【顕名のない代理(民法100条)(解釈整理ノート)】

1 顕名のない代理(民法100条)(解釈整理ノート)

民法100条は、顕名がない代理行為の効果を定めています。とても抽象的で、条文だけをみても、どのようなケースでこれを活用するのか、が見えてきません。別の言い方をすると、これを活用できる場面は幅広いです。本記事では、民法100条に関する解釈を整理しました。

2 民法100条の条文

民法100条の条文

(本人のためにすることを示さない意思表示)
第百条 代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第一項の規定を準用する。
※民法100条

3 代理行為の類型の整理(前提)

代理行為の類型の整理(前提)

あ 代理意思あり+表示あり

代理人が本人のために意思表示をする意思を有し、相手方にそのことを示した場合
本人のための意思表示となる

い 代理意思あり+表示なし

代理人が本人のために意思表示をする意思を有するが、相手方にそのことを示さなかった場合
原則として代理人自身のための意思表示とみなされる(民法100条本文
ただし、相手方が代理人の代理意思を知っていたか知ることができた場合には本人のための意思表示となる(民法100条ただし書

う 代理意思なし+表示あり

代理人に本人のためにする意思がないが、本人のためにすることを示して意思表示をした場合
本人のための意思表示となる(民法99条3項参照)

え 代理意思なし+表示なし

代理人に本人のためにする意思がなく、本人のためにすることも示さなかった場合
代理人自身のための意思表示となる

4 民法100条本文

(1)民法100条(本文)の基礎→顕名主義

民法100条(本文)の基礎→顕名主義

代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなされる
この場合、意思表示の効果は代理人と相手方との間に生じ、両者が法律行為の当事者となる
本人の法律関係には直接の変動は生じない
代理人が本人のためにするつもりであったとしても、顕名しない場合は代理の効果は生じず、代理人自身に効果が帰属する
たとえそれが錯誤であったとしても、その行為の無効を主張することはできない

(2)民法100条本文の意義→代理人による錯誤主張封印

民法100条本文の意義→代理人による錯誤主張封印

代理人が本人のためにする意思を持ちながら顕名しなかった場合、代理人による意思表示の錯誤取消の主張を封じる意味がある
これは、代理人が行為の結果を見て自己に不利となれば錯誤取消を主張するという機会主義的行動(後から良い方の選択肢を自由に選べる)を防ぐためである

5 民法100条ただし書

(1)民法100条ただし書の内容

民法100条ただし書の内容

相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、民法99条1項の規定が準用され、意思表示の効果は本人に生じる

(2)民法100条ただし書の性質→2説あるが実務に違いはない

民法100条ただし書の性質→2説あるが実務に違いはない

あ 2つの見解

ア 注意的規定説 「相手方が本人のためにすることを知り、又は知ることができたとき」とは、本人のためにすることが暗黙のうちに表示されていることにあたる
このただし書の規定により、顕名は必ずしも明示である必要はなく、黙示でもよいことが示されている
イ 創設規定説 黙示的にすら顕名のない場合であっても、相手方がたまたま本人を当事者とする法律行為であることを知り、または知ることができたときにはこの規定により代理の効果を認める

い 2つの説の違い

実際上の違いが生じることはない

(3)代理人の主観の証明責任→代理の効果の主張者

代理人の主観の証明責任→代理の効果の主張者

代理意思の存在と相手方がその代理意思の存在を知っていたこと、または知ることができたことについては、代理の効果を求める者に主張証明責任がある
※大判大正9年12月9日民録26・1895

(4)民法100条ただし書適用の実例(判例)

民法100条ただし書適用の実例(判例)

あ 代理人が貸主である本人の名を秘して消費貸借契約を締結した事案で、相手方が代理人は貸主でないと知っていた場合には、本人と相手方との間に消費貸借が成立する

※大判昭和12年4月13日判決全集4・7・20

い 供託者が債務者(本人)の代理人としてする意思で、本人のためにすると示すことなく供託をした場合でも、被供託者において本人のためにされたものであることを知り、または知ることができたときには、弁済供託は本人より被供託者に対するものとして効力を有する

※最判昭和50年11月20日裁判集民116・489

6 関連する他の規定

(1)間接代理・事務管理の適用→あり(並立する)

間接代理・事務管理の適用→あり(並立する)

あ 基本

民法100条本文により代理人に効果が帰属した場合でも、代理人が本人のための意思を有していれば、間接代理または事務管理として処理されることがある
この場合、本人は代理人に対して取得した物や権利の移転を請求でき、代理人は本人に事務処理費用の償還を請求できる

い 判例

間接代理において、代理人と本人との間で事務処理の結果を本人に直接帰属させる旨の合意がある場合には、代理人に効果が帰属すると同時に本人に効果が帰属する
※大判大正7年4月29日民録24・785
※福岡高宮崎支判昭和59年7月20日判タ542・218(本人に「直接に」帰属する)

(2)商行為の特則(商法504条)→顕名不要

商行為の特則(商法504条)→顕名不要

あ 商法504条の内容

商法504条は、代理人が代理意思をもって代理権の範囲内の行為をした場合には、顕名がされなかったときでも、その行為の効力は本人に生じるとする
ただし、代理人の代理意思を知らなかった相手方は代理人に対して履行を求めることもできる

い 判例

商法504条ただし書により、代理関係につき善意無過失の相手方に、本人との関係を否定して代理人との法律関係の選択が許される
※最大判昭和43年4月24日民集22・4・1043

7 関連テーマ

(1)「授権」の理論と実務(定義・分類・実務上の扱い)

詳しくはこちら|「授権」の理論と実務(定義・分類・実務上の扱い)(解釈整理ノート)

8 参考情報

参考情報

佐久間毅稿/於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(4)』有斐閣2015年p47〜54
我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p226

本記事では、顕名のない代理(民法100条)について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に代理人や使者による取引に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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