【境界標の設置と費用負担(民法223条・224条)(解釈整理ノート)】

1 境界標の設置と費用負担(民法223条・224条)(解釈整理ノート)

民法223条、224条は、境界標の設置と、その費用負担のルールを定めています。実務では、筆界(土地の境界)についてのトラブルの中で、これらの条文を活用することがあります。
本記事では、境界標の設置と費用負担に関するいろいろな解釈を整理しました。

2 民法223条・224条の条文

民法223条・224条の条文

(境界標の設置)
第二百二十三条 土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。
※民法223条
(境界標の設置及び保存の費用)
第二百二十四条 境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。
※民法224条

3 境界標設置の権利(民法223条)の性質→協力請求権

(1)一般的見解→協力請求権

一般的見解→協力請求権

土地所有者が隣地所有者と共同の費用で境界標を設けることができるという権利は、隣地所有者に対する協力請求権として解される
隣地所有者に協力を求め、応じない場合には協力を訴求すべきである
※岡山地判昭和35年8月23日
※東京地判昭和39年3月17日(参考)
(独断的に設置して後に費用分担を請求する方法もあるという学説もある)

(2)別の見解→単独設置実行+費用分担請求

別の見解→単独設置実行+費用分担請求

あ 筆界確定訴訟の確定判決あり→可能

境界確定訴訟の確定判決がある場合、意思擬制(民事執行法177条1項)として捉える
境界標を単独で設置した上で、境界標の設置費用の分担を請求することができる

い 筆界特定の判断あり→不可

筆界特定には確定判決のような意思擬制の効果はないので、原則通り、隣地所有者の承諾が必要となる
※平成17年12月6日法務省民二第2760号通達第7、129項(境界標設置の意義と重要性の説明)

4 境界標の材料→協議または裁判所の決定

境界標の材料→協議または裁判所の決定

あ 基本

境界標として、通常は石や木の標柱が用いられるが、地方の慣習に従って適切なものを定める
当事者の協議で境界標の材料が決まらないときには、判決の中で決められる
裁判所は土地の状況、付近における慣習、費用等を考慮して適当な材料を選ぶ

い 具体例

花こう岩造りの、5寸角、長さ5尺の界標を認めた
※東京地判昭和39年3月17日

5 境界標の費用負担(民法224条)

設置・保存費用→均等負担(本文)

あ 規定内容

境界標の設置及び保存の費用は、相隣者(その界標によって直接に境界が標示される土地の所有者)が等しい割合で負担する
※民法224条本文

い 趣旨

これは相隣者が境界標について同一の利益を有することに基づく

あ 規定内容

測量の費用については、その土地の広狭に応じて分担する
※民法224条ただし書

い 趣旨

測量の利益は土地の広狭に対応して異なるためである

う 「測量」の意味

ここでの「測量」とは、土地の広さについて争いはなく、単に技術的に境界線を明瞭にするために必要な測量を意味する

6 境界標と筆界確定の関係

(1)境界標設置と筆界争い(筆界確定)の関係→別の手続

境界標設置と筆界争い(筆界確定)の関係→別の手続

あ 筆界の争いとの関係

民法223条および224条の規定は、境界そのものについては争いがなく、単に界標を設置するかどうかについて争いのある場合を解決するためのものである
境界自体に争いがあるときは、「筆界確定の訴え」を用いる

い 筆界特定制度(参考)

筆界特定制度(不動産登記法123条以下)もあるが、形成的な効力はなく、最終的に筆界を法的に確定する必要があるときは、従来どおり境界確定訴訟によることとなる
境界確定訴訟により境界が確定した場合には、筆界特定は抵触する範囲でその効力を失う
※不動産登記法148条

(2)筆界確定における境界標の効力→判断材料の1つ

筆界確定における境界標の効力→判断材料の1つ

あ 境界標を設置する場所(前提)

境界標は境界線上に設置される

い 筆界確定との関係→判断材料の1つ

境界標は境界を確定する効力を有しない
現に争いがないか裁判上確定している境界について、後日の紛争を防ぐためのものである
境界紛争が起こった場合は、裁判官が境界を決定する際の一つの判断材料としての意義を有するにとどまる
※最判昭和31年12月28日

7 本記事の理論の実例での活用

(1)境界標(石・杭)の設置には隣地所有者の承諾が必要だが裁判もできる(事例解説)

詳しくはこちら|境界標(石・杭)の設置には隣地所有者の承諾が必要だが裁判もできる(事例解説)

8 関連テーマ

(1)境界の位置を判断(特定)する事情ごとの判断基準と立証方法

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(2)筆界特定制度

詳しくはこちら|筆界特定制度|問題点|境界標設置・未確定状態|無期限・誤認誘発

9 参考情報

参考情報

野村好弘・小賀野晶一稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p355〜357
我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p465、466

本記事では、境界標の設置と費用負担について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に隣接する土地の境界(筆界)や境界標に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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