【遺言無効確認訴訟の訴訟法上の基本理論(解釈整理ノート)】

1 遺言無効確認訴訟の訴訟法上の基本理論(解釈整理ノート)

実際の相続、遺産分割では、遺言があっても、その有効性が問題となることが多いです。つまり、結果的に遺言が無効となるケースもよくあるのです。相続人の間で有効、無効の見解が熾烈に対立するケースでは最終的に遺産分割訴訟で裁判所が有効か無効かを判断します。
詳しくはこちら|遺言無効確認訴訟の訴訟法上の理論の全体像
本記事では、遺言無効確認訴訟の訴訟法上の基礎的な理論(解釈論)を整理しました。

2 遺言無効確認訴訟の訴訟物

遺言無効確認訴訟の訴訟物

遺言無効確認請求事件における訴訟物は、遺言者がした法律行為たる当該遺言の効力と解するのが相当である

3 遺言無効確認訴訟の訴えの利益→肯定(深掘り)

遺言無効確認訴訟の訴えの利益→肯定(深掘り)

あ 確認訴訟の原則→現在の法律関係のみ

ア 従来の判例 確認の訴えの対象は現在の法律関係でなければならない
※最判昭和31年10月4日民集10巻10号1229頁(遺言者の生前の遺言無効確認の訴えは不適法)
イ 近時の判例 近時、法律効果発生の要件たる前提事実であっても、その確認が現在の法律関係をめぐる紛争の抜本的解決のために必要であるような場合には、確認の対象として差し支えない
※最大判昭和32年7月20日民集11巻7号1314頁(国籍確認)
※最大判昭和45年7月15日民集24巻7号861頁(親子関係存否確認)

い 遺言無効確認訴訟→適法

遺言が有効であるとすれば、それから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で、原告がかかる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときには、請求の趣旨を、あえて遺言から生ずべき現在の個別的法律関係に還元して表現するまでもなく、いかなる権利関係につき審理判断するかについて明確さを欠くことはなく、また、判決において、端的に、当事者間の紛争の直接的な対象である基本的法律行為たる遺言の無効の当否を判示することによって、確認訴訟のもつ紛争解決機能が果たされることが明らかである
遺言無効確認請求は適法である
※最判昭和47年2月15日民集26巻1号30頁

う 生前の遺言向こう確認訴訟→不適法

遺言者の生前における遺言無効確認請求について
受遺者とされた者の地位は、単に将来遺言が効力を生じたときは遺贈の目的物である権利を取得することができる事実上の期待を有する地位にあるにすぎない
遺言無効確認訴訟は不適法である
※最判平成11年6月11日裁判集民193号369頁

4 遺言無効確認訴訟の主張・立証責任(要件事実)

(1)請求原因→確認の利益

請求原因→確認の利益

あ 請求原因→確認の利益の基礎となるべき事実

遺言無効確認請求は消極的確認請求であるから、請求原因においては、攻撃方法として一定の事実主張をする必要はなく、原告は確認の利益の基礎となるべき事実の主張のみをすれば足りる

い 具体的な主張内容

原告は以下の事実を主張立証しなければならない
(ア)被告は、無効確認の対象となる遺言(本件遺言)が存在していると主張していること(イ)遺言者は、死亡時、本件遺言の目的である財産を所有していたこと(ウ)遺言者は死亡したこと(エ)原告は遺言者の子であること

(2)抗弁→有効要件

抗弁→有効要件

あ 抗弁→遺言の有効要件

被告は、訴訟物である遺言の効力の発生を基礎付ける事実について主張立証しなければならない
遺言書の成立要件は、遺言が有効であると主張する側において、主張立証しなければならない
※最判昭和62年10月8日民集41巻7号1471頁

い 具体的な主張内容

被告は、抗弁として、遺言者は、法の定める方式にのっとった遺言書を作成して、本件遺言をしたことを主張立証しなければならない

(3)再抗弁→無効事由

再抗弁→無効事由

あ 再抗弁→遺言の無効事由

遺言者の意思無能力、意思表示の瑕疵等の遺言の無効事由は、遺言の効力の発生を妨げる事実と考えられるから、当該遺言の無効を主張する原告は、上記無効事由を主張立証しなければならない

い 具体的な主張内容

原告は、再抗弁において、遺言者は、遺言当時、遺言能力がなかったことを主張立証しなければならない

5 遺言無効確認訴訟の当事者

(1)原告→相続人など

原告→相続人など

相続人、その承継人等、無効確認の対象となる遺言の効力について法律上の利害関係を有する者に、遺言無効確認訴訟の原告適格が認められる
原告の相続分が被相続人から受けた生前贈与等によりなくなるか否かは、原則として、遺言無効確認請求における確認の利益の存否を判断するに当たって考慮すべきものではない
※最判昭和56年9月11日民集35巻6号1013頁
相続財産分与の審判前に特別縁故者に当たると主張する者がした遺言無効確認請求は、訴えの利益を欠く
※最判平成6年10月13日判集民173号149頁

(2)被告→相続人・受遺者・遺言執行者など

被告→相続人・受遺者・遺言執行者など

相続人、無効確認の対象となる遺言における受遺者等、当該遺言の効力について法律上の利害関係を有する者に、遺言無効確認訴訟の被告適格が認められる
また、遺言執行者は、遺言無効確認請求において被告適格も有すると考えられる

(3)共同訴訟形態→固有必要的共同訴訟否定

共同訴訟形態→固有必要的共同訴訟否定

単に相続分及び遺産分割の方法を指定したにすぎない遺言についての遺言無効確認請求事件は、固有必要的共同訴訟ではない
※最判昭和56年9月11日民集35巻6号1013頁

6 関連テーマ

(1)遺言執行者の権限|預金払戻・遺言無効確認訴訟・登記抹消請求訴訟

詳しくはこちら|遺言執行者の権限|預金払戻・遺言無効確認訴訟・登記抹消請求訴訟

7 参考情報

参考情報

石田明彦ほか稿『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/『判例タイムズ1194号』2006年1月p44〜47

本記事では、遺言無効確認訴訟の訴訟法上の基本理論について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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