【自筆証書遺言の方式違反による有効性判断(実例整理ノート)】

1 自筆証書遺言の方式違反による有効性判断(実例整理ノート)

実際の相続の場面では、遺言があっても、その有効性が問題となることが多いです。つまり、結果的に遺言が無効となるケースもよくあるのです。相続人の間で有効、無効の見解が熾烈に対立するケースでは最終的に遺言無効確認訴訟で裁判所が有効か無効かを判断します。
自筆証書遺言では、遺言の有効性の問題の1つとして、遺言の方式(形式)がルールに違反している、という問題があります。本記事では、自筆証書遺言の方式違反の判断について、実務的な判断の手法や傾向を整理しました。
なお、審理の全体像の説明は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺言無効確認訴訟の審理の総合ガイド(流れ・実務的な主張立証・和解の手法)

2 自筆証書遺言の方式違背の審査の特徴

自筆証書遺言の方式違背の審査の特徴

遺言書の記載それ自体が問題となるため、特段の立証を経ることなく、直ちに遺言書の記載が民法968条所定の自筆証書遺言の方式に適合しているか否かを判断すれば足りるのが通常である
自筆証書遺言の方式違背のうち自書性が争点となる場合については、「偽造」(作成者)の審査・認定となる

3 自筆証書遺言の方式違背の審査の構造

自筆証書遺言の方式違背の審査の構造

あ 主張立証責任→被告(抗弁)

遺言の方式違背が争点となる場合、被告は抗弁として次の事項を主張立証しなければならない
(ア)遺言者が遺言をしたこと(イ)遺言が法定の方式に従ってされたこと

い 原告の主張→抗弁の否認

原告が無効原因として方式違背を主張することは、被告の主張した事実を否認し争うことを意味する

4 自筆証書遺言における方式違反

(1)自筆証書遺言における自書

自筆証書遺言における自書

あ 他人の添え手による補助

添え手をした者の意思が介入した痕跡がなければ有効である
※最判昭和62年10月8日

い カーボン紙使用による複写

カーボン紙を用いることも自書の方法として許されないものではないから、遺言の全文、日付及び氏名をカーボン紙を用いて複写の方法で記載した遺言書は、民法968条1項の自書の要件に欠けるところはない
※最三小判平成5年10月19日 裁判集民170号77頁、判タ832号78頁

自書性(偽造の判断)については、別の記事に整理してあります。
詳しくはこちら|遺言の偽造(自書性・作成者)の判断(判断要素・証拠と評価)(整理ノート)

(2)自筆証書遺言における日付

自筆証書遺言における日付

あ 日付の誤記

自筆証書遺言に記載された日付が真実の作成日付と相違していても、その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、日付の誤りは遺言を無効にするものではない
※最二小判昭和52年11月21日 裁判集民122号239頁

い 「昭和41年7月吉日」との記載

日付は、暦上の特定の日を表示するものといえるように記載されるべきものであるから、証書の日付として単に「昭和41年7月吉日」と記載されているにとどまる自筆証書遺言は、証書上日付の記載を欠くものとして無効である
※最一小判昭和54年5月31日 民集33巻4号445頁、判タ389号69頁

う 偽造遺言における日付(参考)

遺言書の偽造等の事例においては、遺言書記載の日付が真実の遺言者作成日と異なる場合もあり得る

(3)自筆証書遺言における押印

自筆証書遺言における押印

あ 押印を欠く自筆証書遺言が有効とされた事例

英文の自筆証書遺言に遺言者の署名は存在するが押印が欠ける場合において、遺言者が遺言書作成の約1年9か月前に日本に帰化した白系ロシア人であり、約40年間日本に居住していたが、主としてロシア語又は英語を使用し、日本語はかたことを話すにすぎず、交際相手は少数の日本人を除いてヨーロッパ人に限られ、日常の生活もまたヨーロッパの様式に従い、印章を使用するのは官庁に提出する書類等特に先方から押印を要求され1るものに限られていたなどの事情があるときは、遺言書は有効である
※最三小判昭和49年12月24日 民集28巻10号2152頁、判タ318号234頁

い 拇印その他の指印による押印

自筆証書遺言における押印は拇印その他の指印をもって足りる
※最一小判平成元年2月16日 民集43巻2号45頁、判タ694号82頁

う 封筒の封じ目にされた押印

遺言書本文の自署名下に押印がなくとも、遺言書本文の入れられた封筒の封じ目に押印があれば、自筆証書遺言の押印の要件に欠けるところはない
※最二小判平成6年6月24日 裁判集民172号733頁

(4)自筆証書遺言における加除その他の変更

自筆証書遺言における加除その他の変更

あ 加除修正の方式(前提)

自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない
※民法968条2項

い 加除修正の方式違反→許容範囲あり

民法968条2項の規定は自筆証書遺言の作成過程における加除その他の変更にも適用があるが、証書の記載自体からみて明らかな誤記の訂正について同項所定の方式の違背があっても、その違背は遺言の効力に影響を及ぼさない
(合理的に解釈して一義的に遺言者の意思を確定できる場合は有効である)
※最二小判昭和56年12月18日 民集35巻9号1337頁、判タ467号93頁

う 遺言事項外・訂正前後に違いなし→有効

訂正方式に違背があっても、訂正箇所が遺言事項に該当せず、また訂正箇所が遺言事項に該当する部分についても、訂正前の文言によっても遺言内容が異なるものではない場合は有効である

5 共同遺言の禁止

共同遺言の禁止

あ 2人のうち一方に方式違背がある→無効

同一の証書に2人の遺言が記載されている場合には、そのうちの一方に氏名を自書しない方式の違背があるときでも、民法975条により禁止された共同遺言に該当する
※最二小判昭和56年9月11日

い 容易に分離可能→有効

罫紙4枚を合綴し、各葉ごとに甲の印章による契印がされている遺言書であっても、1枚目から3枚目までは甲の遺言書の形式のもの、4枚目は乙の遺言書の形式のものであって、両者は容易に切り離すことができる場合には、民法975条によって禁止された共同遺言には該当しない
※最三小判平成5年10月19日

う 名前の記載はあるが署名ではない→有効

民法975条により共同遺言は禁止されているが、遺言者の署名のほかに記載された名前が、当該名前の人物の意思に基づき署名されたものと認められない場合は、共同遺言には当たらない

6 参考情報

参考情報

畠山稔ほか稿『遺言無効確認請求事件を巡る諸問題』/『判例タイムズ1380号』2012年12月p18、19

本記事では、自筆証書遺言の方式違反による有効性判断について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺言の有効性など、相続や遺産分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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