【借地非訟の裁判の効力が及ぶ者の範囲(借地借家法57条・借地法14条の10)】

1 借地非訟の裁判の効力が及ぶ者の範囲(借地借家法57条・借地法14条の10)

借地非訟手続に共通の規定の中に、裁判の効力が及ぶ範囲があります。本記事ではこの規定を説明します。

2 借地借家法57条・借地法14条ノ10の条文

借地非訟の裁判の効力が及ぶ者の範囲の規定は、現在では借地借家法57条ですが、これは旧借地法14条ノ10をそのまま引き継いだものです。最初に条文を確認しておきます。

借地借家法57条・借地法14条ノ10の条文

あ 借地借家法57条

(裁判の効力が及ぶ者の範囲)
第五十七条 第五十五条第一項の裁判は、当事者又は最終の審問期日の後裁判の確定前承継人に対し、その効力を有する。
※借地借家法57条

い (旧)借地法14条ノ10

〔承継人に対する効力〕
第14条ノ10
前条第1項ノ裁判ハ当事者又ハ最終ノ審問期日後裁判確定前承継人ニ対シ其ノ効力ヲ有ス
※借地法14条ノ10

3 規定の趣旨→空振り防止

原理的には、裁判に関与していない者、つまり当事者以外には裁判の効力は及びません。しかし、原理どおりだとすると、裁判の審理が無駄になるので、原理を修正して効力の及ぶ範囲が拡げられているのです。これは民事訴訟法115条1項3号と同様の趣旨です。なお、民事訴訟法115条の趣旨としては、訴訟のことを知っている、あるいは知りうべき者に効力を及ぼすことは許容性がある、ということも指摘されています。

規定の趣旨→空振り防止

この種の裁判は、原則として確定によってその効力を生ずるものであるから、裁判確定までの間に裁判当事者が実体法上の借地関係の当事者でなくなっている場合に、裁判による法律関係の変更・形成の効果が現実の借地関係当事者について生じないものとすると、それまでの手続や裁判は、カラ振りになり無駄になる
そこで、前条1項所掲の裁判は「当事者又ハ最終ノ審問期日後裁判確定前ノ承継人」に対しその効力を有するものと定められた。
※鈴木禄弥・生熊長幸稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p667

4 適用の前提→対抗力は必要

借地借家法57条は、最終審問期日「後」、かつ、裁判確定「前」に承継があった場合に、その承継人に効力を及ぼす、ということが明確に定められていますが、対抗力があるかないかは別問題です。そもそも相手方に承継を対抗できない場合は借地借家法57条とは関係なく、借地契約の当事者としては認められません。逆に言えば、借地借家法57条は対抗力を付与するわけではない、ということになります。

適用の前提→対抗力は必要

あ コンメンタール借地借家法

ア 適用範囲→最終審問期日「後」かつ確定「前」 借地非訟事件における裁判の効力が及ぶのは、最終の審問期日後裁判確定前の承継人である。
イ 対抗力→必要 承継は、一般承継でも特定承継でもよいが、後者の場合には、承継人がその相手方に借地関係の承継を主張もしくは対抗できることが必要である。
たとえば、第三者が土地を取得し、借地権設定者の地位を承継したことを主張するには土地所有者の登記が必要であり、逆に借地権者がこの承継した第三者に対抗するには、地上権または賃借権の登記、もしくは地上建物の登記がなされている必要がある。
他方、借地権者側に承継があったときは、借地権が地上権の場合は地上権取得の登記、賃借権の場合は借地権設定者の承諾が必要である。
※澤野順彦稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p367

い 新版注釈民法

承継人とは、一般承継人(相続人など)であると、特定承継人(例えば、借地の所有権の譲受人)であるとを問わない。
ただし、特定承継の場合にあっては、承継人は、その相手方に対し借地関係の当事者たることを対抗しうる場合でなければならない
※鈴木禄弥・生熊長幸稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p667

5 最終審問期日「前」→適用なし・参加と脱退による(参考)

「承継」はあったけれど借地借家法57条の適用がない場合にどうなるか、ということも説明しておきます。
まず、最終審問期日「前」の承継人については、手続に関与させる、つまり非訟手続の当事者とする制度(規定)が用意されています。具体的には参加脱退です。

最終審問期日「前」→適用なし・参加と脱退による(参考)

あ コンメンタール借地借家法

最終審問期日前に承継が生じたときは、裁判の効力は当然にはその承継人に及ばないから、参加の手続(非訟20条1項、本法43条)をとり、当事者とする必要がある。
この場合、参加前の当事者は相手方の承諾を得て手続から脱退することができる(借非規4条)。
※澤野順彦稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p367

い 新版注釈民法

最終の審問期日前に承継が生じた場合には、参加の手続(借地非訟規7)により当事者となることによって、裁判の効力を受けることになる。
※鈴木禄弥・生熊長幸稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p667

6 確定「後」の承継(参考)

次に、借地借家法57条の適用がない「承継人」のもう1つのパターンとして、裁判(決定)が確定した「後」の承継人の問題もあります。これについては、借地借家法57条とは関係なく、実体法の適用により、結論として借地非訟の裁判の効力が及ぶということになります。だからこそ、借地借家法57条の対象から外してある、とも考えられます。
詳しくはこちら|借地非訟の裁判(認容決定)確定後の承継人(実体上効力が及ぶ)

7 関連テーマ

(1)借地権譲渡許可と増改築許可の裁判の併合

借地非訟の裁判の効力の及ぶ範囲が問題となる具体例として、借地権の譲渡後に建物の増改築(再築)をするケースで、2つの非訟手続を併合するケースがあります。このケースでは、決定の効力を借地権の譲受人に及ばせる前提で申立をする、ということになります。
詳しくはこちら|借地権譲渡許可の裁判と借地条件変更や増改築許可の裁判の併合申立

本記事では、借地非訟の裁判の効力が及ぶ者の範囲について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地上の建物の増改築、再築や借地権譲渡など、借地に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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