【遺言能力の判断基準と認定方法(書証や証人の種類・証明力・収集方法)(整理ノート)】
1 遺言能力の判断基準と認定方法(書証や証人の種類・証明力・収集方法)(整理ノート)
実際の相続、遺産分割では、遺言があっても、その有効性が問題となることが多いです。つまり、結果的に遺言が無効となるケースもよくあるのです。相続人の間で有効、無効の見解が熾烈に対立するケースでは最終的に遺言無効確認訴訟で裁判所が有効か無効かを判断します。
遺言の有効性の問題の1つとして、遺言者には判断能力がなかったかどうか、つまり、遺言能力に関して、実務的な判断基準や認定方法を整理しました。
なお、審理の全体像の説明は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺言無効確認訴訟の審理の総合ガイド(流れ・実務的な主張立証・和解の手法)
2 遺言能力の定義と根拠
遺言能力の定義と根拠
あ 遺言能力の定義
遺言能力とは、遺言の内容及び当該遺言に基づく法的結果を弁識、判断するに足りる能力である
(遺言能力とは、有効に遺言をするための精神能力を指す)
い 遺言能力を要する根拠
民法961条は15歳に達することを要件とするが、民法962条により行為能力に関する総則規定の適用が排除されるため、遺言能力は年齢要件に加えて意思能力と同義に解される
したがって、遺言時には遺言能力を有していることが求められる(民法963条)
3 遺言能力の判断・認定の基本的方針
(1)遺言能力の判断方法の特徴
遺言能力の判断方法の特徴
あ 相対性
遺言能力の有無は、問題となる行為の特性や難易等との関係で相対的に検討される必要があり、遺言の内容が複雑であればより高度な能力が要求される
い 個別性
事案ごとの個別の判断にならざるを得ず、画一的な判断基準は存在しない
う 判断基準時
遺言能力は遺言時に備わっていなければならない(民法963条)
(2)遺言能力の認定方法の特徴
遺言能力の認定方法の特徴
遺言は、高齢者が自らの健康状態等を鑑み、死を意識したときに行われることが多く、遺言者が遺言当時、認知症その他の病気により正常な判断をなし得ない状態に陥っている場合は少なくないという問題点がある
4 遺言能力の判断要素
(1)遺言能力の主な判断要素(まとめ)
遺言能力の主な判断要素(まとめ)
あ 心身の状況の重視
遺言無能力を認定する際に最も重視されるのは、遺言者の心身の状況である
い 心身の状況の認定方法の組み合わせ
遺言書作成日当日の心身の状況から認定する方法と、遺言書作成日前後の心身の状況から認定する方法は互いに矛盾するものではなく、むしろ両者相まって判示されることが多い
う 基準時の原則と例外
遺言書作成日前後の心身の状況からして遺言能力に疑義がある場合でも、遺言書作成当時の心身の状況に問題がなければ、遺言能力の存否の判断基準時が遺言時であることから、遺言能力を肯定できる
この場合、遺言書作成日以前に遺言無能力をうかがわせるような状況にあったことを認定しつつ、遺言書作成当時の心身の状況に問題がないと認定できるかどうかがポイントとなる
え 遺言内容の複雑さの考慮
遺言書作成当時の遺言者の心身の状況を認定した上で、遺言の内容が複雑であることを理由に、そのような複雑な内容の遺言をすることは不可能であるとして遺言無能力を肯定する裁判例が相当数ある
お 動機の位置づけ
動機について判示する裁判例もあるが、動機の存在自体は、遺言無能力の認定を直接に左右するものではない
か 筆跡・署名代筆の扱い
遺言書の筆跡、署名代筆(公正証書遺言)については、遺言者の心身の状況等ほかの間接事実に付加して判示されることもあるが、判示されること自体少ない
(2)遺言時における遺言者の精神上の障害の存否・内容・程度
遺言時における遺言者の精神上の障害の存否・内容・程度
あ 遺言能力判断の基本的視点
遺言時における遺言者の精神上の障害の存否・内容・程度は、遺言能力の判断において最も基礎的かつ重要な事情であり、精神医学的観点と行動観察的観点から検討される(遺言者の心身の状況が最も重視される)
