【公序良俗違反・錯誤・詐欺・強迫による遺言の無効・取消(解釈整理ノート)】

1 公序良俗違反・錯誤・詐欺・強迫による遺言の無効・取消(解釈整理ノート)

実際の相続の場面では、遺言があっても、その有効性が問題となることが多いです。つまり、結果的に遺言が無効となるケースもよくあるのです。相続人の間で有効、無効の見解が熾烈に対立するケースでは最終的に遺言無効確認訴訟で裁判所が有効か無効かを判断します。
遺言が無効となる事情の1つとして、公序良俗違反や、錯誤・詐欺・強迫による取消があります。本記事では、これらについての実務的に必要となる情報を整理しました。
なお、遺言無効確認訴訟の審理の全体像の説明は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺言無効確認訴訟の審理の総合ガイド(流れ・実務的な主張立証・和解の手法)

2 公序良俗違反(一般条項)の主張立証構造

公序良俗違反(一般条項)の主張立証構造

あ 主張立証責任→両方

遺言が一見して確定性、社会的妥当性等の法律行為の一般的要件を欠如していると考えられる場合には、被告は抗弁として法律行為の一般的有効要件充足性の評価根拠事実の主張立証責任を負担し、原告は再抗弁としてその評価障害事実の主張立証責任を負担する

い 主張立証の方法

この場面では、遺言の解釈指針を念頭に置き、遺言書作成当時の事情、遺言者の置かれていた状況その他諸般の事情を主張し、遺言者の日記、メモ等、関係者の供述等によってこれを立証した上、法的主張として遺言の有効又は無効を論じることになる

3 意思表示の瑕疵(錯誤・詐欺・強迫)による取消(無効)

(1)遺言への意思表示の瑕疵規定の適用→あり

遺言への意思表示の瑕疵規定の適用→あり

民法総則における意思表示の瑕疵(錯誤・詐欺・強迫)に関する規定は、財産行為について定めた遺言に適用され得る

このことについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺言への民法総則(意思表示の瑕疵)の適用と実益・ハードル

(2)錯誤・詐欺・強迫による遺言の具体例

錯誤・詐欺・強迫による遺言の具体例

あ 錯誤の具体例

遺言者が遺産の内容を正確に把握しないまま遺言書を作成した

い 詐欺の具体例

相続人Aが家業を継ぐ意思はないのに家業を継ぐものと遺言者を欺き、遺言者を誤信させ、その結果、遺言者が遺言を作成した

う 強迫の具体例

被告が遺言者に辛くあたり、食事をひっくり返したり、電気・水道を止めたり、通帳等を取り上げるなどして畏怖させて遺言書を作成させた

(3)錯誤・詐欺・強迫による取消の主張立証構造

錯誤・詐欺・強迫による取消の主張立証構造

あ 主張立証の構造

錯誤や詐欺、強迫による取消を原告が主張する場合、主張立証それ自体は一般の民事訴訟と特段異なるところはない

い 証拠方法の限定性

法律行為の主体である遺言者は既に死亡しているため、証拠方法は限定される
遺言者の日記、メモ等、関係者の供述等によって間接事実の立証を積み上げ、周辺事情を踏まえた場合に遺言内容があまりに不自然・不合理であるとして、錯誤、詐欺、強迫の存在を推認させるほかない
意思表示の瑕疵を理由とする遺言無効(取消)の主張は、立証が困難である傾向がみられる

う 取消権の行使の問題→相続人全員による行使が必要

取消権は相続人全員が共同して行使することになるため、相続人の立場の相違から取消権の行使それ自体に困難が伴うこともある

取消権の行使は権利の処分である(共有者(相続人)全員の共同が必要)ということは別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物の変更行為と処分行為の内容

(4)参考情報

参考情報

石田明彦ほか稿『遺言無効確認請求事件の研究(下)』/『判例タイムズ1195号』2006年2月p85、86
畠山稔ほか稿『遺言無効確認請求事件を巡る諸問題』/『判例タイムズ1380号』2012年12月p19、20

本記事では、公序良俗違反・錯誤・詐欺・強迫による遺言の無効・取消について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺言の有効性など、相続や遺産分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【自筆証書遺言の方式違反による有効性判断(実例整理ノート)】
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