【共有物の賃貸借に関する各種行為の管理行為・変更行為の分類(全体)】

1 共有物の賃貸借に関する各種行為の管理・変更行為の分類(全体)

共有物(共有不動産)について賃貸借契約を締結することは非常によくあります。いわゆる収益物件が共有になっている状態のことです。典型例は別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|共有不動産の賃貸借|典型例|契約締結
共有物の賃貸借では、共有者による各種意思決定の分類が問題になります。つまり、意思決定をするためにはどこまでの範囲で共有者の賛成が必要か、という問題です。
詳しくはこちら|共有物の(狭義の)管理行為の基本的な内容
本記事では共有物の賃貸に関するいろいろな行為の全体的な扱い・分類を説明します。

2 共有不動産の賃貸借に関する意思決定の分類のまとめ

最初に、共有不動産の賃貸借に関するいろいろな種類の意思決定と、それの分類を、表にまとめます。細かい内容は後述します。

共有不動産の賃貸借に関する意思決定の分類のまとめ

対象事項 分類 賃貸借契約の締結・更新の意思決定 管理or変更(後記※1 賃料の増減額に関する意思決定 管理or変更(後記※2 賃料の支払方法に関する意思決定 管理(後記※3 借地権(賃借権)譲渡承諾 管理(後記※4 解除の意思決定 管理(後記※5 (契約終了後の)明渡請求 (単独)(後記※5 (決定した内容の実行(通知や契約書調印)) (全員の名or賛成者のみ)(後述)

3 共有物の管理・変更・保存に必要な賛成(概要)

前述のように、共有不動産の賃貸借に関する意思決定は管理・変更(・保存)行為のに分類されます。どれに分類されるかによって、意思決定をするために必要とされる賛成(持分割合)が異なります。意思決定のために必要な賛成の内容をまとめます。

共有物の管理・変更・保存に必要な賛成(概要)

分類 必要な賛成 管理 持分の過半数 変更 共有者全員 保存 共有者単独
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類

4 賃貸借契約の締結・更新の意思決定の分類(概要)

賃貸借契約の締結・更新の意思決定は、その契約内容によって、管理または変更(処分)のいずれかに分類されます。

賃貸借契約の締結・更新の意思決定の分類(概要)(※1)

あ 基本的分類

事情 分類 『い』の『ア・イ』の両方に該当しない 管理 『い』の『ア・イ』のいずれかに該当する 変更(後記※6
(※6)これに該当する場合でも、個別的事情によって管理に分類されることもある

い 判断要素

ア 借地借家法が適用されるイ 短期賃貸借の範囲(『う』)を超える

う 短期賃貸借の範囲

目的物 上限期間 一般的な土地 5年 建物 3年
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の更新(合意更新)の変更行為・管理行為の分類

5 賃料の増減額に関する意思決定の分類(概要)

共有物を対象とする賃貸借契約が既に締結されている場合に、賃貸人や賃借人は、賃料の増減額を請求することができますし、また賃貸人と賃借人が賃料の変更に合意することもできます。これらの行為は管理行為か変更(処分)行為のいずれかに分類されます(※2)。この点、賃貸借契約が通常のものである場合と、サブリース方式(のマスターリース契約)である場合で分類が違ってきます。
細かい分類(解釈・裁判例)については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の賃料増減額に関する管理・変更の分類と当事者

6 賃料支払方法の変更の合意(概要)

賃貸借契約では通常、賃料の支払方法が定められます。後から支払方法を変更する(ことを賃借人と合意する)ことについては管理行為であると考えられます(※3)。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共同の賃貸人(共有者)間の賃料支払方法の変更と口頭の提供の効力

7 借地権(賃借権)譲渡承諾の意思決定の分類

(1)平成8年東京地判→原則管理分類

借地人が借地権(賃借権)を第三者に譲渡する場合には、賃貸人(地主)の承諾が必要です。土地が共有であり、共有者が賃貸人となっている場合には、譲渡承諾は管理行為に分類されます。

平成8年東京地判→原則管理分類(※4)