い 精神医学的観点による評価
ア 医学的評価の内容
精神医学的疾患の存否、種類、特性、具体的症状、原因、寛解の可能性、重症度などが考慮される
認知症のスクリーニング目的では長谷川式簡易知能評価スケール(HDS─R)が最も汎用されており、重症度を判定できる評価法には、N式老年者用精神状態尺度や柄澤式「老人知能の臨床的判断基準」がある
イ 精神医学的評価の証拠例
遺言時またはその前後の診断書、精神心理学的検査の結果、担当医師の供述、遺言後の後見開始審判申立事件における精神鑑定の結果、当該遺言無効確認請求事件における医療鑑定の結果等
う 行動観察的観点による評価
ア 遺言当日の心身状況評価
遺言時またはその前後の症状、言動などが考慮される
診療録、看護記録等の医療記録、医師の診断書、知能テストの結果、同席者(遺言書作成過程やその際の遺言者の行動、会話の状況、呼びかけに対する反応の有無及びその態様等を実際に見聞した者)の証言等が重要な手掛かりとなる
入院診療録(看護記録等)、遺言時の状況に関する公証人、立会証人等の供述、遺言当時の状況に関する同居者、担当医師等の供述等
イ 遺言書作成日前後の心身状況
医療記録等から遺言書作成日前後の遺言者の状態を認定し、併せて遺言書作成日当日を含む遺言者の病状の推移を認定し、これらを組み合わせることで遺言当日の遺言者の状態を推認する手法が多くの裁判例で採用されている(むしろこの場合が多い)
(3)精神上の障害による遺言能力判断の実例
精神上の障害による遺言能力判断の実例
あ 前後の状況から遺言時の能力を推認した事例
ア 遺言作成後1か月の状態により判定
遺言書作成の約5か月前から遺言者の理解力は次第に悪化したが、遺言書作成の約1か月前から遺言書作成日当日を挟んで遺言書作成の約1か月後までは理解力が回復したとも急速に悪化したともいえない
遺言書作成当時の認知症の程度は、作成から1か月後の認知症の程度と同様であるとした上、遺言者は遺言書作成から1か月後には中程度の認知症にあったとして遺言時の認知症の程度を認定した
イ 遺言書作成1年半前の状態により判定
遺言者の病状は遺言書作成の約1年半前から安定していたことを認定して、同時点での遺言者の症状から遺言書作成時の遺言者の様子を推知した
ウ 入院中に認知症進行と認定
遺言者が2度にわたり入院し2度目の入院中に遺言がされた事案で、2回の入院時にいずれも認知症の症状が認められ、しかも初回の入院時より再度の入院時の方が認知症の程度がひどくなっていること及び遺言書作成の翌日に中程度の認知症の症状が現れていることを認定して、遺言書作成当時の遺言者の認知症の程度は相当進行していたとした
い 時間帯による状態変化を考慮した事例
遺言者の意識レベルが入院当初から徐々に低下し、遺言数日前からは日を追って悪化していると認定した
遺言者の病状の特徴として意思疎通が図れるときと不可能なときとが時間帯によって区々に混在することや遺言書作成過程やその直後の遺言者の言動から、当時の遺言者の意思は極めて明確で、意識は清明であったことを認定し、遺言者は遺言書作成に関与した時間帯において遺言能力を有していたとした
(4)遺言内容それ自体の複雑性
遺言内容それ自体の複雑性
あ 傾向
遺言能力は当該遺言の内容及び当該遺言の法的結果を弁識、判断するための能力であるから、その存否の判断には当該遺言の内容も影響する
遺言の内容が複雑であれば当該遺言の法的結果を弁識、判断するのは困難であり、遺言書の作成には高度の能力が要求される
逆に単純であれば弁識、判断はより容易であり、作成には高度の能力は要求されない
い 実例
ア 遺言能力なし方向
簡単な内容の遺言であるにもかかわらず作成に約3時間30分もの時間を要したとして遺言無能力を推認した(遺言能力なし)
遺言が持分等の指定、遺言執行手数料の内金前払についても定められ、相続税にも配慮された長文かつ詳細なものであるところ、遺言者の当時の意識レベルからすれば、かかる複雑かつ詳細な遺言をする能力があったとは考えられない(遺言能力なし)
イ 遺言能力あり方向
