【連帯債務者間の求償権(民法442条)(解釈整理ノート)】

1 連帯債務者間の求償権(民法442条)(解釈整理ノート)

民法442条は、複数の連帯債務者の求償権についてのルールです。平成29年改正で過去の判例のルールが明文化しましたが、まだ解釈の問題があります。本記事では、民法442条のいろいろな解釈を整理しました。

2 民法442条の条文

民法442条の条文

(連帯債務者間の求償権)
第四百四十二条 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず、他の連帯債務者に対し、その免責を得るために支出した財産の額(その財産の額が共同の免責を得た額を超える場合にあっては、その免責を得た額)のうち各自の負担部分に応じた額の求償権を有する。
2 前項の規定による求償は、弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
※民法442条

3 連帯債務の特徴→内部関係で負担割合あり

連帯債務の特徴→内部関係で負担割合あり

連帯債務は、債権者に対する関係では各債務者が債務の全額を弁済すべき義務を負うが、連帯債務者の内部関係では負担すべき割合が定まっている
これが連帯債務の特色として挙げられる主観的関連(主観的共同関係)であり、不真正連帯債務と異なる点である

4 求償権の成立要件(1項)

(1)求償権の成立要件の基本

求償権の成立要件の基本

連帯債務者の一人が以下のいずれかによって共同の免責を得た場合に求償権が発生する
(ア)弁済(イ)自己の財産をもって共同の免責を得た場合(代物弁済、供託、更改、相殺、混同など)

(2)求償権の範囲→弁済額×負担割合

求償権の範囲→弁済額×負担割合

連帯債務者は、自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず、他の連帯債務者に対し、以下の金額の求償権を有する
(ア)免責を得るために支出した財産の額のうち各自の負担部分に応じた額(イ)ただし、その財産の額が共同の免責を得た額を超える場合は、その免責を得た額のうち各自の負担部分に応じた額を基準とする ※大判大正6年5月3日(負担部分を超えない金額の一部弁済でも求償できる)
(平成29年の民法改正でこの規律が民法442条1項の中に明文化した)

5 負担部分(負担割合)

(1)負担部分(負担割合)の意味

負担部分(負担割合)の意味

負担部分とは、連帯債務者がその内部関係において出捐を分担する割合をいう

(2)負担部分の決定(合意)と認定基準(優先順位)

負担部分の決定(合意)と認定基準(優先順位)

あ 負担部分の決定→合意

連帯債務者間の特約(合意)により負担部分が定まる
※大判大正4年4月19日(債権者との合意を必要としない)

い 合意の認定基準

合意を明確に認定できない場合、次の順序で判定する
(ア)連帯債務によって受けた利益の割合による決定(イ)(ア)で定まらない場合は、各自平等の割合 ※大判大正3年10月29日

(3)負担部分の変更→合意のみ

負担部分の変更→合意のみ

一度決まった負担部分を後に債務者間の特約で変更することができる
債権者の同意を必要としない
※大判昭和7年4月15日
(債権者の同意を要するという見解もある)

(4)負担部分が債権者に影響する状況→判例は認識不要説

負担部分が債権者に影響する状況→判例は認識不要説

あ 認識不要説(明治42年大判)

連帯債務者の一人の負担部分が全部であるケースで、債権者がそれを知らずに免除したときに(絶対効により)連帯債務は全部消滅する
※大判明治42年9月27日

い 認識必要説

負担部分に関する合意が債権者にも知らされていれば、債権者をも拘束する
債権者がそれに関与していなければ、債権者は債務者間の負担部分に関する合意を対抗されることはなく、平等な負担部分という原則を主張できる

6 求償権に含まれるもの(賠償範囲)(2項)

(1)法定利息

法定利息

弁済その他免責があった日以後の法定利息は求償権の範囲に含まれる
※大判昭和11年2月25日(免責があった日を加えて計算する)
※大判大正4年7月26日(催告を要しない)

(2)不可避費用・損害(その判定基準)

不可避費用・損害(その判定基準)

「避けることができなかった」費用・損害とは、過失なしに生じた費用・損害の限度に求償範囲をとどめる趣旨である
無過失評価は事案の個別的具体的事情に応じて行われるべきであり、単に費用項目の種類によって決せられるものではない

7 不可避費用・損害と認められる具体例

(1)強制執行費用

強制執行費用

連帯債務者A・Bにおいて弁済すべき旨の確定判決があったにもかかわらず何人も任意に弁済をしなかった結果、Aの受けた強制執行上Aの負担した強制執行費用は、民法442条2項の「避クルコトヲ得サリシ費用若クハ損害」である
※大判大正5年9月16日

(2)訴訟費用・執行費用

訴訟費用・執行費用

連帯保証人の1人Aが債権者から請求訴訟を受けたが、主債務者及び他の連帯保証人はその訴訟を顧みず、被告1人に敗訴の判決を受けさせた
Aは債務を弁済することを余儀なくされた
Aが要した訴訟費用、執行費用等は、民法442条2項にいわゆる「避クルコトヲ得サリシ費用其他ノ損害」にあたる
※大判昭和9年7月5日

(3)抵当権設定登記の費用

抵当権設定登記の費用

連帯債務者の1人が、他の連帯債務者の懇請により自己の出捐によって債務を弁済しようとした当時、現金を所持していなかったため、余儀なく自己所有不動産を担保として金員を借り入れた
そのための抵当権設定登記の費用は、民法442条2項の「避クルコトヲ得サリシ費用」に該当する
他の連帯債務者は、抵当借金につき承諾をしたか否か、抵当借金の事実を知るか否かにかかわらず、当然、その費用を償還する義務がある
※大判昭和14年5月18日

8 不可避費用・損害と認められない具体例→制限超過利息

不可避費用・損害と認められない具体例→制限超過利息

金銭消費貸借上の利息の約定は利息制限法の制限利率を超過する部分に関しては無効であるため、連帯債務者の1人が制限超過利息を任意に支払った場合、他の連帯債務者に対し、その制限超過部分に相当する金員の求償をすることは許されない
制限超過利息の支払は民法442条2項にいう「避クルコトヲ得サリシ費用其他ノ損害」に当たらない
※最判昭和43年10月29日

9 参考情報

参考情報

我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p893〜896
下村正明稿/能見善久ほか編『論点体系 判例民法4 債権総論Ⅰ 第3版』第一法規2019年p282、283

本記事では、連帯債務者間の求償権(民法442条)について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に連帯債務など、3者以上の間の債権債務に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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