【「授権」の理論と実務(定義・分類・実務上の扱い)(解釈整理ノート)】

1 「授権」の理論と実務(定義・分類・実務上の扱い)(解釈整理ノート)

民法の理論の1つとして「授権」という概念があります。日本語としては広く「代理権などの権限を付与する(与える)」というものですし、実務でもそのような意味で使われることもあります。しかし、「授権」の概念はそのようなものとは異なります。本記事では、「授権」の定義や実務上の扱いについて、いろいろな解釈を整理しました。

2 「授権」の定義と具体的状況

(1)「授権」の定義

「授権」の定義

あ 定義

授権とは、「自己の名において法律行為をすることによって、他人効を発生させる権限」を指す
行為者(被授権者)が自己の名で行為するが、法律効果は直接本人(授権者)に帰属する場合をいう
(代理権(権限)を授与することを(日常用語では)「授権」ということもあるが、それとは別の概念である)

い 位置づけ→民法に規定なし

授権に関する明文規定は民法にはないが、判例・学説により認められており、ドイツ民法185条1項では明文で規定されている

(2)授権による行為の構造

授権による行為の構造

あ 権限付与

授権者が被授権者に対し、被授権者の名で行為するが法律効果は直接授権者に帰属する旨の権限を与えた

い 本人への帰属の意思

被授権者が授権者に直接法律効果を帰属させる意思を持って被授権者の名で行為した

3 「授権」の特徴

(1)授権と代理・間接代理の比較

授権と代理・間接代理の比較

あ 授権と代理の共通点

授権も代理も、他人効を発生させる

い 授権と代理の相違点

代理は本人の名で行為するのに対し、授権は自己の名において行為する
授権は、法律行為の当事者たる地位は行為者自身に保留される

う 授権と間接代理との違い

間接代理は行為者に効果が帰属した後に本人に帰属するのに対し、授権は直接本人に帰属する

(2)授権に関連する民法上の規定(参考)

授権に関連する民法上の規定(参考)

あ 民法100条

代理人が本人に法律効果を帰属させる意思を持ちつつ、代理関係を示さず(顕名なしで)自己の名で行為した場合に適用される

い 民法94条

授権は通謀虚偽表示に類似する

4 処分授権

(1)処分授権の意味と具体例

処分授権の意味と具体例

あ 意味

既存の権利を処分する行為に関するもの
被授権者が授権者に法律効果を帰属させる意思で、授権者の財産を被授権者の名で第三者に処分する場合

い 具体例

譲渡による帰属変更、地上権や抵当権設定による権利への負担付加

(2)他人物の売却の法的扱い

他人物の売却の法的扱い

あ 効果(結論)

他人物売買において所有者から売主に予め目的物の処分権限が授与されている場合:
(ア)債権・債務関係は売主に発生(イ)目的物の所有権は売主を経由せず、所有者から直接買主へ移転する ※最判昭和29年8月24日裁判集民15号439頁

い (通常の)他人物売買との違い

他人物売買(民法560条)では、売主が所有権を取得してから買主に移転するという迂遠な処理になるが、授権構成では直接本人から相手方への所有権移転が可能となる

う 通常の他人物の無断売買と追認(参考)

売主が予め処分の権限を得ていない場合でも、所有者が事後に承認(追認)すれば、処分行為の瑕疵は治癒される
※大判昭10年9月10日民集14巻1717頁
※最判昭37年8月10日民集16巻8号1700頁(被授権者が授権者の財産に第三者のために抵当権を設定した事案)

5 権利取得授権

(1)権利取得授権の意味

権利取得授権の意味

新たに権利を取得する行為に関するもの
被授権者が授権者に法律効果を帰属させる意思で、被授権者の名で第三者から権利を取得する場合

(2)権利取得授権の法的扱い

権利取得授権の法的扱い

あ 第三者が善意無過失

第三者が被授権者の真意を無過失で知らなかった場合
民法100条本文の趣旨により、被授権者が受贈者になる
第三者は授権者または被授権者との法律関係を選択可能

い 第三者が善意有過失

第三者が被授権者の真意を過失で知らなかった場合
第三者が授権者を当事者(受贈者)と主張する場合を除き、授権者も被授権者も当事者(受贈者)にならない
被授権者が承諾した場合、第三者は授権者または被授権者との法律関係を選択可能

