【ノートによる遺言作成の実践的アドバイス(有効性と注意点)】

1 ノートによる遺言作成の実践的アドバイス(有効性と注意点)

遺言書は、私たちの財産承継や最終的な意思を明確にするための重要な法的手段です。その中でも自筆証書遺言は、比較的容易に作成できる方法として広く知られています。さらに、身近な文房具であるノートに、財産を渡す相手を記載しただけで、自筆証書遺言として認められることもあります。
本記事では、ノートを遺言書の媒体として使用することの特有のメリットとデメリット、そして実際に作成する際の注意点について詳しく解説します。

2 ノートによる遺言の発想と有効性

(1)一元化・変更履歴の明確化

ノートに遺言内容を記載するという発想は、実は合理的な面があります。
継続的に遺言の書き換え(変更)をしたい場合、ノートに連続的に記載しておくことで、変更履歴が一元化され、一目で分かるようになります。
これにより、複数の遺言があちこちに散財することを防ぎ、「最新の遺言」が確実に判断できるという利点があります。遺言の変更や撤回は意外と頻繁に行われるものですので、その管理が容易になる点は評価できます。

(2)法的有効性の基本

民法上、遺言の媒体に関する特定の規定や規制はありません。そのため、ノートへの記載であっても、自筆証書遺言として有効となり得ます。
ただし、これは法律上の方式に適合していることが大前提となります。単にノートに書いたからといって自動的に有効になるわけではなく、自筆証書遺言としての方式(基本的要件)をすべて満たしている必要があることを忘れてはなりません。

3 ノートによる遺言の方式適合性

自筆証書遺言の方式のルールについては、別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|自筆証書遺言の方式(形式要件)の総合ガイド
ここでは、ノートに遺言を記載する場合に問題となることを簡単に説明します。

(1)自書の要件

自筆証書遺言では、基本的に全文を自筆で書くことが必要です。この点、平成30年の民法改正で「目録」については印字(印刷)が可能となりました。その場合には、目録の各ページに署名と押印が必要です。

(2)署名・押印の各時期対応

ノートに遺言を継続的に記載する場合の特有の注意点として、各時期の記載内容がそれぞれ1つの自筆証書遺言となる点があります。
そのため、各時期の記載(バージョン)ごと「署名・押印」が必要となります。
例えば、1月に最初の記載をし、3月に追加記載をした場合、それぞれの記載(1月バージョンと3月バージョン)について署名と押印が必要になるのです。

(3)各時期の記載(バージョン)の独立性

「各時期の記載内容」が他の部分と混ざっている場合、遺言としての範囲が不明確となり、実質的に無効と判断されるリスクが高くなります。そのため、新たな記載を行う際には、前回の記載とは明確に区分けをし、どこからどこまでが一つの遺言なのかを分かりやすくしておくことが重要です。

(4)訂正方法の問題点

「前回の記載内容」を後日直接訂正した場合、記載されている「日付」の意味が不明瞭となります。この日付が当初の記載日なのか、それとも訂正した日なのかが分からなくなるのです。その結果、「日付」を欠くという理由で無効であると判断されるリスクが生じます。遺言書の訂正には厳格な方式があるため、安易に前の記載を修正することは避けるべきです。

4 ノートを遺言書として使用する特有のメリット

(1)手軽さとアクセスしやすさ

ノートは一般的に手に入りやすく、誰にとっても身近な存在です。特別な用紙や道具を用意する必要がなく、思い立った時にすぐに遺言書を作成できるという手軽さがあります。法律文書の作成は心理的なハードルが高いと感じる方も多いですが、普段から使い慣れているノートを使用することで、そのハードルを下げることができるかもしれません。

(2)親しみやすさと心理的効果

多くの人にとって、ノートは日頃から使い慣れている媒体です。そのため、法律文書のような堅苦しいイメージを持つことなく、比較的リラックスした気持ちで遺言書を作成できる可能性があります。遺言書の作成をためらっている方にとって、この親しみやすさは大きなメリットとなるでしょう。

5 ノート遺言特有のデメリットと注意点

(1)耐久性と保存の問題

一般的なノートの用紙は、長期保存に適しているとは限りません。経年劣化により、紙が変色したり、破れたり、インクが薄れたりする可能性があります。
遺言書は作成者の死後に効力を発揮するものですので、相当期間の保存に耐える媒体であることが望ましいです。ノートを使用する場合は、できるだけ質の良い用紙のものを選び、保存状態にも十分配慮する必要があります。

(2)エンディングノートとの混同リスク

近年普及しているエンディングノートは、遺言のような法的効力を持つものではなく、あくまで個人の希望や情報を家族に伝えるためのものです。
ノートに遺言を書く場合、このエンディングノートと混同される可能性があります。
遺言としての法的効力を期待してノートに記載したとしても、自筆証書遺言の要件を満たしていなければ、その意図は実現されない恐れがあります。
明確に「遺言書」であることを表示し、法的要件を満たした作成を心がけましょう。具体的には、財産やその承継者を明確に記載する、ということです。

6 ノートによる遺言の実践的な注意点

(1)無効判断の予防策

ノートに遺言を記載する際の具体的な予防策としては、追記の際に「過去の記載部分」には一切触れないことが重要です。また、記載(追記)した部分と記載の日が明確に分かるようにしておく必要があります。さらに、ページの差し替えや改ざんができない状態にしておくことも、遺言の有効性を確保するために欠かせません。例えば、ページに通し番号を振る、製本されたノートを使用するなどの工夫が考えられます。

(2)公正証書遺言との併用戦略(強く推奨)

遺言内容をノートに記載した場合、前述のようにさまざまな面で無効と判断されるリスクがあります。そのため、ノートによる遺言は暫定的なものと位置付ける方が望ましいでしょう。
例えば、重要な変更をした時点で、その内容を公正証書遺言に反映させておくといった併用戦略が効果的です。特に重要な財産の処分や複雑な内容については、法的確実性の高い公正証書遺言を検討すべきでしょう。
別の言い方をすると、ノートによる遺言は弱点が多いけれど、強力な公正証書遺言を補強する役割としては有用、ということになります。

7 ノートによる遺言と法務局の保管制度(使えない)

ところで、自筆証書遺言については、法務局における自筆証書遺言書保管制度がとても便利です。しかし、この保管制度は遺言の原本を法務局に提出するものです。
詳しくはこちら|自筆証書遺言の法務局保管制度の基本と手続
常に手元に置いておく暫定的な遺言としてノートを活用する場合にはこの制度は使えません。

8 まとめ

ノートを使用した遺言書作成には、手軽さや親しみやすさというメリットがある一方で、形式不備による無効のリスクや保存上の問題など、いくつかの注意点があることが分かりました。これらを総合的に考慮すると、ノートによる遺言は、急な思い立ちや頻繁な変更が予想される場合の「暫定的な記録」として活用し、重要な内容や最終的な意思決定については公正証書遺言など、より確実な方法を併用することが賢明です。

9 関連テーマ

遺言作成についての全般的な注意点については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺言作成時の注意(タイミング・変更理由の記載・過去の遺言破棄)

本記事では、ノートによる遺言作成の実践的アドバイスについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺言作成や相続後の遺言の有効性に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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