なケースでは後見監督人を選任することになります。
後見監督人選任の具体的基準→高額資産で選任
あ 原則=資産1000万円基準
東京家庭裁判所後見センターでは、成年後見人が管理する本人の流動資産額が概ね1000万円以上となる場合、原則として、専門職後見監督人を選任する方針としている
い 不正支出防止策による後見監督人回避
流動資産額が高額であるケースのうち、後見制度支援信託・後見制度支援預貯金の利用に適する案件で、実際にこれらを利用し、成年後見人の手元で管理するお金を100万円から500万円程度に設定したような場合は、後見監督人を選任しないケースも多く存在する
そのような場合であっても、専門職の支援を受ける必要があるときは、後見監督人を選任することもある
7 参考情報
参考情報
※東京家庭裁判所後見センター『後見センターレポートvol.22』2020年1月p1〜3
本記事では、後見開始の審判で、親族が後見人に選任される状況や、専門職が選任される基準について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に後見人の選任(後見開始の審判)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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