遺言書の内容の簡明さからすれば、認知症等により遺言書作成当時の遺言者の能力が若干減退していたとしても、当該遺言をなし得る能力に問題はない(遺言能力あり)
遺言の内容がいわゆる「相続させる」遺言であった事案で、遺言者は遺言書作成当時だれに物を与えるかについては判断し得る状態にあった(遺言能力あり)
遺言書に書き損じや訂正があるものの、遺言の重要部分の趣旨は明確である(遺言能力あり)
(5)遺言書の筆跡
遺言書の筆跡
あ 傾向
自筆証書遺言の場合、遺言書の筆跡の乱れや漢字、名前等の誤記は、遺言能力の不存在を推認させるものといえる
文字の乱れがあるとしても、修造や代筆、添え手を否定する方向に働く面もあり、他の間接事実とともに審理判断の対象とされる
い 実例
ア 遺言能力なし方向
遺言書の文面が漢字仮名交じりであり、かつ文字の乱れがあることから遺言無能力を推認した
イ 遺言能力あり方向
書き損じや訂正もあるが、極めて整った字で書かれており、全体として文書の体裁も整っているから、遺言書の文面から遺言無能力を推認することはできない
(6)署名代筆(公正証書遺言)
署名代筆(公正証書遺言)
あ 傾向
公正証書遺言の場合、遺言者が署名することができない場合は公証人がその事由を付記して署名に代えることができる
※民法969条4号ただし書
署名代筆が直ちに遺言無能力を推認させるものではない
(代筆が行われる理由は様々であり、遺言能力がある場合でも代筆によるべき場合があるため)
い 実例
ア 遺言能力あり方向
署名代筆をしたことは、診療経過に照らし、遺言能力を疑わせるものではない
イ 遺言能力なし方向
署名代筆を自ら署名できなかったためであるとして遺言無能力を推認させる事情として判示した
(7)遺言外の事情
遺言外の事情
あ 遺言能力判断の基本的視点
遺言の周辺事情を踏まえた遺言内容の不自然性・不合理性、あるいは自然性・合理性・整合性などが、遺言能力の存否の判断を左右する可能性がある
い 周辺事情
ア 周辺事情の例
遺言の動機・理由、遺言者と相続人または受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等
イ 動機
遺言者に当該遺言をする動機があるか否かについては、遺言能力についての主張を排斥する中で判示されるか、専ら遺言書作成に至る経緯の中で事情として認定されるにとどまる
遺言書作成の時期に近接した事情の方がより重視される
う 判断の具体例
周辺事情を踏まえた遺言内容の不自然・不合理性は、偽造や錯誤取消等が主張される場合の補助事実または間接事実の一つとなることがある
え 証拠の典型例
遺言者の日記、メモ等、生前の遺言者の生活状況、相続人または受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等に関する関係者の供述等
5 遺言能力の判断の傾向と具体例
(1)知的能力面の障害と身体面の障害の区別
知的能力面の障害と身体面の障害の区別
あ 傾向
遺言能力は主として人の知的活動についての能力であるから、身体的な障害が生じているだけでは直ちに遺言無能力の認定には結びつかない
い 具体例
気分不良、食事が進まず嘔吐が激しい、倦怠感などの症状があったとしても、遺言能力は主として知的活動に関する能力であるため、これらの症状は知的能力とは直ちに関係しない(遺言能力あり)
遺言書作成当時の遺言者の診療録に「昼夜逆転」、「尿意訴えるもいつも排尿している」等の記載があるが、是非弁別能力又は制御能力が全く欠如した状態であったと断定するのは困難である(遺言能力あり)
(2)知的障害の恒常性・一時性
知的障害の恒常性・一時性
あ 傾向
知的能力面に障害があっても、その障害が恒常的か一時的かが問題となる
い 具体例
妻の死を理解しない、娘の披露宴を理解しないといった異常行動が一時的に存在したからといって、およそ正常な判断能力を欠く状況にあったとまではいえない(遺言能力あり)
遺言書作成時刻が午後1時ないし2時以降との状況下で、遺言者は遺言書作成当日、午前は傾眠があるも午後は問題がなかった(遺言能力あり)