あ 前提事情

共有不動産が賃貸借契約の目的物となっている
賃借人が賃借権譲渡を希望している
※民法612条1項

い 平成8年東京地判

ア 判決文→原則管理分類 ・・・既に共有物につき共有者全員の同意により民法六〇二条所定の期間を超えた賃借権が設定されている場合において、右賃借権の譲渡について承諾する行為は、原則として共有者に格別の不利益を被らせるものではないから、右賃借権の譲渡が新たな賃借権の設定と同視され、それを承諾していない他の共有者の利益を格別に害するなどというべき特段の事情のない限り、共有持分の価格の過半数を有する共有者の同意があれば足りる管理行為というべきである。
※東京地判平成8年9月18日
イ 例外(特段の事情)の指摘 しかし、賃借権の譲渡を受ける第三者がどのような者であるかによって、共有者の使用収益に与える影響がないとも言い切れません。
例えば、共有物の使用目的や使用形態が大幅に変わるようなことになれば、共有者としても無関心ではいられないでしょう。
さらに、第三者の資力いかんによっては、賃料収入への不安も生じかねません。
以上のようなことがあるため、本判決も、「賃借権の譲渡が新たな賃借権の設定と同視され、それを承諾していない他の共有者の利益を格別に害するなどというべき特段の事情のない限り」と判示し、例外的な場合があり得ることを認めているのです。
※菅沼真稿『賃借権の譲渡に対する共有者の一部の者による承諾と共有物の管理』/『共有関係における紛争事例解説集 初版』新日本法規出版2005年p104〜

(2)昭和58年大阪高判→性質変更なしの利用行為(参考)

借地権譲渡を承諾する行為について、別の場面で判断がなされた裁判例もあります。権限の定めのない代理人の代理権の範囲に含まれるという判断です(大阪高判昭和58年1月27日)。一般論として、(共有物の)狭義の管理行為性質変更なしの利用行為は同じ扱いになると思われます。
詳しくはこちら|民法103条2号の利用行為・改良行為の意味
これを前提とすると、昭和58年大阪高判と平成8年東京高判は実質的に同じ判断をした、といえます。

8 借地上の建物の建替(再築)承諾の意思決定の分類

共有の土地の賃貸借(借地)に関し、借地上の建物の建替の承諾の分類については、これを明確に示した裁判例などの見解はみあたりません。ただ、土地の利用を制限する方向の影響が大きいので変更行為に該当すると思われます。

借地上の建物の建替(再築)承諾の意思決定の分類

あ 前提事情

借地(貸地)が共有となっている
借地人が建物の増改築や再築を希望している

い 法的扱い

ア 旧借地法 増改築禁止特約がある場合に、地主の承諾なく建替(再築)をすると解除が認められる可能性がある
詳しくはこちら|借地契約の増改築禁止特約の有効性と違反への解除の効力
建物の再築について地主が異議を述べないと期間が延長される
詳しくはこちら|旧借地法における異議のない建物再築による期間延長(基本)
イ 借地借家法 建物再築について地主の承諾がないと解約が認められる
詳しくはこちら|借地借家法の借地上の建物の滅失や再築による解約(全体・趣旨)
建物再築について地主が承諾すると期間が延長される
詳しくはこちら|借地借家法における承諾のある建物再築による期間延長

う 地主(土地共有者)の承諾の分類

建物の建替(再築)について地主が承諾すると期間が延長されるなど大きな影響が生じる
→共有物の変更行為に該当すると思われる(私見)

9 契約解除・明渡請求の意思決定の分類(概要)

賃貸借契約を解除することは共有物の管理行為に分類されます。そこで、過半数の持分割合の共有者が賛成することで、解除するという意思決定を行うことができます。解除(などにより賃貸借契約が終了した)後には、各共有者が単独で明渡請求をすることができます。
詳しい内容は別の記事で説明しています。

契約解除・明渡請求の意思決定の分類(概要)(※5)

あ 契約解除の分類

共有物を対象とする賃貸借契約を解除することについて
管理行為に該当する

い 明渡請求の分類

(賃貸借契約の終了後の)明渡請求について
→共有持分権に基づき、各共有者が単独で請求できる
保存行為に分類されるというわけではない
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除・終了と明渡請求に関する変更・管理・保存行為の分類

10 決定した内容の実行(通知や契約書調印・概要)

以上で説明した内容は、各種アクションをする、という意思決定をするために必要な賛成の範囲でした。この点、いったん意思決定を行った後に、これを実行することが必要です。具体的には、賃貸借契約を締結すると決定した後には、賃借人(となる者)との間で賃貸借契約書の調印を行いますし、解除すると決定した後には、賃借人に対して解除の通知を出します。
これらの実行行為については、共有者全員の名であることが必要かどうか、必要である場合には、反対している共有者の名を出してもよいのか(授権を認めるかどうか)という問題が出てきます。
詳しくはこちら|共有不動産の賃貸借契約における賃貸人の名義(反対共有者の扱い)
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除の意思表示の方法(反対共有者の扱い)
なお、共有者AがABCの代表として通知(意思表示)をする場合、保存行為として単独で行為しているように思えますが、このような考え方はとられていません。

本記事では、共有不動産の賃貸借に関する各種行為の管理行為、変更行為の分類、つまり決定するために必要な賛成の範囲について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的扱いや最適な対応が違ってきます。
実際に共有不動産の賃貸借に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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