【地上権者・土地所有者間の権利義務(地上権の効力・民法265条)】
1 地上権者・土地所有者間の権利義務(地上権の効力・民法265条)
地上権の基本的な規定(条文)は民法265条です。民法265条から多くの規律(解釈)が出てきます。本記事では、民法265条の規律(解釈)のうち、地上権者・土地所有者間の権利関係を整理します。
土地を「使う」権利関係という点では、地上権は賃貸借、使用貸借と共通します。しかし、地上権は「物権」の1つであるという特徴があります。そこで、権利関係、つまり地上権者と土地所有者の権利・義務については独特の規律があるのです。
2 民法265条の条文(地上権の内容)
最初に条文を確認しておきます。地上権は目的が、工作物所有と竹木所有に限定されています。それ以外の細かいことは規定されていません。
民法265条の条文(地上権の内容)
※民法265条
3 地上権者の権限(地上権の内容)
権利関係のうち、地上権者の権限(権利内容)について、細かい解釈を含めて整理します。
(1)地上権者の土地利用権限→所有者同様の広範な利用権
地上権者の土地利用権限→所有者同様の広範な利用権
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p874
(2)地上権の目的による制限→登記しないと第三者に対抗不可
地上権の目的による制限→登記しないと第三者に対抗不可
あ 目的制限→設定行為で可能
地上権の目的は、設定行為で、工作物と竹木の両方またはその一方の所有のためと定めてもよく、さらに工作物ないし竹木の種類を限定してもよい。
い 対抗要件→登記必要
ただし、これらの限定は、登記(不登78)しないと第三者に対抗できず、地上権の譲受人は、工作物と竹木の両方の所有を目的とする地上権だと主張できることになる。
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p874
(3)法令による制限→回復不能な変更は禁止
法令による制限→回復不能な変更は禁止
あ 禁止事項→回復不能な変更
地上権者は、土地利用にあたって、「土地に対して、回復することのできない損害を生ずべき変更」(たとえば、大量の土砂を土地から搬出すること)をすることは許されない(民法271条の準用)。
い 目的制限→範囲内利用必要
また、地上権者は、地上権の目的の範囲を逸脱する方法で土地を利用してはならない。
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p874
(4)土地利用権限の制限の具体例(判例)
土地利用権限の制限の具体例(判例)
あ 適法判例→範囲内利用
ア 教会所設置目的→死体埋葬・寝泊まり可能
教会所設置のために設けられた地上権につき、死体を埋葬し、また信徒休息所として土地上に建てられた建物に僧侶等が起臥しても、土地に永久の損害を生ぜしめたとか用法違背だとかはいえない
※東京地判大正7年12月21日
今日では、この判例の具体的妥当性については、疑問が生じえよう。
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p874
イ 隣地のための通路開設→可能
地上権者が隣地居住者のために通路を開設しても、土地に永久の損害を与えたことにはならない
※大判昭和15年11月19日
い 逸脱判例→範囲外利用
ア 公衆のための通路開設→不可
地上権者が所有者の承諾なしに公衆を通行させる道路を設けたことは地上権の範囲を逸脱する
※大阪地判明治45年3月10日
イ 遊園地目的→無関係自動車の通路不可
遊園地経営のための建物所有を目的とする地上権につき、遊園地入園に不必要な自動車通路を開設することは、地上権の効力範囲を逸脱する
※東京控判昭和15年7月10日
(5)地上権者による制限違反→重大な場合は地上権消滅請求
地上権者による制限違反→重大な場合は地上権消滅請求
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p874、875
(6)地上権者の第三者への土地賃貸権限→土地所有者の承諾不要
地上権者の第三者への土地賃貸権限→土地所有者の承諾不要
あ 賃貸→可能
地上権者は、土地を第三者に賃貸することができる(民法272条の準用)
※大判明治36年12月23日
い 承諾→不要(賃貸借と異なる)
地上権者が土地を第三者に賃貸する場合、土地所有者の承諾は不要である(民法612条は適用されない)。
(土地賃借人が転貸する場合は民法612条により土地所有者の承諾が必要である)
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p875
(7)賃貸制限特約→特約登記不可能・第三者に対抗不可
賃貸制限特約→特約登記不可能・第三者に対抗不可
あ 特約→可能
地上権者の賃貸の権限を制限する特約は可能(有効)である。
い 対抗→不可能
しかし、この特約を登記上に表す方法がない(不動産登記法78条、79条参照)。
そのため、土地所有者は特約を第三者に対抗することはできない。
(永小作権においては、永小作人の賃貸の権限は特約によって制限されうる(民法272条但書)、この特約を登記しておけば、土地所有者はこの特約の効力を第三者にも主張できる)
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p875
4 土地所有者の権利・義務
権利関係のうち、土地所有者の権利と義務について、細かい解釈を含めて整理します。
(1)土地所有者の義務→修補義務なし・特約可能だが登記不可
土地所有者の義務→修補義務なし・特約可能だが登記不可
あ 所有者の義務→不作為義務のみ
土地所有者は、地上権者の土地利用を妨げない義務を負う
土地所有者は、地上権が存在する限り、土地を使用することができない
土地を利用に適した状態に置く義務(修補義務)は負わない。
い 修補の特約→可能だが登記不可
特約によって、所有者が修補義務を負うことは可能(有効)である
※大判明治37年11月2日
この特約は登記する方法がないため、土地の譲受人に対して地上権者が修補を要求することはできない。
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p875
(2)土地所有者による賃貸→不可
土地所有者による賃貸→不可
あ 賃貸→(物権的に)不可
地上権の存在する土地の所有者は、この土地を他人に賃貸することはできない
※大判大正6年9月6日
い 債権レベル→他人物賃貸
ただし、このような賃貸借は無効ではなく、所有者は賃借人に土地の現実利用をさせることができないため、賃借人に対し他人の物の売主(民法566条1項)と同様の責任を負うことになる。
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p875
5 他の条文による規律→地代支払義務・地上権消滅時の処理(参考)
民法265条の解釈としては以上のとおりですが、(もちろん)別の条文にも、地上権者・土地所有者の権利義務が個別的に規定されています。
他の条文による規律→地代支払義務・地上権消滅時の処理(参考)
地上権消滅時に、地上権者は地上物収去権があり、土地所有者は地上物売渡請求権がある(民法269条)
※鈴木禄弥稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2012年p875
本記事では、地上権者と土地所有者の権利義務について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に(借地権やその他の)地上権に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。