【証人の遮蔽措置・ビデオリンク方式尋問(民事訴訟法203条の3・204条)(解釈整理ノート)】

1 民事訴訟の証人の遮蔽措置・ビデオリンク方式尋問(民事訴訟法203条の3・204条)

民事訴訟で、証人や当事者の尋問が行われる場合の方法として、イレギュラーなものがあります。衝立などで遮蔽する措置やビデオ会議システムを通して尋問する、というものです。本記事では、これらのルールや運用について整理しました。

2 民事訴訟法203条の3・204条の条文

民事訴訟法203条の3・204条の条文

(遮へいの措置)
第二百三条の三 裁判長は、事案の性質、証人の年齢又は心身の状態、証人と当事者本人又はその法定代理人との関係(証人がこれらの者が行った犯罪により害を被った者であることを含む。次条第二号において同じ。)その他の事情により、証人が当事者本人又はその法定代理人の面前(同条に規定する方法による場合を含む。)において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって、相当と認めるときは、その当事者本人又は法定代理人とその証人との間で、一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることができる。
2 裁判長は、事案の性質、証人が犯罪により害を被った者であること、証人の年齢、心身の状態又は名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、傍聴人とその証人との間で、相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることができる。
3 前条第三項の規定は、前二項の規定による裁判長の処置について準用する。
※民事訴訟法203条の3
(映像等の送受信による通話の方法による尋問)
第二百四条 裁判所は、次に掲げる場合には、最高裁判所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、証人の尋問をすることができる。
一 証人が遠隔の地に居住するとき。
二 事案の性質、証人の年齢又は心身の状態、証人と当事者本人又はその法定代理人との関係その他の事情により、証人が裁判長及び当事者が証人を尋問するために在席する場所において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって、相当と認めるとき。
※民事訴訟法204条

3 証人の遮蔽措置(民事訴訟法203条の3)

(1)民事訴訟法203条の3(証人の遮蔽措置)の趣旨(深掘り)

民事訴訟法203条の3(証人の遮蔽措置)の趣旨(深掘り)

民事訴訟法203条の3は、証人の精神的な不安や緊張感を軽減するために、当事者本人またはその法定代理人と証人との間、および傍聴人と証人との間を適宜の方法により遮蔽することを認める規定である
犯罪被害者がいわゆる二次的被害を被ることを防止する観点から制定された
本制度は証人が犯罪被害者である場合に限定されていない
遮蔽は、証拠調べの基本原則にかかわるものではなく、従来から、裁判長の訴訟指揮(148条)の一環として実施することが可能なものではあるが、一定の要件を明確化した点に意義がある

(2)当事者と証人との間の遮蔽措置の要件(203条の3第1項)

当事者と証人との間の遮蔽措置の要件(203条の3第1項)

あ 圧迫による平穏侵害

(通常の方法では)次のような事情により、証人が圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる
(ア)事案の性質(イ)証人の年齢または心身の状態(ウ)証人と当事者本人またはその法定代理人との関係 例=証人がこれらの者が行った犯罪により害を被った者である
(エ)その他の事情

い 相当性

裁判長が相当と認める

(3)傍聴人と証人との間の遮蔽措置の要件(203条の3第2項)

傍聴人と証人との間の遮蔽措置の要件(203条の3第2項)

あ 要件→相当性

裁判長が以下の事情を考慮し、相当と認めるときに認められる

い 考慮される事情

(ア)事案の性質(イ)証人が犯罪により害を被った者であること(ウ)証人の年齢(エ)心身の状態(オ)名誉に対する影響(カ)その他の事情

い 相当と認められない例

(ア)証人自身がこの措置を望まない場合(イ)起訴前で犯罪(不法行為)の成否自体が争われている段階で、証人が見えない状態での尋問が被告にとって著しく不公平と判断される場合

(4)遮蔽措置の判断→手続裁量・当事者の意見聴取

遮蔽措置の判断→手続裁量・当事者の意見聴取

遮蔽措置を認めるかは裁判長の手続裁量に属する
措置をとる際には当事者および証人の意見を聴かなければならない(規則122条の3第1項)
措置をとったときは、裁判所書記官が口頭弁論調書に記載する(同条2項)
当事者は裁判長の遮蔽措置に対し異議を述べることができる
異議が述べられたときは、裁判所は決定でその異議について裁判をする(同条3項)

4 ビデオリンク方式尋問(民事訴訟法204条)

(1)遠隔地証人のビデオリンク方式尋問の趣旨と方法(204条1号)

遠隔地証人のビデオリンク方式尋問の趣旨と方法(204条1号)

あ 趣旨

証人が遠隔地に居住する場合、年齢や健康上の理由等で遠方の裁判所まで出向くことが困難なことがある
このような場合に通信技術を活用し、証人の負担を軽減するものである

い 尋問の方法

テレビ会議システムを利用する場合、当事者は受訴裁判所に出頭し、証人は必要な装置の設置された最寄りの裁判所に出頭して尋問が行われる
※民事訴訟規則123条1項
受訴裁判所と証人が出頭する最寄りの裁判所にカメラとモニターが設置され、モニターを通じてお互いの状態を相互に認識しながら通話することにより尋問を行う
文書の写しを送信してこれを提示することその他の尋問の実施に必要な処置を行うため、ファクシミリを利用することができる
※民事訴訟規則123条3項

(2)精神的不安証人のビデオリンク方式尋問の趣旨と方法(204条2号)

精神的不安証人のビデオリンク方式尋問の趣旨と方法(204条2号)

あ 趣旨

証人の精神的な不安や緊張感を軽減することを目的とする

い 尋問の方法

ビデオリンク方式とは、同じ裁判所構内の別室にいる証人に対し、法廷内の訴訟関係人が、テレビモニターを用いて証人を見ながら、マイクを通じて尋問を行う方式である

(3)ビデオリンク方式尋問の判断→手続裁量・当事者の意見聴取

ビデオリンク方式尋問の判断→手続裁量・当事者の意見聴取

あ 要件→裁量のみ

テレビ会議システムによる尋問を行うかどうかは裁判長の手続裁量に属する

い 判断プロセス→当事者の意見聴取が必要

この方法をとる際には、当事者の意見を聴かなければならない
※民事訴訟規則123条1項

う 規則への委任

実施細目は、通信機器・通信技術の進展により変わるものであるから、機動的に対応すべく規則に委任している

5 遮蔽措置・ビデオリンク方式尋問→当事者尋問への準用あり

遮蔽措置・ビデオリンク方式尋問→当事者尋問への準用あり

民事訴訟法203条の3、民事訴訟法204条は当事者尋問にも準用される(民事訴訟法210条)

6 遮蔽措置・ビデオリンク方式尋問の合憲性→合憲(刑事)(参考)

遮蔽措置・ビデオリンク方式尋問の合憲性→合憲(刑事)(参考)

刑事訴訟において、傍聴人と証人との間に遮蔽措置(刑訴157条の52項)がとられ、さらに遮蔽措置とビデオリンク方式による尋問(刑訴157条の6)が併用されても、審理が公開されていることには変わりはなく、憲法82条1項・37条1項に反しない
※最判平成17年4月14日

7 参考情報

参考情報

秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅳ 第2版』日本評論社2019年p265〜270

本記事では、民事訴訟の証人の遮蔽措置とビデオリンク方式尋問について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に証人尋問や当社尋問など、民事訴訟の審理の方法に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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