【共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類】

1 共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類

共有者は、共有物に関するいろいろな行為について、単独での意思決定ができないことが多いです。具体的なアクションによって同意が必要な共有者の数が決まってきます。具体的には変更(処分)・管理・保存(行為)の3つに分類されます。
本記事では、変更・管理・保存(行為)に分類される行為の大まかな内容と、その行為の意思決定の要件(どの範囲の共有者の賛成が必要なのか)について説明します。

2 行為の対象の区別(共有物か共有持分・前提)

これから説明する変更・管理・保存の分類とは、共有物(全体)を対象とする行為についての分類です。
共有持分を対象とする行為は、変更・管理・保存の分類とは関係ありません。誤解が生じやすいところなので最初に押さえておきます。

行為の対象の区別(共有物か共有持分・前提)

あ 共有物全体を対象とする行為

共有物全体を処分する場合
共有者全員に効果が及ぶ
→内容によって意思決定できる条件が異なる

い 共有持分を対象とする行為

共有持分だけを処分する場合
例=共有持分の売却・担保設定
原則として共有者単独で行うことができる
詳しくはこちら|共有持分権を対象とする処分(譲渡・用益権設定・使用貸借・担保設定)

問題となるのは『共有物全体』を対象とするアクションです。
以下『共有物全体』の処分について説明を続けます。

3 共有物に関する意思決定の要件のまとめ(令和3年改正前後)

共有物の使用・収益に関する意思決定の要件は、以前は、3つに分類されていました。民法の令和3年改正で、軽微変更が加わり、4つの分類に増えました。変更行為のうち軽微なものは管理行為と同じ扱いとする、というものです。

共有物に関する意思決定の要件のまとめ(令和3年改正前後)

あ 令和3年改正後
分類(種類) 根拠条文 決定の要件
変更(軽微以外) 民法251条1項 共有者全員
変更(軽微) 民法251条1項、252条1項 持分価格の過半数
管理(狭義) 民法251条1項 持分価格の過半数
保存 民法252条5項 各共有者単独

※「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」法務省民事局2021年p30

い 令和3年改正前
分類(種類) 根拠条文 決定の要件
変更行為 民法251条 共有者全員
管理行為(狭義) 民法252条本文 持分価格の過半数(※1)
保存行為 民法252条ただし書 各共有者単独

民法の令和3年改正の条文、その中の軽微変更の規定についてはそれぞれ別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|令和3年改正民法249条〜252条の2(共有物の使用・管理)の新旧条文と要点
詳しくはこちら|共有物の「軽微変更」の意味や具体例(令和3年改正による新設)

4 「変更・管理・保存」の基本的な意味

以上のように、変更・管理(狭義)(軽微変更を含む)・保存のどれに分類されるかによって、意思決定の要件が違ってきます。ここで変更・管理・保存の基本的な意味を押さえておきます。言葉からなんとなく読み取れる意味ですが、実際の具体的な行為を判別しようと思うと簡単ではありません(後述)。

「変更・管理・保存」の基本的な意味

法律上、物の「管理」という概念(広義の管理)は、変更、狭義の管理、保存行為に三分されています(民二五一条、二五二条参照)。
変更とは、その形状又は効用を著しく変えることであり、
保存行為とは、物の現状を維持することであって、
広義の管理のうちそのいずれにも当たらないもの、すなわち変更に当たらない利用・改良に関する行為を狭義の管理と呼んでいます。
※法務省民事局参事官室編『新しいマンション法』商事法務研究会1983年p81

5 変更・処分・管理・保存・利用・改良・使用・収益という用語の整理

変更・管理・保存の分類のテーマでは、これら用語だけでなく、日常用語になっているけど法律上は特有の意味を持つ用語がたくさん登場します。ここで関連する用語全部を勢揃いさせて、どのような関係になるか(ツリー構造)を整理しておきます。個々の用語の内容は後述します。

変更・処分・管理・保存・利用・改良・使用・収益という用語の整理

あ 広義の「管理」行為

ア 「保存」行為イ 狭義の「管理」行為=利用・改良行為(ア)「利用」行為 ・使用
・収益
(イ)「改良」行為ウ 「変更」行為

い 「処分」行為

※七戸克彦著『新旧対照解説 改正民法・不動産登記法』ぎょうせい2021年p37参照

6 変更・管理・保存行為の分類の個別性(概要)

