【告訴(申告相談)先の選択(警察・検察のどちらが適切か)】

1 告訴(申告相談)先の選択(警察・検察のどちらが適切か)

犯罪被害を受けた場合には告訴を検討することがありますし、たとえば損害賠償請求(民事的責任追及)を検討しているケースでも同時に告訴を検討することがあります。
詳しくはこちら|告訴・告発の基本|受理の拒否・民事不介入|不当な拒否に注意
詳しくはこちら|告訴・親告罪の基本(告訴権者・提出先・事件の移送)
ここで、告訴や告発は「検察官又は司法警察員捜査機関」に対して行うことになっています(刑事訴訟法241条1項)。要するに提出先は、検察と警察のふたつがあるのです。では、告訴や告発、さらにその事前相談はどちらを選ぶ方がよいのでしょうか。
本記事ではこのことを説明します。

2 告訴(申告相談)先の選択のまとめ→原則警察

最初に大雑把な結論をまとめます。
告訴先は原則として犯罪場所を管轄する警察が適切です。ただし、一定の特殊(複雑)な類型の事件では検察への直接告訴の方が好ましい可能性もあります。

告訴(申告相談)先の選択のまとめ→原則警察

あ 一般的な指針

(ア)原則として、警察への告訴・告発が適切である(イ)犯罪発生場所を管轄する警察署または警察本部が最適である

い 警察への告訴が特に効果的なケース

(ア)逃走中の所在不明者を捜す必要がある場合(イ)関係者が多数かつ広域に及ぶ場合

う 見解が分かれるケース

次のケースでは、検察官への直接告訴と警察への告訴の選択について見解が分かれている
(ア)高度な法律知識や証拠能力、民事訴訟手続の知識を要する事件(イ)犯人が法律や経理の専門家である事件(ウ)背後に有力政治家が介在し、政治的圧力が予想される事件

以下、細かいことを説明します。

3 告訴先の原則→警察が適切

警察は事物管轄に制限がなく、全国的な組織体制と捜査力を持っています。知能犯罪捜査力も強化されており、複雑な事件にも対応可能です。通常、最初の段階の捜査は警察が行います。そこで警察に告訴やその相談をするとその後の捜査がスムーズです。

告訴先の原則→警察が適切

あ 警察の特徴(前提)

(ア)警察は事物管轄に制限がない(イ)警察は全国的な組織体制と捜査力を持つ(ウ)警察は専門的な捜査技術とシステム、ノウハウを有する

い 警察への申告が効率的なケース

次の場合は警察への告訴・告発が効率的である
・逃走中の所在不明者を捜す必要がある場合
・関係者が多数かつ広域に及ぶ場合(例=大和都市管財事件、バンリ・グループ事件)

4 特殊なケースにおける検察官への告訴→見解が分かれる

以上のように、ごく一般的には(原則としては)警察への告訴が好ましいことについて特に異論はないと思います。ただし、特殊(複雑)なケースでは、例外的に警察よりも検察への告訴をした方が好ましいという意見もあります。一方、そのような例外はない、という意見もあります。

特殊なケースにおける検察官への告訴→見解が分かれる

あ 検察への告訴が効果的とする見解

次のようなケースでは場合は検察官への直接告訴が効果的である
ア 高度の知識を要するケース 税法、商法、金融商品取引法等の法律的知識や証拠能力、民事訴訟手続に対する高度の知識を要する事件
イ 被疑者が専門家であるケース 犯人(被疑者)が弁護士、税理士など法律、経理等の専門家である事件
ウ 政治的圧力耐性が必要なケース 背後に有力政治家が介在し、警察捜査では政治的圧力が加えられることが予想される事件
※坪内利彦「搜査機関に関する犯罪の被害申告をする場合の留意事項」/「商事法務1074号」p33〜35

い 警察への告訴で足りるという見解

ア 警察の知能犯罪捜査能力の強化(ア)警察は「重要知能犯捜査力の強化」に取り組んでいる(イ)知能犯罪に対する事件指揮能力の強化、専門的な知識・技術教養の充実、財務捜査官の中途採用等を実施している(ウ)税法、会社法、金融商品取引法等の専門知識を要する事件でも多数の検挙実績がある(例:SFCG事件、オリンパス事件)イ 警察の政治的中立性(ア)公安委員会制度により警察の不偏不党性および公正中立性を確保している(イ)警察は政治家や高級官僚の逮捕実績があるウ 結論 警察として対処できない、あるいは対処することが不適当な告訴・告発は存在しない

5 どこの警察に告訴すべきか→犯罪地管轄が最適

「警察」に告訴やその相談をする場合に、管轄、つまりどの警察が適しているか、ということも問題になります。これについては犯罪発生場所を管轄する警察が最適だと思われます。

どこの警察に告訴すべきか→犯罪地管轄が最適

あ 法的規定(前提)

ア 告訴・告発先→限定なし(ア)刑事訴訟法は告訴・告発の提出先を特に限定していない(イ)犯罪捜査規範63条は管轄区域内外を問わず告訴・告発を受理すると定めている(ウ)警察法は原則として都道府県警察の管轄区域内での職権行使を定めているイ 事件の移送→可能(ア)犯罪捜査規範69条1項は管轄外の事件や処理が適当でない場合の移送を定めている(イ)同条2項は移送時の告訴人または告発人への通知を定めている

い 告訴・告発の提出先選択

ア 犯罪場所以外への提出における弊害(ア)任意の警察本部または警察署に提出可能だが、迅速な解明を望む場合は合理的でない(イ)移送された場合、改めて事情聴取が必要となる可能性があるイ 適切な提出先→犯罪場所(ア)犯罪発生場所を管轄する警察が最も適している(イ)管轄外の警察は適当な他の警察を教示することが多い(ウ)教示の際は円滑な相談ができるよう配慮している(オ)広域にわたる事件等では、処理警察と告訴人居住地の警察が連携して負担軽減を図る

6 参考情報

参考情報

※経営刑事法研究会編『書式 告訴・告発の実務 第6版』民事法研究会2023年p63〜67

本記事では、告訴やその相談をする警察、検察をどのように選択するのかについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に告訴、告発(被害届)やその相談を検討しているケースに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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