【主債務消滅後の保証人による主債務の消滅時効援用否定(最判平成15年3月14日)】

1 主債務消滅後の保証人による主債務の消滅時効援用否定(最判平成15年3月14日)

法人である債務者が破産の手続をとった場合、その後に保証人が主債務の消滅時効の援用をすることができるかどうかが問題となった判例があります。結論として、時効援用が否定されました。本記事では、この判例を説明します。

2 事案内容(時系列)

事案内容は少し複雑です。ただ、この判例の解釈(理論)と関係するのは、主債務者が破産宣告(現在の破産手続開始決定)を受けたことと、その後(見かけ上)主債務の消滅時効が完成した、ということです。

事案内容(時系列)

あ 契約関係

X信用保証協会はA会社と信用保証委託契約を締結した
Yは、A会社のXに対する保証委託契約上の債務を連帯保証した

い 破産手続

A会社が破産宣告を受けた
Xは、A会社の銀行に対する借入金債務の残金を代位弁済した
Xは、借入金の残元本及び破産宣告の日の前日までの利息を破産債権として届け出た
破産債権は、債権調査期日において、異議なく確定した

う 破産後の経過

破産終結によりA会社の破産手続が終了した
Xは約6年間にわたりYから弁済を受け続け、これを求償債権の元本に充当した結果、元本は完済された
Yが求償損害金の支払をしなかったため、XはYに対し、破産宣告後9年余してから本訴を提起した

3 裁判所が否定した見解(当事者の主張)

保証人の主張は、主債務の消滅時効が完成した、そしてこの時効の援用をしたから、保証債務も付従性により消滅した、というものです。

裁判所が否定した見解(当事者の主張)

Yは、主債務の消滅時効を援用し、本訴提起時までに主債務が時効によって消滅したから、これに伴い保証債務も消滅したと主張した

4 裁判所の判断の要点

(1)破産終結決定の効果→法人格と債務が消滅+債務の時効消滅否定

裁判所の判断を2段階に分けて整理します。
まず、主債務者である法人の法人格が消滅することと、それにより、法人が負っていた債務も消滅するという判断です。これについて、法人格、債務のいずれか、または両方が消滅しないという見解もあったのですが、最高裁はそのような見解はとらなかったのです。

破産終結決定の効果→法人格と債務が消滅+債務の時効消滅否定

会社が破産宣告を受けた後破産終結決定がされて会社の法人格が消滅した場合、これにより会社の負担していた債務も消滅する
存在しない債務について時効による消滅を観念する余地はない

(2)保証人による主債務の消滅時効援用→否定

最高裁は次に、保証人による主債務の消滅時効の援用を否定しました。主債務は存在しないという判断を前提にすると、自然とこの結論に至ります。

保証人による主債務の消滅時効援用→否定

破産終結決定がされて消滅した会社を主債務者とする保証人は、主債務についての消滅時効が会社の法人格の消滅後に完成したことを主張して時効の援用をすることはできない

5 判例の評価

この判例よりも前の平成11年最判が、主債務者が自然人であるケースについて、保証人による主債務の消滅時効の援用を否定していました。結論だけみると本判決はそれと同じ(踏襲した)といえます。ただ、法人の法人格と債務が破産により消滅する、という判断は最高裁としては本判決が初めてです。
仮にこのケースで保証人による主債務の消滅時効援用が可能であったとすると、債権者としては主債務の時効更新(中断)措置として、破産した法人の代表清算人選任請求から始めるなど、手続が複雑になってしまいます。本判決により、債権者としてそのような面倒な手続をとる必要がないことがはっきりしたといえます。

判例の評価

あ 判決の意義

最高裁として初めて主債務消滅説に立つことを明確にした
これまでの最高裁判決中には主債務存続説の前提に立つものと読めなくもない説示をするものもあったが、本判決が正面から主債務消滅説に立つことを明確にした意義は大きい

い 実務への影響

最判平成11年11月9日(本判決が踏襲した判例)と相まって、金融機関の債権管理等に与える影響には極めて大きなものがある
実務上重要な意義を有する判決である

6 判決文引用

判決そのものを引用しておきます。

判決文引用

会社が破産宣告を受けた後破産終結決定がされて会社の法人格が消滅した場合には、これにより会社の負担していた債務も消滅するものと解すべきであり、この場合、もはや存在しない債務について時効による消滅を観念する余地はない
この理は、同債務について保証人のある場合においても変わらない。
したがって、破産終結決定がされて消滅した会社を主債務者とする保証人は、主債務についての消滅時効が会社の法人格の消滅後に完成したことを主張して時効の援用をすることはできないものと解するのが相当である。
※最判平成15年3月14日

7 関連テーマ

(1)保証人による主債務の消滅時効援用を認めた判例(平成7年最判)

平成7年最判は、保証人が主債務の消滅時効を援用することを認めました。一見して、本判決と矛盾するようにみえます。しかし平成7年最判は主債務者の法人格の消滅主債務の消滅については判断の対象に入っておらず、別の理論で時効援用が制限されるか、されないか、ということだけが判断された、という寸法です。
詳しくはこちら|弁済を継続していた保証人による主債務の消滅時効援用を認めた判例(最判平成7年9月8日)

8 参考情報

参考情報

※山下満稿/『判例タイムズ1154号 臨時増刊 主要民事判例解説』p28〜

本記事では、主債務が破産手続により消滅した後に保証人が主債務の消滅時効の援用することを否定した判例について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に保証人による消滅時効の援用(主張)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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