以下、いろいろな行為がどれに該当するのかが(分類されるか)を大まかに説明します(細かいことはそれぞれ別の記事で説明しています)。
分類の説明に入る前に、注意しておくことがあります。それは、この分類は行為の類型だけではっきりと区別できない、ということです。
たとえば、「使用貸借契約の解除(解約)」や「賃貸借契約の締結」という類型では、原則的な分類がありますが、具体的な内容によって例外的な分類となる、ということがとても多いのです。分類の判断(判定)には個別性が強く、別の言い方をすると具体的な事案でどれに分類されるかをはっきり判断できない、ということになります。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存の分類(判定)の個別性・困難性(リスク)と対策

7 変更・処分の意思決定要件と分類される行為(概要)

変更・処分行為の意思決定には、共有者全員の同意が必要です。
変更・処分行為に分類される行為とは物理的変化を伴う行為法律的な処分です。このように抽象的に説明することはできますが、前述のように、実際にはこれらに該当するかどうかは個別的事情で決まるといえます。つまり、はっきりと判定できないことが多いです。

変更・処分の意思決定要件と分類される行為(概要)

あ 意思決定の要件

『変更・処分』に関する意思決定
→共有者全員の同意が必要である(前記)

い 変更・処分行為の意味(概要)

次のいずれかに該当する行為
ア 物理的変化を伴う行為イ 法律的に処分する行為 詳しくはこちら|共有物の変更行為と処分行為の内容

8 管理の意思決定要件と分類される行為(概要)

狭義の管理行為の意思決定には、共有持分の価格の過半数を有する共有者の同意が必要です。
管理行為に分類さえる行為とは、利用と改良行為です。前述のように、実際にはこれらに該当するかどうかは個別的事情で決まるといえます。つまり、はっきりと判定できないことが多いです。

管理の意思決定要件と分類される行為(概要)

あ 意思決定要件

狭義の管理行為軽微変更行為に関する意思決定
→共有者の持分の価格の過半数で決する(前記)

い 管理行為の意味(概要)

狭義の管理(行為)の意味
→共有物の使用・利用・改良行為

う 利用と改良(行為)の意味(概要)
利用 共有物の性質を変更せずに収益を上げる行為
改良 共有物の交換価値を増加させる行為

詳しくはこちら|共有物の(狭義の)管理行為の基本的な内容

9 共有物の管理と組合財産の管理との意思決定要件の比較

民法上の組合の財産も(一種の)共有です。しかし、一般的な共有とは、意思決定の要件が違います。
一般的な共有物の管理は持分価格(持分割合)の過半数ですが、組合財産の管理は、組合員の(頭数としての)過半数の賛成で決定するのです。同じ過半数でもカウント方法が違ってくるのです。民法670条1項は、民法252条1項の特別規定という位置づけなのです。

共有物の管理と組合財産の管理との意思決定要件の比較

あ 意思決定方法の比較
決定の対象 決定方法 根拠条文
共有物の『管理』 共有者の持分価格の過半数(上記※1) 民法252条1項(令和3年改正前民法252条本文)
組合財産の『管理』 構成員の頭数の過半数 民法670条1項(後記※2

(※2)組合の『業務執行』に該当する

い 実務・表面化|典型例

『組合』に該当するかどうかによって
管理方法の意思決定の方法が異なる(有効かどうかが違ってくる)
詳しくはこちら|民法上の組合の財産の扱い(所有形態・管理・意思決定・共有の規定との優劣)
組合に該当するかどうかの見解が対立する
詳しくはこちら|民法上の組合の共同事業の基本(目的となりうる事業・事業の共同性)

10 保存の意思決定要件と分類される行為(概要)

保存行為は、各共有者が単独で行うことができます。意思決定というプロセス自体が不要です。
保存行為に分類さえる行為とは、物理的な現状を維持し、かつ、他の共有者に不利益が及ばない行為です。前述のように、実際にはこれらに該当するかどうかは個別的事情で決まるといえます。つまり、はっきりと判定できないことが多いです。

保存の意思決定要件と分類される行為(概要)

あ 意思決定の要件

各共有者が単独で行うことができる(前記)

い 保存行為の意味

(共有物の)現状を維持すること
詳しくはこちら|共有物の保存行為の意味と内容

11 共有物の使用方法の意思決定のプロセス(概要)

以上の説明は、共有物に関する行為を意思決定するために必要な要件(賛成の範囲)でした。管理行為の意思決定のためには、共有者が協議して多数決をすることになります。このような意思決定のプロセス(方法)については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物の使用方法の意思決定の方法(当事者・協議の要否)

本記事では、共有物の変更(処分)・管理・保存行為の意思決定要件とそれぞれに分類される行為の大まかな内容を説明しました。
実際には、具体的・個別的な事情によって違う結論となることもあります。
実際に共有物の扱いの問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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