【賃借権譲渡・転貸の承諾(法的性質・方法のバリエーションなど)】

1 賃借権譲渡・転貸の承諾(法的性質・方法のバリエーションなど)

賃貸借契約において、賃借権の譲渡や転貸をする場合、賃貸人の承諾が必要です。
詳しくはこちら|賃借権の譲渡・転貸の基本(賃貸人の承諾が必要・無断譲渡・転貸に対する明渡請求)
実務ではこの「賃貸人の承諾」について、あったといえるかどうかが問題になることが多いです。
本記事では、賃借権譲渡や転貸の承諾の法的性質や方法について説明します。

2 承諾の法的性質→物権的効力発生

賃借権譲渡や転貸の承諾の法的性質は、物権的な効果を生じさせるものであると解釈されています。これは、別の場面の解釈に影響を与える基礎理論です。

承諾の法的性質→物権的効力発生

賃借権譲渡または転貸についての承諾は、賃借人に対して、目的物に対する用益権限を物権的効力を生ずるように、承継的または設定的に移転することを可能にする権能を与える意思表示である

3 承諾の方法(相手方・範囲など)

承諾の方法については、実際に問題となることが多いです。まず、

<承諾の方法(相手方・範囲など)>

あ 明示・黙示→両方あり

賃借権譲渡または転貸についての承諾は、明示でも黙示でもよい

い 口頭→可能だが特約による制限可

承諾の方法(書面)は条文上制限されていないので、口頭による承諾も可能である
承諾は書面によらなければならない旨の特約原則として有効である
※判昭和38年11月28日

う 承諾の相手方→いずれも可

賃借権譲渡または転貸についての承諾は、賃借人に対してでも賃借権譲受人・転借人に対してでもよい
※最判昭和31年10月5日

え 承諾の範囲→一般・個別いずれも可

賃借権譲渡または転貸についての承諾は、一般的承諾(何人に譲渡・転貸するも妨げなしとの承諾)または個別的承諾が可能である
(一般的承諾については登記することができる)
〜〜〜

4 承諾のタイミング→事前・事後いずれも可

次に、承諾のタイミングについては、原理的には事前であるはずですが、結果的には事後の承諾でも同じことになります。

承諾のタイミング→事前・事後いずれも可

あ 基本

賃借権譲渡または転貸についての承諾は、事前承諾と事後承諾が可能である

い 事後承諾の典型例→賃料関連行為

賃借権譲渡または転貸についての事後承諾は、しばしば黙示に行われる
賃借権譲渡または転貸についての事後承諾の例として、譲受人または転借人に対して賃料を請求し、または賃料値上げの交渉をすることが挙げられる
※大阪高判昭和29年7月20日

う 事後承諾の理論的メカニズム

賃借権譲渡・転貸のに承諾がない場合、解除権が発生する(民法612条2項)
その後、(賃借権譲渡・転貸の)に賃貸人が承諾した場合、いったん発生した解除権は消滅する
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p244

え 借地上の建物の競売・公売の例外(参考)

借地上の建物の競売・公売は、借地権の譲渡に該当する
しかし、事後的な(賃貸人の承諾に代わる)許可で足りる
詳しくはこちら|借地上の建物の競売・公売における買受人譲渡許可の裁判の趣旨と特徴

5 承諾の主張立証責任→譲受人・転借人

実務では、賃貸人の承諾があったといえるかどうかについて、熾烈に対立することが多いです。この点、「承諾があった」ことの主張、立証責任は”賃借権譲受人・転借人”が負います。つまり、「承諾を得た」ことを主張、立証する必要があるのです。

承諾の主張立証責任→譲受人・転借人

あ 基本

賃借権譲渡または転貸についての承諾があったことは、賃借権譲受人・転借人が立証する必要がある
※大判昭和10年10月12日
※大判昭和13年5月12日(転貸ケース・「い」)

い 昭和13年大判(要旨)

転借人が転貸借について地主の承諾があつた旨を主張しなかつたとしても、地主に対抗できる転借権を主張している弁論の趣旨に照し、地主の承諾を得て転貸借がなされたとの主張がなされなかつたと解することは早計であつて、右の点を釈明せしめる必要があるばかりでなく・・・
※大判昭和13年5月12日

6 承諾の撤回→不可

賃貸人が承諾を与えた場合、その後に撤回することは否定されています。

承諾の撤回→不可

あ 撤回の可否→不可

賃借権譲渡または転貸についての承諾は、一度なされると撤回できない
賃借権譲渡または転貸契約の締結前でも撤回できない
※最判昭和30年5月13日

い 理由→賃貸人の利益保護という趣旨など

賃借権譲渡または転貸についての承諾は、単に賃貸人の利益を考慮した制度である
賃借権譲渡または転貸についての承諾に対し、賃借人はこれに信頼して重要な利害関係をもつに至る
賃借権譲渡または転貸についての承諾は、未成年者の保護を目的とする同意とは異なる

7 条件付承諾の有効性→原則有効

賃貸人が承諾を与える時点で、条件をつけた場合は、原則として有効です。「無条件に承諾して後から撤回する」のとは違うのです。ただし(当然ですが)個別的事情によって無効になることもあります。

条件付承諾の有効性→原則有効

あ 暴利目的の場合→無効の可能性あり

賃借権譲渡または転貸についての条件付承諾が、賃借権譲渡人または譲受人の弱みにつけ込んだ賃貸人の暴利的目的に出たものである場合は無効となることがある

い 不利益填補の場合→条件充足後有効

賃借権譲渡または転貸についての条件付承諾が、賃借権譲渡による不利益を填補する目的の場合は、条件が満たされて初めて確定的に有効になると解すべきである

8 参考情報

参考情報

※広中俊雄稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p271〜272
※我妻栄著『民法講義V2 債権各論 中巻一』岩波書店1957年p455〜456

本記事では、賃借権譲渡や転貸についての賃貸人の承諾について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に賃借権(借地権)譲渡や転貸に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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