傾眠が見られたとしても覚醒時には正常な判断が可能である(遺言能力あり)
遺言者は遺言書作成当時肝性脳症を呈していたが、その病状の特徴として意思疎通を図ることができるときと不可能なときとが時間帯によって混在することを重視した(遺言能力あり)
(3)知的障害の程度
知的障害の程度
あ 傾向
知的障害がある場合でも、その程度が問題となる
い 具体例
遺言者の遺言書作成当時の認知症の程度は相当進行していたこと、遺言者に対し文案をもとに遺言内容を確認したものの遺言者からすぐには返答がなく反応も断片的な単語のみにとどまった(遺言能力なし)
遺言作成時遺言者は肝性脳症により犬山シンポジウムにいう意識混濁水準Ⅰ度ないしII度にあり、意識内容は著しく空虚化しており、複雑かつ詳細な遺言をする能力があったとは考えられない(遺言能力なし)
記憶面以外の知的能力について大きな問題はなく遺言書作成後も判断能力が著しく低下したとは認め難い(遺言能力あり)
独語、意味不明りょうの言動があるが日常会話の受け答えには大きな支障がなかった(遺言能力あり)
だれに物を与えるかについては判断し得る状態であった(遺言能力あり)
(4)高齢者の判断能力
高齢者の判断能力
6 遺言能力に関する証言の対象者(や記録)と証明力
(1)医師・看護師の証言・記録
医師・看護師の証言・記録
あ 傾向
医師及び看護師は医学的知見を有し、かつ一般的には遺言の内容につき利害関係を持たないから、証拠価値は高い
ただし、証明力を検討するに当たっては、同人の専門分野、遺言者の治療を担当した時期、客観的証拠との整合性や裏付けの有無などが考慮される
い 実例
ア 当該医師の遺言者の診察履歴
弁護士法に基づく照会に対する医師の回答につき、回答した医師は遺言の1年半前から遺言者を診察しておらず、回答の内容は一般的な推論を出ない
イ 情報が断片的
遺言以前の遺言者の不審な行動について、医師の看護師に対する陳述を録取したメモにつき、同医師が事前の診療録の送付嘱託に応じず診療内容を客観的に明らかにしていないことなどを理由に同メモの記載を採用しなかった
ウ 医師の専門分野
認知症の程度についての私的鑑定を排斥するに際し、鑑定人が認知症の専門家でなかったことを掲げた
(2)公証人・証人の証言
公証人・証人の証言
あ 傾向
公正証書遺言の場合、公証人及び証人の証言の信用性は一般的に高い
(遺言の効力をめぐる紛争を回避するために関与していると考えられるため)
い 実例
公証人の職責を明示しこれを根拠に同人の証言の信用性ないし同人が職務を適切に遂行したことを認めた
(3)弁護士等の証言
弁護士等の証言
(4)同居親族の証言
同居親族の証言
(ただし、遺言に関して利害関係を有する場合が多いので、証明力については配慮すべき)
7 遺言能力に関する書証(医療記録)の入手方法
(1)文書送付の嘱託
文書送付の嘱託
あ 基本
裁判所が医療機関に対し、医療記録の送付を嘱託する手続
※民事訴訟法226条
実務上は、送付された文書を当事者が謄写し、必要な部分を提出して改めて書証の申出をする扱いが一般的である
い 留意点
ア 時間を要する
医療記録の入手、証拠化、主張整理には相当な期間を要する
医療記録の送付に1、2か月を要するのは通常であり、場合によってはこれに数か月を要することもある
申立ては可及的早期に行い、送付対象とする診療科目、診療期間を合理的に限定することが望ましい
イ 「同意書」の要請への対応
医療機関から同意書の送付を求められることがあるが、文書送付の嘱託は一般的に個人情報保護法23条1項1号の「法令に基づく場合」に該当すると解される
また、遺言者の医療記録は個人データに該当しないとも解される
医療機関への周知徹底が重要である
ウ 開示拒否への制裁がない
文書の所持者(医療機関)の応諾義務の存否については見解が分かれているが、応じない場合の制裁や強制手段はない
任意協力を得るための対応が重要となる
エ 取得する範囲の検討・特定
提出する書証は、必要な部分の範囲を十分に吟味すべきである
