【検査済証がない建物の増改築(平成26年ガイドラインで実現可能に)】

1 検査済証がない建物の増改築(平成26年ガイドラインで実現可能に)

古い建物(平成11年以前に新築)の建物は、完了検査を行っていないため、検査済証がないというものが多いです。検査済証なしの建物で困ることは、増改築ができないということです。この問題は、平成26年から施行されているガイドラインで大きく変わりました。結果的に増改築ができるようになっています。本記事ではこのことを説明します。

2 検査済証の役割

(1)検査済証とは

最初に、「検査済証」とは何か、ということを確認しておきます。
建築基準法では、建物を建てた後に「完了検査」を受けて「検査済証」を取得することが義務付けられています。これは、建物が法律の基準に適合していることを証明する公的な書類です。

(2)検査済証がない場合→増改築ができない

検査済証がない建物は、建築基準法に適合しているかどうかが公的に確認できていない状態です。そのため、この建物の増改築をしようとする局面で、(増改築の)建築確認申請が通らず、工事を進められないという問題がありました。
正確には、法律上、「建築確認のためには検査済証が必須」とはなっていませんが、「建築基準法に適合していることに確証が持てない」という理由で実際に増改築の建築確認が不適合(不合格)となる、ということです。「実際には建築基準法に適合していない建物(違法建築)」はもちろん、「実際には建築基準法に適合している建物」であっても、不適合となるということです。
なお、建築確認が必要な工事は「増改築」だけではありません。
詳しくはこちら|建築確認|審査内容=建築基準法等の適合性|審査の流れ|建設主事・特定行政庁
増改築以外の工事でも、検査済証がないと建築確認が基本的に不適合になる、というのは同じです。

3 平成26年ガイドライン(ガイドライン調査)

(1)平成26年ガイドラインの正式名称・施行時期

平成26年のガイドラインで、状況が大きく変わったので、このガイドラインのことを説明します。最初に、正式名称や施行時期を確認しておきます。

<平成26年ガイドラインの正式名称・施行時期>

あ 正式名称

「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」

い 

作成:国土交通省

い 施行時期

平成26年(2014年)7月

(2)平成26年ガイドラインの要点

平成26年ガイドラインの中には「増改築の建築確認」のことは直接書いてありません。ガイドラインの中身は建物の調査の方法(内容)です。

<平成26年ガイドラインの要点>

検査済証のない既存建物について、建築基準法への適合状況を調べる標準的な方法を定めている
専門の検査機関(指定確認検査機関)が調査を行う
建物の図面と現地の照合、目視・計測による確認など、具体的な調査方法、必要書類を明確にしている
調査結果の報告書(建築基準法適状況調査報告書)の様式も定めた

(3)実務的な影響→検査済証なし建物の増改築が可能に

ガイドラインの中身は調査の方法ですが、実務の変化で重要なのはこれ自体ではなく、このガイドラインの方法で調査した結果、建築基準法に適合している、という報告書があれば、増改築の建築確認が適合(合格)となる運用です。
平成26年ガイドラインによる調査、のことを「ガイドライン調査」と呼ぶこともあります。

<実務的な影響→検査済証なし建物の増改築が可能に>

増改築の建築確認申請に、平成26年ガイドラインによる調査報告書(建物が法律に適合していることを示す)が添付されていれば、適合(合格)となる
仮に、建物が建築基準法に違反しているケースでも、是正工事(建築基準法に適合させる工事)をした後に調査を受けることで、増改築の建築確認が適合(合格)となる

4 平成26年ガイドラインの正確な理解(参考)

平成26ガイドラインについては誤解が起きやすいです。また、以上の説明も分かりやすさ優先のため、不正確なところもあります。ここで、正確な理論面について説明しておきます。
まず、建築基準法に適合していない建物(違法建築)について増改築はできない、ということはガイドラインの施行前後で変わりません。また、法的に調査報告書が、検査済証とみなされる(イコールである)わけではありません。検査済証は、建物完成の直後の検査を受けた場合にだけ取得できるものです。
ガイドライン施行で変わったことは、このガイドラインに基づく調査をパスすれば(合格の調査報告書があれば)増改築の建築確認が適合(合格)となる運用がなされるようになった、というところです。もっと言えば、ガイドライン施行前から「調査結果報告書」を作成すること自体は可能ですし、それを添付して増改築の建築確認申請をすることもできましたが、その場合にはほぼ確実に不適合(不合格)となる運用だった、ということです。

<平成26年ガイドラインの正確な理解(参考)>

あ 変わらない点

建築基準法に違反している建物は、是正工事が必要である
是正工事をしてからでないと増改築の建築確認で不適合(不合格)となる
調査報告書は検査済証の代替(法的に検査済証とみなされる)ではない

い 変わった点

(平成26年ガイドラインによる調査の)調査結果報告書があれば、実務の運用上、増改築の建築確認が適合(合格)となるようになった

5 平成26年ガイドラインの現実的な影響

最後に改めて、平成26年ガイドラインの影響をまとめます。
まず、検査済証がない建物の増改築が、(現実的に)可能となりました。もちろん、違法建築のケースでは、建物の違法部分を是正する必要があるのは当然の前提です。
また、建築確認とは関係なく、建物(や土地)を担保にして金融機関の融資を受けることも可能(現実的)になりました。というのは、金融機関は検査済証がない建物を担保として認めない傾向が強いのです。この点、平成26年ガイドラインによる調査報告書があれば、適法である(今後、建築確認を受けられる)ことが分かるので、金融機関が担保として認めることができるのです。

<平成26年ガイドラインの現実的な影響>

検査済証がない建物の増改築が現実的に可能となった
(時間と費用の見通しが立てやすくなった)
(実際に建築基準法に適合していない建物は是正工事を行うことが前提)
調査報告書があれば、金融機関の融資を受けやすくなった

本記事では、検査済証がない建物の増改築(平成26年ガイドライン)について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に建物の適法性や建築確認に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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