う 第三者が悪意

第三者が被授権者の真意を知っていた場合
授権者が受贈者になる

6 義務負担授権

(1)義務負担授権の意味

義務負担授権の意味

新たに義務を負担する行為に関するもの
被授権者が授権者に法律効果を帰属させる意思で、被授権者の名で第三者に対し義務を負担する場合

(2)義務負担授権の法的扱い

義務負担授権の法的扱い

あ 第三者が善意不足

第三者が被授権者の真意を無過失で知らなかった場合
第三者は授権者または被授権者との法律関係を選択可能
第三者が被授権者との法律関係を選択した場合、被授権者は授権者に対し費用償還等を求められる(民法650条参照)

い 第三者が善意有過失

第三者が被授権者の真意を過失で知らなかった場合
第三者が授権者を義務者と認めた場合を除き、授権者も被授権者も義務者にならない
被授権者が承諾した場合、第三者は授権者または被授権者との法律関係を選択可能

う 第三者が悪意

第三者が被授権者の真意を知っていた場合
授権者が義務者になる

7 権利行使授権

(1)権利行使授権の意味

権利行使授権の意味

あ 意味

被授権者が授権者に法律効果を帰属させる意思で、被授権者の名で授権者の第三者に対する権利の行使をする場合

い 具体例(判例)

取立目的のための債権譲渡において、譲受人にその名をもって債権の行使をする権限のみを授与するタイプを認めた
※大判昭5年1月29日新聞3121号13頁

(2)権利行使授権(債権行使)の特殊性

権利行使授権(債権行使)の特殊性

あ まとめ

権利行使授権の場合、授権者から被授権者への債権譲渡は虚偽表示で無効であるが(民法94条1項)、授権者から被授権者への被授権者の名による債権の取立委任は隠匿行為として有効である
被授権者が善意無重過失の第三者に債権を譲渡すれば、当該第三者は民法94条2項によって保護される

い 判例

譲渡人の同意がない限り債権を他に譲渡できない
※大判昭2年4月5日民集6巻193頁
債務者は、債権譲渡の通知後に譲渡人に生じた事由をもって譲受人に対し相殺を主張できる
※大判大15年7月20日民集5巻636頁

8 「授権」が認められる範囲→処分授権だけは肯定確立

「授権」が認められる範囲→処分授権だけは肯定確立

あ 処分授権→肯定

他人所有物の処分権限を与える場合(処分授権)には広く認められる
人的要素より処分権限の有無が重要であり、相手方にも不都合がない

い 義務負担授権→議論あり

他人の名義で義務を負担させる場合(義務負担授権)については議論がある
相手方の利害に関わるため慎重な判断が必要
ア 否定説 義務負担者が誰かは相手方の利害に関わるため認めるべきでない
無権代理行為の追認、表見代理、行為の瑕疵など、代理の規定がどこまで準用されるかが実務上重要となる
イ 肯定説 行為者と本人の双方が義務を負うと構成することで認められうる
ウ 法定義務負担授権 民法761条の日常家事債務による夫婦の連帯責任は義務負担授権とみることもできる

9 関連テーマ

(1)顕名のない代理(民法100条)

詳しくはこちら|顕名のない代理(民法100条)(解釈整理ノート)

10 参考情報

参考情報

奥田昌道稿/於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(4)』有斐閣2015年p14
石田穣著『民法総則 民法大系1』信山社2014年p745〜750
伊藤進稿/椿寿夫ほか編著『解説 新・条文にない民法』日本評論社2010年p75〜79

本記事では、「授権」の理論と実務について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に代理人や使者による取引に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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