画像などは、そのままでは証拠として意味をなさないことがある
(2)文書提出命令
文書提出命令
あ 基本
医療機関が文書送付の嘱託に応じない場合に、裁判所が医療記録の提出を命じる手続
※民事訴訟法221条
実務上は、送付された文書を当事者が謄写し、必要な部分を提出して改めて書証の申出をする扱いが一般的である
い 留意点
ア 取得する範囲の検討・特定
文書提出命令の申出にあたっては、必要な部分の範囲を十分に吟味すべきである
イ 秘密保持との関係→提出義務あり
医療記録は、民事訴訟法220条4号の「黙秘すべきもの」には特段の事情がない限り該当しないと解される
※最二小判平成16年11月26日
したがって、医療機関は文書提出義務を負うと考えられる
ウ 提出方法→印刷したもの(準文書)
電子カルテは準文書(民事訴訟法231条)として書証の対象となる
電子カルテの実質は記憶媒体に保存された電子データであり、これを印刷した印刷媒体を提出すべきであり、かつ、それで足りると考えられる(新書証説)
エ 開示拒否への制裁→過料のみ
医療機関が文書提出命令に従わない場合には過料の制裁がある(民事訴訟法225条)が、提出そのものを強制する手段はない
医療機関への適切な働きかけが重要となる
(3)訴え提起前の医療記録の入手
訴え提起前の医療記録の入手
提訴前証拠収集の処分(民事訴訟法132条の4)の活用が考えられる
裁判所が関与しない方法として、弁護士法23条の2の規定による報告の請求や、厚生労働省医政局長通知に基づく各医療機関の診療記録開示手続の利用が考えられる
8 遺言能力に関する人証(証人尋問・当事者尋問)の方法
(1)人証の典型例→公証人、立会証人、同居者、担当医師
人証の典型例→公証人、立会証人、同居者、担当医師
担当医師については、医療記録の内容を補完する場合や、医学的見解が分かれる場合に特に必要性が高い
遺言の動機・理由、人的関係、経緯等を認定するために、関係者の証拠調べも考えられる
(2)公証人の証言拒絶権→制限方向
公証人の証言拒絶権→制限方向
※東京高決平成4年6月19日
(3)担当医師の人証の留意点
担当医師の人証の留意点
あ 代替手法の活用→書面尋問・調査嘱託
医師は多忙なため、書面尋問(民事訴訟法205条)や調査の嘱託(民事訴訟法186条)が実務上多く用いられる
い 書面尋問
ア 要件
書面尋問の採用には、「相当と認める場合において、当事者に異議がないとき」という要件がある
※民事訴訟法205条
出頭の困難性、反対尋問の必要性、尋問事項の複雑性などを考慮して判断される
イ 他の制度の活用→所在尋問
書面尋問が適切でない場合は、通常の証拠調べや所在尋問(民事訴訟法185条、195条)の活用が考慮されるべきである
9 遺言能力に関する鑑定(医療鑑定)→補充的
遺言能力に関する鑑定(医療鑑定)→補充的
あ 採否の判定
遺言能力の欠缺が争点となった場合でも、遺言を行ったころの生活状況や医師の証言等から判断できる場合もあり、事案ごとに個別的に採否を判断する
医療鑑定の採否は、必要性・相当性を十分に吟味して判断される
精神医学的疾患の存否、内容及び程度を合理的に認定できる場合には、医療鑑定の必要性は乏しい
必要性が高いのは、医療記録等の証拠方法が十分でない場合や、医学的見解が分かれる場合である
い 採用(実施)する場合の留意点
遺言者は既に死亡しているため、新たな基礎資料を得ることが困難な場合が多い
実施する場合は、遺言者本人を鑑定できないため、カルテ等に基づく鑑定となる制約を考慮し、鑑定資料の集まり具合と鑑定人の確保方法に留意する
10 参考情報
参考情報
石田明彦ほか稿『遺言無効確認請求事件の研究(下)』/『判例タイムズ1195号』2006年2月p81〜92
本記事では、遺言能力の判断基準と認定方法について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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